窓の私にできること   作:とうひ

2 / 4
喪失、痛み、再生


私が窓になったわけ

 中学一年生の夏、友人数名と夜の学校に忍びこんで肝試しをした。

 その日から、私の世界は変わった。

 一年生の教室が隔離されて置かれているA棟。そこは戦時中、病院であったから看護師や兵隊の幽霊が夜な夜な彷徨っているらしい。

 その噂はとても有名で、校内に噂を知らない人はいなかった。妙にその噂が現実じみていたのは、下手によくある学校の怪談のように女子トイレの花子さんがどうとか、音楽室のヴェートーベンがどうとか、そういう話ではなかったからだと思う。

 噂に信憑性を加えたのは、放課後に静かなA棟へと忘れ物を取りに行った人間が口を揃えて「視線を感じた」「なんだかぞわぞわした」「不気味だった」と言ったこともあるだろう。まことしやかに語られる事実たちは噂という幻想にするにはあまりにも具体性を帯びていて、皆その話を信じ始めた。

 明らかにメインの棟とは別の造りをした綺麗なA棟。そこが病院であったという話を信じられたのはそのような経緯があったからだ。

 そのA棟で肝試しをしようと誘われたとき、参加を決めたのは軽い気持ちだった。お化けは怖いけれど、中学生になって新しくできた友達とちょっとした冒険をすることに対して少し興奮した。持ち物は懐中電灯、塩──私は見当たらなかったので塩飴、それくらい。閉められた校門の前で集合する。

「勝手に入って怒られないかな?」

 さちかちゃんは不安げに眉を寄せて言った。

「じゃあ、さちかはここに残る? それでも別に私はいいわよ」

 強気に出たのはクラスの中心こと、まなみちゃん。

「いざとなれば俺がなんとかするから、みんなで行こうぜ」

「さっすが、たくや!」

「ヒューヒュー」

 まなみちゃんの言葉で少し固まった空気を緩めてくれたのは足が速いたくやくん。それから、彼と同じサッカー部の男の子たちだった。

 今まで、私は夜の学校に忍び込むだなんて悪さをしたことがない。お化けだって怖い。でも、今更それをここで言ったら空気は冷めるだろうし、明日から私は教室での居場所がなくなる。そう思ったら、私は何も口にすることはできず、ただただ緊張で汗ばんだ手で滑り落ちそうな懐中電灯を強く握った。

「まどか、アンタ珍しくだんまりだけど、大丈夫?」

「大丈夫。緊張してるだけ」

 クラスの首領の機嫌を損ねるのは避けたい。「まどか」と私の名前が彼女の口から飛び出したとき、一気に緊張が高まって心臓が飛び出るかと思った。お化けは怖い。でも、この少々子どもじみたクラスメートの扱いよりは怖くないかもしれないと自分を鼓舞した。

 運動神経抜群なたくやくんを先頭に校門をよじ登って中学校に侵入する。こっそりと放課後に開けっ放しにしておいたA棟一階にある一年一組の教室の窓から一人ずつ折り畳んだ身体を通して行く。そうして私たちは校舎へと無事に侵入を果たしたのだ。

 全員が懐中電灯の電池を入れて足元を照らす。その光はきちんと人数に見合って六本存在した。いつもと何の代わり映えもしない教室。A棟に含まれるこの教室にも幽霊がいるのかと思ったらそんなことはなく、私は胸を撫で下ろす。

 しかしそうしていられたのも束の間。特に不気味であると噂の廊下へと出ようと先頭を歩くたくやくんと彼の斜め後ろを歩くまなみちゃんが足を踏み出した。

「なんだ。楽勝じゃない」

 廊下に出て早々にそう言ったまなみちゃんの頭は、気が付いたら吹っ飛んでいた。頭で理解することができない。まるで時の流れがゆっくりになったかのように、呆然と目の前の現実を眺める。

 頭と切り離されたまなみちゃんの胴体。視界いっぱいに広がる赤。鉄の匂い。さちかちゃんの叫び声。男の子たちが走り去っていく足音。それから、肌をざわざわと逆立てるような気色悪さが全てだった。

「イタイ、イタイ」

 目の前では、気色悪さの根源だと思われる化け物がもう動かないまなみちゃんの身体を弄りまわしている。腕を、足を、手を、それらをもぎ取ると自分に取り込もうとする。その様は、捕食というよりも移植をしようとしているようで、あの噂は本当だったのかと混乱する頭で現実逃避をした。

 まなみちゃんの身体を貪りつくした化け物がゆったりとこちらに近付いてくる。その気になれば、もっともっと早い動きでこちらに来られるくせに、私の恐怖を煽るようにじっとりと、ゆったりと、ぬるぬるとした動きで足跡の代わりにまなみちゃんの血痕を地面にこすりつけて寄ってくる。

 怖い。

 逃げたい。

 泣きたい。

 しかし、あまりの恐怖で震えた私の足では走り出すことはおろか、立ち上がることすらできなかった。涙すら零す余裕がない。極度の緊張状態に陥ると人はこんなにも虚無になれるのかと迫りくる化け物を見て思った。

「イタイ、イタイ」

 鉄と灰と腐った卵の匂いが混ざった手が私の目の前まで伸びてきたとき、強く目を瞑った。ああ、やっぱり、悪さはするものじゃない。悪さをすればそれ相応の罰が下されるのだから。死の淵に立って改めて私は猛省した。

 べちゃり。

 粘度が高く気色悪い音を立て、〝何か〟が落ちる。

 目を閉じている私にはそれがなにかわからない。だが、生暖かい何かが私の顔にかかった。ぎゅっと自分の手に力をこめる。歯も無意識のうちに食いしばっていた。足に力が入らなくて立ち上がれないというのに、いらない部分にばかり力が入り、唇が震える。

「ギャーーーーーーーーー、イタイ、イタイ」

 続いて絶叫。

 私の声ではない。友人のものでもない。確かに、あの化け物の絶叫が聞こえた。もう恐怖の限界だと身体中の力が抜ける。震えも何もない。おそらく、放心状態に近かった。

 だが突如、強い風が巻き起こったのだ。吹き飛ばされるようにして、私のすぐそばにあった気配が遠ざかる。空気を裂くような強風が顔にかかった液体と一緒に、私に襲いかかっていた気色悪さを吹き飛ばす。そして、化け物の気配が遠ざかり肩の力が抜けた私は、恐る恐る、瞼を押し上げた。

 そこには、化け物と戦う新たな化け物という信じ難い光景が広がっていた。

 遠ざかった気配から助かったと思ったのは一瞬のことだ。すぐさま、私は化け物が増えた現実に絶望した。

 こんなことなら、肝試しなんて断ればよかった。明日教室で仲間外れにされようが、明日があることに越したことはないじゃないか。明日仲間外れにされることが怖くて、肝試しに参加した結果、化け物に襲われ、死んで明日を迎えられないとは予想外だ。こんなことになるなら。こんなことになるってわかっていたなら。

 それなら、後悔しないように正直に生きればよかった。怖いものは怖いってしっかりと言えばよかった。

「怖い。怖いよ。誰か助けて」

 やっと口から飛び出た言葉は本当に今更だ。仲良しのさちかちゃんも「なんとかするよ」と言ったたくやくんも、もうこの場にはいないのだから。

 死がそこまで差し迫っていることを理解しながら、正しくは、理解したからこそ私の意識は遠くなってゆく。目の前の光景をガラス越しに眺めるように、呆然と見つめる。

 だが、私が諦めかけたその刹那。背後から同級生の誰でもない人間の声がした。「助けて」と震える声で口に出した言葉が届いたのだろうか。私の方に伸びた大きな影が、さらに少しずつ少しずつ大きくなり、そのまま私を追い越して行く。後悔に苛まれる私の世界へ鋭い切り込みと共に、知らない人間が飛び込んできたのだ。

「おい、傑。そこのクソガキが邪魔。どっかやって」

 私をクソガキと呼んだ声の主だと思われる人物は背中しか見えない。その人物は、とても大きい身体と長い足で、あの恐ろしい化け物に対して物怖じせずにその歩を進めている。

 続いてもう一つの影が私に迫ってきて、真横で止まった。

「怖かったね。もう大丈夫だからね」

 震えて立ち上がることもできない私に合わせ、その人はしゃがみこんだ。意図して私の気を和らげようとしていることは、私の背中をさする手からひしひしと伝わってくる。「立てるかい?」と尋ねられて、再度立ち上がろうと足に力を入れてみる。しかしどうしたことか、私の膝は地面から離れてくれない。

 突如、私の前に現れた彼らは余裕を滲ませ、私に安心感を与えてくれた。現に、先ほどまで強く握りしめていた私の両手はゆるりと開かれている。

 それでも、彼らも人間なのだ。

 なぜ、ここに彼らが来たのか。彼らは何者なのか。何一つわからない。

 だけど、私の身体はもう自分の力で逃げることはできないし、彼らはきっと逃げるだけの元気があるだろうことだけはわかった。せっかく気にかけてもらったのに私は彼らと違って逃げる足はない。申し訳なく思い、私のそばにいる全身真っ黒なお兄さんを見上げて謝ろうとした。

 しかし、それは叶わない。

「悟。この子を避難させたら戻ってくるから祓わないでおいてくれ」

「えー、めんどくせ。さっさと戻って来いよ。早くしないと祓うから」

 お兄さんは私をおんぶすると、先ほど私を追い越したもう一人のお兄さんに叫んだ。それから、私を背負ったまま走り出す。

 途端に、私の世界がものすごいスピードで移り変わっていく。こんな速さのなかで生きたことなどない。彼はA棟からメイン校舎にある保健室の扉を力強く引くと身体を滑り込ませた。そして、背中から椅子の上に私を降ろした。

「いいかい、事が片付いたら僕たちはここに戻ってくるから絶対にここから動かないこと。それから、万が一何かあったら大きな声で助けをよぶこと。また呪霊を見つけても絶対に目を合わせないでね。それじゃあ、すぐに帰ってくるから」

 そう言って姿を消したお兄さんどれくらいで帰ってきたのか、正直覚えていない。避難させられた私は今まで経験したことのない出来事たちを思い返して放心していた。その最中に彼らが戻ってきたからだ。

 

 

「あの、これ」

 助けてもらったお礼をしたいと思ってリュックから取り出したのは塩飴だった。塩飴を差し出したかったというよりは、塩飴しか持っていなかったと言った方が正しいかもしれない。

 もしくは懐中電灯だが、懐中電灯は塩飴以上にいらないだろう。袋をひっくり返して両手いっぱいに乗せる。大量の飴玉は私の掌から、少しこぼれ落ちそうになる。

 少々厳つい風貌のお兄さんは私の両手いっぱいに乗った塩飴を一つ受け取ると包装を破いた。そしてこの場ですぐに、口の中へと放り投げる。

「うん、美味しいね。ありがとう。」

 今まで髪をお団子にするような男の人と話すことも、そもそも父や先生を除き年上の男の人と話すこともなかった私は、少しだけ彼が怖かった。助けてもらっておいてどの口が、とは思うものの、耐性がなかったのだ。

 だけど彼は、私が抱える秘めやかな恐怖を吹き飛ばすような優しい声で「ありがとう」と言って笑った。

「ほら、悟も」

「ハッ、そんなんいらねーよ」

 夜に輝く白髪のお兄さんの方は、悪態をついてばかりでちっとも飴を受け取ろうとしてくれない。お団子のお兄さんが勧めても、その腕は胸の前で組まれたままである。まあ、いらないよねと理解していた私はそれでもいいと思っていたので大人しくそれらを引っ込めようとする。

「そうかい? じゃあ私が悟の分も頂くとしよう」

 お団子のお兄さんがそう言って、もう一つ塩飴を手にしようとした。私は両手いっぱいに持った飴玉をスッと手元に引いて、お兄さんたちから遠ざける。

「おや、二個目はくれないのかい?」

「いいえ、喜んで。だから両手を差し出してください」

「こうかい?」

「ええ、そのままでお願いします」

 私よりもずっとずっと大きな手だ。目の前で無防備にさらけ出された彼の両手を見てそう思った。あのとき、私の背をさすってくれた手。あの暗闇から連れ出してくれた手。

 思いをこめ、私は自分の両手を彼の手の上へと持ち上げる。そして、己の右手と左手の間に少しずつ隙間を開けていく。その隙間からは、ぼとぼとと塩飴が落ち、彼の手の上に着地した。私の手の上にある飴は減るにつれて上手に落ちていくことができなくなる。私は手を少し斜めに傾けることで上手に彼の手へ落ちられるように飴たちを手伝った。

 ついに、私の右手の真ん中にたった一つだけ飴が残ったところで私はその飴を握りしめて笑う。

「二個とは言わず、たくさんどうぞ。私は一個あれば十分なので。助けていただきありがとうございました」

 唖然とした顔で両手に飴をのせたまま、こちらを見つめる三白眼のお兄さんは、ちぐはぐでちょっと面白い。

 私の両手では山盛りとなって零れ落ちそうだった飴たちは、お兄さんの手の上で余裕いっぱいに散らばっている。やっぱりお兄さんの手は大きいのだ。

 私はお兄さんたちに救ってもらった。だけど、あとの四人はどうしているのだろうか。それに、まなみちゃんは──。

 助かった安堵で完全に頭から抜け落ちていたその事実を、正確にはなかったことにして楽をしようとしていた事実を、私は思い出した。

 私にとって、まなみちゃんは得意なタイプの子かと問われれば、むしろ苦子だった。出会ったのも中学生になってからであり、共に過ごした時間は短い。

 それでも、毎朝顔を見合わせていた人間が目の前であっけなく死んだ。

 その事実に涙が溢れそうになった。悲しみなのか、哀れみなのか、恐怖なのか、どれなのかもわからないけれど、とにかくまなみちゃんを思うと涙が止まらない。

「お兄さんの手はとっても大きいのですね。たくさんの物を掴めそう」

 うっかり口に出すつもりのなかった言葉が飛び出る。ハッとして口元に手をやり、そっと高い位置にあるお兄さんを見上げる。すると先ほどまでは、ぽかんとしていた彼が少し眉を下げて、悲しそうに笑っていた。

「案外、そうでもないんだ。私にもできることに限界があって掴めないものばかりさ。そういうのは悟の方がぴったりだ」

「急に話振んな」

 我関せずといった様子を崩すことなく、もう一人のお兄さんが雑に声を発する。

「お兄さんたち仲良しですよね」

「当たり前だろ、親友だからな」

「なるほど」

 今時、わざわざ親友だと声に出すのは小学生くらいではないかと首を傾げたくなるが、やっと白髪のお兄さんの方が不機嫌以外の感情を見せたのでその件について触れるのを控える。

「おい、ガキ。そんなことはいいんだよ。お前は前から呪霊が見えていたのか?」

「その呪霊ってやつ、何ですか?」

 呪霊。これまでの人生において聞いたことのない単語を、今日は当然のように投げかけられる。今もそうだし、保健室でもそうだ。意味が分からず頭をひねっていると、問いを投げかけた主は面倒くさそうに口を開いた。

「あー、あのバケモンのことだよ。その感じだと見えるようになったのは、ついさっきって感じか」

 彼は顎に手を当てると無駄に高さのある上背を折り、私に視線を合わせた。ようやくしっかり見ることができたその顔の中心には、でかでかとしたサングラスが居座っている。

 夜にもかかわらずサングラスをかける男に疑問を抱き、心のなかで一人問答をしていると彼はそれを外した。

 サングラスを外して現れたのは美しい蒼。

 一対のそれが私へとまっすぐ向けられる。こんなに綺麗なのに隠してしまうのは勿体ないな、と私もそれを見つめ返す。そうやって見つめ合ったのは、そう長い時間ではなかったと思う。

「術式はない。残念……。人手不足解消に向けて新たな人材ゲットだぜって思ってたのによぉ。使えねえな」

 あれだけじっとみつめていた癖にパッと視線を外してお兄さんは呟いた。彼は腰に手をやり、天井を仰ぎ見ている。先ほどまで目の前にあった蒼はずっと高くて遠い位置へと逆戻りだ。

 少しだけあの蒼を惜しみながらも、私は勝手に何かを見られて、勝手に落ち込まれたことを理解する。そして、引っかかる言葉──人手不足。

「術式? それから、人手不足って何のことですか?」

「うっせえ、パンピー」

「悟、さっきから非術師、それも中学生に対して大人げないよ。悟が本当にごめんね。さっき君たちを襲った化け物は呪いと言って、人の負の感情から生まれるものだよ。日本の怪死者、行方不明者のうちの多くは君のお友達のように呪いに襲われた被害者だ。それで、それらを倒して君たちのような非術師を守るのが私たち呪術師でね、皆それぞれ呪いを祓うための術式を宿しているんだよ」

「そ。で、俺たちがその呪術師なわけ。人手不足で毎日毎日しんどいから、お前に術式があれば適当に育成してもう少し楽させてもらおうと思ったのにさ~」

 白髪のお兄さんは頭の後ろで腕を組むと口を尖らせる。

「すみません」

「謝ることはないさ、君は悪くない」

 一方、お団子のお兄さんは優しく諭す。

「それにね、私は君に感謝されて嬉しかったんだ。やっぱり、私たちの存在は知られていないからね。なかなか直接的にお礼を言われることはないし、私たちが守ってきたものの成果が見えにくいんだ。感謝されるためにやっているわけではないが、それでもやっぱり……私は君からもらった言葉も飴玉も助かったよ」

 彼の言葉が決して、もう一人の男の言葉で落ち込んだ私を慰めるために口にした嘘ではないと、話し方でわかった。一言一言、かみしめるように。自分の過去を偲ぶような、それから苦しい現実と向き合うような、その重みと熱の伝わる話し方だった。

 だから、私も彼から送られた言葉に真剣に向き合った。

 きっと呪術師は孤独だ。つい先ほどのように呪いのことも知らないで生きてきた私の平和は彼らによって守られてきた。あの恐ろしい呪いと戦い、ときには傷つくこともあるかもしれない。まなみちゃんのように命を落とす人もいるかもしれない。それでも、彼らの存在を知っている人は少ない。感謝もされない。ただ黙々と彼らは人知れず、平和を守るために戦っているのだ。

 そんな呪術師の一人である彼は感謝の言葉と飴玉たちだけで本当に嬉しそうにしていた。言葉にしたのはお団子のお兄さんだけだったけれど、あの悪態をついてばかりのお兄さんもしみじみと横で頷いていたのだ。きっと、多くの呪術師の方は同じ思いをしている。

 前までの私には呪いを見ることができなかったし、その存在も知らなかった。そのうえ、残念ながら私には術式という戦う術は何もないらしい。だけど、見ることはできるようになったのだ。

 術式がないこと。

 だが、それは私が彼らに頼りきり、一方的に守られる理由になるのだろうか。彼らは私たちの日常を守ってくれている。でも、彼らの日常はどこにあるのだろうか。

 ずっと、化け物のことを考えて生きていくのだろうか。 

 成果が見えにくくて、感謝もされないなかで命を懸け続けるのだろうか。

 何よりも、私はそれらを知っているのに目をそらすのだろうか。

 その感情は、衝動に他ならなかった。

 だが、あの瞬間。私は、たしかに心から思ったのだ。

 こんな私でも。

 術式がなくても。

 それでも。

「あの。術式がない私でも、何かできることはありますか?」

 私の問いかけに対して、お団子のお兄さんは大きく目を見開いた。 一方で、蒼いお兄さんはニヤリと口角を上げて笑う。やがて、彼は口を開き、私はその言葉に頷いた。

 そうして、私は窓になったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。