別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか   作:さすらいの旅人

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本当は0時に更新するつもりでしたが、内容を追加した為に遅れました。


美神に遠慮しなくなった隆誠

「どれも美味しいな」

 

「当然よ。私の眷族()達が作った自慢の料理なのだから」

 

 フレイヤの女性従者二人が持ってきた料理に最初は警戒する俺だったが、いざ食べてみると美味しくて夢中になってしまう。

 

 俺が嘘偽りなく美味しく味わってる事で、一緒に食べてるフレイヤは笑みを浮かべながらも鼻高々に言い返した。

 

 今食べてる料理を作ったのは、主にそこで待機してるヘイズと言う従者らしい。長い髪を二つに結わえて、赤いエプロンドレスと白衣で看護師を連想させる姿をした少女。大変可愛らしい容姿をしても、死んだ魚のような眼をしているのが非常に残念だが、な。

 

 因みに談笑しながら食事してる此方とは別に、フレイヤの後ろに控えてる達は相も変わらずだ。俺が何かしようものなら即座に動き出しそうな雰囲気を醸し出している。

 

 ただ一つ気になる事があると言えば、オッタルが何やら表情が崩れているような気がする。思わず俺が視線を向けるも、すぐに何事も無かったかのように元に戻っていた。

 

 オッタルの様子が微妙におかしくなるのは、俺がメインの肉料理を食べている時だ。ヘイズが用意した薬草(ハーブ)を塗して煮込んだと思われる肉料理を食べている時に、な。

 

「特に肉料理が上手いな。これはもしかして……牡丹(ぼたん)肉か」

 

「ボタン肉? 聞いたこと無いわね。ヘイズは知ってるかしら?」

 

「い、いいえ。初めて聞きました」

 

 知らない名称だったのか、神のフレイヤだけでなく、料理を作ったヘイズも知らないようだ。オッタル達も聞いた事が無いみたいで、少々訝るような表情になっている。

 

 牡丹肉と言う単語は日本、即ちこの世界で極東が扱ってる特有の名称なので、フレイヤ達が知らないのは無理もない。

 

「リューセー、貴方の言う肉は何なの?」

 

「猪肉のことだよ」

 

「? 何でそれがボタンって呼ばれるのかしら?」

 

「それの由来はな――」

 

 フレイヤだけでなく、聞き耳を立てているオッタル達にも分かるよう簡単に説明する。

 

 猪肉が牡丹と呼ばれる理由は、猪肉が濃い紅色だからだ。花の一種である牡丹の色も紅色で共通してる事もあって、猪肉が牡丹肉と呼ばれるようになった。因みに牡丹の花言葉は『王者の風格』と付け加えておく。

 

「――とまあ、こんなところだ」

 

「成程。そう言う由来があったのね。しかも花言葉が『猛者(おうじゃ)の風格』なんて……オッタルにピッタリじゃない」

 

「? 何故そこでオッタルが出てくるんだ?」

 

「オッタルは猪人(ボアズ)なのよ。知らなかったかしら?」

 

「……ああ、そう言うこと」

 

 フレイヤが教えてくれた事で俺は一気に疑問が解けた。オッタルが何故か複雑な表情となっていたのが。

 

 確かに猪人(ボアズ)のオッタルからすれば、目の前で猪肉を使った料理を見せられたら堪ったものじゃないだろう。

 

 普通なら相手に気を遣って触れないようにするのが人情なのだが――

 

「ヘイズさん、もし良かったら俺の知ってる牡丹肉、もとい猪肉を使った料理のレシピを教えてあげようか?」

 

「!」

 

「それは大変興味深いですね。晩餐に出すレパートリーが増えるのは良い事ですし、是非ご教授願います」

 

 目を見開くオッタルを余所に、俺はヘイズに簡易的な料理内容を教えた。それを見たフレイヤは指摘しないどころか、楽しそうに眺めている。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の団長に対して随分意地の悪い事をしてると思われるだろうが、ちょっとした意趣返しをしたい気分だったから、敢えてやらせてもらった。本当は俺が直々に牡丹肉を使った料理を披露してオッタルに食わせてやりたいが、それはヘイズや他の料理人に任せるとしよう。

 

 

 

 

「食事は満足したかしら?」

 

「それなりに、な」

 

 昼食を終えて、食器を片付けて退室するヘイズとは別に、もう一人の従者であるヘルンが食後の紅茶を用意した。

 

 俺が何の躊躇いもなくそれを口にすると、フレイヤは相変わらず優雅な振る舞いをしながら自分と同じく紅茶を飲もうとしてる。

 

「隆誠は随分品良く食べていたけど、もしかして貴族だったりする?」

 

「いいや。俺の故郷では身分とか一切関係無く、行儀良く食べるのが当たり前なんだ」

 

 別に嘘は吐いていない。一般庶民である兵藤家は楽しく食事を楽しみながらも、行儀の悪い食べ方はしない。偏に両親の教育の賜物と言えよう。

 

「隆誠の国は中々興味深いけど、それは後で聞かせてもらうわ」

 

 そう言ってフレイヤは手にしてる紅茶のカップをテーブルの上に置き、漸く本題に移ろうとした。

 

「貴方を此処へ招いた用件は二つあるの。一つ目は隆誠とこうして食事をしたり、お茶を飲むこと」

 

「既に一つは済んだと言う訳か。で、二つ目は?」

 

「訊きたい事があるわ。貴方の雇用主であるミアが昔以上に綺麗になったみたいだけど、そうなったのは普段から隆誠が使っている『お風呂セット』だとか」

 

「……何故お前が知っている?」

 

 ミア母さんが今も可憐な姿になってるのは既に知れ渡っているから問題無いが、そうなった原因である俺のお風呂セットについては外に漏れていない筈だ。なのにフレイヤは何故後者を知っているのかが全く分からない。

 

 そう言えば以前から、『豊饒の女主人』を外から伺ってる連中がいた。ソイツ等は主にフレイヤの背後に控えてる(オッタルを除く)アレン達で、襲撃する気配を見せてないから敢えて放置していたが、恐らくその時に内部の情報を知ったのだろう。

 

「知ってるも何も、ミアは私の眷族よ。それとあの店は私の庇護下に置いてあるから、知らない事は一切無いわ」

 

 さらりと言ってのけるフレイヤに俺は内心驚いた。ミア母さんが【フレイヤ・ファミリア】の一人である事に。

 

 普段から豪快でどんな厄介事も物理的に解決するあの人だが、フレイヤの話題に関しては常に控え目な対応だった。更には以前あった抗争でも、それに関わっていた俺に対して説教や鉄拳を振るう事なく軽罰のみで済ませる始末。今までそれに疑問を抱いていたが、彼女がフレイヤの眷族となれば大いに納得出来る。未だに腑に落ちない所はまだあるが、そこは俺が気にしたところで意味が無いので放置する。

 

 それはそうと『豊饒の女主人』がフレイヤの庇護下に置いてるからと言って、内部の情報をそこまで知る事が出来るのだろうか。当事者だけの秘密にしていた内容を一体どうやって知り得たのかを聞いてみたいが、どうせコイツの事だから簡単に秘密を喋ったりしないのが目に見えてる。もしかしたらスタッフの中に内通者、もしくはフレイヤ自身が誰かに変装して紛れ込んでいたりとか、な。

 

「あっそ。それで、まさか俺の使う『お風呂セット』を使わせて欲しいとか言うんじゃないだろうな?」

 

「その通りよ」

 

「……先に言っておくが、女神のお前に使っても何の意味は無いぞ」

 

 神々は元々不変の存在だから、ミア母さんみたいな劇的な変化は一切しない。益してやフレイヤは美を司る女神だから、猶更必要無いのだ。それなのに何で使いたがるのかが全く理解出来ない。

 

「意味は無くても、女として気になるの。それは当然、私以外の美の神も同様に。だから私にも一度使わせてくれないかしら?」

 

「お断りだ」

 

 フレイヤからのお願いを無下に切り捨てた瞬間、急にアレン達から途轍もない殺気を醸し出そうとする。

 

「何もそこまで嫌そうに言わなくても良いじゃない。私でも流石に傷付くわよ」

 

「嘘吐け。お前はそんなヤワな女神(おんな)じゃないだろう」

 

「……貴方、本当に遠慮が無くなってるわね」

 

「お前の眷族であるミア母さんからこう教えられたんだよ。『勝手な事を言う神相手に遠慮する必要は無い』ってな」

 

 この世界の人間は神には決して手を出してはいけないと言う本能的な(ルール)に縛られている。しかしミア母さんは例外と言わんばかりに、店に来て無駄に騒ぐ神達に一切容赦しない。拳骨を食らわせたり、問答無用で何処かへ放り投げたり等々、文字通り『神をも恐れぬ』行為を平然とやっている。違う世界から来た元神の聖書の神(わたし)としては、彼女のそういう所は大変好ましい。

 

「だからフレイヤの要求に応じるつもりは一切無い。ご理解頂けたかな?」

 

「……………」

 

 食事を用意してくれた事は素直に感謝するがと俺が付け加えるも、フレイヤは無言となっていた。アレン達の殺気もどんどんと膨らみ続けているが完全無視だ。

 

「……ふふふふふ」

 

 すると、無言だった筈のフレイヤが途端に笑い出した。それと同時に段々と蠱惑的な目になっていく。

 

 その後に急に立ち上がり、椅子に座ってる俺に近寄いながら頬に触れようとする。

 

「私に遠慮が無いだけじゃなく、ここまで反抗的な態度を見せるなんて……隆誠は本当に悪い子ね。そんな事を言われると、益々貴方を欲しくなっちゃいそう。今夜、私の部屋に来ない?」

 

「やなこった」

 

 パシンと頬に触れてるフレイヤの手を振り払った後、俺はすぐに立ち上がる。

 

「生憎俺は、一方的に求愛してくる女は余り好きじゃないんだ。悪いけど他を当たってくれ」

 

 ただでさえ元の世界には非常に厄介な女神とサキュバスの対応で手一杯な状態だから、これ以上増えるのは御免被りたい。万が一にこの世界のフレイヤと恋仲にでもなったら、向こうのフレイヤが暴走しそうな気がする。

 

「用件が済んだなら、俺はもう帰らせてもらう」

 

「あら、まだゆっくりしても良いのよ」

 

「お前がよくても、其方の方々が恐い顔になってるんでな」

 

 俺が目を向けた先には、常人なら完全に失禁してもおかしくない程の殺気をぶつける眷族達(特にアレンと小人族(パルゥム)四人)がいる。オッタルだけは他と違って殺気を出してないが、もし俺がフレイヤに手を振り払う以上の事をしたら即座に動き出すだろう。

 

「そう言う訳で話は終わりだ。じゃあな、フレイヤ」

 

「あっ、隆誠!」

 

 引き留めようとするフレイヤを無視する俺は、すぐに背を向けた後に退室した。

 

 

 

 

 

 

「もう、まだ話したい事があるのに」

 

 隆誠が退室した事でフレイヤは拗ねた少女みたいに愛らしく、少々膨れっ面になっていた。

 

 その仕草はアレン達に効果があったみたいで、先程まで溢れ出していた殺気は一気に霧散していく。

 

「……よろしいのですか、フレイヤ様」

 

 オッタルも悶えそうになっていたが、鋼の自制心で何とか封じ込めながらフレイヤに訊ねた。

 

「今すぐに私が連れ戻してきますが」

 

「止めておきなさい」

 

 命じられたら即座に動き出そうとするオッタルだが、フレイヤは途端に元の表情に戻してすぐに却下した。

 

「今の隆誠は完全に遠慮が無くなってるから、貴方が行っても断られるのがオチよ」

 

「例えそうであっても、フレイヤ様の命であれば力付くでも――」

 

「それこそ余計に不味いわ」

 

 力付くと言った直後、少々強めに睨まれた。いきなりの豹変に流石のオッタルも怯みかけそうになる。

 

「隆誠を敵に回したら最後、私はもう取り返しのつかない後悔をしてしまう。そんな気がするの」

 

 何の確証も無いただの勘に過ぎないが、フレイヤはソレを信じた事でオラリオ最大戦力と呼ばれる派閥を築き上げた。オッタル達も彼女の勘、と言うよりお告げによって何度も救われた経験がある為、決して否定する事は出来ない。

 

 とは言え、いくら隆誠が恩恵を持たずにアレンを倒せる実力を持っていても、フレイヤが何故そこまでして警戒するのかが全く分からない。その気になれば魅了を使い意のままに操れる筈なのに、それを一切しない事で更に疑問が重なる。

 

「ですが、あの男はフレイヤ様に数々の無礼を働いています。他の眷族達が知れば決して黙ってはいられないかと」

 

「それはお互い様よ。私だって隆誠の意思に関係無く此処へ連れて来たんだから」

 

 もう既に帳消しになっていると言うフレイヤに、オッタル達は納得行かないと不満を持ちながらも、主神の命令に逆らえない為に敢えて飲み込む事にした。

 

「…………………」

 

 ただ一人、アレン・フローメルを除いては。




ラウル「(もぐもぐ)……おお、塩加減の良いナッツっす。これ食べてるとエールが欲しくなるなぁ」

ガレス「何じゃラウル、そのナッツは酒に合うのか?」

ラウル「あっ、ガレスさん」

ガレス「ワシにも一つくれんかのう?」

ラウル「……(まぁガレスさんなら良いか)……どうぞ」

ガレス「うむ……おお、これは確かに酒が欲しくなるわ。一体どこで買ったのじゃ?」

ラウル「リューセーが用意してくれたっす」

ガレス「ほう、あの小僧か。ロキに渡した酒と言い、色々な物を持っておるみたいじゃな。となれば今度の宴の時に用意してもらうようワシも頼んでみるか」
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