別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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【剣姫】との手合わせ

「それじゃあアイズたん、リューセー、準備はええか!?」

 

 場所は変わって【ロキ・ファミリア】本拠地(ホーム)の訓練場。ロキや団長達数名の立ち合いの下、俺とヴァレンシュタインの手合わせが始まろうとする。

 

 すんなりと手合わせしている展開に見えるだろうが、実はそうでもない。少しばかり時間を要していたのだ。

 

 今から少し前に遡る。

 

 

 

「やります!」

 

「ほ~ん。アイズたんと手合わせ、なぁ」

 

 俺が手合わせすると言う提案にロキは驚くも異なる反応を示す。

 

 先ずヴァレンシュタインは当然と言うべきか、即座に受け入れていた。やる気満々の表情をしていたから。どうやら彼女としては俺との手合わせは願ってもないようだ。

 

 次にロキだが、判断に迷っているのかのように渋った表情だった。この様子からして、俺がヴァレンシュタインと戦わせる事に少なからず反対してるかもしれない。

 

 それは至極当然だろう。何しろ俺は恩恵を持ってない状態で【フレイヤ・ファミリア】のアレンを一撃で倒した実績がある。それを考えれば、ヴァレンシュタインも奴同様に敗北するどころか、立ち直れなくなるんじゃないかと危惧している筈だ。

 

 改めて知ったのだが、俺が別世界の人間とは言え、オラリオにいる第一級冒険者に無傷で勝利するのは普通あり得ないらしい。恩恵を持たない人間は、恩恵を持った人間には絶対勝てない。それはこの世界の常識になっているそうだ。

 

 故に非常識極まりない事を仕出かした俺は、今は有名派閥の【ロキ・ファミリア】主神ロキに警戒されている。何故今になってヴァレンシュタインと手合わせしたいのかと。

 

 まぁ俺としてはどちらでも構わない。判断を下すのはあくまでロキだ。俺は提案しただけに過ぎないから、もし此処でロキが反対だと言えばそれまでになる。

 

「悪いけど、ちょおっとばかり待ってくれんか? フィン達と話してくるわ」

 

 そう言ってロキは真剣な表情のまま俺とヴァレンシュタインを置いて、一旦私室から出て行った。

 

 彼女を見て少々気まずくなるも、俺はある事を思い出した。

 

「えっと……取り敢えず向こうが戻って来るまで、これ食べるかい?」

 

「!」

 

 俺がある物を見せた瞬間、ヴァレンシュタインは途端にキランと目の色を変えた。それは屋台に販売してる商品――ジャガ丸くんだ。しかも味は小豆クリーム。

 

 尤も、これは屋台で買ったのではなく、俺が独自に作った物だ。言っておくが、ちゃんとミア母さんの了承を得てる。

 

 二大派閥抗争が起きる少し前、ヴァレンシュタインが期間限定のジャガ丸くんを買おうとした際、俺が買ってしまった事で売り切れてしまい食べれなくなってしまった。その詫びとして、俺が作った訳である。

 

 味に関しては問題無い。屋台で作っていた所をバッチリ見たから、それなりに近い筈。不安があるとするなら、小豆クリームの甘さの分量ぐらいだ。

 

 俺手製のジャガ丸くんを受け取った彼女は、『いただきます』と言ってかぶりつき――

 

「……美味しいです」

 

「それは良かった」

 

 予想以上に高評価だった。しかも無心でハグハグと食べ続けている。

 

 作った甲斐があると思うほど良い食べっぷりだ。彼女を見てるとほっこりしてしまう。

 

 そして一通り食べ終えたヴァレンシュタインは『ごちそうさまでした』と言った後、俺に尋ねようとする。

 

「えっと、あのジャガ丸くんはどこの屋台で買ったんですか?」

 

「アレは俺が作った」

 

「!」

 

 質問に答えた瞬間、彼女は何故か大袈裟な反応をした。

 

 凄い事を言ってはいない筈だ。ジャガ丸くんを自分が作ったと答えただけなのに。

 

 少しばかり呆れている中、途端にヴァレンシュタインは俺に質問してくる。

 

「『豊穣の女主人』で、ジャガ丸くんを出しているんですか?」

 

「俺の趣味で作っただけだ。メニューとして出る予定はないよ」

 

「では出して下さい。私、絶対食べに行きます……!」

 

「え?」

 

 俺が作ったジャガ丸くんが予想以上に好評だったのか、ヴァレンシュタインは『豊穣の女主人』にジャガ丸くんを出して欲しいと言ってきた。

 

 如何でも良いけど、顔が近い。本人はお願いしてるつもりだろうが、こんな至近距離で顔を詰め寄られたら――

 

「スマンなぁ~。フィン達と話し……って何やっとるんやコラぁ~~~!!??」

 

 ほら、戻って来たロキに誤解されちゃったじゃないか。

 

 俺とヴァレンシュタインは怪しげな事をしてないと向こうが納得するまで、少々時間を要したのは言うまでもない。

 

 

 

 ――と言う事があった。

 

 そして現在、訓練場で俺とヴァレンシュタインは相対していた。

 

 ロキやそのファミリアの団長――フィン・ディムナの他、前に会ったエルフのリヴェリア、そしてドワーフのガレス・ランドロックが立会人としてこの場にいる。

 

 てっきり他の団員達も連れて来ると思っていたが、此処にいるのは自分を含めて五人だけしかいない。

 

 一応聞いてみたところ、一般人同然の俺が有名な【剣姫】と戦うのは些か問題があるそうだ。表向きな理由(・・・・・・)にしては尤もだろう。まぁ俺には如何でも良い事だが。

 

 さて、それはそうと、ヴァレンシュタインの力は一体どれ程なのだろうか。

 

 確か彼女の実力をレベルで言えば『Lv.5』の第一級冒険者らしい。前に俺が倒した『Lv.6』のアレンより実力が劣る、と見て良いのだろうか。

 

 未だこの世界の冒険者に関して、いまいち理解し切れてない。まぁ強いのは確かと見て良い筈だ。

 

 一応オーラで探ってみるも、やはりリューと同じく全く読む事が出来ない。恐らくだけど、この世界の主神が相手の力を探らせない為の(ロック)を施しているに違いない。でなければ、今頃は聖書の神(わたし)能力(ちから)で相手の力を探る事が出来る筈だ。

 

「あの……本当にそのままで良いんですか?」

 

 相手の力を探れないのが厄介だと思っている最中、サーベル型の剣を構えてるヴァレンシュタインが問う。

 

 確かに彼女の疑問は俺の格好についてだ。完全武装してる彼女に対し、俺は『豊穣の女主人』のウェイター服のままだから。

 

 それは勿論ロキからも問われた。此処へ来る前に『自分、その格好でやるんか?』と訊かれるも、『問題ありません』と返答済である。

 

 アレンを倒した時も一切武装無しで倒した事も知ってか、ロキは敢えて俺に深く追求してない。

 

「心配無用。君の攻撃は全部コレで防ぐから」

 

「……バカにしてませんか?」

 

 俺が手にしている武器――木刀を見せるも、ヴァレンシュタインは眉を顰めていた。

 

 因みにこの木刀だが、訓練場に置いてあった物だ。当然ロキの了承を貰っている。

 

 言っておくが彼女をバカにしたつもりは一切無い。もしイッセーや祐斗が見れば、必ず警戒している。俺のオーラを纏わせた木刀は、そこら辺の武器より切れ味や強度が抜群だから。

 

「してないよ。まだ信じられないなら、先手を譲ろう。さ、いつでも良いから攻撃してくれ」

 

「!」

 

「おいおいリューセー、それマジで言っとるんか?」

 

 不快な表情となるヴァレンシュタインとは別に、審判役のロキが少々不愉快そうに尋ねてきた。

 

「自分がフレイヤんとこの副団長(やつ)を倒したと言うても、アイズたんは有名な【剣姫】や。そないな調子こいてると痛い目見るで?」

 

「調子に乗ってなんかいませんよ。至って真面目です」

 

 一応事実を言っているんだが、向こうはそう捉えてくれないようだ。

 

「アイズ!」

 

 すると、俺が視線を逸らしたのが隙だと見たのか、ヴァレンシュタインが突如突進しながら剣を振り翳そうとする。リヴェリアが咎めるも全く気にしてない様子だ。

 

 あと少しで彼女の剣が俺の顔に当たる――かと思いきや、ピタッと寸でのところで急遽止まった。

 

「……どうして、避けなかったんですか?」

 

「殺気がなかったからだよ。止めると分かっていた」

 

「…………」

 

 俺の言った事が大当たりみたいで、ヴァレンシュタインは無言で剣を引っ込めながら、俺から少し距離を取った。

 

「今のは無し(ノーカン)にしとくから、もう一回どうぞ」

 

「……今度は止めません」

 

「ああ、分かった」

 

 警告する彼女に対し、俺はちゃんと防御する意思を見せようと手にしてる木刀を構える。

 

 

 

 

「フィン、どう思う?」

 

「ンー……彼は木刀でアイズの攻撃を受け止めると見て間違いないだろうね」

 

「だとしても、あの小僧は随分と思い切った事をしておるな」

 

 ロキに呼ばれ、立会人として見物している【ロキ・ファミリア】三首脳は少しばかり信じられないように見ている。

 

 心配そうに見てるリヴェリアとは別に、大変興味深そうな表情となってるフィンとガレス。

 

 アイズは【ロキ・ファミリア】の幹部で第一級冒険者。若干14歳でありながらも、オラリオにいる冒険者でトップクラスに匹敵する剣士だ。

 

 加えて彼女の愛剣――『デスペレート』は一級品装備と比べると攻撃力は低いとは言え、不壊属性《デュランダル》の武器である。アイズの卓越した剣技の他、とある魔法を使えば相応の威力となる。

 

 実力や武器が一流であるアイズの攻撃を木刀で受けようとしたら、間違いなく簡単に切断されるだろう。それは一般人に限らず、恩恵を施されている冒険者が使っても同様の結果となる。

 

 普通なら相応の武器を使うのが常識なのに、隆誠は全く該当しなかった。木刀で挑むこと自体間違っている。もしあの木刀が、嘗て闇派閥(イヴィルス)との大抗争で共に戦った正義の眷族(リュー・リオン)が使っていた大聖樹枝を素材にした武器であるなら、フィン達は納得しているだろう。

 

 だが、残念ながらアレはそこら辺の店で売られてる単なる木刀だ。いくら隆誠がアレンを倒したと言う例外中の例外な存在であったとしても、木刀でアイズの剣を受けようとする事自体あり得ない。

 

 それどころか再びアイズに先手を譲る始末。これはどう見ても甘く見られているとしか思えない。

 

 実は隠し武器でも所持してるんじゃないかと思っていると、アイズは再び動き出した。

 

 今度はさっきと違って寸止めをせず、彼女の剣が隆誠の身体に当たろうとする瞬間――突如、キィンッと固い金属音がした。

 

「「「………は?」」」

 

 アイズの剣は隆誠の木刀によって防がれていた。さっきの金属音は間違いなく隆誠が持ってる木刀から発している。しかも切断すらされていない。

 

 余りにも予想外な光景に、フィン達は揃って目が点になっている。因みに審判役のロキも同様の反応だ。

 

 だが一番に驚いているのは攻撃をしているアイズだ。少々戸惑いながらも再び攻撃を仕掛けようと、今度は連続による斬撃を仕掛ける。

 

「おっと」

 

 隆誠が少し焦ったかのような声を出すも、アイズの攻撃を全て防いでいた。ただの木刀だけで。

 

 今度は完全な聞き間違いでなく、隆誠の木刀が剣に当たる度に、キィンッと固い金属音を発生させている。

 

 一撃、二撃、三撃、四撃。アイズが振るう高速の連続攻撃を全て防いでいる。くどいようだが、全て木刀で。

 

「何だ、もう終わりかい?」

 

「……嘘」

 

 一通りの攻撃を終えたのか、再び距離を取った。今度はさっきと違い、全く信じられないと言わんばかりの表情だ。

 

 対して隆誠はアイズの攻撃を全く物ともしてない表情だ。それどころか物足りなさそうな感じもする。

 

「取り敢えず先手は譲った。だから今度は俺の番だよ」

 

「!」 

 

 その台詞にアイズは構えた。さっきとは全く違って、全力で戦う構えになっている。

 

 彼女はたった数回の斬り合いで理解した。目の前にいる相手は、自分より遥かに強い存在であると。

 

(しっかしまぁ、この子の戦い方は祐斗と似たようなタイプだな)

 

 僅かな攻防戦をしただけで隆誠はある程度の分析をしていた。アイズは自身の後輩――木場祐斗に似ていると。

 

 それと同時に思い出していた。祐斗と手合わせする際、向こうが神器(セイクリッド・ギア)――聖魔剣を使っていたのに対し、自身は木刀でやっている事を。

 

 この世界に来てまだ二ヵ月程度だが、隆誠は何だか懐かしそうに感慨深くなっている。だが、今はそんな事を気にしてる場合じゃないと戒める。

 

(これだけの強さを持って、この子は一体何を恨んでいるんだか……) 

 

 恩恵があるとはいえ、人間の身で相当な実力を有してる事に感心する隆誠だが、同時に気の毒そうに思っていた。

 

 復讐に囚われていなければ、(イッセー)みたいに真っ直ぐに育ち、更に強くなっているだろう。隆誠はそう考えている。

 

 彼女の過去を詮索したい衝動に駆られるも、取り敢えず勝負を終わらせようと思考を切り替えた。

 

(よし、アレを使おう)

 

 アイズを倒すのに丁度良い技を思い浮かべたのか、隆誠は構えた。

 

 深く腰を落とし右手に持っている木刀の切っ先を相手に向け、その峰に軽く左手を添えた状態となっていく。

 

「?」

 

 見た事の無い構えに、アイズが怪訝な表情となる。それでも油断はしていない。

 

「何だ、あの構えは?」

 

「んー……見た感じアレは『突き』の構えだね」

 

「にしても、随分と独特じゃのう」

 

 リヴェリア達も全く見覚えがないようだが、それでも何をやろうとしているのかは察していた。

 

 両者が互いに構えて数秒後――

 

「行くぞ」

 

「っ!」

 

 隆誠は動き出した。一瞬で間合いを詰めて突進し、木刀が標的を貫こうとする。

 

(間に合わない!)

 

 それを見たアイズが咄嗟に防御する為に自身の剣で盾代わりにするも少し遅かった為、木刀の切っ先がアイズの身体に直撃しようとする。

 

 当たろうとする個所はアイズの胸の真ん中であり、幸いにもその部分は防具(ライトアーマー)で覆われていた。

 

 彼女が纏っている防具は相応の防御力がある為、木刀が当たった所で大したダメージは受けないだろう。

 

「がっ!」

 

 しかし、隆誠の木刀が当たった瞬間に凄まじい衝撃が襲い掛かり、アイズは勢いよく後方へ吹っ飛んでしまった後、彼女の背中が訓練場の壁にダアンッと強い音を発しながら激突する。

 

「少し油断したな、ヴァレンシュタイン」

 

『……………………』

 

 呆れるように言い放つ隆誠とは別に、余りにも信じられない光景にロキだけでなくフィン達も絶句していた。

 

 因みに隆誠が使った突きは一種の技である。それは当然オリジナルではない。

 

 『放浪する剣信(けんしん)』と言う漫画で、主人公の宿敵キャラである東藤(とうどう)(おわる)の得意技――()(げき)。通常の刀を水平にした平刺突(ひらつき)技の一つ「片手一本突き」を極限まで鍛え、昇華した技である。

 

 アイズが第一級冒険者だから、隆誠は敬意を表す為に相応の実力で牙撃を使った。故に彼女は勢いよく吹っ飛んでしまったのだ。

 

 ロキ達としては完全に予想外な展開だったろう。まさかアイズが攻撃をまともに喰らったどころか、壁に激突するほど吹っ飛ぶなんて考えもしなかった。

 

「う……ぐっ……!」

 

 肝心のアイズは激痛に苛まれながらも、何とか立ち上がろうとしている。

 

「神ロキ、彼女は結構辛そうですけど、このまま続けても良いんですか?」

 

「! アカンわ! 終了や! リヴェリア、アイズの手当てを!」

 

「ロキ、私は……まだ……!」

 

「悪いが却下させてもらう」

 

 隆誠が声を掛けるまで呆然としていたロキだが、ハッとしてすぐに終了宣言後に指示を出した。

 

 アイズはまだ戦う意思を見せるも、リヴェリアが有無を言わさず治療を始めようとする。

 

 手合わせは言うまでもなく、隆誠の勝利として幕を閉じる。

 

 それと今回の件は、他の団員達に一切口外しないよう箝口令を敷かれる事となった。同時にロキ達は隆誠に対する警戒を最大限にまで引き上げたのは言うまでもない。




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