やはり俺のペルソナはまちがっている。   作:俊海

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あーあ、やっちゃった……
もうひとつの小説一区切りしてないのにやっちゃった……
なんかキャラに違和感があったら報告してください。
なるべく改善しますので。
それではどうぞ。


I want to reach out to the truth.

『真実』

 

それは、今の社会を生きていく人間にとって、全くもって不必要なものだ。

小説だの漫画だのでは、さも貴重であり尊いもののように祭り上げられているが、実際に真実なんてものを何としても追い求める主人公は虚構の世界でしか存在しない。

 

理由はなぜか。

真実なんかよりも嘘を選んだほうが楽だからだ。

所詮人間なんて、自分が見たいものを見るので精一杯であり、真実に到達しようとする労力があるなら、他のまた別の偽物の解答を得て満足するのに割く生き物だ。

正直者はいつだってバカを見るし、正論はいつだって人を傷つける。

自分のために人を騙す人間が世の中ではいい目を見て、耳障りのいい嘘を並べる人間のほうが人気になれる。

真実は残酷だというのなら、きっと嘘は優しいのだろう。

だからだれもが、真実よりも嘘の方へと流されていく。

 

俺からすれば、そんなことが日常的に起こっているこの世界そのものが虚構でできたものに思えるが、少数派の真実なんぞ、多数派の嘘に押しつぶされるだけなのは目に見えている。

『赤信号、みんなで渡れば怖くない』という言葉のように、間違っていることを全員が正しいと言えば、それは正しいことに成り下がるのだから。

 

むしろ、まちがいの方が素晴らしいものともてはやされる節まである。

偽物の方が本物よりも本物らしいだとか、贋作が本物に劣ると誰が決めたとか、それらしい言葉を盾にして。

それゆえに偽物を使ってる方が楽だし、こっちのほうが優秀とまでぬかす輩もいるのが嘆かわしい。

普通に考えろよ。偽札を作ったら犯罪だろうが。

本来あるものから模倣し、学習することが大事なのであって、断じて偽物を使って楽をしろなんて言ってない。

さらに言うなら、本物よりも本物らしいことなんてありえないし、本物が贋作に劣ると誰かが決めたわけでもない。

 

結論を言うと、こんな嘘や偽物がもてはやされ、真実や本物が卑下される世界は間違っている。

故に、やはりこの世界から迫害される俺という存在は間違ってなんかいない。

 

 

 

 

「…………で、なにか弁明はあんのか?」

 

「俺は悪くない」

 

「そーですか!わざと俺の挨拶を朝昼と無視した奴がいけしゃあしゃあと抜かすセリフがそれでいいんだな!?」

 

「え?あれマジで俺に話しかけてたわけ?俺の向こうにいる誰かに話しかけてんのかと思ってた」

 

「お前……どんだけ自意識過剰の真逆を突っ走ってんだよ……」

 

「自意識過剰の反意語は無意識過剰って言うんだ。これマメな」

 

「マジで?そりゃー勉強になったな……じゃなくてだな!」

 

 

どうしてコイツは俺に話しかけてきてるんだろう。

確か、花村とかいったか。

時期は違えど、俺と同じようにこの稲羽市に引っ越してきたやつ。

あ、思い出したら我が故郷である千葉に帰りたくなってきた。

こっちに引っ越してきてから数年は経つというのに、俺の千葉への愛は未だ冷めることを知らない。

むしろ、愛しすぎて千葉と結婚したくなるまである。

 

 

「つーか、マジでなんで俺に話しかけてくるわけ?見た目からしてトップカーストに存在しそうな格好してる奴が俺に何の用だ?」

 

「前々から気になってたけど、そのトップカーストとかなんだよ?」

 

「スクールカーストにおいて、トップに君臨するリア充のことだ。要は俺の敵対者」

 

「別に俺はお前を嫌ってはいないんだけどな……」

 

 

そうやって肩をすくめるポーズもどこか様になっている。

生まれつきの三枚目キャラというやつだろう。

この体質さえあれば、大概のやつはどんなやつともそれなりの交友関係が結べることが判明しつつある。

俺?いや、俺そんな友達とか生まれてこのかた出来たことねーし分からねえ。

 

 

「どう見ても、お前って誰とでも仲良くなれそうなオーラ放ってんじゃねーか。なんだ、俺に対するあてつけか何かか?だったらいくらでも来い、訓練されたボッチはそんな程度じゃへこたれない。百戦錬磨の強者。負けることに関しては俺が最強」

 

「マイナス方向に自信を持つのはやめろ!どんな人生を歩んできたら、そこまでひねくれた成長を遂げることができるんだ!?」

 

「俺の黒歴史を知りたいとか自殺志願者かお前。別にいいけど、途中で欝になっても責任は取れねーからな?」

 

「……いや、やっぱいいわ」

 

 

転校してきた半年前から、何かにつけて俺に話しかけてくるこいつは、かなりいいやつなんだろう。

おかげで俺も、時たまコイツが俺の友達なんじゃないかと勘違いしそうになる。

おそらく、自分と同じ境遇の人間だから、という共通点で関わりを持ってくれようとしてるに違いない。

そうでもなかったら、明らかにカースト最下位を突っ走ってる俺なんぞに話しかけることもないんだし。

 

 

「そもそも、お前だって友達はいるじゃねーかよ。俺だってそうだし、お前と一緒のクラブにいる女の子二人、しかも羨ましいことにどっちも美少女と来たもんだ。それこそ俺に対するあてつけじゃねーの?」

 

「……いや、あいつらは友達じゃねーよ。ただ部活が一緒ってだけだ」

 

「…………なんで俺が友達ってところをスルーすんだよ?そんなに俺の友達になるのは嫌か?」

 

 

嫌というわけじゃない。

ただ、そこに触れると本気で勘違いしそうになるから回避してるだけだ。

 

それにしても、花村の目は節穴だな。

俺があの二人と仲良さそう?とんでもない勘違いだ。

あいつらはなんだかんだで面倒見がいいというか、人がいいというか、そのあたりで俺を構ってくれているに過ぎないのは重々承知している。

しかも、一人には『俺と友達になってくれ』と言おうとしたら食い気味に『それは無理』って言われるくらいだからな。

そういやぁ、あの部活に入ることになったのって、コイツが転校してきた時とほとんど同じか。

なんともまあどうでもいい偶然だ。

 

 

「本当にお前って、心の壁が分厚いな」

 

「俺の心の壁は百八式まであるぞ。使徒からの攻撃にも万全。あれ?やっぱり俺最強じゃね?」

 

「自慢できることじゃねーだろうが!はぁ……お前みたいなやつには今まで初めて会ったぞ。大体のやつらは表面上は相手に合わせてでも、その場の雰囲気を維持しようとするからさ」

 

 

おっ、意外とコイツは見る目があるな。

普通の学生なら、心に仮面を貼っつけて自分の本心を隠してでも他者との繋がりを大事にする。

俺は、そういう人間関係に疲れきったから、なるべく他人とは関わりを持ちたくない。

ぼっち生活最高、他人に迷惑かけないし、迷惑もかけられない。

これ以上の生活があるだろうか。

 

 

「あーあ、あいつだったらお前とも打ち解けられるんだけどな」

 

「お前のそのノリでできないことだったら、そいつにもできねえと思うぞ」

 

 

自分で言うのもアレだが、俺ほどひねくれている人間もそうはいないはず。

さっき言ったように、誰とも友達になれそうなこいつで無理なら、ほかの誰にも無理だろう。

 

 

「いや、絶対そいつとお前は気が合うはずだ。なんせ根っこのところが似てるからな」

 

「根っこが腐ってる比企谷君と似てるなんて、その人も可愛そうね」

 

「お前は俺を罵倒しながらじゃねーと会話に参加できないのかよ」

 

 

突然会話に入ってくるなよ、少しびっくりしたじゃねえか。

しかし、コイツの突然の罵倒にも慣れてしまった俺がいる。

顔を合わせるたびに俺を罵っていくからな、このおぜう様は。

ドM大歓喜のこの環境、今ならお安くお譲りしよう。

俺はたとえ金を積まれても返品願うが。

 

 

「あら、ゴミ谷君。そんなところにいたのね。あまりにも存在が矮小すぎて認識できなかったわ」

 

「俺の存在を人間からゴミレベルにまで下げんじゃねーよ。俺の名前は比企谷だ」

 

「むしろあなたは自分がゴミよりも価値があると思ってたのかしら?」

 

「お前の中での俺の価値はどのくらいひどいものなんだよ!」

 

「比企谷君は、道端に落ちている石ころの価値を考えることがあるの?」

 

「どうでもいい存在ってことですねわかります」

 

 

この口を開けば俺への罵倒が次から次へと出てくる少女は、不本意ながら俺が所属しているクラブの部長をやっている。

俺がクラブに入っていること自体が不本意だし、コイツが部長というのも不本意だ。

いくら俺が心の耐久力が高くても、傷つくことは傷つくんだよ。

だというのに、クラブで必然的に顔を合わせなきゃいけないとか、どこのマゾゲーだ。

 

 

「いつ見ても仲がいいようにしか見えねえな。本当に友達じゃねーの?」

 

「ありえないわ。誰が好き好んで目が腐りきってるこの男と仲良しこよしにならなきゃいけないのよ」

 

「ありえないだろ。こうやって人の悪口を正面から吐くような奴が俺と仲良い訳無いっての」

 

 

そら見たことか、こいつが俺と仲良くなるなんてありえねーんだよ。

半年経ってもこの態度なら、もう友達になるのは不可能だ。

 

 

「いやマジで仲良すぎだろ……。それより、そいつが比企谷と似てるってのは間違ってねーからな。そりゃあいつは女たらしで誰とでも打ち解けられるようなやつだけどさ」

 

「むしろ似てるところを探す方が困難になってるじゃねーか」

 

「なんて言うかな…………本当の自分ってやつを受け入れてるって言うの?なんか微妙に違うような……まあ真実を求めてるってところが似てると思うぜ?」

 

「……どこが似てるんだよ」

 

 

俺は真実なんてものを手に入れられると思ってない。

そんなもの、今まで俺が見出せた試しがないからだ。

人は見たいものを見て、見たくないものからは目を背ける。

そこらのやつがそんなレベルだと言うのに、俺なんかが『本当』を、お目にかかることさえ無理なのは分かり切ってるんだし。

 

 

「そうね、比企谷君は、存在自体が嘘まみれだものね」

 

「お前ほど正直な人間もそういねーよ雪ノ下」

 

「当たり前じゃない。ほら、私って嘘をつく必要がない人間だし。私ほど誠実な人間もいないわ」

 

「お前の場合は、正直に言ってもそれで許されるだけだろうが。俺がお前ほど正直だったら、間違いなくリンチされてるわ。最悪闇討で命を落とすまである。畜生、『ただしイケメン、美人に限る』なんて世界は滅んでしまえばいいのに」

 

「あら、あなただってそこまで醜い容姿をしているわけじゃないと思うのだけれど。目を瞑りさえすれば」

 

「その目を瞑るっていうのは、俺が死んだ目をしているから、俺に目を瞑れって言ってるのか、それともお前が目を瞑らないといけないほど、俺の顔がブサイクなのかはっきりしてくれ」

 

「どっちもに決まってるでしょう」

 

「俺の顔面は放送禁止レベルかよ!」

 

「だーかーらー!なんでお前らはすぐに漫才をはじめるんだよ!?」

 

「「漫才をしているつもりはないけど?」」

 

「息ぴったりでなによりですね!」

 

 

花村が何かツッコミをいれるが、心の中だけで否定する。

それよりも、どうしてわざわざ雪ノ下がクラスも違うというのに、俺の教室までやってきたのかが問題だ。

普段だったら、俺なんかの存在を気にすることはなく、俺たちに与えられた部室で粛々と座っているだけだというのに。

 

 

「そうそう、比企谷君に伝えなくちゃいけないことがあるのよ。比企谷君のことについて話していると時間が経つのを忘れるわね」

 

「お前の優先度は俺への罵倒の方が上か……」

 

 

そのセリフだけ見ると、世の中の男性が何人血の涙を流すのだろうか。

しかし、残念ながら『俺のことについて話す』というのは雪ノ下の脳内パソコンでは『俺へのダメだし』と変換される。

壊れているのは分かっているのに、どうしてコイツはパソコンを買い換えないんだ。

元々の自頭がスパコン並の能力を持っているからだろうが、他人に被害をもたらすという致命的なバグがあるぞ。

そのバグが修正されるのは一体いつのことになるのやら。

 

 

「今日のクラブ活動は休みよ。私に用事が出来てしまったから」

 

「そーかい。そりゃあこっちとしては願ったり叶ったりだが」

 

「由比ヶ浜さんにも伝えておいて頂戴。それじゃあ私はこれで」

 

 

言い残すと、雪ノ下は足早く帰っていった。

何かしら大事な用でもあるんだろうが、プライベートには踏み込まない。

俺がそういうのに踏み込むと、本気で女子が俺をストーカー扱いし始めるからだ。

いやあ……思い出すな、小学生の時の学級裁判。

ちょっと『家帰ったら何するの?』って聞いただけなのに、クラス全員から『謝れ』コールをされたのには心が折れそうになってた。

 

 

「……おい比企谷?もともと濁ってる目が余計に濁り始めてんぞ?もはやどす黒い勢いなんだけど?」

 

「何、昔のことを思い出してただけだ。数の暴力って子供にとって残酷だよな」

 

「お前って、幸せだったことってのがあったのか疑問になるレベルで暗い過去背負ってんだな……」

 

 

花村が俺に同情したのか、肩にポンッと手を置いた。

その優しさだけでありがたいと思う俺がいる。

 

 

「……過去のことをいつまでもグダグダ考えてる暇はない。さっさと由比ヶ浜に連絡して帰ろう」

 

「お?お前もう帰るのか?なんだったらどっかに寄ってかね?」

 

「寄ってくってどこがあるんだよ?せいぜい惣菜大学くらいしかないだろーが」

 

「へっへっへ……そこはお客さん、我がジュネスをご愛用いただければいいだけじゃないですか?」

 

「パス」

 

「な、なんでだよ!?しかも即答ってお前!」

 

「なんとなくそのノリがうざいと思ったから。しかもお前が得するだけじゃねえか」

 

 

こいつ、自分がジュネスの店長の息子だからって俺まで食い物にする気か。

やっぱり無償の友情なんて存在しねえ、俺のぼっち生活最強説が真実味を帯び出してきたな。

 

 

「別に俺は得しねーよ!オヤジの売上が上がろうが俺には全く還元されないの!しかも精一杯茶目っ気たっぷりで言ったのに、それをうざいって酷くね!?」

 

「おそらく俺以外の誰が見てもウザイと思うぞ。なにいきなりかしこまって喋り始めてんの?雪ノ下あたりなら養豚場の豚を見るような目で見てくること請け合いだな」

 

「雪ノ下はどこの波紋使いなんだよ!?」

 

「どっちかってーと女王様だな。基本的にプライドが高いやつだし」

 

「あー、分かるわ。あんだけ美人なのにもったいねーな」

 

「あれだぞ?美人だからこそ、今まで妬まれたり恨まれたりひどかったんだからな?」

 

「え?……もしかして、雪ノ下って」

 

「俺と同じようにぼっちだ」

 

「マジかよ!だからあんなにひねくれた性格に……」

 

 

雪ノ下の場合、誰もがあいつのレベルに追いつけなかったため必然的に孤高の存在にならざるを得なかったっていう違いが俺とのあいだにあるけど。

おかしなもんだ。有能な奴ほど思うとおりに生きられないなんてな。

集団において、優れた存在は排除される。

出る杭は打たれるのではない。抜いて捨てられるのだ。

捨て置かれ雨風に晒されいずれ朽ち果てる。

 

人間は完璧じゃないから、自分より上の存在がいたら蹴落とすことしか考えない。

自力でそこまで上り詰めてやろうと考えない。

集団になって、そいつをいないことにする。

そうすれば、そいつがどれだけステータスが高くてもゼロにできるからな。

 

 

「そんなことはどうでもいいか。由比ヶ浜のやつ、どこ行きやがった?」

 

「あいつだったら、さっき里中達と喋ってた気がするな」

 

 

里中か……

あいつは、あまり人を見た目で判断しないから俺的には喋るのが楽な相手だ。

というか、由比ヶ浜と同様、どこかアホっぽい雰囲気があるからってだけかもしれないが。

 

 

「どこにいるかわかるか?」

 

「屋上じゃねーか?あいつらよく行くし」

 

「そうか、それじゃ」

 

「さっさと行こうぜ」

 

「え?お前もついてくんの?今俺さよならって言うところだったんだが」

 

「俺は里中達に用があるからな。それなら問題ないだろ?」

 

「……なんだか釈然とはしないが我慢してやろう」

 

 

こいつのドヤ顔を見てると心底腹が立ってくる。

確かに花村は里中とは仲が良かったはずだ。

それなら問題ないか?

だというのに、どことなく罠にはまった感じがするのはなぜだろう。

 

 

「おっ?お前それ何飲んでるんだ?」

 

「マックスコーヒー」

 

「あー、あのスッゲー甘いやつか。それってもはやコーヒーとは別の飲み物みたいだよな」

 

「人生は苦いから、コーヒーくらいは甘ったるくていい」

 

「ただ甘党なだけじゃねーの?」

 

「うっせ」

 

 

本当に中身のない無駄な話を交えながら、俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ヒッキー!どうしたの屋上なんか来て?」

 

「どうしたも何も、お前を探してただけだ」

 

「え、あたしを?」

 

「雪ノ下からの伝言『今日は部活なし』以上。それじゃあこれで」

 

 

由比ヶ浜は、花村の予想通り屋上にいた。

俺が声をかける前に、こっちを向いてキャンキャン鳴いている様を見ると、どことなく人懐っこいバカ犬を連想させるのは俺だけだろうか?

やらなくてはいけないことは手短にという、どこか別のクラブの生徒が言ってそうなセリフを頭に思い描きながら必要最低限の言葉を由比ヶ浜に伝えると、そのままくるりと反転した。

さーて帰るか。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよヒッキー!それだけって酷くない!?」

 

「酷いって言われても、俺にはこれ以上要件は存在しねーぞ」

 

「そうじゃなくて、言葉が短すぎるって!普通はもう一言二言足すもんじゃないの?」

 

「なんだよ、そんなに俺と会話がしたかったのか?」

 

「違うし!……え、あ、違わないっていうか、そうじゃなくて……」

 

「お前って本当にバッサリだよな。もう少しコミュニケーションってやつを勉強しろよ」

 

「今まで必要なスキルじゃなかったからな」

 

 

なんか顔を赤くしてモジモジしだした由比ヶ浜を尻目に花村が呆れ声を出す。

マジでこうやって話す機会少なかったんだから仕方ないだろうが。

むしろここ半年でだいぶ進歩したと言い張れるくらいだ。

 

 

「ちょっと比企谷君、もう少し言い方ってもんがあるでしょ?」

 

「言い方もなにも、これが俺の限界だ。一日にこれだけの人数と話すことすら俺にとっちゃ大記録だぞ」

 

「うっわ……どんだけ人と会話してないのよ……」

 

「おい、マジでドン引きするな。泣くぞ」

 

 

里中、そのリアルな反応やめろ。

過去のトラウマをまた思い出すから。

 

 

「どうして比企谷君はそんなに人と仲良くなれないんだろうね?私は別にそんなふうに思ったことないけど」

 

 

里中の親友の天城が突然口を開く。

あまりに予想外だったそのセリフに、他の連中も何故か便乗し始めた。

 

 

「あ、それはあたしも思った!比企谷君はちょっとひねくれてるだけで、喋ってみると案外普通だもん」

 

「でしょー?ヒッキーって本当は優しいんだから!」

 

「俺もこうやって気兼ねなく話せるやつ今まで少なかったから、仲良くなりてーのによ」

 

「それはあれか。『俺らって友達だよな?』って聞いたら、微妙な顔をされて『えっあ、あぁうん』とか返された俺に対する嫌味か」

 

「お前の話を聞いてると、お前に友達がいなかったのは、お前自身じゃなくて周りの環境に原因があるように思えてくるんだが……」

 

 

そうなんだろうか?

あまり気にしたことがないし、そもそも物心ついたころにはこういう感じだったから意識しなかった。

 

 

「でも雪子の言うとおりだと思うんだ。喋ってても受け答えはまともだし、ひねくれてるけど悪人じゃないし。昔の知り合いには比企谷君を見る目がなかったんじゃない?」

 

「過大評価しすぎだ。むしろお前らが優しすぎるだけじゃねえか?」

 

「そうかな?私でも嫌な人は嫌だって言うけど?」

 

「俺のことを深く知れば知るほど嫌いになってくと思うぞ」

 

「ほっほーう?」

 

 

花村が、何か調子に乗り始めた気がする。

なんかうざい。

俺の言葉を聞いて、ニヤニヤしてるし。

 

 

「そういうことなら、本当に嫌いになるのかどうか確かめるために、これから一緒に帰ろうぜ?」

 

「はっ?なんでそうなる――」

 

「あ、賛成!あたしも比企谷君と色々話したいことがあったんだよねー」

 

「ちょっと待て――」

 

「私も、比企谷君がどんな人なのか知りたい」

 

「俺の意見は――」

 

「ヒッキー、諦めよう?」

 

 

由比ヶ浜、お前俺を諭してるように言うけど、お前もなんか顔がにやけてるのを見逃してねえからな。

そんなに俺を笑いものにして楽しいか。

俺についてを話すとか、本気で自殺レベルなんだが。

 

 

「そんじゃー里中どこ行く?」

 

「ジュネスでいいんじゃない?これだけの人数が座れる場所ってあそこぐらいしかないし」

 

「……一緒に帰るだけじゃないのか?どうして寄り道すること前提になってんだ」

 

「今まで一年間、何も自分のことを話そうとせずに、周りから距離をとってたせいだと思うよ?」

 

「そんなことしてるから、皆がヒッキーのこと何にも知らないんだから、責任は自分で取らなくちゃ」

 

「俺はぼっちでいいって言ってんだろ……おい、どうしてそんなにお前ら俺に近づいてくる。ちょ、待て、花村襟首を引っ張るな!里中も袖を掴むな!!放せ!!」

 

 

こうして俺は、ドナドナよろしく、哀れな子羊となって人攫いにあうのであった。

どこで俺は間違えた?妙にこいつらの心の距離が近すぎる。

田舎特有の、みんな仲良くとか言う奴か。

都会育ちの俺に通用すると思うな。

……よく考えたら、花村もそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか母ちゃんが俺の名前が間違ってる誕生ケーキを用意しているとは思わなかったんだ」

 

「お前のお袋さん、どんだけうっかりなんだよ!?」

 

「ヒッキーのママって息子の名前も覚えられないほどなの?」

 

「いや、小町のやつを間違えたことが一切ないから、それはない」

 

「比企谷君……ドンマイ」

 

「家族にまでなんて……もう、それって特殊体質か何かじゃないかな?」

 

「得するところが全くない、こんな特殊体質いらねえ」

 

 

さすがに引っ張られ続けるのは恥ずかしいので、渋々ながらこいつらについていくことにした。

ここでそこらのぼっちであれば『あれ?俺ってリア充なんじゃね?男とも喋ってるし、美少女に囲まれてるからリア充なんじゃね!?』と有頂天になっているだろうが、訓練されたぼっちたる俺は違う。

 

こいつらはただ単に物珍しいものを話題にあげたいだけだとわかっている。

俺の過去というのは、自分で言うのもアレだが相当珍しいものだらけだ。

むしろそういう他人の弱みを見つけて自分が優越感に浸りたいだけに過ぎない。

ある程度俺の過去について聞き終わったら、そのまま自然消滅する程度の繋がりでしかない。

 

要は一発屋の芸人と同じなのだ。

その場では面白いけど、時間が経つにつれて誰の目にも止まらないものと化していく。

そうやって、自分は人気があると勘違いして、いろいろやらかすと、あとには目も当てられない惨劇が待っている。

期待するだけ無駄だ。どうせいつかいなくなる。

それならば、最初から期待せずに『あ、わかってますから。自分、そんなに深入りするつもりないんで、笑えるだけ笑ったらお好きなところに行ってください』と思うくらいの心構えは必要だ。

 

 

「いやーマジで比企谷おもしれーわ。お前話するのうまいじゃん。どうやって鍛えたんだよ?」

 

「多分妹だな。つーか妹以外でまともに会話できる奴いねーから」

 

「そこで家族以外が出てこない比企谷君の残念っぷりといったら……」

 

「少なくとも花村より残念とは言われたくない」

 

「陽介君って口を開けばがっかりだもんね……」

 

「ひでえ!?俺ってそんなに喋ると残念なの!?」

 

「うーん……第一印象は花村君が上だけど、喋り始めると比企谷君の方が圧倒的に勝ちだね」

 

「見た目が残念なのは比企谷君で、喋る内容が残念なのは花村かな……」

 

「知らされたくなかった真実!天城も里中も俺の敵に!?俺の味方はいないのか!?」

 

「心配すんな。こいつらの評価がおかしいだけだ」

 

「ひ、比企谷!俺は信じてたぜ!お前だけは俺の味方だって!」

 

「俺もお前もそんなに差はない。どんぐりの背比べってやつ。相対的に俺の評価が上がってるけど、俺のトーク力は最低値だから。俺が強いんじゃない、お前が弱いんだ」

 

「完全に俺にトドメさしにきやがった!」

 

「うわあヒッキー容赦なさすぎ……」

 

「リア充は俺の敵。サーチアンドデストロイ、見敵必殺。俳句を詠め慈悲はない」

 

「比企谷君が水を得た魚のごとく花村を追い詰めてる……」

 

「色々溜まってたんだよ……たまには発散させないとだから」

 

「その発散先が俺になってるんですが!?」

 

「何、痛みは一瞬だ」

 

「ぎゃーーーー!!」

 

 

だからせめて、こういう時ぐらいは俺も会話を楽しんでもバチは当たらないだろう。

いつかはできなくなるとしても、この瞬間だけでも楽しめるならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?陽介か?」

 

 

 

突然、声をかけられた。

俺ではなくて、花村に。

その声を聞いて、花村は呆然と声の主の方を見やる。

まるで、そこにいるのが信じられないものを見るような目だった。

それでも、間違いなく、その瞳には歓喜の色が混じっていた。

 

 

「お、お前…………なんでここに……?」

 

「なんでもなにも、ここに引っ越してきたからだ。まさか陽介がいるとは思わなかったけどな」

 

「……俺も、半年前にオヤジの転勤でこっちに来たんだ」

 

「そうか、奇遇だな。こっちも親の都合で叔父さんの家に居候させてもらうんだ」

 

 

そこにいた少年は、俺と同い年くらいで、灰色の髪色にパッツン気味の髪型。

イケメンと言われるほどの顔立ちをしていた。

大きなカバンを肩から下げているのを見るあたり、本当に引越しに来たんだろう。

そして、花村の尋常じゃないこの反応。

多分だが、こいつこそがさっきまで言っていた『俺と気が合う男』だと直感した。

 

 

「マジかよ……じゃあ、またお前と同じ学生生活を送れるってことか」

 

「そうだな。俺もそれはすごく嬉しいさ。……あの時ほど人数は多くないのが残念だ」

 

「あー……なんか悪い。あまりのことに感動して、言葉が出てこねえや」

 

「こっちも感情の整理がつかない。こんな偶然があるなんて、あまりにも嬉しすぎる」

 

 

声こそは大きくはないが、その端々からこぼれてくる喜色が半端ではない。

あれか、嬉しくて嬉しくて言葉にできないってやつか。

そんな取り留めもないことを考えていると、花村と少年は互いに拳を握りながら助走をつけ始めた。

 

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「陽介ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

バキィ!!

 

 

そのまま二人は、何故か互いの頬に拳を叩きつけ、見事なクロスカウンターを披露していた。

え、なに?なんなのこの空気?

続いて、二人は拳を離すと『ピシ!ガシ!グッ!グッ!』とどこかの漫画で読んだような行動をとって、片手でハイタッチを決めた。

マジで何これ?

 

 

「いやー!悪い悪い!なんか久々にこいつと会ってテンションがおかしくなってたわ!」

 

「陽介、この人たちは?」

 

「俺の友達だ!どーだ、美少女だらけだろう?羨ましかろう!?」

 

「ああ!すごく羨ましい!」

 

「そうだろう!もっと羨ましがれ!」

 

「だが、俺には彼女がいるからその点では俺の方が上だ!」

 

「チクショォォォ!!思いっきり負けた!!」

 

「……フッ」

 

「あー!鼻で笑いやがったな!?……ところで、そのマリーちゃん元気?」

 

「あっちにいるぞ。なんだったら後で呼びに行くけど」

 

 

こういう、共通の話題で盛り上がられるとどう入ればいいのかわからなくなる。

まあもともと俺は、周りの人間の共通の話題なんてものを持ってなかったけどな。

 

 

「えーっと……そっちの君、花村の友達?」

 

 

さすが里中、空気なんか関係なしに質問に行きやがった。

 

 

「ああ。中学の時の友達だ」

 

「そうだ。あいつをお前に紹介したかったんだ」

 

「あいつ……?」

 

「ほら、そこに一人混じってる奴。あいつ、絶対お前と仲良くなれるから!」

 

 

勝手にハードルをガン上げするのやめろよ。

こいつクールっぽいけど、天然だろ。

さっきの会話でなんとなく察したわ。

こいつ、お前の言うことそのまま素直に信じちゃうだろ。

 

 

「そうか、それは楽しみだ。仲良くしような」

 

「え、あ、はい……」

 

 

ほらなんか信じきっちゃってる。

あとこいつコミュ力高い。初対面でもお構いなしにグイグイきてる。

しかも今俺ナチュラルに握手に応じちゃったよ。

いつぶりだ他人と握手したのって。

 

 

「俺は鳴上悠っていうんだ、今後ともよろしく。そっちは?」

 

「あ、おう……俺は比企谷八幡だ。その……よろしく」

 

 

 

これが最初の出会いだった。

『いつかはできなくなるとしても、この瞬間だけでも楽しめるならそれでいい』と思っていた俺がなんだかんだ付き合うことになる人物――鳴上悠との出会いが。

 

 

 

 




多分続かない。
続くとしても、遠い未来。
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