別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
ミア母さんより調理担当を命じられて一週間以上経ち、『豊饒の女主人』の厨房は少しばかり雰囲気が変わった。
雑用作業を中心にやっていた
けれど、それは数日も経たずに解消してしまう。客が多い夜の時間帯となった際、途轍もなく忙しい彼女達の負担を軽減させていたから。
人気店と呼ばれている『豊饒の女主人』は、夜になった瞬間、地獄同然な時間と呼べるほどオーバーワークになる。客達が注文した料理を次々に作る繰り返しを行い続ける事で、体力と精神が疲弊し悲鳴をあげてしまうそうだ。体力があるミア母さんだけは平然としてるが。
そんな状況の中、俺が調理担当として加わった事で変わった負担が軽くなったらしい。特にメイからは一番に感謝されている程だ。簡単な料理でも、あっと言う間に作る俺を見て。
ミア母さんも満足してくれてるが、珍しく怒られてしまった事があった。俺が作る料理は少しばかり味が薄いと、苦言を呈されたぐらいだが。
俺が作る料理はそこまで薄味では無い筈だが、『豊饒の女主人』が作る料理は殆ど味が濃い目である為、男性客からしたら少々薄くなったと思われてしまったようだ。
けど、女性客には好評だった。特に朝の時間帯にくる女性客からすれば、自分の作る料理の味が丁度良いと高評価を貰ったそうだ。それ故にミア母さんは完全に怒る事が出来ず、複雑な表情で苦言を呈しただけで済まされたのだ。
それを聞いた俺は反省し、区分けするようにした。朝の時間帯は今まで通りの味、多い夜の時間帯は若干濃いめの味にすると。ミア母さんにそうする旨を話したら、『なるべく女性客にするように』と言う事でOKが出た。
因みにスタッフ達は俺とミア母さんのやり取りを見て仰天していた。普段からどんな意見を言っても却下だと怒鳴り返される筈なのに、簡単にOKが出たのは初めて見たと。
そこをアーニャが――
『母ちゃん、新入りのリューセーばかり贔屓し過ぎニャ! 古兵のミャー達の意見も聞いて欲しいニャ!』
と、代表するように物凄い勢いで抗議していたのだが、その後にミア母さんの怒号で却下されてしまったが。
ついでにアーニャが言っていた『古兵』は誤りで、正しくは『古参』である。そこを指摘した際、『ちょ、ちょっと間違えただけニャ!』と恥ずかしそうに顔を赤らめ、シル達がクスクスと笑っていた。
………そう言えばシルで思い出したが、確かこの世界にフレイヤと言う女神がいるんだったな。ソイツは当然俺の知っているフレイヤではないだろうが……機会があれば会ってみたいものだ。
尤も、それは無理な話だった。聞いた話によると、彼女が率いてる【フレイヤ・ファミリア】はオラリオ最強の【ファミリア】らしい。そんな超有名となってる主神のフレイヤが、人気店とは言え、店の従業員程度の俺なんかと会ってくれないだろう。仮に向こうの
女神は無理だとしても、以前にすれ違った苦労人気質な黒髪の冒険者にはもう一度会いたい。あれほど貴重な原石は改めて鍛え直せば必ず大化けする。そんな予感がしてるのだから。あくまで俺、もしくは
☆
「配達? この店って、そんな業務あったの?」
「………まぁ、極稀にやってるよ」
昼食を終えて、夜の営業に備えての準備をしている最中、突如ミア母さんから呼び出された。
今夜もいつも通り調理担当をする筈だったが、俺は出勤しなくて良いそうだ。その代わり、とある【ファミリア】に注文された料理を配達して欲しいと。
配達をしてるなんて初めて知ったから思わず尋ねるも、ミア母さんにしては随分歯切れの悪い返事だった。いつもは自信持って答えるのに、らしくない表情だ。なんだかまるで、面倒な事に巻き込まれた感じがする。
「とある【ファミリア】の女神から注文があってね。あたしの作った料理を
「その運び役が俺、なのか」
確認するように言う俺の台詞にミア母さんが頷く。
変だな。この人は相手が有名な冒険者や神であっても、『あたしの料理が食いたけりゃ、あたしの店に来な!』と思いっきり突っぱねる筈だ。なのに、向こうからの要望に応えようと配達業務を命じている。
いつものミア母さんじゃない。そう思うほど今の俺は疑問視している。
けど、やれと命じられた以上やるしかなかった。今の俺は店の従業員で、女将であるミア母さんに従わなければならない立場だから。
「しかし何で俺がやるんだ? 相手が女神なら男の俺じゃなく、女性のシル達の誰かに任せればいいと思うんだが」
「……向こうがお前さんをご指名なんだよ」
女神が指名って……俺はこの世界に来て、未だに女神の一柱とも話した事は無いんだが。
買い出しや休日に出掛けていた時も、
「まぁ良いや。で、その女神は何方で、場所は何処なんだ?」
俺が依頼人と場所を尋ねると、ミア母さんは何だか申し訳なさそうにこう答えた。
「女神の名はフレイヤで、場所はその女神がいる
「………は?」
余りにも予想外な神物と場所に、思わず目が点になってしまうのであった。
それと如何でも良い事だが、俺が夜の営業時間に出勤しない事を聞いた料理人のメイ達から、『今日も凄く忙しいから必ず戻って来て~!』と凄い真剣な表情で懇願されてしまった。俺はそれだけ頼られてるって事で良いのかな?
☆
「えっと、此処で良いんだよな……?」
時間は夕方頃。あと少しで『豊饒の女主人』の営業時間となり、物凄く忙しくなる頃合いだ。
そんな中、俺は目的の場所に辿り着いた。【フレイヤ・ファミリア】の
此処に訪れるのは当然初めてである為、ミア母さんが書いた簡易的な地図を参考にさせてもらった。片手には地図を、もう片方の手には料理が包まれてる風呂敷を持ちながら。
流石は有名な【ファミリア】と言うべきか、とても荘厳な建物だった。気のせいか、何やら中から戦闘らしき音が聞こえる。フレイヤの眷族達が特訓でもしてるんだろうか。だとしても、俺には関係の無い事だが。
にしてもまぁ……随分と剣呑な雰囲気な事で。何だか
「貴様、いつまでそこに突っ立っている」
「ここは【フレイヤ・ファミリア】の
先程から視界に入って、未だに佇んでいる俺を見て煩わしくなったのか警告をして来た。しかも睨みながらだ。
「えっと、そちらの主神である女神フレイヤから――」
「様をつけろ、無礼者が」
「殺されたいのか?」
言ってる最中に、門番共が突如俺に殺気と武器を向けて言い放った。
……落ち着け。こんな無礼千万な雑魚共を伸すのは造作も無い事だが、ここで荒立てるような事をすればミア母さんに大迷惑を掛けてしまう。何とか穏便にしないと。
「――ゴホン。これは大変失礼しました。自分は女神フレイヤ様より、配達のご依頼を受けまして……」
「配達だと? そんな話は聞いてないぞ」
謝罪しながら理由を述べるも、向こうは知らないと言い返された。
どうやらフレイヤは門番に通達してないようだ。せめて配達人が来る事くらい言ってほしい。
「えっとですね、これを読んで頂ければ……」
こうなる事をミア母さんは予想していたみたいで、地図や料理以外の物を俺に渡していた。門番に見せる為の書状を。
コレを見せれば大丈夫だと言ってたから、俺は懐にある書状を手渡した。それを受け取った門番の一人が内容を読み上げた後、俺に向かってこう言った。
「あの店の関係者だろうが、貴様みたいな得体の知れない奴に
「いや、だから俺はフレイヤ様から配達依頼を受けて――」
「これ以上貴様の戯言に付き合う気は無い。さっさと失せろ、下郎が」
何なの、コイツ等。俺はミア母さん経由でフレイヤから配達しろと言われて来たのに、それを追い出そうとするって……バカじゃないのか?
「……あのさぁ。此処で俺を帰したら、門番のアンタ等がフレイヤ様の怒りを買う事になるんだよ。それ分かって言ってる?」
「貴様……!」
「殺されたいのか……!?」
人が親切に忠告してやってるのに、門番共は更に殺気をぶつける始末だ。
フレイヤの眷族達に話の通じる相手はいないんだろうか。だとしたら、アイツの品性を疑ってしまうんだが。
「止めておけ。俺に武器を振り下ろした瞬間、アンタ等は後悔する事になるよ」
ミア母さんを怒らせてしまう事に加え、フレイヤの怒りを買ってしまう。そう言う意味合いで俺は警告した。
だが残念な事に、門番共からしたら、俺の警告は自分達を侮辱した発言と受け取ったようだ。今にも襲い掛かろうとする寸前となっている。
こんな雑魚共が襲い掛かって来たところで、本気を出せば一秒未満でKOする事は勿論出来る。だがそんな事をしてしまえば、俺は【フレイヤ・ファミリア】から敵と認識されてしまうだろう。
だから此処は一旦撤退して店に戻り、ミア母さんに事情を説明するしかない。不本意であるがな。
そう思いながら超スピードを使って出直そうと――
「待て」
――する寸前、第三者の声がした。
その声に反応した門番共が振り向いた途端、驚愕の表情となっている。
「オ、オッタル様!」
「何故此処に!?」
門番共から聞いた何、俺は思わず耳を疑ってしまった。
(おいおい、オッタルもいるのかよ。まぁ、この世界に別神のフレイヤがいるから当然か)
嘗て奴と戦った事がある。その時はロキの操り人形となり、物凄い一方的な逆恨みで俺に襲い掛かってきた為に。言っておくが、俺の世界にいる悪神ロキの事を指している。
目の前にいるオッタルだが、やはり俺の知ってるオッタルとは全く別人だった。この世界では完全に
共通してる部分は、非常に筋肉質な肉体だ。見ただけでも、かなり鍛えられているのが分かる。アレは最早、筋肉と言う名の鎧も同然の硬さがあるだろう。
「その者はフレイヤ様から此処へ来るよう命じられている。通せ」
「か、かしこまりました!」
相手が団長だからか、門番共はすぐに門を開ける準備に移った。
部外者相手には容赦なく突っ撥ねて、身内が来て本当だと聞いた途端に信じるのかよ。面倒な奴等だな。
「お前の事はフレイヤ様より話は聞いている。案内するから付いてこい」
「そうですか。それは非常に助かります」
門番が仕出かした詫びはないのかよ、と内心思いながら感謝の言葉を述べる俺。
「先に警告しておく。フレイヤ様の客人とは言え、妙な真似をすれば命は無いと思え」
「分かってますよ」
何かもう入る前から疲れてきた。
無礼千万な門番共と言い、警告してくるオッタルと言い、【フレイヤ・ファミリア】の連中って、こんな面倒な奴等しかいないのかよ。
いくらフレイヤに忠誠を誓ってる眷族だからって、まともな会話とか出来ないのか? せめて客人に対するマナーの一つぐらいしてくれ。
別神とはいえ、フレイヤに苦言を呈したい。だがその瞬間面倒な事になるのは確実だから、敢えて聞き流すしかない、か。
ミア母さんが嫌そうな顔をしてたのは、恐らくコレが理由なのかもしれない。此処の眷族達が非常に面倒臭い性格な上に、対応するのに一苦労するのだと。
先ずはオッタルとの出会いでした。
次回にはフレイヤとの出会いになります。