別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
この世界に来て早くも一ヵ月以上経ち、俺はもうすっかり順応していた。と言っても、『豊饒の女主人』で料理人で働いてる事だが。
見知らぬ俺を従業員として拾ってくれたミア母さんには感謝しかない。そうでなければ、俺は無法地帯同然のオラリオで放浪してるか、一切あてもなく世界中を旅する事になっていたのだから。
それでも別に構わないのだが、帰らなければならない
次元の狭間については、未だに入れるほど広くはない。穴の中を見る事が出来ても非常に不安定過ぎて、とても安全に帰れる状態じゃなかった。初めて見た時よりは多少ましだったから、やはり時間を置くしかなさそうだ。
帰れるのは暫く先になりそうだと思いながらも、俺は早朝トレーニングをやっていた。
「はぁぁぁぁ!」
「お、今のはいい攻撃だな」
相手は以前に手合わせしたリュー。互いに木刀を使った手合わせをしている最中だ。リューが振るう木刀を、俺の木刀で防ぐと言う
あの時以来、彼女は時々こうして俺の相手をしてくれている。と言うより、向こうから俺に挑んでいる。初めて手合わせした時の敗北を払拭する為に。
二回目からは最初から一切手を抜かず、まるで強敵と戦うみたいな構えを取っていた。直後には凄まじい速さで俺に迫って長柄の木刀を振り下ろすも、既に見切っていた俺が木刀で簡単に受け止めた事に、リューは動揺を隠せずに反撃を受けてしまいまたしても敗北。
数日後の三回目は、一切の小細工等無しの接近戦で挑もうと、俺に攻撃させない為の連続攻撃を繰り出してきた。捉えていた俺はリューの連続攻撃を全て防ぎ、腹部に少し強めの突きを当て、軽く吹っ飛ばして勝利。
四回目、五回目、六回目、内容は殆ど似たような物ばかりで俺の勝利で、リューの敗北だ。
俺にとっては軽い早朝トレーニングだが、リューからすれば真剣勝負だった。
シルから聞いた話によれば、恩恵を持ってない俺と手合わせして負けた事が相当屈辱だったらしい。それで尾を引いた事によって仕事中にミスを犯し、ミア母さんから怒られる場面が何度かあったんだと。
それを考えたら、恐らくだけど
平然と見下す奴は無駄にプライド高いのがお決まりとなってる。そして見下していた俺にアッサリやられたのを考えれば、フレイヤの
まぁ例え闇討ちしてきたところで返り討ちにするつもりだ。いっそのこと、あのクソ生意気な態度が出せなくなるほどに力の差を思い知らせて、
だが、そんな事をすればフレイヤが絶対黙ってない。【フレイヤ・ファミリア】最高戦力の一人を潰せば、体面を汚す事になるかもしれないし、ギルドも何かしらの抗議だってする可能性だってある。
別世界の
「隙あり!」
「あ……」
ままならない物だと考えてしまった所為で気が緩んでしまった。それを見逃さなかったリューが、空かさず木刀で突こうとする。
だが――
「惜しい。あとちょっとで当たったんだが」
「ぐ……!」
咄嗟に空いてる手でリューの木刀を掴んでいた為、俺の胸部に当たらなかった。あと数センチのところで。
リューは防がれた事で一旦距離を取ろうとしても動く気配がない。と言うより、俺が力強く掴んでる事で離れる事が出来ないのだ。
そんな必死な彼女は非常に隙だらけとなってる為、素早く頭にコンッと木刀で当てた。
「あっ」
「距離を取りたいからって、手合わせ中の相手から目を逸らしたらダメだ」
今回は相手に一撃を当てる事で終了となる為、俺の勝利で朝の手合わせは終わりとなった。
「も、もう一度! リューセー、もう一度です!」
「やっても良いけど……その汗塗れの上着をどうにかしないとな。不味い所まで見えてるぞ」
「え?」
リューが着てる白いタンクトップを指しながら俺は言った。
手合わせをして三十分近く経ち、本気でやっているリューは身体からかなりの汗を流している。顔はともかく、彼女が着ている白のタンクトップには大量の汗が付着していた。
此処で問う。白い布に水が付着したらどうなるだろうか? 正解は透けてしまう、だ。
俺が突然こんな事を言ったのは、当然理由がある。
リューは体中汗まみれとなり、彼女の白いタンクトップはさっき言ったように透けてしまう。その為、それが透けた先には……リューの素肌が見えてしまう。
腹部なら辛うじてセーフである。けれど問題は腹部より上――胸部の方だ。
イッセーだったら絶対に喜ぶ展開だろうが、俺にとっては非常に不味い展開である。下着も白だったのか、白のタンクトップが透けてる所為でリューの乳房が丸見えだった。大きさについては触れないでおく。
「~~~~~~~!!」
漸く自分がどんな状態になっているのかに気付いたリューは、急に顔を赤らめた途端に木刀から手を放し、透けた胸を両腕で覆いながら俺に背を向ける。
同性ならまだしも、異性である俺に見られたら羞恥心に駆られてしまうのは至極当然である。益してや同年代の男に見られれば猶更だろう。
普通であれば男の俺も相応な反応をすべきなんだろうが、生憎とそう言う関連の動揺は一切しない。
「見られたからって非難しないでくれよ。俺の所為じゃないんだから」
「……ええ、分かってます……!」
背を向けてるリューだが、首だけ動かして俺を見ながらそう言うも、恨みがましそうな眼をしている。
手合わせは此処までにしようと言った途端、そそくさと離れに戻るリューであった。
その後は目が合う度に恨みがましい目で見て来るから、シル達から色々誤解される事になったのは言うまでもない。
「リュー、これ運んでくれ」
「分かりま……っ!」
仕事モードに入った俺が料理を運ぶよう声を掛けるも、リューは朝の事故を思い出した所為か、此方を見た途端に顔を赤らめてしまった。
その所為で片付ける予定だった皿やコップを落としてしまうという失態を侵してしまった事で――
「リュー、何やってんだい!!」
「す、すみません!」
割れる音をばっちり聞いたミア母さんからの雷が落ちるのであった。
☆
「もうっ! ダメですよ、リューセーさん。女性の胸を見るなんて」
「別に好きで見た訳じゃない」
昼休み、仕事の後処理で遅くなった俺は少し遅めの昼食となった。今日はミア母さんが作ってくれたパスタだ。
シルも仕事の関係で遅くなってしまい、俺の隣に座って一緒に食べている。今は二人だけだ。
珍しい事もあるものだと思いながら済ませている中、シルが急にある事を聞いてきた。リューの異変について。
別に隠すべき内容じゃないと思った俺がありのままを教えたら、途端に彼女は少々怒った表情になり、ダメ出しをしてきた訳である。
俺が全く興味無さそうに言った所為か、今度は何か不安そうな様子でシルが問おうとする。
「あのぅ、もしかしてリューセーさんは――」
「それは無い。俺は普通に女性が好きだ」
俺は即座に否定した。シルの言おうとしてる事を察していたので。
早朝にも言ったが、俺は決して性欲が枯れてはいない。好きな女性が出来たら、普通に見てみたいと思えるほど正常だ。
「そうなんですか? リューセーさんがこの店でずっと働いてから、今まで一度も女の子関連の事故が起きなかったから、もしやと思ってたんですが」
「確かにそう考えてもおかしくはないが……」
これが俺じゃなくイッセーだったら、間違いなく起きていただろう。女性の着替え、もしくはシャワーシーンを覗こうとしてるのが容易に想像出来る。
尤も、此処にいる女性達は物凄く強いから、確実にやられていたかもしれない。特にウェイトレスのリュー達は相当な実力者だ。『女の敵!』と言って容赦なく徹底的にぶちのめされるだろう。
「少なくとも俺は、お前達に不埒な行いなんか絶対しない。それは約束する」
「……そこまではっきり言われると、私達に女としての魅力が感じられないように聞こえてしまうんですが……」
さっきと違って、ムッとした表情になっていくシル。
「そんな事は無いぞ。シルは充分に魅力的だと思ってるさ」
「ふんっ。今更そんなお世辞なんか言っても遅いんですから……!」
シルは次にツンッとした表情で明後日の方向へ向く。
何と言うか……この子を見てると、何故か分からないが俺の知ってるフレイヤを思い出させる。全くの別人なのに意味が分からん。
確かアイツがこんな不機嫌になった時は――
「そう怒るな、フレイヤ。折角の可愛い顔が台無しだぞ」
「………えっ?」
頭を軽く撫でながら本心で言えば許してくれるんだったな。
すると、シルは途端に俺を見て呆然と俺を見ている。表情からして嫌そうな感じはしない。
………あっ、やべ。この子はシルなのに、間違えてフレイヤって呼んじゃった。
「す、すまなかった、シル。君はフレイヤじゃないのに、また呼び間違えた」
「…………………」
俺が謝っているのに彼女は俺を見ながらずっと無言だった。
普通なら名前を呼び間違えた事に訂正する筈なのに、今日に限って何も言い返してこない。
「シル、シル? お~いどうした、シルさ~ん?」
俺が何度か呼んだ事でやっと正気に戻ったシルだったが、昼休みが終わって以降は様子が変だった。
「『本日のおすすめ』出来た! 誰か運んで――」
「は~い、私が運びますね~♪」
夜の時間帯となり、俺はいつものように手早く料理を作り終えた途端、シルが上機嫌で即座に運んで行くのであった。
「何か今日のシルはいつもより機嫌良いね」
「おミャー、昼休みの時に何かしたかニャ?」
「さぁな」
上機嫌に料理を運ぶシルの様子にルノアが不思議がり、アーニャが訝りながら調理中の俺に尋ねてくる。
俺が如何でもいいように返した途端――
「そこのバカ娘二人! 調理中のリューセーに声掛けるんじゃない! 気が散るだろうが!」
「は、はいニャ!」
「私は声掛けてないのに!」
ミア母さんの怒鳴りで再び仕事に戻るアーニャとルノアだった。
フレイヤ「ふふ……うふふふ……!」
侍女1「ねぇ。フレイヤ様、ここ最近、上機嫌になられてない?」
侍女2「みたいね。何かあったのかしら?」