別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は番外の続きです。


番外 清潔の秘密②

「もう言い逃れは出来ないから、さっさと吐くニャ!」

 

「大人しく白状した方が身の為ニャ!」

 

「………………………」

 

 俺がシャワーを浴びて身体が清潔な上に髪もサラサラしてる事を判明した直後、自分の部屋でアーニャとクロエから訳の分からない取り調べをされていた。余りにもバカバカしい展開に、俺は呆れを通り越して言葉を失っている。因みにアホ猫二人だけでなく、シル、ルノア、リューも一緒だった。

 

「リューセーさん、私も気になるから教えて頂けませんか?」

 

「そうよそうよ!」

 

 正面にいるアーニャとクロエとは別に、シルとルノアは俺の両隣に陣取って教えて欲しいと強請って来る。リューだけは加わらず、ただ入り口前で黙って見てるだけである。

 

 別に教えても構わないんだが、コイツ等に教えたら何か嫌な予感がする。

 

「……一応確認させてくれ。俺が教えた後、お前達はその後どうするつもりだ?」

 

 俺からの問いに、アーニャとクロエは突如フッと笑みを浮かべながら気取ったポーズを取った。妙に探偵みたいな仕草なのは少々気になるが。

 

「ニュフフ、それは当然――」

 

「ミャー達も利用させてもらうニャ!」

 

 何を当たり前なことをみたいな表情で言い切るアホ猫二人。コイツ等と同じ考えなのか、両隣にいるシルとルノアもうんうんと頷いている。

 

 既に予想していたとは言え、違う世界の人間も欲望に正直のようだ。特に女性の身嗜みに関しては、な。

 

 まぁ、その気持ちは分からなくもない。俺がいる世界の女性も清潔に敏感で、手入れはちゃんと欠かさず行っている。リアスやグレモリー眷族の女性陣も大好きなイッセーを意識してか、いつも以上に念入りにやってる事もある。ゼノヴィアだけは少々疎かだが、それでもちゃんと気にしてるから問題無い。

 

 とは言え、アーニャ達は少々どうかと思う。いくら清潔になりたいという理由で、態々男の俺にそんな事を訊きだそうとするなんて、俺のいる世界の女性達からすれば考えられない行動なのだ。

 

 身体を清潔にするアイテムぐらい、この世界でも充分にある筈。文明レベルが中世並みとは言え、俺がいる世界では手に入らない貴重な品物だってあるだろう。

 

 因みに俺が使ってる石鹸・シャンプー・コンディショナーは少々特殊なモノだ。天界にいる天使(こども)達から、時折旅をする聖書の神(わたし)に必要な物だと言って、身体を洗浄する他に美容ケアも含まれた天界産のお風呂セットを提供してくれた。美容に関しては不要だったんだが、向こうが今の時代は男性も必要なモノだと豪語されてしまった。加えて天界産だけあって数十年以上使える物であり、人間の俺が最後まで使いきれるか正直分からん。

 

 だからと言って、アーニャ達に教える訳にはいかない。俺のお風呂セットを見せたら最後、適当な理由で奪い取るのが目に見えてる。コイツ等の眼がそう語っているから。

 

「そう言う理由なら教える気は無い。さっさと自分の部屋に戻れ」

 

「ニャ!?」

 

「おミャーこの状況で何言ってるニャ!?」

 

 即座に断る俺に、アーニャ達は信じられないと言わんばかりに驚愕していた。

 

「リューセーはアホだニャ。ここはフツー観念して吐くのがお決まりニャ!」

 

「アホはお前だよ、アーニャ。何で俺が素直に教えなければいけないんだよ」

 

 無理矢理人を問い質すだけでなく、さも当たり前のように人のお風呂セットを使おうとするアーニャ達に呆れてしまう。

 

 大体、俺が使ってるのは男性用なので無理だ。石鹸はともかく、シャンプーとコンディショナーは女性用と比べて成分に差異があるから、使うのは余りお勧めしない。

 

「ここに来て見苦しい言い訳しないで、さっさと吐くニャ! これは先輩命令ニャ!」

 

「そんな横暴な理由が罷り通ると思うなよ、クロエ」

 

 自分が先輩だから許されると思ったら大間違いだ。これは普通に考えてパワーハラスメントで訴えるべきなんだが、この世界ではそう言った法は無いので無理だった。

 

 もしコイツ等に俺のお風呂セットを使った後の事を考えて、『話が違う』とか『全然効果が無い』とかの文句を言ってくる可能性がある。美容にこだわる身勝手な女ほど迷惑な存在と言えよう。

 

「それにお前等、何でそこまでして必死なんだ? 別に今のままでも全然問題無いだろうに」

 

「アンタが私達より清潔だと、乙女のプライドが許さないのよ!」

 

「…………は?」

 

 ルノアの叫びに俺は一瞬耳がおかしくなったのかと錯覚してしまう。

 

 乙女って……誰のこと言ってるんだ? 少なくとも俺の知る限りでは、この店に乙女と呼ぶに相応しい可憐な存在がいただろうか。

 

 自分が想像する一番の乙女は、自分の世界にいる愛する義妹アーシア・アルジェント。清楚で可憐な容姿をして、優しい笑みを見せてくれる度に癒されるあの子こそが、俺にとって理想の乙女だ。

 

 アーシアを浮かべながら目の前にいる女性陣と見比べると……全然話にならないどころか論外だ!

 

 アホ猫のアーニャとクロエは言わずもがなで、脳筋タイプのルノアもアウト。リューは容姿が優れても中身がポンコツで、シルなんか腹黒い一面を漂わせている。身贔屓なのは承知してるが、誰も純真な乙女であるアーシアには敵わないと思う。

 

「リューセーさん、今何か物凄く失礼なことを考えていませんでした?」

 

「だ、ダメですシル! そんな不埒なことを殿方にしては!」

 

 すると、俺の考えを読んだかのように、隣にいるシルが俺の腕を抱きしめるように掴みながら黒い笑みを浮かんでいた。それを見たリューが見過ごせないと口を挿もうとする。

 

 狭い部屋の中で、女性陣がギャーギャー騒いでいると――

 

「さっきから何騒いでんだい! やかましいったらありゃしないよ!」

 

 隣の部屋には俺達の主ことミア母さんがいるから、怒鳴りつけるのは当然の流れであった。

 

 

 

 

「――と言う訳でして」

 

 ミア母さんの登場により、先程まで俺を詰問していたアーニャ達は部屋の隅っこで正座していた。勿論有無を言わさずに、な。

 

 俺が騒ぎの中心だと見抜いたかのように、ミア母さんは何故こうなったのかと訊いてきたので、つい先程まで簡単に説明してる訳である。

 

「そういうことだったのかい。まぁ確かにあたしも、リューセーが何でそんなに清潔なのかは少し気になってたが……」

 

 どうやらミア母さんも少なからず気になっていたようだ。まぁこの人も女性だから当然の反応かもしれない。

 

 まぁそれでも、俺を尋問してまで訊きだそうとするアーニャ達の行いを問題視してくれている。

 

 取り敢えずこの後にミア母さんが叱ってくれれば――

 

「リューセー、もういっそこの場で教えてやりな」

 

 万事解決と思いきや、予想外な台詞に耳を疑ってしまった。

 

「え、ちょっ、ミア母さん、何で……?」

 

 余計な詮索をしないよう叱ってくれると期待していたのに、ここに来てアーニャ達の味方をするのは余りにも信じられなかった。

 

 ミア母さんは俺が文句を言う事を察したのか、すぐに理由を言おうとする。

 

「例えこの場を収めたところで、このバカ娘共のことだから、どうせまた同じ行為を繰り返すに決まってる。隣の部屋でそんな迷惑なことをされるくらいなら、さっさと話して諦めさせたほうが良い」

 

「むぅ……」

 

 言われてみれば確かにそうだった。

 

 ここで黙秘を貫いたところで、アーニャ達の性格を考えると絶対に諦めないだろう。一度気になった事は何が何でも知ろうとするのが目に見えてる。

 

 出来ればこの世界の人間や神連中に、俺が使うお風呂セットの存在を余り知られたくないのが本音だった。ロキにあげた接待用の酒はともかく、自分の生活用品は正直見せたくない。

 

 とは言え、言われた以上は見せるしかない。アーニャ達はともかく、恩人であるミア母さんには逆らう事が出来ない上に言ってる事は正論であったから。

 

 仕方ないと諦めた俺は、収納用異空間から自分のお風呂セットを取り出す事にした。勿論、この部屋にいる人間には見せないようにしている。

 

「はい、これがいつも俺を清潔にしてくれる道具だよ」

 

 俺の身体を清潔にしてくれる石鹸、シャンプー、コンディショナーを見せると、ミア母さんだけでなく、正座していたアーニャ達もすぐに立ち上がり近付いて凝視する。

 

「これは……どう見てもただの石鹸ニャ」

 

「だけどコレ、リューセーの身体と同じく凄いいい匂いがするニャ」

 

 石鹸をマジマジと見てるアーニャとクロエは匂いを嗅いでいた。

 

「リューセーさん、この容器に入ってるのは何ですか?」

 

「髪を洗う為に使う『シャンプー』だ」

 

「じゃあこっちは?」

 

「髪に潤いを与えてサラサラにする『コンディショナー』」

 

 シルとルノアからの質問に嘘偽りなく答え、一通り聞いた女性陣は大変興味深そうに見ている。

 

「つまり、これでリューセーはいつも清潔になってるって事かい?」

 

「まぁそういうこと」

 

 最後の質問をしてくるミア母さんに答えた直後、(リューを除く)アーニャ達の目がキランと光るも――

 

「はい、ネタが分かったので終わりっと」

 

『ええ~~~~!?』

 

 不穏な気配を感じ取った俺が即座にお風呂セットを自分の手元に収めた直後、納得行かないと言わんばかりに騒ぎ始めようとする。

 

「何ですぐにしまうニャ! ミャー達にも使わせて欲しいニャ!」

 

「そうニャ! 本当に清潔になるのか試さないといけないニャ!」

 

「ちょっとくらい使ったっていいじゃない!」

 

「やかましい! お前等のちょっとなんか当てにならん!」

 

 ブーブーと文句垂れるアーニャ、クロエ、ルノアに渡したら、絶対大量に使おうとするのが目に見えてる。かなり長持ちするとは言っても、コイツ等は加減と言うモノを知らないから、下手すれば無くなってしまう恐れがある。

 

「リューセーさん、私からもお願いします」

 

「可愛く言ったところで貸さないからな、シル」

 

 上目遣いで強請って来るシルだが、生憎俺にそんなの通用しない。これがお人好しな男なら間違いなく篭絡されるだろう。

 

 と言うか、コイツに使わせる意味があるんだろうか。何故だか分からないが、シルはそんなの必要無いんじゃないかと思うほど、他の人間と違って清潔な感じがするのは何故だろう?

 

「リューセー、アーニャ達はともかくとして、シルに使わせるぐらい良いじゃないですか」

 

「そういう問題じゃないんだよ、リュー」

 

 シルの頼みを無下にしたことが気に入らないのか、リューが抗議してきた。

 

 またしても女性陣がギャーギャーと騒ぎ立てた為に――

 

「やかましい! 何遍言わせれば気が済むんだよ、このアホンダラ共ぉ!」

 

『ヒィッ!』

 

 ミア母さんの怒号で一気に沈静化されるのであった。

 

 流石と言うべきか、先程まで五月蠅かったアーニャ達を一気に委縮させるとは。お冠状態になってる彼女の前に、もう何も言えなくなっている。

 

 …………あ、待てよ。コイツ等に使わせるくらいなら。

 

「えっと、ミア母さん」

 

「何だい?」

 

 アーニャ達を叱ってるのを一旦止めたミア母さんは、俺の声に反応して振り返る。

 

「いっそのこと、ミア母さんが代表して一度試してくれないかな?」

 

「あたしがかい?」

 

「ま、待つニャ、リューセー! もう乙女じゃないミア母ちゃんに使ったところで――」

 

 大変失礼なことを言ってるアーニャの頭からドゴンッ、と言う凄い音がしたけど気にしないでおく。

 

 毎回思ってるんだが、どうしてあのアホ猫は自分から火に油を注ぐ発言をするんだろうか。学習能力ってものが無さ過ぎるにも程がある。

 

 結局のところ、周囲がミア母さんが試す事に異論が無かった為、俺は使い方を教える事にした。

 

 

 

 

 

 ミア母さんが俺のお風呂セットを使い、想像以上に身体が清潔になった翌日の朝。

 

「おはよう、ミア母さ……ん?」

 

「ああ、おはようリューセー。今日も早起きで感心だねぇ」

 

 いつものように起床し、既に店で準備を始めてるミア母さんに声を掛けた。だが、俺の目の前にいるのは見知らぬ可憐で美しい女性だ。

 

「えっと、どなたですか?」

 

「はぁ? 母親の顔を忘れるほど、アンタはまだ寝ぼけてんのかい?」

 

「……え? み、ミア母さん、なの?」

 

「あたし以外誰がいると思ってんだい」

 

 凄く可憐で美しい女性は、自らミア母さんだと言っていた。

 

 …………おかしい。俺は夢か幻でも見てるんだろうか。

 

 俺が知ってる『豊穣の女主人』のオーナーは、凄く頼もしい肝っ玉母さんをした外見の筈だ。なのに、今俺の眼に映ってるのは全く異なる美人な女性だった。一体、何がどうなっているんだ?

 

 余りの異常事態に俺が放心している中、スタッフ達がミア母さんを目にした瞬間、大騒ぎになったのは言うまでもなかった。

 

 これは後にオラリオ中も知れ渡り、怪奇現象と言われるほどに震撼させた大事件になったのは別の話だ。もうついでに、俺のお風呂セットに若返り効果を与える程の凄まじい美容効果があるのではないかと考えた、とある美神が狙おうとしていたらしい。




リューセーのお風呂セットでミアが可憐な姿になったというオチのギャグ話になりました。

ミアの姿に関しては、コミカライズ版の『ファミリアクロニクルepisodeリュー』の単行本第6巻の表紙裏に掲載されています。

感想お待ちしています。

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