別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
見知らぬ世界に転移され、『豊穣の女主人』で世話になり調理担当の役割を与えられてる俺は、大変忙しい生活を送っていた。
調理は慣れているとは言っても、客から注文された料理を大量に作り続けるのは相当な体力を要する。加えて人気店と称されるほどに夜の時間帯は多くの客が来る為、そこら辺の店より大変だ。これを日々やりこなすミア母さんを筆頭に、厨房で料理を作り続けてるメイ達には大変恐れ入る。
俺も俺で、皆の足を引っ張らないように日々頑張っている。店の中で唯一の男性店員だから、必死にやってる女性達より先に参る訳にはいかない。
「ミア母さん、仕上げ頼む!」
「あいよ!」
「メイ、これ切った後にすぐ炒めてくれ!」
「は、はいニャ!」
「シル、出来たから運んでくれ!」
「は~い」
ミア母さんの隣で俺は調理と同時に全体を見ながら指示を出し、無駄な手順は一切省くように進めていた。
「な、なんかリューセーがミア母ちゃんに見えるニャ……」
「男なのにミャー達以上にあそこまで出来るなんて、何か理不尽ニャ……」
何やら複雑そうな表情で見ているアホ猫ウェイトレス二匹が足を止めていたのから――
「アーニャ! クロエ! 何ボーッと突っ立ってるんだ!?」
「サボってないでさっさと出来た料理を運びな!」
俺とミア母さんがすぐに喝を入れた事でビクッと震えながら動き始めるのであった。
他のウェイトレス達は怒鳴られたくなかったのか、テキパキと料理を運び、客から注文が入った料理を厨房へ催促していく。
今日も大変忙しく、最後の客が店を出るのは閉店時間ギリギリになるのはいつもの事だった。
「あ~、やっと終わった~」
既に帰宅したシルとは別に、俺を含めたスタッフ達は店内の後片付けや見回りを行っていた。因みに俺は調理器具の後片付けをメインでやっていて、他はそれぞれの仕事を行っている最中だ。
そして俺はやるべき事を終えて、離れにある部屋に戻る前に汗を流そうとシャワー施設へ向かう。ミア母さんより、男性スタッフの俺は決められた時間帯にシャワーを浴びる事になっているから。
今日も結構働いた為に身体中が汗まみれで、髪もベタベタしてて気持ち悪い。だからいつものアレを使って身体をスッキリさせるとしよう。
そう考えた俺は、収納用異空間からお気に入りのお風呂セットを取り出し、身体を洗う為の準備を始める。
(う~ん、偶には風呂入りたいなぁ~)
シャワーを浴びた後、特殊な石鹸を使って身体を洗いながら考え始める。
聞いた話によると、この世界は風呂に入る習慣は無いと言っていた。個人用の風呂はあったとしても主に上流貴族の嗜みとなっており、もしくは充実してる【ファミリア】の
いっそ自分専用の男風呂施設を作ろうかと考えたが、流石に他人の土地で勝手な真似は出来ない。加えて、アーニャ達が何を言い出すか分かったもんじゃないし、シャワーよりコッチが良いと勝手に占領されてしまう恐れがある。
(かと言って、毎日シャワーだけは嫌になってくる……)
泡塗れになった身体をシャワーで流し終えて、今度は髪と頭皮を特殊なシャンプーで洗おうとする。
どこかに誰も知らない温泉があれば、そこを利用して自分専用の風呂場に出来ればとも考えた。しかし、自分が調べた限り、このオラリオにそう言ったモノは見付からない。
探すとなれば、やはりオラリオの外しかないだろう。例えばセオロの密林とか、ああいう場所は意外にも温泉が存在してる可能性がある。俺が元いた世界でイッセーと修行の旅をしていた際、大森林で温泉を見付けた経験があるから。あくまで運良く発見出来たに過ぎないが、な。
もし温泉を見付けたら、俺がこの世界に留まってる限定で、自分専用の入浴施設で造り上げて利用したいものだ。そして自分の世界へ戻る時はちゃんと元に戻すつもりでいる。
(オラリオ内の散策も大事だけど、外に出て温泉を探してみるのも良いかもしれないな)
シャンプーの泡を流し、頭部にヌルツキが無いのを確認した次は、特殊なコンディショナーを使って髪と頭皮の手入れをする。
温泉を探すとは言え、ミア母さんが果たして許可してくれるかが問題だ。街中を散策する為の休みは貰えても、流石にオラリオ外の散策は簡単に認めてくれないだろう。
余程のイベントが起きない限り、あの人は俺を外に出さないだろう。外での散策は最低でも一日以上の時間を要してしまう為、そうなれば数日の有休を申請しなければならない。ただでさえ『豊穣の女主人』は毎日が繁忙期なので、数日も休んだら確実にパンクしてしまう。俺が加わった事でミア母さんやメイ達の負担をある程度減らしていたから、急にいなくなれば(特に調理担当のメイ達が)大変な事になるだろう。
場合によっては、分身拳を使って探すと言う方法もある。そうなれば分身の俺が店で頑張っている中、本体の俺は心置きなくオラリオの外を散策することが可能な筈。ただその場合、それを毎日やり続けたら元の一人に戻った際、身体に大きな負担を掛けてしまうネックはあるが、な。
一分以上時間を置いたことで、髪と頭皮に付けたコンディショナーが充分に浸透した為、すぐに洗い流す。
汚れた身体を綺麗に洗い終えて、今度はシャワーで濡れた身体をバスタオルで拭く。全身を拭き終えて就寝用の服を身に纏い、未だに水分が抜けていない髪を一瞬で乾かそうと、パチンッと指を鳴らした瞬間、髪は途端に乾いてサラサラとなっていく。
「これで終わり、と」
清潔な身体になった俺はすぐにシャワー施設を出て、離れにある部屋へ戻ろうとする。
「リューセー、ちょっと待つニャ!」
「ん?」
部屋に辿り着き、ドアを開けて入ろうとする寸前、アーニャの声がしたので振り返った。彼女だけでなく、クロエ、ルノア、リュー、そして何故かシルもいる。
「どうした。それとシル、お前帰ったんじゃないのか?」
俺が問うも、リューを除く女性陣がいきなり近付き始めて、何故か分からないが急にクンクンと嗅ぎ始めようとする。
突然人のにおいを嗅ぐなんて、コイツ等は一体何がしたいんだ? 正直言って訳が分からないんだが。
「思った通りニャ!」
「この匂い、間違いないニャ!」
「???」
アーニャとクロエが急に確信したような発言をしても、俺には一体何のことを言ってるのかサッパリだった。
「身体から凄くいい匂いしてる上に、髪もこんなにサラサラしてて……リューセーさんだけズルいです!」
「アンタ、一体どうやって女の私達より清潔になってるの!?」
「はぁ?」
大変羨ましがってるシルに、憎たらしいように睨んでくるルノア。
どうやってと言われても、シャワーを浴びてる時、単に自分用のお風呂セットを使って綺麗にしてるだけなんだが。
この時の俺はすっかり失念していた。自分が持ってる香り高くて肌に良い石鹸、汚れを綺麗に落とすシャンプー、髪に潤いを与えるコンディショナーはこの世界の女性や女神からすれば、喉から手が出るほどに欲しい最高級品である事を。
アーニャ「リューセーがニャんであんなに毎日清潔な身体してるニャ!?」
クロエ「しかも女のミャー達よりいい匂いしてて納得行かないニャ!」
シル「そうなのよね。私も朝会う時、リューセーさんの髪はいつもサラサラしてて羨ましくて……」
ルノア「何だかあそこまで清潔で髪も綺麗なの見てると、不思議に女として負けてる気分なのよね」
リュー(……確かに殿方にしては、何故あそこまで清潔なのかは私も気になりますね)