別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
「つまり、その魔法の装置とやらでこのオラリオ、正確にはアタシの倉庫に飛ばされちまったって訳かい?」
「そう言う事です」
場所は変わって閉店したと思われる店の中。俺は大まかな事情を説明していた。
つい先程、
彼女が倉庫の管理者だと分かった俺は、一切抵抗する事無く身を任せた。因みに俺が気絶させた獣人娘についてだが、女性エルフの方で介抱してもらっている。
倉庫に出て時間が深夜間近である事が分かり、時差ボケは確実であると如何でも良い事を考えながら、明らかについ先程まで営業していたと思われる店の中に案内された。
片づけをしていたと思われるウェイトレスの他、厨房付近にいた料理人達が見知らぬ俺を見て、一斉に誰だと困惑の表情をしていた。男が一人もいなかったから、此処にいるスタッフは女性だけしかいないようだ。そう考えると、少しばかり気まずい。
多くの女性達から奇異の視線を送られてる中、中年女性が俺を強制的に椅子に座らせた後、そこで尋問開始の合図となり、自分が起きた現状を一通り話したと言う訳である。
流石に自分が人間に転生した元神、転移装置を使って異世界からやって来たと、バカ正直に答える訳にはいかなかった。
俺は異国出身の人間であり、とある研究者が作った魔法装置の暴走により着の身着のまま飛ばされた。と言う事にしている。別に嘘は言ってない。
「……一応訊いておくけど、アンタはこのオラリオについて知ってるかい?」
「残念ながら知りません。先程も言った通り、自分は遠い異国から来ましたので。オラリオ、と言う街はそんなに有名なのですか?」
「どんなド田舎でも、『世界の中心』と呼ばれてる事ぐらい知ってもおかしくない筈なんだがねぇ……」
「本当に無知ですいません」
周囲から胡散臭そうに見られている中、ずっと話を聞いていた中年女性が少々呆れる表情となっていた。
生憎、俺はオラリオなんて全く知らないのは本当だ。自分が神だった頃の当時、そんな街は存在してなかったし、聞いた事もない。異世界の情報何て知る由もないから。
にしても『世界の中心』、ねぇ。そう称されると言う事は、それだけオラリオと言うのは有名みたいだな。
「ですから、自分みたいな田舎者は皆様のご迷惑にならないよう、すぐに出て行こうと――」
「言っておくが、この都市はアンタが思ってるほど優しくはないよ。しかもこんな夜中だ。そんな格好してるアンタがうろついてたら、そこら辺のゴロツキ共にとっちゃ手頃なカモ同然だよ」
「どう言う事です? ここは『世界の中心』と呼ばれてるのですから、治安はかなり良いと思っていましたが」
「逆だよ。いいかい。この迷宮都市オラリオは――」
俺の疑問に答えようと中年女性はオラリオについて説明してくれた。
それを聞いて俺は色々と驚く破目となる。様々な種族が集まっているだけでなく、何と神が存在していた。と言っても、全知全能の力は下界では使えず殆ど封印されているそうだが。
けど、その神が下界の人間や亜人に『
俺がいる世界だと、悪魔側では『
この都市にいる眷族達は主に探索系の冒険者が中心となっているそうだ。その中には乱暴で狼藉を平然と働く無法者同然の冒険者達がかなり多く、それ故に都市内の治安はあまり良くなく、冒険者絡みの犯罪はおろか、酷い時にはファミリア同士による抗争が度々起きているらしい。
他にも色々聞いた事で、俺が抱いていたオラリオに対する評価がガラリと変わってしまう事となった。この都市は有名な割に全く統治出来てないどころか、色々問題だらけである事に。そしてファミリアを纏めている神も、大して当てにならない連中である事も含めて。
「……成程。此処は周囲が思ってるほど安全な都市じゃないんですね」
「そう言う事だよ」
「まぁだからと言って、俺が此処に留まって良い理由にはならないでしょう。それにこんな遅い時間の中、得体のしれない男といつまでも話していたら、スタッフさん達のご迷惑でしょうし」
さっきも言ったが、今は深夜間近の時間だ。周囲の女性達は俺を警戒していながらも、相当疲れているのが分かる。
加えて、ゴロツキに襲われても片付けるのは造作も無い事だ。こっちは様々な戦闘経験を積んでるから、そこまで苦戦する事は無い筈。
問題は金だな。この世界にあるお金は勿論無いが、収納用異空間に納めてある宝石などを店で売れば、相応の額で換金出来るだろう。売る事が出来るかどうかは分からないが。
「生憎だけど、アンタがこの店を出て行く前に、支払って貰わないといけないもんがあるよ」
「………は?」
中年女性が突然訳の分からない事を言った所為で俺は困惑した。
「え? 何です? まさかとは思いますが、無断侵入した迷惑料とかですか?」
「違うよ。アンタがいた倉庫で、大事にしていた酒の一本が何故か割れててねぇ」
「酒、ですか?」
そう言えば……俺が地面に叩きつけられた時、どこかで瓶が割れる音がしたな。その後にアルコールが含まれた甘い果実の匂いがしたから、恐らく衝撃によって落ちて割れたかもしれない。
此処は見た感じ酒場みたいだから、その酒代を支払えって事なんだろう。
「そうさ。今朝見た時には何ともなかった筈の酒が、アンタが現れた後には一本割れていたんだよ。これは言うまでもなく、アンタの仕業だろ? だから、しっかり支払ってもらうよ」
「………まぁ、そうかもしれませんね」
心当たりがある為に俺は一切否定出来なかった。
けど、素直に答えてしまったのが失敗だったと思うのは何故だろうか。
俺の返答を聞いた中年女性はニヤッと笑みを浮かべながらこう言った。
「因みにその酒代は――3000万ヴァリスだよ」
「………は?」
この国の値段は分からないが、明らかに法外な値段だと言うのは分かる。
いくら高級酒でも、そんなふざけた額は流石にあり得ない。
呆然とする俺に、中年女性は気にせず続ける。
「その様子じゃ、すぐに払えないみたいだねぇ。なら、しょうがない。アンタには借金分、アタシの店で働いてもらうよ」
「なっ……!」
「今うちの店はとても忙しくて人手が足りなくてね。丁度男手が欲しかったところなんだ」
「えっ、ちょ……!」
どんどん勝手に話を進めていく中年女性に俺だけでなく、周囲にいる女性スタッフ達も困惑な表情となっていた。
何とか抵抗しようとするが――
「言っておくが、この店ではアタシが『法』なのさ。アタシが白と言ったなら、黒かろうが白になるんだよ。だからアンタはうちの店の従業員として働いてもらう!」
「え~……」
物凄く無茶苦茶な言い分によって、俺は何も言い返す事が出来なかった。
念の為に男の俺がいるのは問題じゃないかと反論するも、結局は言い包められてしまう。
余りにも急すぎる展開となってしまったが、俺は強制的にこの店――『豊饒の女主人』の従業員となってしまうのであった。
余りにも急展開過ぎるだろうと思われるでしょうが、どうかご容赦ください。