別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は幕間な話です。


授業経過

「どや、授業の進み具合は?」

 

「もう終わり間近になってる。恐らくあとニ~三日で完璧になるだろう」

 

「………は?」

 

 夕方頃。執務室にて、ロキはリヴェリアに授業経過を聞いていた。

 

 共通語(コイネー)を全く知らない者が最初から学ぼうとするには、最低でも三ヶ月近く掛かってしまう。隆誠は言葉を理解している他、午前授業だけとなってるから、ソレ等を踏まえれば約二ヵ月で習得するだろうとロキは予想していた。

 

 授業を開始して一週間以上経ち、まだ基礎を理解した程度だと思っていたのだが、リヴェリアの返答を聞いた瞬間に言葉を失った。一緒に聞いていたフィンとガレスも似たような反応を示している。

 

「……ちょ、ちょお待ちぃや、リヴェリア。何の冗談や?」

 

「私が冗談を言っていると本当に思ってるのか?」

 

「いや、思っとらんが……」

 

「リヴェリア、こればっかりは僕もロキと同意見だ。あとニ~三日なんて流石に速過ぎると思うんだけど……」

 

 戸惑い気味になっているロキに、フィンが擁護しようと口を開いた。

 

 隆誠は共通語(コイネー)について全く読めないと本人の口から聞いている。だと言うのに、それを二週間も経たずに習得するなど普通に考えてあり得なかった。いくら学がある者でも、全くの初心者がそんなすぐに上達し、完璧に覚えるとは到底思えない。

 

「確かに疑問視されるのは尤もだ。何しろ教えている私でさえも信じられなかったからな」

 

 彼女がそう思ったのは初日の時からだった。

 

 初心者だからと言う理由で、最初は簡単な概要だけで済ませる予定でいた。けれど隆誠が余りにも飲み込みが早い為、思わず次の段階に進む事となってしまったのだ。

 

 リヴェリアの座学は酷烈(スパルタ)であると、【ロキ・ファミリア】の常識の一つになっている。過去にアイズが幼かった頃、余りの厳しさに僅か一日で逃げ出した程のトラウマを負った。それは現在(いま)も変わっておらず、殆どの団員達は自ら進んで(エルフを除く)リヴェリアからの座学を受けようとはしない。

 

 だと言うのに、エルフでもないヒューマンの青年が一切音を上げる事無く続けている。それどころか凄まじい速さで共通語(コイネー)を覚え、あと数日で終わろうとしているから、ロキ達が疑問視するのは当然であった。

 

 因みに他の団員達も言える事だ。リヴェリアの授業を受ける隆誠の事を少しばかり気に入らなかったエルフ達ですら驚嘆するほどで、今はもう何も言わなくなっている。

 

 そして講師役であるリヴェリアも、隆誠の理解力と吸収力に舌を巻く程であった。覚えたかを確かめるための問いや、時折少々意地悪な応用問題を出題させてみたが、一切間違う事なく全て正解していた。一つくらい間違えても構わないのだがと思ったのは本人の秘密であるが。

 

 同時に残念な事もあった。神の恩恵(ファルナ)が無いにも拘わらず、【フレイヤ・ファミリア】の副団長アレンを簡単に倒せる実力だけでなく、座学も優秀な彼が【ロキ・ファミリア】に入団してくれればと何度考えた事か。

 

「お主の座学に難なく付いて行けるとは、随分と優秀な小僧じゃのう」

 

「全くだ。あの勤勉さをウチの団員達も是非とも見習って欲しいものだ」

 

 ガレスの言葉にリヴェリアは同意していた。同時に少し団員達に対して少しばかり愚痴を零そうとしている。

 

 冒険者はダンジョン探索をしてモンスターを倒し、それで倒した魔石やドロップアイテムを売って稼ぐ事が一種の仕事になっている。

 

 誰もが夢を見て憧れるが、迷宮都市(オラリオ)にあるダンジョンはそんなに甘くない。ダンジョンの構造や地理、出現するモンスターの習性や対処方法など、それらの事前に学ばなければ、どんなに強い冒険者だって簡単に命を落としてしまう。

 

 その恐ろしさを理解しているからこそ、リヴェリアは入団した新米冒険者に多少厳しくても、最低限の座学を強制的にやらせている。それでも途中で脱落(ギブアップ)するのは、リヴェリアが余りにも厳しいと言う証拠なのだが。

 

「そう言えば、彼が授業の休憩時間を利用して物語を書いていたそうだね」

 

 このまま彼女の愚痴が続くと、此方にも飛び火してきそうだと感じたフィンは話題を変えようとした。

 

「ティオナが彼に強請っているところを何度も目撃したけど、そんなに面白かったのかい?」

 

「ああ。本人は以前読んだ物語の序盤を書いただけと言っていたが、アレは中々大変興味い内容だった。恐らくフィンも気に入るだろう」

 

「君がそこまで言うなら、いっそ彼に全部書いてもらうよう依頼しようかな?」

 

 フィン・ディムナは【勇者(ブレイバー)】の二つ名があり、オラリオの民衆から英雄視されている。

 

 だがそんな彼もティオナと同様物語には目が無く、多くの冒険譚や英雄譚を読んでいた。それ等を見て、自分もこんな英雄になりたいという子供心があったほどに。

 

「悪いが却下させてもらうぞ。そんな事をされたら、魔術を教わる時間が延びてしまう」

 

 リヴェリアも隆誠が書いた物語は気になっているが、それとは別にルーン魔術の講義が出来なくなってしまう。本来の目的を優先させたい彼女としては御免被りたかった。

 

「アハハ……。なら一段落した後に頼むとしようか」

 

「相変わらずお主は魔法に関しての優先度が高いのう」

 

 フィンとガレスもリヴェリアの探求心が人一倍ある事を理解しながらも苦笑していた。

 

 同時に隆誠に対して少しばかり気の毒に思っている。彼女が一度掴んだら簡単に手放す事をしない性格である為、満足するまで訊き出そうとする光景が目に浮かんでいるから。

 

「にしても、その魔術とやらは魔法と一体何が違うんじゃ? リヴェリアの事だから、授業中にさり気なく訊いてみたと思うんじゃが」

 

「いや、残念ながら共通語(コイネー)の授業が終わるまでお預けになっている」

 

「リヴェリアにしては珍しいな。うちもてっきりガレスと似たような事を考えとったが」

 

 意外そうに言うロキの言葉に、リヴェリアは苦笑しながらも頷いていた。

 

「『今は共通語(コイネー)に集中させて下さい』と言われてしまってな」

 

「おやおや。確かにそんな事を言われたら、そうせざるを得なくなっちゃうね」

 

「リューセーに一本取られたっちゅう訳か」

 

 らしくない事をしていたリヴェリアだったが、フィン達はすぐに理解した。

 

 確かに隆誠からすれば、一刻も早く共通語(コイネー)を学びたいのに、途中で魔術の話をされたら堪ったものじゃないだろう。

 

「しっかしまぁ、うちも気になるわ。リューセーが教えようとする魔術っちゅうのは。なぁリヴェリア、その時はうちも一緒にいてええか?」

 

「別に構わないが、もし邪魔立てするようなら即座に追い出すからな」

 

「わ、分かっとるって……」

 

 睨みながら念を押してくるリヴェリアの警告によって、少しばかり委縮してしまうロキ。

 

 邪魔はせずとも色々聞いてみようと画策していたが、それでもし彼女が機嫌を損ねてしまえば、色々不味い事になりそうだと考えを改める事にした。

 

「あ、せや!」

 

「いきなり何だ?」

 

 突如ロキが何か思い出したかのように叫んだので、リヴェリアは目が点になりながらも問う。

 

「この前リューセーが用意してくれた特別な酒が無くなってたんやぁ~」

 

「特別な酒じゃと?」

 

 酒の話題になった途端、ロキと同様の酒豪であるドワーフのガレスが耳を傾ける。

 

「あの不良店主がそんな簡単に用意してくれるとは思えんが」

 

「いやいや、ちゃうでガレス。リューセーが異国から持ってきた酒でなぁ。『神殺し』っちゅうて、ほんまにめっちゃ美味かったで!」

 

「ほう。そのような酒があったなら、ワシも一緒に飲みたかったのう」

 

 ロキが太鼓判を押す程なら、それは是非とも美味い酒なのだろうと思うと同時に飲んでみたい気持ちになるガレス。

 

 先程までの話題から、全く関係の無い酒の話になった為、フィンとリヴェリアは何とも言えない表情になっていく。

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

「リューセーさん、何を書いてるんですか?」

 

「次に俺がリヴェリアさんに教える説明書だよ」

 

 隆誠は共通語(コイネー)で説明文を書いていた。今日は珍しく夜の営業が休みである為、自分が寝泊まりで利用してる部屋で自習していた。

 

 尤も、もう殆どマスターしてるも同然であり、今度行う予定となっているルーン魔術についての説明書を書いている。それは当然、リヴェリアに教える為の教材用として。

 

 そんな中、シルが入室して隆誠の様子を見に来ていた。何を書いてるか気になってるみたいで、近くに寄り添いながらノートを見ている。

 

「あの、シル。ちょっと近いんだけど……」

 

「そうですか? でも、こうしないと見れませんし」

 

 さり気なくスキンシップしているシルに、隆誠が少々困った表情をしながら注意していたが全然意味を為さなかった。それどころか、彼女は何だかそれを楽しんでいるかのような笑みになっている。

 

「と言うか、そろそろ帰ったらどうだ? 今日はお休みなんだから、何時までも此処にいても良い事ないぞ」

 

 隆誠を含めた『豊穣の女主人』の者達は用意された部屋に寝泊まりするルールになっている。けれど、シルだけは例外で営業時間が終わったら家に帰宅している。

 

 それなのに彼女は帰宅する気配を見せていない。加えてこの所、隙あらば隆誠の傍に居ようとする事が多かった。まるで気になる異性のように。

 

「え~? 私がいたらダメですか?」

 

「別にそこまで言ってない。と言うか、こんなところをリューに見られたら……」

 

 そう言ってる最中、突如部屋の扉が開いた。

 

「リューセー! シルに何をしてるのですか!?」

 

「いや、何もしてないから」

 

「あら、リューじゃない。顔が赤いけど、どうしたの?」

 

「どうしたのではありません! 何故貴女が此処にいるのですか!? いくら何でも破廉恥です!」

 

 部屋で男女が二人きりで密着してる光景にリューは顔を赤らめるも、すぐに怒鳴るのであった。

 

 その叫びにアーニャ達が聞きつけて、要らぬ誤解をされてしまったのは言うまでもない。




ティオナ「あ~~! リューセーの書いた物語が気になる~~!」

ティオネ「アンタ、このところソレばっかりね」

ティオナ「だってほんとに面白かったんだもん! なのに読めないなんて生殺しだよ~! うがぁぁ~~!」

ティオネ「……………」
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