別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
期間限定の『豊饒の女主人 メレン店』で代理店主を終えた俺――兵藤隆誠は、アルテミスを含むウェイトレス達を連れてオラリオへ戻った。流石に女体化したオッタル達は俺が無理矢理連れて来た為、転移術で『豊饒の女主人』へ送り、ミア母さんも承知済みだという事を補足しておく。
そのオッタル達だけど、俺が予想した通りの展開になっていた。男に戻った瞬間、可愛らしく振舞っていた時の記憶がフラッシュバックした事で、まるでこの世の地獄を味わったような大絶叫を上げていた。殆どが発狂仕掛けており、挙句の果てには余りの羞恥に耐え切れず自害しようとする奴がいたほどだ。その中で一番酷かったのはヘグニで、俺とミア母さんが何度阻止したことか。
因みにだが、女アレンを見たアーニャも色々な意味でショックを受けていた。嫌われている筈の兄が女に性転換されただけでなく、凄く優しく接された事で頭の処理が間に合わなくパンクするどころか、「こんなの兄様じゃないニャァァァァァ!!」と叫んだ程だ。その後にはヘイズみたいに死んだ魚のような目になって、余りの変わりように俺を除く同僚達も心配そうになった位に、な。
本当ならオッタル達をこのまま『豊饒の女主人』で働かせようと計画していたが、思っていた以上に心の傷が深くて使い物にならない為、暫く休ませる事にした。少し前まで最強と謳われた【フレイヤ・ファミリア】の精鋭達が大変無様な姿を晒しているのを、封印されているフレイヤが知ればどんな反応をするだろうか。今となっては詮無いことだが、な。
それはそうと、オラリオ側では【フレイヤ・ファミリア】が解体した事で大騒ぎになっていたが、それはもう殆ど収束している。自分達を無理矢理
その【ロキ・ファミリア】だけど、俺がオラリオに戻ったのを耳にしたリヴェリアが店に来て早々、久しぶりに魔術講座をして欲しいと頼まれた。彼女に魔術の基礎を一通り教え、後は独学でやるようにと言って以降、数ヵ月に一回程度しかやっていない。
本当なら店が忙しいと言う理由で断るつもりだったが、ウェイターをやらせる予定のオッタル達が精神療養中によって時間が予想外に空いてしまったので、久々の魔術講座をやる事にした。
☆
「俺と模擬戦をして欲しいって……それは本気で言ってるんですか?」
「勿論だよ」
魔術講座をする為に『黄昏の館』へ来たのだが、出迎えたのはリヴェリアではなくフィンだった。
彼に案内された場所は応接間で、そこには首脳勢のロキとリヴェリアとガレスだけではない。第一級冒険者のアイズ、ベート、ティオナ、ティオネ、ラウル、そして先日あったクノッソスの件で『Lv.5』にランクアップしたアキもいる。
【ロキ・ファミリア】の精鋭達が勢揃いしてる中、団長のフィンから模擬戦を要望された。いきなりの事に俺が困惑するのは無理もないと言えよう。
「あのオッタル達を相手に圧勝した君の
フィンの台詞に俺は後ろにいるガレス達を見ると、彼等の目は本気だった。俺と戦いたいと言う
唯一リヴェリアだけは、他と違って少々不満気な表情だ。魔術講座をやる予定が模擬戦になった事でああなっているのだろう。
「……その戦いを見ていたのであれば、俺に絶対勝てない事は理解してる筈です」
「ッ!」
挑発同然な俺の発言にベートが過敏に反応するも、途端に大人しくなる。
「勿論それは重々承知している。【フレイヤ・ファミリア】が解体されたことで、今後は暫く【
「……まぁ、そうでしょうね」
「しかし現状では『黒龍』を討伐するのは到底不可能だ。今の僕達が挑んだどころで、嘗ての
俺はあくまで聞いただけに過ぎないが、どうやらこの世界の男神ゼウスと女神ヘラは、十五年前までオラリオ最強の二大【ファミリア】として千年も君臨していたらしい。だが黒龍の討伐に失敗した事で解体されてしまい、その後にロキとフレイヤが後釜になって今に至る。尤も、フレイヤの方は俺が封印した後に強制解体させてしまったが、な。
「そうならないよう、俺と模擬戦をして多くの経験を得たいと?」
「ああ。本音を言えば、『Lv.20』以上の力を持っている君に弟子入りしたい程だよ」
「それは流石に勘弁して下さい」
正式な弟子ではないが、既に(戦闘指南で)ラウルと(魔術指南で)リヴェリアがいる。ただでさえ忙しい身なのに、これ以上弟子を増やしたら大変になってしまう。だからアイズ、いくら俺に『弟子入りしたい』と言う目で訴えたところで断固拒否するぞ。
「取り敢えず貴方達の目的は理解しました。ですが、だからと言って俺が承諾する理由にはなりません」
黒龍討伐の為に実力を上げたいフィン達の心情を理解出来るが、生憎今の俺にそこまで面倒は見切れない。ラウルとリヴェリアに教えてるのは、あくまで気まぐれに過ぎないのだ。
ラウルは実力があっても開花出来ない状態だったから、そこを俺が引き出した事で第一級冒険者にランクアップする事が出来た。それを知った時のアイズから、『自分もラウルみたいに強くして下さい』と何度強請られた事か。
リヴェリアはこの世界で扱う魔法を知る為に等価交換として魔術を教えたが、思いのほか適性があって逆に驚いた。と言っても、ハイエルフの彼女だからこそ扱えるものであって、レフィーヤを含めた他のエルフ達では思うように制御出来ずに何度も失敗する結果になっている。
この世界に関する情報を知り得た今の俺は、そろそろ元の世界に戻ろうと考えている段階だ。二年も経った事で今まで不安定だった『次元の狭間』も、あと数ヵ月経てば正常に戻るだろう。
「団長のフィンさんにこんな事を言いたくないのですが、俺には何の得にもならないので、模擬戦についてはお断りします」
「リューセー! 団長の頼みを――」
「ティオネ、悪いけど今は口を挟まないでくれ」
「っ……」
断る俺に激昂しようとするティオネだったが、フィンが即座に指摘したことで大人しくなった。
想い人からの低い声に、流石の【
「確かに何の得にもならないね。だけどリューセー、君には是非とも受けて貰いたい。あの時の借りを返して貰う、と言えば分かるかな?」
「!」
俺は思わず目を見開いた。
フィンの言う借りとは、【フレイヤ・ファミリア】の解体についてだ。
オッタル達を倒してから女に性転換した後、『
まさかフィンが、今此処で借りを返す為の手札を使って来るとは思わなかった。尤も、それを理由に余りにも度が過ぎる要求をすれば、清算した後に【ロキ・ファミリア】と縁を切っていたが、な。
それはそうと、借りを返して貰うと言われた以上受けざるを得ない。そんな程度で清算されるのであれば、俺からすれば安いものだから。
「……………はぁっ、分かりました。是非ともやらせて頂きます」
「ありがとう。君ならそう言ってくれると思ったよ」
悩んだ表情をしながらも嘆息した俺は要望を承諾するのであった。
だけどな、フィン。その
今度は【ロキ・ファミリア】との模擬戦をする事にしました。
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