別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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授業

「よし、初日だからここまでにしよう」

 

「ありがとうございました」

 

 リヴェリアより共通語(コイネー)を学んで初日。思った通り彼女は先生役にピッタリと言うべき人材であった事に喜んだ。

 

 最初はどんなに厳しいのかと思って授業を受けるも、全然厳しくないどころか至って普通だった。俺が元居る世界の中学、高校の教師と大して変わらない。

 

 敢えて言えば、キチンと覚えて理解したかを確認する為の問いを何度も質問された位だ。向こうが貸してくれたテキストを参考にして答えると、何故か分からんが凄く感心された。そこまでする程の事じゃないと思うんだが。

 

 初めて受けた共通語(コイネー)だが、古代ギリシア語と似て非なる物だと改めて分かった。言葉は似てても文字が全然違うなんて流石は別世界だと思ったほどだ。独学で理解するのには相当な時間を要していただろう。

 

 そして自分の知らない文字に、聖書の神(わたし)は少しばかり楽しく感じた。人間の幼少期時代に、初めてゲームやアニメなどの娯楽を知った時のような感じで。

 

 暫く楽しい時間になりそうだと思いながら受けていたが、リヴェリアが初日だからと言う理由で早めに終わらせた事で少しガッカリするも、焦る必要は無いと自分を戒める事にした。

 

 因みに授業を受けている場所は応接室であり、彼女から共通語(コイネー)を教える事を知った(主にエルフ)団員達が、何故か分からんが少し離れた所からジッと見ている。団員じゃない余所者の俺が気に食わないのかは知らないが、ちょっとばかり睨んでいるような気がする。

 

 まぁ、それは当然かもしれない。後で知って分かったのだが、リヴェリアはエルフの上位種『ハイエルフ』の王族である為、他のエルフ達から尊敬と敬意を持って接されているらしい。

 

 それは勿論、ウチのところにいるエルフ店員のリューも含まれている。俺がリヴェリアから教わると聞いた時に石みたく固まっていたが、数秒後に復活したかと思いきや、『何故貴方がリヴェリア様に共通語(コイネー)を教わる事になったのですか!?』と凄い剣幕で問い詰められたのだ。

 

 加えて、リヴェリアと同じ【ファミリア】の団員であるエルフ達からすれば、ああやって睨むのは仕方の無い事かもしれない。同胞ならまだしも、人間(ヒューマン)の男であれば猶更に、な。

 

「いやぁ~、リヴェリアさんの教え方は凄く分かりやすいですね」

 

「そうか?」

 

「ええ。次の授業も楽しみと思えるほどに」

 

「ならば、明日は本格的に教えるとしよう」

 

「それは楽しみです」

 

 意欲的に授業を受けてる俺に気を良くしたのか、リヴェリアは笑みを浮かべながらもサラッと難易度を上げるような事を言った。

 

 

「あ、あの人間(ヒューマン)の殿方、リヴェリア様の授業にあそこまで付いて行けるなんて……!」

 

「と言うより、何故リヴェリア様は冒険者でもない酒場の店員に共通語(コイネー)を教えているのですか……?」

 

 

 少し離れてるところからヒソヒソと会話してる女性エルフ達は、驚きと疑問を織り交ぜた会話をしていた。

 

 如何でも良いけど、何時まで見てるんだ。ってか、ずっといるんだけど。【ロキ・ファミリア】はダンジョン探索するのががメインなのだから、ダンジョンに行くべきだろうに。

 

 邪魔するような事を一切しなかったから、俺とリヴェリアはずっと無視していた。とは言え、(休憩を挟みながらも)授業をやって三時間以上ずっと見られたら、俺としては流石に嫌になってくる。明日もまた同じ事をしてきたら、注意するよう言っておかないと。

 

 俺がそう考えてると、リヴェリアから突然ある事を言い出してくる。

 

「リューセー、まだ時間はあるか?」

 

 授業が終わったにも拘わらず、彼女は俺を引き留めたいような言い方をしてきた。

 

 彼女が問う理由は分かっている。恐らく魔術の事について訊きたいのだろう。

 

 因みに俺の呼び方については、昨日にロキを通してリヴェリア達と話した際に名前呼びで良いと前以て話している。

 

「一応ありますが……(魔術については)授業を一通り終えてからの筈では?」

 

「も、勿論それは分かっている。だが、あの日から(魔術と言う物が)ずっと気になって仕方が無いのだ……」

 

「そう焦らないで下さい。俺は別に逃げたりしませんから。(魔術を教える)約束はちゃんと守りますよ」

 

「むぅ……」

 

 やはりロキが言っていたように、リヴェリアは魔術について物凄く興味があるようだ。

 

 一応条件として、俺が共通語(コイネー)を一通り覚えてから、魔術について教える事になっている。だと言うのに、初日からもう知りたがってるとは……。このハイエルフは相当探求心が強いって事なのだろう。

 

 けれどオーディン直伝のルーン魔術は色々な意味で強力だから、教えるなら出来れば人目が無い場所でやりたい。それも含めて釘を刺しておくとしよう。

 

「その時にはリヴェリアさんが(魔術を理解するまで)満足頂けるようお付き合いしますよ。流石に此処で(魔術講座を)するのは気が引けますから、出来れば二人だけになれる場所で――」

 

「なんて破廉恥なぁ!」

 

 すると、今まで此方を見ていた筈の女性エルフ達が爆発する様に叫んでいた。

 

 突然の事に俺だけでなく、リヴェリアも何事かと振り向くも、向こうはずかずかと近づいてくる。何故か自分の方へ。

 

「あ、あ、貴方は一体リヴェリア様に何をしようとしてるのですか!?」

 

「ふ、二人だけになれる場所だなんて、そんなの到底見過ごせません!」

 

「リヴェリア様、お気を確かに! この人間(ヒューマン)から卑猥な雰囲気が漂っています!」

 

 ……は? 卑猥って……俺達そんな会話してた?

 

「お前達、一体何を言っている?」

 

 女性エルフ達の主張で呆然となるも、呆れ顔となりながらも同胞達に問うリヴェリア。

 

 彼女達の見解によると、どうやら俺がリヴェリアを二人きりになれる場所に連れ込んで、如何わしい行為をするんじゃないかと勘違いしてたようだ。

 

「そんな訳あるか、この大馬鹿者共! 今すぐそこに座れ!」

 

 変な勘違いをされた事にリヴェリアは顔を赤らめながらも、即座に怒鳴り返した。

 

 そして変な誤解をしたエルフ達に説教を始めようとする前、急にやる事が出来たから帰って良いと言われ、俺は従うように退散する事にした。

 

 

 

 

(この世界のエルフって潔癖な割には耳年増なのか、想像力が豊かなのかが全く分からんな)

 

 応接室を後にした俺は、店に戻ろうと『黄昏の館』を出る為に出入口へと向かっていた。

 

 歩いてる最中、リヴェリアの大きな怒鳴り声が時折聞こえるから察して、変な勘違いをされた事に相当怒っている証拠だ。そこは女性エルフ達の自業自得、と言う事にしておく。

 

「あの……」

 

 出入り口の扉が見えてあと少しのところ、誰かが声を掛けて来た。

 

 振り向かなくても分かっているのだが、俺は少々呆れるように振り返ろうとする。

 

「もう帰るんですか?」

 

「ああ、そうだよ。今日の勉強は終わったからね」

 

「でしたら――」

 

「断る」

 

「――まだ何も言ってません」

 

 俺に話しかけてくる金髪の女の子――アイズ・ヴァレンシュタインが言ってる最中、俺が即座に断った事で睨んできた。

 

「どうせ『もう一回手合わせして下さい』、だろ?」

 

「…………」

 

 図星であったかのように、何も言い返そうとしないヴァレンシュタイン。

 

 この子は余り喋らない子なのは分かってる。けど考えてる事は幼い所為か、手に取るように分かり易い。

 

 今だって俺が断った事で無表情でありながらも、内心頬を膨らませてるだろう。それと気のせいか、ヴァレンシュタインの分身らしき小さな子供が俺に何か訴えてるような……どうやら知らない内に疲れてるかもしれないな。

 

「言っておくけど、何度も言ったところで手合わせする気はないからな」

 

「どうしても、ですか?」

 

「ああ。君も知っての通り、今の俺は色々忙しい身だ。午前は勉強、午後は店の手伝いで……っ」

 

 明確に拒否していると、ヴァレンシュタインは途端に物凄く悲しそうにシュンとしてしまう。

 

 ………くそ。俺は何も悪い事は言ってないのに、この子の表情(かお)を見た途端、何故か罪悪感が湧いてしまうじゃないか。

 

 かと言って此処で手合わせする事を了承すれば、即座に食い付くどころか、俺を無理矢理訓練場へ連れて行くだろう。それは非常に不味い展開となる。

 

 昨日にロキから、手合わせしないよう言われている。そうなって他の団員達に目撃されたら、大変面倒な事になると。俺もソレは賛成だったから、即了承した。

 

 だけど、この子の性格を考えると、何度断ってもしつこく手合わせして欲しいと強請ってくるのが容易に想像出来る。恐らく明日もめげずに同じ事をしてくるだろう。

 

 それを回避する為には――。

 

 

 

 

 

 翌日の朝。

 

「おはようございます。あの――」

 

「大人しくしてくれたらコレをあげようと思っているんだが、どうかな?」

 

「いただきます……!」

 

 諦めずに手合わせの誘いをしてくる為、俺が出掛ける前に作った(揚げたて+大きめサイズの)ジャガ丸くんを見せた瞬間、ヴァレンシュタインの目の色が変わって嬉しそうに受け取ってくれた。

 

 後でリヴェリアから聞いたが、彼女は年相応な表情で目をキラキラさせながら、大変美味しそうにジャガ丸くんを頬張っていたらしい。

 

 ヴァレンシュタインの手合わせを止める為の手段として餌を用意したが、思っていた以上の効果があったようだ。今後もこの手段を使っていくとしよう。




ティオナ「あれ? アイズ、いつの間にジャガ丸くん買ってきたの?」

ティオネ「こんな朝早くから屋台やってたかしら?」

アイズ「…ううん。あの人に貰ったの」

ティオネ「あの人って、リヴェリアに共通語(コイネー)教えてもらってる男性店員に?」

ティオナ「何かそのジャガ丸くん、いい匂いしてて美味しそうだね~。ねぇねぇ、あたしもちょっと食べて良いかな?」

アイズ「ダメ。これは私の……!」
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