別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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前話にやった番外の続きについては、何れ掲載します。

今回はリヴェリアが待ち望んでいた魔術講座の話になります。


魔術講座

 リヴェリアより共通語(コイネー)試験の合格認定を下された事で、この世界で生きる為に必要な知識を得る事が出来た。大袈裟な表現化もしれないが、文字の読み書きと言うのは人間にとって大事なのだ。例えば書面でのやり取りをする時、相手が文字を読めない事を良い事に騙そうとする輩がいる。それを知らずに契約成立してしまえば、もう何も文句を言えなくなってしまう。

 

 特にこのオラリオでは平然と相手を騙す悪徳商人がそれなりにいるから、書かれてる内容を注意して見なければならない。と言う事を、いつも買い出しをするシルが教えてくれた。何処の世界でも、人間がそう言う悪い事を考えるのは共通している事だと聖書の神(わたし)は改めて認識した。

 

 まぁソレは横に置いとくとして、だ。俺は今日も【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ向かっていた。

 

 昨日までの俺は勉強を教わる生徒役だったが、今日から勉強を教える講師役になっている。教える相手は、昨日まで講師役だったリヴェリアが今日からは生徒役だ。お互いに立場が逆転し、端から見れば摩訶不思議なモノだと思われるだろう。

 

 俺としても、身内以外の者に教えるのは少しばかり緊張する。いつも教えているのは弟のイッセーで、祐斗やゼノヴィアは時折だが、あの三人は主に格闘や剣術を教えてるから、魔術に関しては一切教えた事は無い。まぁそれでも、イッセーには魔法や魔術などの基礎程度は軽く教えたが。

 

 今回魔術を教えるのは、魔法種族(マジックユーザー)かつ王族妖精(ハイエルフ)のリヴェリア・リヨス・アールヴ。他のエルフと違って魔法に関する知識は膨大であり、そんな凄い人物に何かを教えること自体間違っているんじゃないかと思うだろう。

 

 だが生憎、向こうは魔術に関して素人同然である為、一から教える事に何の問題も無い。彼女としても、もう教わる気満々だから、何が何でも会得しようと躍起になっている。昨日の共通語(コイネー)試験が終わった後、『明日が待ち遠しい……!』なんて呟いていた程だから。

 

 別に俺としても全然構わないんだが、それとは別の問題がある。リヴェリアを慕うエルフ達だ。

 

 エルフは主にハイエルフを神聖視するように慕っている為、余計な口出しをして妨害してくる可能性がある。間違ってる部分を指摘すれば、『リヴェリア様に間違いはない!』とか、『無礼者め!』などと言ってしゃしゃり出てくるかもしれない。そこはリヴェリアの方で何とかしてもらう事になるが、な。

 

 まぁ流石にいきなり初日から、そのような大事になったりしないだろう。リヴェリアも邪魔立てしないよう厳命している筈だから、今は無事に終わる事を祈るしかない。

 

 そう考えながら『黄昏の館』に辿り着くと――

 

「待っていたぞ、リューセー」

 

「………前にも訊いたと思いますが、何時からそこで待っていました?」

 

 前回と同じく戸惑っている門番達を余所に、リヴェリアが佇んでいた。

 

 因みにこのやり取りは、二週間前の共通語(コイネー)授業の初日にやったのだが、当の本人がそれを憶えているかどうかは不明だった。

 

「気にする必要は無い。それに待ってたとしてもほんの数分前からだ」

 

 

「嘘だ……!」

 

「一時間以上もずっと待ってたぞ……!」

 

 

 門番二人が小さく呟くと、それが聞こえたのかリヴェリアは眼光鋭くしていた。その途端に彼等はビクッと身体を震わせ、何でもないような振る舞いをしようとする。

 

(思った通り、随分待っていたんだな)

 

 因みに俺も門番の小声はバッチリ聞こえているが、敢えて何も突っ込まないでいる。下手に言えば、俺も彼女に睨まれてしまうのを分かっていたから。

 

「ゴホンッ。いつまでも此処にいる訳にはいかないから、案内するとしよう」 

 

「は、はい……」

 

 咳払いをした後、リヴェリアは館の中へ招こうとするから、俺はいつもの感じで付いて行く。

 

 入って早々お決まりのパターンと化してる金髪少女(ヴァレンシュタイン)と遭遇するも、リヴェリアがいる事もあってか、今回は俺に話しかけなかった。

 

 

 

 

 案内されるのは共通語(コイネー)の授業で利用した応接室を使うかと思いながら付いて行くが……今回は全く違う場所だった。

 

「リヴェリアさん、此処は?」

 

「私の部屋だ」

 

「……………えっ」

 

 部屋の中を見ながら質問すると、あっけらかんと答えたリヴェリアに俺は思わず一瞬固まってしまう。

 

 ちょっと待て。魔術講座をするのに、どうしてこんな場所でやるんだよ。

 

 以前二人だけになれる場所が良いとは確かに言ったが、それが寄りにもよって女性のプライベートルームで教えるなんて、色々問題になると思う。特に彼女を慕うエルフ達が絶対騒ぐどころか、完全に暴走して俺を殺しに来るんじゃないかと思うほどに。

 

「あの、男の俺を招いて大丈夫なんですか?」

 

 自分は不埒な行いをする気は毛頭無いのだが、それでも周囲は絶対に誤解するだろう。さっき言ったエルフ達が、あと少しで駆け付けて来る姿を瞬時に浮かんでしまう。

 

「問題無い。此処なら余計な邪魔が入らないからな」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

「それとリューセーが懸念してる同胞(エルフ)達は、私が出した課題をやるよう別の部屋で学んでいる最中だ。仮に早く終わったところで、無断で此処に入ったりはしない」

 

「あ、なるほど」

 

 道理で俺がこの部屋に来ても、エルフ達が全くいなかったのだと理解した。

 

 自分を慕っているなら、例え理不尽な課題を突き付けられても、逆らう事なく忠実にやる筈だとリヴェリアはそう考えたんだろう。

 

 だが、それはあくまで時間稼ぎに過ぎない。俺が来た事をもう知ってるだろうだから、今頃は必死になって課題を終わらせようとしてる筈だ。

 

「それでも課題が終わって、無礼を覚悟で突撃してきた場合は?」

 

「その時は邪魔をした罰として、ダンジョンで『掃除当番(スウィーパー)』を強制的に行わせるつもりだ」

 

「スウィーパー、ですか」

 

 用語からして清掃と言う意味なのは分かるが、オラリオの地下にあるダンジョンを掃除とは色んな意味で凄い。何故そんな事をさせるのかは分からないが、冒険者じゃない俺には関係無い事だから、余計な詮索はしないでおくとしよう。

 

「まぁそんな事より、時間が惜しいので始めるとしよう」

 

「っと、そうでしたね」

 

 いつまでもエルフ達を警戒する訳にはいかないので、頭を切り替えようと予定してる魔術講座を教える事にした。

 

 もう既に準備していたのか、リヴェリアの部屋には勉強で使用する机や椅子が設置され、そして新品と思われるペンとノートもあった。

 

「本日より、この俺リューセーが、魔術についての講座を始めます。年長者であるリヴェリアさんに大変失礼な物言いをするかもしれませんが、教えている間は貴女を一人の見習い生徒として接します。宜しいですね?」

 

「無論だ。此方としても、そうしてくれた方が非常に有難い」

 

 少々高圧的な言い方をする俺に、リヴェリアは全く気にしてないどころか、寧ろ当然のように肯定していた。 

 

 今の彼女は本当に生徒のような姿勢だった。まるで俺の知ってる知識を全て吸収したいと錯覚するほどに貪欲な目をしている。ロキから覚悟した方が良いと言われていたが、今になって漸く理解した。これは生半可な教え方をすれば、とんでもない竹箆返しが来そうだと思うほどに。

 

 まぁ俺としては、そう言う生徒は大歓迎なので問題無い。彼女がどこまで魔術を理解し、そして扱う事が出来るのかを内心楽しみなのだ。この世界のエルフが、オーディンから教わったルーン魔術が本当に適用するのかを試したいと思っていたから。

 

 もし俺が実験目的で教えていたとバレたところで、リヴェリアは決して咎めたりしないだろう。例え使えなくても、未知の知識を得るのは有意義なモノだと、自分で言っていたのだ。

 

「では先ず魔術講座の入門編として、此方が今日から使う教材になります」

 

「これが……」

 

 安直だが『魔術について』と言う共通語(コイネー)で書かれた教科書(テキスト)を渡す。受け取ったリヴェリアは大事そうに持ちながら、早速一ページ目を――

 

「っ!? 何だ、開かないぞ……!」

 

 開こうとして早々に苦戦していた。

 

 テキストはまるで強力な磁石でくっ付いているのではないかと言わんばかりに、開こうとする気配を見せようとしない。

 

「リューセー、これはどう言う事だ?」

 

「その教科書(テキスト)は魔力を注ぎ込まないと開けない仕組みになっています」

 

「魔力、だと?」

 

 いきなり難問にぶつかったかのような表情をするリヴェリアに、俺は気にせず教えようとする。

 

「リヴェリアさんはオラリオ最強の魔導士と自他共に認めるほど大変優れた御方には、少々難易度の高いやり方で教えた方が良いと思いまして。だから最初の課題として『魔力調整(マジック・コントロール)』を行って頂きます。これは一番最初の出入り口であり、魔術における基礎中の基礎です」

 

「なっ……!?」

 

 まさか教科書(テキスト)を開く前から講座が始まっていたとは、流石のリヴェリアも予想してなかったみたいだ。

 

 何故こんな手の込んだ真似をするのかと疑問を抱かれるかもしれないが、これには当然理由がある。一番に挙げるとすれば、今の段階で魔術を扱う為の知識と技術が全く無いから。

 

 昨日シルに教えたが、魔法は神や精霊などの力を利用して様々な現象を引き起こすのに対し、魔術は自身の魔力を利用する知識と技術の集大成みたいなもの。その知識と技術を理解しない限り、魔術を発動させる事が出来ない。

 

 リヴェリアは根っからの魔導士である為、魔法に優れたハイエルフである事も加えて、並の魔導士とは比べ物にならないほど相当な魔力を持っている。そんな凄い彼女にいきなり魔術を使わせたらどうなるだろうか。答えは簡単。発動しないのは勿論のこと、それどころか大量の魔力を無駄遣いするオチになってしまう。

 

 魔法で使う魔力量が高いほど強力な武器になるが、魔術の場合だと却って大きな枷になってしまう恐れがある。大量に魔力を消費する難しい魔術であればあるほど、それに見合う高度な知識と技術を要求されてしまい、自身の許容範囲を超えて途中で止めてしまうと、折角消費した魔力自体も無駄になる。再度チャレンジして失敗すれば、またその分に見合う魔力がゴッソリ消費すると言う無駄なループ状態になっていく。

 

 今のリヴェリアに魔術を使わせたら確実にそうなると危惧した俺は、『魔力調整(マジック・コントロール)』を完璧にさせようと教科書(テキスト)に細工を施した。これは謂わば修行の一つでもある。

 

 他のエルフが耳にしたら彼女にそんな物は必要無いと抗議してくるかもしれないが、魔術は知識と技術以外だけでなくコントロールも必要とされる。魔力に関して玄人なリヴェリアには申し訳無いが、今回の講座では、より完璧な魔力調整(マジック・コントロール)を出来るようにしてもらいたい。

 

 因みに『魔力調整(マジック・コントロール)』は実際扱いが難しいものだが、敢えて基礎と嘘を吐かせてもらった。一種の歯止め(ブレーキ)みたいなモノを挟んでおかなければ、彼女はさらに先へ先へと魔術にのめり込んでしまう可能性があるとロキが前以て教えてくれたから。それで今回『魔力調整(マジック・コントロール)』をやってもらおうと、教科書(テキスト)に細工を施した訳である。

 

「さあ、貴女がその教科書(テキスト)を開いてくれない限り、俺は魔術講座をする事が出来ません。早く魔力を注いで開けて下さい」

 

 ここで俺はリヴェリアに注意点を言っておいた。その教科書(テキスト)は魔力を多く注いだところで開かず、一定の魔力を数秒間維持しなければいけない事を。

 

 それを聞いた彼女は苦虫を噛み潰したような顔になっていたが、すぐに(かぶり)を振って表情を引き締める。

 

「まさか、魔術と言うモノがここまで扱いが難しいものだったとは……。どうやら私は、無意識に簡単なモノだと思い上がっていたようだ」

 

 だから、と言ってリヴェリアは改めて教科書(テキスト)と手にしてこう言った。

 

「今この時より、私はリューセーの弟子となり、師匠(マスター)と仰がせてもらう」

 

「え!?」

 

 いきなり自分を師匠と敬う態度を見せる彼女に、俺は思わず目が点になってしまった。

 

 えっと、生徒であるリヴェリアから先生と呼ばれるならまだしも、いつの間にか師弟の間柄になってしまったんだが……。

 

 もしもこれが此処にいるエルフ達、ついでにリューの耳にも入ったら……絶対大騒ぎになるだろう。自分達が慕うハイエルフが人間(ヒューマン)の弟子になったなど、完全ブチ切れ案件間違いない。

 

 本当はすぐに止めて欲しいと言うべきなんだが、リヴェリアが教科書(テキスト)に魔力を注いで集中してて、とても言うに言えなかった。

 

 ………まぁ、本人がそれでやる気を出して魔術をちゃんと学ぼうとするのなら、俺としては却って好都合だ。でもバレたら後が怖いんだよなぁ……。

 

 大変複雑な気持ちになりながらも、取り敢えず保留にして、リヴェリアが教科書(テキスト)を開くのを待つことにした。




魔法や魔術の見解についての突っ込みは無しでお願いします。

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