別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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異性同名な別神からのご指名

 抗争寸前となった二大派閥の衝突でオラリオは一時騒然となったが、ほとぼりが冷めたのか、まるで何事も無かったかのように平穏の日々を過ごしていた。

 

 それに関わっていた俺は、『どこも出掛けずに店の仕事に専念する』と言うミア母さんの罰を受けていたが、都市が落ち着いた事で解除されている。とは言っても、俺が出掛けたら面倒事が起きるかもしれないと言う理由で、自分から出掛ける事はしてない。

 

 面倒事、と言う訳ではないのだが、少し変わった事がある。店の仕事に専念してる間、ウェイトレスのシルが妙に積極的な感じで自分に話しかけてくるのだ。俺が先日、またしてもフレイヤと呼び間違えたにも関わらず。

 

 その光景は当然スタッフ達も目撃しており、リューが俺に疑いの目を向けていた。『シルに一体何をしたのですか?』と、少々殺気立ちながら問い詰める程に。

 

 シルと一番親しい他、前の手合わせで(事故であるのに)俺に胸を見られたのも重なった事で、その時のリューは凄く不機嫌だった。常人なら少々怯えてもおかしくないが、俺はサラッと流しながら『何もしてない』と言い返してる。

 

 それでも執拗に問い詰められるが、シルが出て来た事に何とか事無きを得た。『リューセーさんを困らせないで』と少し叱ったのが聞いたのか、リューはそれ以降から大人しくなった。

 

 前から思っていたけど、リューは他のスタッフ達と違って随分と彼女に対して過保護な気がする。

 

 聞いた話によれば、この世界にいるエルフは自身が認めた者以外との肌の接触を極端に嫌う傾向があるそうだ。リューも当然そのエルフに含まれており、アーニャが触れようとするも即座に手で弾いているのを見かけた事がある。

 

 他種族がいる『豊饒の女主人』の中で、唯一触れているのはシルだけのようだ。それ故にリューはシルに関する事だと、過敏に反応する事がある。

 

 因みに男の俺はリューと話す事はあっても触れるような事は一切してない。早朝トレーニングでの手合わせで万が一に触れてしまうかもしれないが、今のところは起きていない。事故で胸と言う素肌を間近で見てしまった以外は。

 

 話は少し脱線しかけたが、とにかくリューが少々面倒になったらシルに押し付ければ良い。それだけであっと言う間に解決するのだから。

 

 取り敢えず今日も一日頑張るとしよう。

 

 ………と思っていたのだが、この後にまたしても予想外な事が起きるのであった。

 

 

 

「また配達って……。母さん、俺は【フレイヤ・ファミリア】の本拠地(ホーム)に行きたくないんだけど」

 

 ミア母さんに呼び出され、配達をするよう命じられた事に俺は難色を示した。と言うより拒否した。あの無礼千万な態度を取る【フレイヤ・ファミリア】の連中を思い出すと猶更に。

 

 門番共には書状を見せても帰れと言われ、オッタルには何度もしつこく釘を刺され、アレンには平然と見下す態度を取られる始末。

 

 肝心のフレイヤも俺を散々好き勝手に振り回した挙句、余りの態度にキレて怒鳴ってしまった。それによって【フレイヤ・ファミリア】から敵視している奴等がいるのだ。

 

 いくら仕事だからって、あそこまで失礼極まりない態度を取る奴等がいる本拠地(ホーム)に誰が行きたがるだろうか。否、断じていない筈。

 

 それでも行けと言うのなら、俺にもそれなりの考えがある。と言ってもミア母さんに対してではない。【フレイヤ。ファミリア】の連中に対してだ。

 

 もしも門番共がまたしても失礼な態度を取ったら、こう言い返すつもりだ。『余りそうやって人を脅すな。フレイヤの品性が損なわれるぞ』とな。

 

 そんな事を言った瞬間にどうなるかは容易に想像出来る。フレイヤに心酔してる連中がそんな台詞を聞いて、大人しく甘んじる訳がない。確実に激昂して襲い掛かるだろう。その時には勿論俺は迎撃しようと、手刀一発で気絶させるつもりだ。

 

「違うよ。今回は【ロキ・ファミリア】の方だ」

 

「――え?」

 

 場合によっては【フレイヤ・ファミリア】の連中に屈辱的な敗北を教えてやろうと考えている最中、ミア母さんが違うと言った事で直ぐに霧散した。

 

 同時に疑問を抱く。何故常連客となってる【ロキ・ファミリア】が配達依頼をしてきたのかを。

 

「な、何であの【ファミリア】が? 確かあそこは『豊饒の女主人(うち)』の常連だから、態々配達依頼なんかしなくても店に来れば良いんじゃ……」

 

「あたしもそう言ったんだけどねぇ。けどロキの奴が、どうしてもリューセーに『この前の礼がしたい』と言って聞かないんだよ」

 

「この前の礼、ねぇ……」

 

 俺が【ロキ・ファミリア】に関わった事と言えば……あの二つだな。

 

 一つ目は向こうがウチの店に来て宴会の最中、酒を飲んで暴走中のアイズ・ヴァレンシュタインを俺が止めた。

 

 二つ目は二大派閥が衝突して抗争になる寸前、フレイヤを怒鳴った俺にアレンが襲い掛かって一撃で倒した事で両者が戦いを止めた。

 

 思い当たる事と言えばその二つだ。と言うより、それしかない。

 

「でもだからって、今夜も忙しい予定なんだろう? と言うより、また俺が抜けたらメイ達が騒ぐんだけど」

 

 決して己惚れていないんだが、今の俺は調理担当に必要な存在となっている。特に忙しい夜の営業時間では、俺が頑張ってる事でメイ達の負担はかなり軽減されてるらしい。

 

 今夜も大変忙しくなる予定だから、それで俺が配達に行くと知られれば、『行かないでくれ~!』と引き留められるだろう。そして自分が代わりに行くとでも言いながら。

 

「そんなのリューセーが気にする必要はないよ。あたしの娘達はそんなにヤワじゃないし、お前がいなくてもきっちり最後までやり遂げるさ」

 

「なら良いけど……」

 

 確かに立場的には向こうが先輩だから、後輩の俺が心配するのは逆に失礼か。そう言う事にしておこう。後で恨まれるかもしれないが。

 

「とは言っても、【ロキ・ファミリア】もちょっとなぁ。あそこの主神から勧誘されて、断っても諦めていなさそうだったから」

 

「そこはあたしの方で釘を刺しておいたよ。『もし言葉巧みにあたしの息子を引き抜く事をしたら、たとえ常連のアンタ等でも永久出禁にする』ってな」

 

「おお、それはそれは……」

 

 常連相手にも随分容赦の無い事で。ウチの店は他の酒場と違って結構人気あるから、気に入ってるロキとしては永久出禁にされたら大きな痛手となるだろう。

 

 けれど、ミア母さんは釘をさす以外にも更に条件を付けている。忙しい調理担当の俺を態々指名したのだから、出張料金に加え、料理や酒も店で表示してる金額の1.5倍請求したらしい。

 

 少々ぼったくりじゃないかと思われるだろうが、それでも向こうは全て了承したようだ。そこまでして俺に礼を言いたのかとツッコミたい程に。

 

「言っとくけどリューセー、ロキに上手く乗せられるんじゃないよ。お前さんにはまだまだ借金が残ってるんだからね」

 

「ああ、そうでしたね。因みに残りの借金額はいくら?」

 

「……さぁね。今は手元に借金帳簿がないから確認出来ないよ」

 

 俺の質問をはぐらかすような言い方をするミア母さんは、用件を全て伝えたのか、そのまま奥の部屋へと向かった。

 

 まぁ、今のところこの店を出る気は無い。余程の事が起きない限りは、な。

 

 その後、俺が今夜の営業時間に出勤しない事が知れ渡り、ちょっとした一騒動が起きるも直ぐに収まった。ミア母さんの怒号によって。

 

「リューセーさん、出来ればなるべく用が済んだら早く帰ってきてくださいね。ロキ様は他の神様達と違って抜け目がありませんから」

 

「? ああ、分かった」

 

 何かシルが妙に俺を心配してそうな事を言ってくるも、俺は一先ず頷いておいた。

 

 

 

 

 

 

「あのぅ、配達依頼された『豊饒の女主人』の者なんですが……」

 

 時間は夕方頃。

 

 目的地である【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)――『黄昏の館』へ辿り着いた俺は、関係者と思われる門番に話しかけた。

 

 目の前に建物は館でなく、どう見ても城だった。最初は場所を間違えたかと錯覚するも、地図には此処だと示されている。

 

 流石は【フレイヤ・ファミリア】の双璧となる有名派閥と言うべきか、かなり立派な造りだった。尤も、あそこと違って近寄りがたい雰囲気が無い。そして中から戦闘らしき音も聞こえない。全くの正反対だった。

 

「ああ、話は聞いています。どうぞ、お通り下さい」

 

 そして話しかけた門番だが、最初は警戒するも、相手を見下すような態度を取っていない。

 

 どうやら俺が来る事を事前に聞いていたようで、すぐに門を開けて通してくれた。

 

 向こうとは大違いだと思いながら足を踏み入れると、俺を待っていたかのように佇んでいる者がいる。

 

「よう、待っとったで!」

 

「これはこれは。まさか神ロキ自らがお出迎えとは、大変恐れ入ります」

 

 出迎えたのは【ロキ・ファミリア】の主神ロキだった。相変わらずの似非関西弁で未だに聞き慣れないが。

 

 荷物を持ったままの俺は、取り敢えず頭を下げての挨拶をする。

 

「あ~、そんな初対面みたいな堅苦しい挨拶はええって。もうお互いに知らぬ仲でもないからなぁ~」

 

「それは、まぁ……」

 

 俺がアレンを一撃で倒した他、恩恵を持ってない事でフレイヤと同じく勧誘された事もあった。『男神』と口にした所為でキレさせてしまったのも含めて。

 

「ところで、今回注文された料理はどちらへ運べば宜しいので?」

 

「おお、せやったな。ほな、付いてきぃや」

 

 そう言ってロキは俺を本拠地(ホーム)の中へ招いて案内する。 

 

 その途中、いくつかの団員達が驚きの視線で此方を見てるが、ロキは全く気にしてない様子。

 

 フレイヤの所とは違い、ここは戦闘訓練らしき事はしていなかった。音がしないから分かっていたとは言え、こうまで対照的だとは。

 

「良い所ですね。【フレイヤ・ファミリア】の本拠地(ホーム)とは大違いだ」

 

「んあ? 何や自分、あっちにも顔出したんか?」

 

「ええ。抗争が起きる少し前、あの女神から配達依頼をされまして」

 

 別に内緒にしなければいけない案件ではない為、俺はロキからの問いにアッサリ答えた。

 

「さよか。まぁ自分があの店におるなら、フレイヤがそうしても可笑しゅうない、か」

 

 てっきり凄い勢いで食いつくかと思いきや、淡白な反応だった。まるで分かっていたかのように。

 

「そうだ、神ロキ。こちらも質問して良いですか?」

 

「なんや? 言うておくけど、うち等【ロキ・ファミリア】に関する情報は高いで?」

 

 今度は俺が問うと、ロキは少しばかり意地の悪そうな笑みを浮かべながら言ってきた。

 

「質問と言うより確認ですね。聞けば神ロキは下界に滞在して結構長いみたいですが、天界時代に計画していた『神々の黄昏(ラグナロク)』を起こす気は無いんですか?」

 

「ぶっ!」

 

 ロキが突如不意打ちを受けたかのように噴出した。

 

 俺が知ってるロキと差異がないかの確認だったが、どうやらこっちのロキも考えていたようだ。この様子から見て実行する気はなさそうだが。

 

「他には神フレイヤから無断で借りた『鷹の羽衣』はちゃんと返し――」

 

「ちょお待てやぁぁ!!」

 

 まだ言ってる最中だったが、ロキは周囲に聞かれて欲しくないのか、此方に振り向いて即座に大きな声を出して遮って来た。

 

 その叫び声が聞こえたと思われる数名の団員達が何事かと凝視している。

 

 ってか、こっちのロキも無断で借りていたんだな。(俺の知ってる)フレイヤが『鷹の羽衣』を返してくれない事に愚痴っていたのを聞いたのを思い出して、同じ事をしてるんじゃないかと確認するも、コイツの反応を見て一目瞭然だった。




ラウル「何かロキが騒がしいっす……って、あの人はこの前の!?」

リューセー(あ、この前の冒険者発見。出来れば声掛けたいなぁ……)


アイズ「あの人が来てる……」


フィン「どうやら来たようだね」

リヴェリア「待っていたぞ。早く彼に魔術とやらの話を……!」

ガレス「落ち着かんか、リヴェリア」
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