別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
椿と言う褐色肌をした長身の女性鍛冶師の案内により、俺は参加者達とは違う工房で鍛冶体験をする事になった。
凄く如何でもいい事だが、この女性を見てると駒王学園元副会長の
それとは別に、工房に案内されて早々に道具一式を用意され、向こうから渡された鍛冶用の上着に着替え、さながら練習無しのぶっつけ本番をやらされそうな感じだ。
「ところで、普通は打つ前に鍛冶の講義をするのでは?」
「手前はそう言う面倒なやり方より、実践を交えながら教える方が得意なのでな」
それに、と言いながら途端に彼女は何やら意味深な視線を送ってくる。
「こうした方が手っ取り早いと手前の直感が告げておる。加えてお主、未経験者と言っておきながら、本当は鍛冶の知識が備わっておろう?」
「!」
いきなり核心を突いて来る椿の発言に、俺は思わず目を見開いてしまう。
このお姉さん、随分と勘が鋭いな。直感とかは様々な経験を経て得るモノだから、もしかして【ヘファイストス・ファミリア】の幹部、もしくは団長だったりして。
……そんな訳ないか。こんな鍛冶体験で有名な鍛冶師が来るなんて普通に考えて有り得ない。
「まぁ確かにありますけど、それはあくまで俺独自の知識です。このオラリオでは全く別物だから通用しないと思い、敢えて未経験者として参加しました」
「ほう。独自の知識、か」
俺の発言に興味を惹かれたように、先程までと違って目を輝かせようとする椿。
すると彼女は、途端にある事を言い出した。
「出来るのであれば、此処で隆誠の腕前を披露してもらいたいのう」
「いや、俺はオラリオの鍛冶体験をする為でして……」
「大丈夫だ。此処には手前とお主しかおらんのだから」
俺の鍛冶としての腕前を見たいと言ってくる椿。
此処へ来たのは壊したアレンの槍を直す前に練習する他、この世界の鍛冶について知る目的で来たと言うのに、ぶっつけ本番でやるのは正直言って勘弁したい。
「やるにしても久々なので、せめて基本的な説明だけでもして欲しいんですが」
「お主がやってる最中に指摘するから、そこは安心するがいい」
「全然安心出来ないんですが……」
「ほれ、此処にある材料は好きに使って構わん」
何かもう俺が打つこと前提で話を進めてる上に、武器を作る為の素材を渡している始末。
本当なら今すぐに抗議すべきなんだが――
「……はぁっ。武器を完成しても文句を言うのは一切無しですからね」
他の参加者と違って違う工房に案内してくれた椿の好意を無下にしたくないから、ここは自分がそれに応えるしかなかった。
「うむ。手前が急なお願いをした以上、そのような事は断じてやらんと主神様の名において誓おう」
俺が念を押した事で椿は力強い頷きをするだけでなく、ヘファイストスの名前を出してまで誓った。
これでもし文句を言った瞬間、主神の名を汚す行為と見なされてしまう。鍛冶師として誇りがある者ほど、自らの誓いを破ることは絶対しないのがお決まりとなっている。
向こうが誓った以上やるしかないようだ。過去に鍛冶で作ったのはアザゼルの黒歴史である『
因みにソレ等の武器は俺の収納用異空間に収めてある。黒歴史武器の方は一応
アレをこの世界で出す気は今のところ無い。異なる世界で作った剣を披露すれば確実に面倒な事になるだろうから。特にこの世界のヘファイストス等の神々が騒ぐのが目に見えてる。
とは言え、これから作る武器があくまで練習とは言え手を抜きたくない。まぁ流石に
「用意してくれた材料は俺がどう扱っても良いんですよね?」
「うむ。これらは主にダンジョン上層で手に入る素材だから、今の手前には殆ど不要な物だ。いくらでも使ってくれて構わん」
綺麗な鉱石や
流石に強力な武器を作る訳にはいかないから、素材の性能を限界まで引き出すくらいが丁度良いだろう。
「では早速――」
俺はそう言いながら各金属の鉱石、鋭そうな爪をした素材に手を付けようとする。
☆
「……椿、これは貴女が作った武器じゃないわよね?」
「断じて違う」
入団試験が終わった夜、椿は執務室にいる主神ヘファイストスに報告しようと武器を見せていた。ウォーシャドウの素材を利用した一振りの短剣を。
刀身は『ウォーシャドウの指刃』を使った事で黒みを帯びていながらも鋭さがあり、鉄で出来ている筈なのに大して重さが無い。加えてソレ等の素材を最大限に活かしつつ、尚且つ限界ギリギリまで引き出したかと思われる性能があると、鍛冶神のヘファイストスはそのように評価している。
思わず目の前の団長である椿が作ったのではないかと口にするも、本人がすぐに否定して、嘘じゃないと判明する。神に嘘を吐けばすぐに分かってしまうから。
「その武器は作った本人曰く、レベルが低い冒険者向きの武器だと言っておった」
「でしょうね」
この短剣はダンジョン上層まで通用するまでが精々だった。いくら性能が良くても、『Lv.1』の下級冒険者がランクアップするまでならギリギリで扱えると言ったところだろう。そのように評価するヘファイストスは、椿が述べた隆誠の見解に頷いている。
「だけど、ここまでの武器を作れるなんて充分凄いわ。こんな事ならやっぱり私も会場に行くべきだったわね」
「主神様が顔を出せば意味が無いから、今回は入団試験をやると言われたであろうに」
ヘファイストスの発言に、椿は呆れながらも入団試験の目的を改めて言った。
もし彼女が行けば、間違いなく入団試験をすっ飛ばして定例の儀式を行っていただろう。それを阻止するのも含めて、ヘファイストスは今回執務に専念するように眷族達から言われていた。
「じゃあ何で椿は行ったのかしら?」
「手前は忙しい主神様と違って暇だったからのう」
ジト目で文句を言うヘファイストスに、何も言われてなくて時間が空いていたと言う理由を言い返す椿。
何を言っても無駄だと悟ったのか、ヘファイストスは嘆息しながら話題を戻そうとする。
「で、この武器を見せに来たのは、私が明日その子に直接会って改めて儀式をすれば良いのよね?」
椿はヘファイストスに次ぐ
「いや、その武器を作った者は入団試験の参加者ではないぞ」
「…………は?」
ヘファイストスは椿の言ってる意味が分からなかった。入団試験に参加した筈なのに、何故この武器を作った人物が参加者ではないのかと。
改めて聞いたところ、短剣の製作者――隆誠は鍛冶体験が出来ると言う看板を見て会場に来たらしい。それを受付から聞いた椿が、参加者達とは違う工房へ連れて武器を作らせたとの事だ。
完成した武器を鑑定して相当な腕前を持っていると分かった椿は、改めて入団しないかと勧誘するもアッサリと断られて今に至る。
「……貴女にしては随分諦めが早いわね。もっと粘るかと思ったんだけど」
椿は武器に関して非常に五月蠅いだけでなく、有望だと思われる鍛冶師を見付ければ即座に勧誘する。例え一度断られたところで簡単には諦めない性格だと言うのに、こうまであっさり諦めた事に疑問を抱いている。
「いや、それが……隆誠は『豊饒の女主人』で働いてると言われてなぁ……」
「その店って確か……」
椿姫が少々歯切れが悪く答えたことでヘファイストスはすぐに思い浮かべた。『豊饒の女主人』にいる女将――ミア・グランドを。
同時に察した。普段からしつこい筈の椿があっさりと引き下がったのは、ミアが原因である事に。
あのドワーフの女将は相手が誰であろうと、自身の
「手前としてはミアと事を荒立てたくないからのう。あと最近あの店に行ってないのだが、何でもミアが嘗ての若かりし姿に戻ったと言う噂を聞いたが真なのか?」
「らしいわよ。以前神の宴に顔を出した時、美の女神達が中心になって色々話し合ってるのを聞いたわ」
その中には何故かフレイヤが混ざっていない事に少しばかり疑問を抱いたが、ある事情で美の神に対して少しばかり忌避感を持ってるヘファイストスは、少しでも関われば面倒事になると思って気にしないでいた。
「おお、そう言えば美の女神で思い出した。主神様関連で妙な事を訊いてきおったぞ」
「妙な事?」
ヘファイストスは何故か分からないが嫌な予感が走った。
彼女の心情に椿は気にせず口にする。
「主神様と美の女神アフロディーテが夫婦または恋人なのか、それとも美の女神が浮気した事でもう既に別れて――ッ!?」
まだ言ってる途中にも拘わらず、椿は思わず止めてしまった。自身の主神が今まで見た事の無い表情となっている事に。
「……椿、その隆誠って
「う、うむ……」
「そう……。なら明日、是非とも会いに行かないと」
まるで
翌日の朝、『豊饒の女主人』が朝の営業時間前に赤髪の女神が訪れた。
突然の事に店主のミアが文句を言おうとするも、顔見知りである筈の客が有無を言わせない雰囲気を出していた事に何も言えなくなったとか。
そして初めて鍛冶神と対面した隆誠も、椿に余計な事を訊くんじゃなかったと後悔する程に。
~二年後~
ある事情で隆誠は同従業員のリューと一緒に、【ヘスティア・ファミリア】を主軸に各ファミリアの眷族と主神達と同行し、オラリオの外の幻の聖域と呼ばれる『オリンピア』へ向かった。
到着した翌日、観光を楽しんでいる最中にとある美の女神と出会った。
「さっきから五月蠅いんだよ、
「はぁぁぁああああ!!?? この最も美しくて気高く、至上の愛と美を司るこの私アフロディーテに向かって
「あ、ヘファイストス」
「はぁ? 貴方、いきなり何を言って――」
「久しぶりじゃない、アフロディーテ」
「な、な、なななななな……!? ヘ、ヘ、ヘファイストスぅぅ!?!?」
(性別は違えど、この世界のヘファイストスとアフロディーテの関係は向こうと似てる、か)
アフロディーテの浮気が原因で別れたヘファイストスの心情を、隆誠は改めて察する事になった。
その後には――
「リューセー、一生のお願いだ! ヘファイストス様とあの『美の神』が一体どう言う関係なのかを教えてくれ!」
「しつこいな。神ヘファイストスの了承無しに教える事は出来ないと何度も言った筈だ」
「もしバレてもヘルメス様から聞いたって事にしとくからさ!」
「さり気なく酷いな。と言うか、神に嘘を見抜かれる事はお前も知ってる筈だが?」
ヘファイストスに好意を抱いてる赤髪の鍛冶師ヴェルフ・クロッゾが、人間の中で唯一知っている隆誠に目を付けて何度も経緯を問い詰めるのであった。
ベート「クソがっ! こんなんじゃ全然足りねぇ……!」
フィン「今もまだ不機嫌みたいだね」
ベート「……何だよ、フィン」
フィン「君が張り切り過ぎてモンスターを倒し過ぎる余り、団員達から少しばかり苦情があってね」
ベート「……チッ、アイツ等。文句を言いたかったら俺に言えよ」
フィン「そんな状態で言えば要らないとばっちりを受ける事になるから、こうして僕が来た事を理解してくれると助かるんだけど」
ベート「…………」
フィン「まぁそれとは別に、これを食べるといい。戦ってばかりで大して食べてないんだろう?」
ベート「何だコレは?」
フィン「『かろりーめいと』って言う携帯食だ。ラウルから数本貰ったんだけど、これが凄く美味しくてね。これ一本だけで充分な栄養が取れるらしいよ」
ベート「……(モグモグ)……まぁ、味は悪くねぇな」
フィン「因みにソレ、リューセーが作った物だよ」
ベート「あのクソ野郎のかよ!」
ティオネ「おいクソ狼ぃ! テメェ団長からの差し入れを捨ててんじゃねぇ!」
ベート・フィン「「!?」」