別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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ロキ・ファミリアの宴会

 フレイヤからの配達依頼以降、何事もなく過ごしていた。と言っても、店が物凄く忙しい為に調理担当の俺は、ある意味戦場に立たされてるようなものだ。

 

 この世界に放り出された今の俺は、とても順応した生活を送っている。それとは別に、元の世界に帰る方法も調べなければいけないのだが……正直言わせてもらうと殆ど諦めかけている。時期が来るまで待つ、と言う結論に達してるから。

 

 アザゼルが作った転移装置による暴走の所為で、俺はこの世界に転移された。だから次元の狭間を使って帰ろうと試そうとするも、肝心の次元を開く事が出来ない状態となっていた。確証は無いのだが、俺を強制的に連れ出した空間が、何らかの形で聖書の神(わたし)能力(ちから)を阻害していると思われる。

 

 それ故に、俺は元の世界に帰るのを諦めかけている。でも時折、次元の狭間をこじ開けて分かった事もあった。日数が経つにつれ、次元の穴が広げる事が出来たのだ。尤も、それは僅かに過ぎない為、戻るには無理である。

 

 そこで俺は考えた。今の状況で無理矢理戻るのは危険だから、確実に戻る為には時間を置く事にしようと。それが何年掛かるかは分からないが、それまでの間、この世界を調べようと思う。(イッセー)やアーシア達に会えないのは寂しいが。

 

 一応、俺が転移装置を使って何らかのトラブルに巻き込まれた時の事を考えて、(イッセー)には携帯のメールに送っておいた。『もし転移装置の暴走で自分の身に何か起きても、決して周囲に知らせるな。必ず戻って来るから』と言うメールを。

 

 イッセーが周囲に黙っているか教えるか、それはアイツの判断に任せる。けどまぁ恐らく、必要最低限として信頼が置けるリアス達には教えてるだろう。アザゼルが作った転移装置を調べる為、色々な伝手を通じて。

 

 向こうで暴走した転移装置の解明、もしくは俺が時間をかけて元の世界へ帰還。間違いなく、そのどちらかになるだろう。

 

 先の事は全く分からない今の俺に出来る事は……とても忙しい店の料理を作る事だ。

 

 

 

 

 

 

「お前達、今夜は今まで以上大忙しになるよ。ついさっき、【ロキ・ファミリア】が宴会予約してきた」

 

『えええぇぇぇぇぇ!?』

 

『はぁぁぁ~~~……』

 

「?」

 

 夜の営業時間前の準備中、ミア母さんの台詞に料理人のメイ達が何故か絶望に等しい悲鳴を上げていた。彼女達の反応とは別に、ウェイトレスのアーニャ達が気が重そうな嘆息をしている。

 

 揃いも揃って凄く嫌そうな反応をしている事に、事情を全く知らない俺は訝っている。

 

「なぁシル、確か【フレイヤ・ファミリア】と並ぶ有名派閥だったよな?」

 

「はい。【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです」

 

 シルは他と違って楽しそうな表情をしており、俺の質問にすんなりと答えた。

 

 それにしてもまぁ、この世界にフレイヤだけでなくロキの別神までいたとは。こうなると、他にも別神がいると見ていいだろう。フレイヤという名の似て非なる神と対面するなんて、自分にとって初めての経験だ。

 

 果たして此処のロキは一体どんな性格をしてるのやら。少なくとも、『神々の黄昏(ラグナロク)』を仕出かそうとした、あの悪神ロキみたいな奴じゃない筈だ。

 

 聞いた話によると、【ロキ・ファミリア】は【フレイヤ・ファミリア】と違って、オラリオの市民達から信頼されているそうだ。その主神であるロキも眷族思いな女神とか何とか。

 

 ロキが男神でなく女神、と言う信じられない情報に最初は己の耳を疑った。これには思わず『嘘だ!』と叫んでしまいそうな程に。

 

 世界が別とは言え、性別の違うロキが今夜に来るとは。この世界のフレイヤと違い、ロキに関してはちょっとばかり楽しみに思ってしまう。一体どんな容姿をした女神なのかと。

 

 俺の知ってるロキは最悪な性格をしてても、端整な顔立ちをした美青年だ。それを女性に見立てると、フレイヤに近い美貌を持ち、少々背の高い巨乳な美神……ってところか。

 

 調理担当である俺は接客する事はないが、それでも隙を見てロキの顔を見てみようと決意する。今夜は非常に楽しみだ。

 

 

 

「よっ、ほっ、はっ!」

 

 時間が飛んで夜の営業時間。

 

 調理担当の俺は少しばかり本気を出そうと、メイ達以上に料理を捌いている。

 

 特に大変なのが火を使う料理だ。厨房で使う焜炉(こんろ)の火力は結構高い為、鍋を振るう度に火の熱が襲い掛かって汗だくとなってしまう。

 

 だが、それでも俺は負けずに振るい続け、他に作ってる料理と並行処理している。

 

「ミア母さん、こっち頼む!」

 

「あいよ!」

 

 ミア母さんにヘルプを頼むと、まるで俺に合わせてくれるように調理していた。

 

「す、凄いニャ……」

 

「あのミア母ちゃんと、あそこまで息が合うなんて驚きニャ……」

 

 この光景にメイ達だけでなく、厨房を覗き見てるウェイトレスのクロエとアーニャが驚くように凝視していた。

 

 完成した料理を皿に乗せたから運ぶべきなのに、二人は一向に此方を見ているので――

 

「ちょっと二人とも、早く運んでくれないか!?」

 

「さっさと運びな!」

 

「「は、はいニャ!」」

 

 俺とミア母さんが怒鳴る様に指摘すると、ハッとした猫娘二匹はすぐさま料理を注文した客の方へ運んでいった。

 

 因みに俺が楽しみに待っている【ロキ・ファミリア】だが、既に来ている。こうしてミア母さんと一緒に鍋を振るってるのは、【ロキ・ファミリア】が入店した事で大量の料理を作らなければいけなかったのだ。

 

 出来ればロキの顔くらいは見たいのだが、この忙しい状況ではとても無理そうだ。

 

 そう思ってる中、大量の料理を一通り作り終えた事で、忙しい波をどうにか越えて少しばかり落ち着いていく。それでも気を抜いてはいけない。油断してると、またしても一気に注文が来るのだから。

 

「リューセー、今度はアタシが厨房に専念するから、その間に休憩入んな」

 

「了解」

 

『えぇぇぇぇぇぇ!!!???』

 

 多少落ち着いたとはいえ、俺が厨房から出て休憩する事にメイ達が悲鳴を上げた。

 

 言っておくが今日の俺は本気を出して、一人で十人分並みの仕事をしている。ミア母さんはそれを知ってるから、万一に備えて俺に休憩時間を与えてくれたのだ。

 

 修行と違って、料理はかなりの神経を使うから大変だ。益してや店の料理を大量に作り続けてると、修行以上の疲労感が襲われる。

 

「お願いリューセー行かニャいでぇぇ~~~!」

 

「休憩はもう暫く後にしてぇぇ~~!」

 

「私達の負担がぁ~~~!」

 

「………………」

 

 俺が厨房から離れようとするも、調理中であるメイ達が一斉にしがみ付いてきた。

 

 女の子達から頼られるのは嬉しいけど、今の俺は少しばかり身体を休めたい。

 

「リューセーに甘えてる暇があったら、さっさと作りな!」

 

『ひええぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 見過ごせないと言わんばかりに、メイ達を纏めて連れ戻そうとするミア母さん。

 

 やっと休憩に入れそうだと思いながら厨房を離れた直後、客達が賑わせているテーブル席の方から、物騒な物音と同時に悲鳴が聞こえた。

 

「な、何だ!?」

 

 予想外のトラブルが起きた事で、離れで休憩に入る筈の俺は足を止めて、すぐに店内へと戻り始めた。

 

 調理服のまま店内に入ると、見目麗しい金髪の少女が何故か大暴れしている。

 

「誰や! アイズたんに酒飲ませたアホはぁぁぁぁ!!??」

 

 訳が分からずに戸惑っている中、糸目で緋色の髪をした男神(・・)が叫んでいた。

 

 あの子、酒を飲んだ所為で暴れてるのか? それが本当なら、アレは重度な酒乱だぞ。

 

 仲間らしき客達が止めようとするも、身のこなしが素早いのか、金髪の少女は未だに捕らえる事が出来ていない。

 

 これ以上暴れられたら、あと少しでミア母さんが確実に激怒すると危惧した俺は、あの子を止める為に動こうとする。

 

「ちょっとちょっと! 店の中で暴れないでもらえますか!?」

 

『!?』

 

 超スピードを使い、突如現れた事で客達が驚きと戸惑いの声を出していた。

 

 そんな事を気にしてない俺は、目の前にいる金髪の少女の動きを止める為に片腕を掴んでいる。

 

 だが――

 

「!」

 

「って、おい!?」

 

 少女は俺を見た途端、まるで敵と見なすように、掴まれてない拳で殴りかかろうとしてきた。

 

「不味い!」

 

「アイズ!」

 

「止すんじゃ!」

 

 酔っている彼女の暴挙に非常に焦って止めようとする客の内の三人。けれど全く聞いてないように、拳は俺の顔目掛けようとする。

 

 他の客達も悲鳴を上げようとしてる中――

 

「いい加減にしろ!!」

 

「!?」

 

 少女が放つ拳を、首を動かしただけで簡単に躱した俺は少しばかり怒って、彼女の額にデコピンを当てた。

 

 バチィンッと強烈な音が響き、それをモロに喰らった少女は脳震盪が起きたように意識を失い、そのまま仰向けに倒れていく。

 

「ったく、手間を取らせやがって……!」

 

『…………………』

 

 面倒な客だったと吐き捨てる俺とは別に、周囲の客達は目の前の光景が信じられないように唖然としていた。

 

 その直後、厨房からミア母さんが現れる。

 

「さっきの騒ぎは何だい!?」

 

「あ、ミア母さん」

 

『!?』

 

 彼女の登場により、客達は途端にビクッと非常に焦るような表情となっていく。特に俺が気絶させた少女の関係者らしき客達の中には、どんどんと顔を青褪めていく者もいる。

 

「ん? 何でリューセーが此処に居るんだい?」

 

「ああ、それはね――」

 

 俺が簡単に状況を説明すると、ミア母さんはどんどんとしかめっ面になっていく。

 

「アンタ等の仕業だったのかい……!」

 

「あ、いや、ミア母ちゃん、これには深いわけが……!」

 

 突如言い訳染みた事を言い始める男神だが――

 

「この、アホンダラがぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 ミア母さんの怒号が店内に響き、その衝撃が俺を含めた客全体に襲い掛かったのであった。

 

 何か理不尽だ。俺、これ以上の被害が大きくなるのを止めた筈なのに……。

 

 ……あ、客の中に見覚えのある奴を発見。休日の時に見た黒髪の冒険者が、ミア母さんの怒号によって倒れているが。

 

 

 

 

 予想外な出来事が起きたが、隆誠は予定通り休憩時間に移ろうと客達の前からいなくなる。

 

 その際、客の一人が引き留めようとするも、ミアからの睨みで叶わなかった。

 

 因みに先程まで暴れていた金髪の少女は、緑髪のハイエルフによって介抱されている最中である。

 

「なぁなぁ、ミア母ちゃん」

 

「何だい? 今は見ての通り忙しいんだがねぇ」

 

「アイズたんを止めた、さっきの坊主は誰や?」

 

 【ロキ・ファミリア】の主神である女神ロキが、カウンターにいるミアに問いかけた。

 

 その質問に彼女が眉を顰めるも、今度は同ファミリアの団長フィン・ディムナも乗っかろうとする。

 

「突然現れただけでなく、『Lv.5』のアイズを簡単に止めるなんて、只の一般人じゃないよね?」

 

 面倒な相手に目を付けられたと思いながらも、ミアは取り敢えずと言った感じでこう答えた。

 

「リューセーは約一月前に入ったばかりの息子なんでね。詳しい素性なんて知らないよ」

 

「息子? ミア母ちゃん、この店に男を雇ったんか?」

 

 少しばかりショックを受けたように大袈裟な仕草をするロキ。

 

 女でありながらも、女好きであるロキは美人揃いで有名な『豊饒の女主人』を大変気に入っている。それ故に大掛かりな宴会をする際は、必ずこの店を予約していた。

 

「あくまで厨房メインだよ。今アンタ等が食べてる料理の中に、アイツが作ったのも入ってるからね」

 

「マジか!?」

 

「へぇ。随分と有望な新人だね。まさか冒険者から料理人に転向するとは……」

 

 意外な事実を知ったと驚くロキとは別に、フィンは大変興味深そうに厨房へ視線を向けている。

 

 アイズを簡単に止める腕前を持っている彼が何故料理人となったのかは知らないが、それなりの事情があった。フィンはそう考えた。

 

 だが――

 

「言っておくけど、リューセーは冒険者じゃないよ。何でも遠い異国からやって来たそうで、今も何処の【ファミリア】にも所属してないらしいよ」

 

『!?』

 

 余りにも信じられない情報を聞いた事により、ロキやフィンだけでなく、一緒に聞いていた『ロキ・ファミリア』の団員達も驚きの表情となった。

 

 神から『恩恵(ファルナ)』を得た人間は一般人より強いが、オラリオ外にいる者達と比べて遥かに弱い。強くても精々『Lv.3』もしくは『Lv.4』ぐらいだ。『Lv.5』や『Lv.6』、そして『Lv.7』の冒険者がいるオラリオ勢とは比べ物にならない。

 

 都市外の人間がオラリオの第一級冒険者と戦ったところで勝負にすらならない。これは一種の常識となっている。

 

 だと言うのに、一年前『Lv.5』にランクアップしたアイズを、隆誠がいとも簡単に気絶させた。彼女がいくら酒で酔っていたとは言え、第一級冒険者を相手にだ。

 

 ロキやフィン達からすれば前代未聞と言うべきだろう。外部の者が、第一級冒険者となったアイズを止めるなんて、普通に考えてあり得ないのだから。

 

「ミ、ミア母ちゃん! その話もうちょい詳しくっ!」

 

「僕も聞きたいね。出来れば彼と一度話してみたいんだけど」

 

 当然、ロキとフィンは物凄い勢いで食いついた。どこの【ファミリア】に所属してないフリー状態な隆誠を逃す訳にはいかないと。

 

「喧しいっ! これ以上アンタ等に付き合いきれないよ! こっちは今忙しいんだ!」

 

「ひぇっ!」

 

 有名な【ロキ・ファミリア】相手でも、ミアはつっけんどんに言い返した。

 

 この店は女将のミアが絶対と言うルールで統制されている。それ故に客達は逆らう事が出来ない。それが目の前にいるロキやフィンであっても。

 

 それに負けたロキが恐怖の余り悲鳴をあげ、フィンは分が悪いと引き下がる事にした。厨房の方へ視線を向けながら。

 

(機会があれば、声を掛けてみるとしよう)

 

 酔ったアイズを止めてくれた礼をしたいと言えば納得してくれるだろうが、今のミアにそれを言えば怒りを買うとフィンは判断し諦めた。

 

 けれど、なるべく早めにしたかった。余所【ファミリア】に知れ渡れば、確実に隆誠を引き抜く事をするだろうと思いながら。




リューセー「おいシル、何でお前が俺と一緒に休憩してるんだ?」

シル「ミアお母さんの怒鳴り声が今も耳に響きまして、休憩した方がいいかなぁ~って」

リューセー「……後で母さんに叩かれても知らないからな」



クロエ「って、シルは何処ニャ!?」

ルノア「確かリューセーの後に付いて行ったような気が……」

アーニャ「シルの奴、どさくさに紛れて勝手に休憩してるニャ!?」

リュー「違います。シルは気分が優れないから休んでいるんです」


メイ「リューセー! 頼むから早く戻って来てぇぇぇぇぇ!!」
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