やはり俺のペルソナはまちがっている。   作:俊海

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すみません、モデムの調子がおかしくて修理してもらってました……

今回は鳴上視点です。
それではどうぞ。


He can reach out to the truth.

まさか、こんなところで昔の友人と再会するとは思わなかった。

俺の転校先と、陽介のオヤジさんの転勤先が一致するなんて偶然、なんという幸運だろう。

昔のことを思い出して、懐かしい気分になってしまう。

 

それにしても、陽介にもまた友達が出来たんだな。

もともと誰とでも仲良くなれる性格をしている陽介だから不思議でもないけど、その友達から妙な印象を受けた。

言っては悪いが、目が濁っているし、何かに諦めてしまった雰囲気がある。

どこか達観しているような、隠居している老人の空気をまとっているなんて、自分と同い年の人間とは思えない。

 

 

「比企谷でいいか?」

 

「お、おう……」

 

「陽介と仲良くしてやってくれてありがとう」

 

「い、いや、別に俺は花村と友達じゃ――」

 

「だから、これからは俺とも友達になってくれないか?」

 

「え、ちょっと何言ってんの?」

 

 

けれど、陽介が気に入ってるほどの人間だ、悪い奴ではないはず。

そうでなくても、陽介がいなければ俺はここでの知り合いはいない。

新たな友達を作りたいと思ってたところだ。

それに――

 

 

「なんとなくだけど、俺とお前って似てる気がするんだ。初対面の人に言う言葉じゃない気がするけどさ」

 

 

この比企谷という少年から既視感を覚える。

まるで鏡を通して違う自分を眺めているような。

 

 

「……おい花村、お前事前に打ち合わせしてたんじゃねーよな?」

 

「ちげーよ!すぐ人を疑う癖をやめろ!」

 

「だとしたら、コイツは電波なのか?」

 

「…………うん、その点はすこし俺も否定できない」

 

 

何か不名誉なことを言われている。

けど、ここで俺が何か言うと逆効果になる気がする。

……そっとしておこう。

 

 

「それじゃあ比企谷と悠が仲良くなったところで、せっかくだし悠も俺達と一緒に来るか?これからみんなでワイワイやろうって話になってんだけど」

 

「……ああ、全くもって不本意甚だしいがな」

 

 

明るくしゃべる陽介とは対照的に、比企谷があからさまにどんよりした空気を漂わせている。

……もしや、陽介が無理やり引っ張り込んできたんだろうか。

陽介には昔からそういうフシがあったからな。

 

 

「そうしたいのは山々なんだが、これから俺の引越しの荷物の整理をしなくちゃいけないから今日は無理だ。また今度誘ってくれ」

 

「そっか……今度ぜってー来いよ!約束だからな!」

 

 

快活に笑う陽介は、昔見たときのままの顔をしていた。

その笑顔を見ると、嬉しいような寂しいような気持ちになってくる。

まあ、これから新たな仲間が増えるんだ、寂しがってる場合じゃない。

 

 

「それじゃあまた。明日から学校に行くから、その時に会おう」

 

「おう!それじゃ皆行くぞ!」

 

「何急にお前がしきってんだよ。テンション上がりすぎだろ」

 

「昔の親友に会えたら上がるに決まってんだろ!?俺の嬉しさは有頂天になってんだ!この嬉しさはしばらくおさまることを知らないぜ!」

 

「なんだその変な日本語。有頂天は自分を忘れてうわの空である状態って意味で、限界突破とかいう意味はねーぞ」

 

「俺達の友人が言ってたんだ。陽介のは応用で、本人が使うときは『俺の怒りが有頂天になった!この怒りはしばらくおさまることを知らない』って感じだけど」

 

「……それを言うなら『怒髪天を衝く』じゃねーの?もしくは『怒りが頂点に達した』とか」

 

「あいつの言葉は、言ってる言葉はわからないけど言ってる意味は通じる喋り方だったからな」

 

 

あいつも元気にしているだろうか。

最後に分かれた時には、イギリスに帰っていくところだから今どうしているのかわからない。

せっかくの機会だし、今夜あたりにメールでもしてみよう。

 

 

「じゃあな!」

 

「ああ、また明日」

 

 

陽介達に別れを告げて、駅の方へと戻っていく。

そろそろ叔父さんが迎えに来てくれる時間だ。

叔父さんを待たせるわけにも行かない。

 

 

「むー、遅い。ちょっとその辺を見てくるだけって言ったのに、ばかきらいさいてーちこくま」

 

 

顔を膨らませて不機嫌そうにしている女の子が立っていた。

というか、マリーだった。

そんな怒っている顔すら可愛いと思える俺は、盲目になっているのかもしれない。

 

 

「ごめん、そこで陽介と会ったんだ。それで話し込んでたら遅くなった」

 

「えっ、ガッカリーいたんだ。すごい偶然だね」

 

「ああ、だから同じ学校に通うことになるな」

 

「そっか……」

 

 

マリーが黙り込んでしまった。

けれど、それは悪感情からくるものじゃなく、どこか嬉しそうにしている。

……ああ、そうか。

 

 

「これでマリーも『青春』ができるな。お前はあの時学校に通えなかったけど、これからは同じ仲間だ」

 

「……うん。私、まだ『セーシュン』っていうのがなんなのかよく分からないけど、あの時はとっても楽しかった。だから、学校に行けばもっと楽しくなれる……違う?」

 

「そうだ。やっぱり学生生活っていうのは、辛くもあるが楽しいものだからな」

 

 

マリーは、三年前より昔の記憶がない。

俺が森の中で倒れているマリーを発見したが、記憶喪失になっている上に身元不明であったため、そのまま俺の家に連れ帰らざるを得なかった。

その時の俺は、親にどう説明したらいいのかと頭を悩ませていたが、両親とも即座にOKしてくれたのには面食らった記憶がある。

自分の親ながら、寛容さが半端ではない。

 

それ以来、我が家で保護して、両親も実の娘みたく可愛がるものだから、いつの間にかそのまま家族の一員になってしまった。

今回は、両親が海外に出張するから二人で叔父さんの家に住まわせてもらうんだが……

 

 

「おーい、こっちだ」

 

 

気づくと、ワイシャツ姿にネクタイを緩めている男性と、小さな可愛らしい女の子が立っていた。

 

 

「ようこそ稲羽市へ、お前らを預かる堂島遼太郎だ。ええと、お前のお袋さんの弟だ。一応挨拶しておかないとな」

 

「初めまして、鳴上悠です」

 

「えっと……はじめましてマリーです。……これでいいの?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

マリーはあまり人と関わったことがない。

それゆえに、人との接し方もよくわかっていないから、今の挨拶にも不安を覚えたんだろう。

頭を軽く下げながら、伺うようにこっちに確認を取ってくるマリーを見たら一目瞭然だが。

 

 

「はは、マリーの方はともかく、悠はオムツを変えたことがあるんだけどな」

 

「そうだったんですか?……すみません、覚えてないです」

 

「謝らなくていいさ。だいたい覚えてる方がおかしいだろ」

 

 

笑いながら手を振ってくる。

最初は、すこし人に威圧感を与える印象があったが、冗談を言ってくるあたり人当たりはいいんだろう。

マリーはいろいろと天然なところがあるから、フォローしなくちゃいけないかもと思ったが、この人ならそんな心配は必要ないか。

 

 

「……すごい髭。こーゆーのを渋いっていうの?」

 

「渋いとは、なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。お前の事情も知ってるから、できるだけサポートできるように努める。できることがあったら何でも言ってくれ」

 

「え?いいの?」

 

「あんまり無茶なことは言わないでくれよ?流石に俺でもできないことぐらいあるからな」

 

「そっか……うーん、こういう時に言うのは…………ありがとうございます?」

 

「おいおい、それを疑問に思うほどなのか?」

 

 

その通りだ。

実を言うと、今の会話が普通にできただけでマリーとしては上出来である。

昔だったら、『渋い』だの言う前に『変』とか言い出しても不思議じゃなかったんだから。

 

 

「はい、マリーの記憶喪失は少々複雑なんで。何かと迷惑をかけるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」

 

「そこまでかしこまらなくていいぞ。子供に面倒をかけられるのが大人の仕事だからな」

 

「そう言っていただけると助かります」

 

 

懐の大きい人でよかった。

さすがは、あの母さんの弟だ。

 

 

「で、こっちは娘の菜々子だ。ほれ、挨拶しろ」

 

「……こんにちは」

 

 

女の子――菜々子がもじもじしながら挨拶をしてくれた。

俺達が初対面だから、恥ずかしがっているのだろうか。

内気なんだったら、立ったままだと怖がるかもしれない。

怖がらせないように腰を落として、菜々子と目線を合わせて挨拶を返す。

 

 

「こんにちは菜々子、これからよろしく」

 

「あ、私もよろしく」

 

 

俺に引き続きマリーも挨拶する。

が、菜々子は叔父さんの後ろに隠れてしまった。

なるべく、笑顔で挨拶したつもりだったんだが……やはり、呼び捨てしたのはダメだったんだろうか。

ところが、叔父さんは、少し落ち込んだ俺を見て可笑しそうに笑っている。

 

 

「菜々子は照れてるだけだ。怖がってるわけじゃないから安心しろ」

 

「お父さん!」

 

「いてっ、ははは」

 

 

照れ隠しなのか、菜々子が叔父さんをポカポカ殴り始めた。

しかし、小さい女の子が大の大人である叔父さんを殴ったところでダメージなんか無いに等しい。

その行動が微笑ましくて、叔父さんが余計に笑い始めるという逆効果を発揮することになった。

 

 

「じゃあ行くか。車はこっちだ」

 

 

仲の良さそうな親子でよかった。

うまくやっていけそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、トイレ行きたい」

 

「わかった。悠、マリー、ガソリンスタンドに寄るぞ」

 

「はい」

 

「いいよー」

 

 

ガソリンスタンドに寄ることになった。

マリーはなんとも気の抜けた返事をするが、叔父さんは全く気にせずそのままガソリンスタンドに停車させた。

 

 

「らっしゃーせー」

 

 

店員は、銀髪の男性……だろう、声から判断すると。

見た目からでは、男なのか女なのかよく分からないくらい中性的だ。

……なんとなく、俺と声が似ているような気がする。

 

 

「……マリー?」

 

「え……何?」

 

「袖、掴んでる」

 

「あ、あれ?本当だ。なんでだろ?」

 

 

なぜか、マリーがガソリンスタンドに入った瞬間、俺の服の袖を握り締めた。

なにか怖いものでもあったんだろうか。

別に、普通の光景としか思えないんだが。

 

 

「トイレ、一人でいけるかな?」

 

「うん」

 

「奥を左だよ。左って分かる?お箸持たない方だよ」

 

「わかるってば……」

 

 

店員が菜々子にトイレの場所を教えているけど、しつこく聞きすぎて疎ましく思われてしまっている。

親切なだけなのか、それとも面倒見のいいオカンタイプなんだろうか、お節介焼きだ。

菜々子がトイレの方に行くと、今度は叔父さんに話しかけ始めた

 

 

「どこか、お出かけで?」

 

「いや、こいつらを迎えに来ただけだ。都会から今日越してきてな」

 

「へえ、都会からですか」

 

「ああ、それとレギュラー満タンで頼む」

 

「はい、ありがとうございまーす」

 

 

話を終わらせると、叔父さんはタバコを吸いにどこかに行ってしまった。

この流れだと、次は俺に話しかけてくるんだろうか。

そしたら案の定、店員の目線が車の中にいる俺と合った。

 

その時、横から振動が伝わってきた。

携帯だろうか。

気になって横を見ると、驚いてしまった。

 

真っ青になって体を震えさせているマリーがいたからだ。

両腕を肩にやって、身を縮こませて、何かに恐れているように怯えている。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「……何かわからないけど、あの人が嫌」

 

「嫌?」

 

「うん、出来れば顔を合わせたくないくらい……」

 

 

彼の何がマリーをここまで追い詰めたのだろうか。

普通の人間にしか見えないけれど。

 

でも、そこまでマリーが怖がるなら仕方ない。

俺が外に出て、一人で店員の相手をしよう。

 

 

「なるべくかがんでおけ。見つからないように」

 

「……うん、分かった」

 

 

マリーを陰に隠れさせると、車から降りる。

どうやら、本当に俺にしか興味が行ってなかったようで、車内を見ることなく店員は愛想良く話しかけてきた。

 

 

「君、高校生?」

 

「はい、そうです」

 

「都会から来ると、何もなくてびっくりでしょ?実際退屈すると思うよ。高校の頃って言ったら友達の家に行くかバイトくらいしかやることないし」

 

 

話してくる内容も普通のものだ。

暇過ぎて、客に話しかけているとしか思えないが、この人の何がマリーを恐怖させたのか。

 

 

「で、ウチ今バイト募集してるんだ。よかったらどう?」

 

「あ、そうなんですか。……でも、来たばっかりだから、もう少し考えてからでいいですか?」

 

「ぜひ、考えておいてよ、学生でも大丈夫だからさ」

 

 

店員が俺に手を差し出してくる。

うん、少し馴れ馴れしいけれど、普通の人だ。

マリーのあれも、きっと気のせいだろう。

警戒を解いて、握手に応じる。

 

 

「なんなら、後ろに座ってる女の子にも聞いておいてよ」

 

「まあ、聞くだけなら」

 

「頼むよー。おっと、仕事しないと」

 

 

店員は叔父さんの車にガソリンを入れるために行ってしまう。

……普通に、マリーのこと気づいてたのか。隠れる必要はなかったな。

妙に気負ったせいか、頭が痛い。

もう車に戻ってしまおう。

 

 

「えっ……」

 

 

ちょっと足元がふらついてしまった。

頭痛のせいか?と考えていると、そこに戻ってきた菜々子が俺の方を見ていた。

 

 

「……だいじょうぶ?」

 

 

菜々子が心配そうに声をかけてくれる。

 

 

「車酔い?具合、悪いみたい」

 

「大丈夫、少し頭が痛かっただけだ。心配してくれてありがとう菜々子」

 

 

頭痛はもう治まった。

何か、異分子だが慣れ親しんだような、そんな奇妙な感覚が残ったままだが。

 

 

「おい、そろそろ出るぞ」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 

叔父さんも戻ってきて、ガソリンも入れ終わったのでガソリンスタンドを後にした。

 

 

「ねえ、ユウ」

 

「何だ?」

 

「今日の夢、何かがある……と思うよ?」

 

「……それはまた何でだ?」

 

「分からない……でも、そんな気がするんだ。その夢が、私に関係があるような……もしかしたら、君の夢に私も入り込んじゃうかも……」

 

「つまり俺の夢に出るほど、マリーは俺が好きなんだな」

 

「そんなこと言ってないでしょ!?何いきなり言い出すのさ!ばかきらいさいあくじいしきかじょー!」

 

「おいおい夫婦喧嘩するにはまだ年齢が足りないんじゃないか?やるならあと一年経ってからやってくれ」

 

「はあっ!?ふ、夫婦とか意味わかんない!何なの!?」

 

「はい、一年後には思う存分やらせていただきます」

 

「君も余計なことを言わないの!もう、心配して損した!」

 

 

マリーは、ポエムを書いたりするのが好きだからな。

ときおり、彼女の中の中学二年生が暴れることがあるのが見ていて楽しい。

さらに、我に返った時の恥ずかしそうな顔が更にベネだ。

だから、そういう顔見たさにマリーをからかう俺は悪くない。

今回は、叔父さんの援護射撃もあったからか効果はバツグン、いや眼福眼福。

 

 

「親の都合とは言え、お前らも大変だな。これから一年だけだがよろしくな」

 

「はい。マリー共々お願いします」

 

「むぅ……おねがいします……」

 

 

からかいすぎて拗ねてしまった。

だけど、いきなり夢の話をされても、いつもの発作が起きただけにしか見えない。

というよりそうなんだろう。

夢に出てくるだなんて、漫画の世界じゃあるまいし。

 

 

「悪かったなマリー。でも、夢とかいうのはただの気のせいだ。多分長旅で疲れてるだけさ。今日は早めに寝よう?」

 

「……ふーん。もういいもん。本当に夢に出ても君のこと助けないから、私」

 

「ははっ、逆に俺がマリーを助けてやるさ。女の子に守られるなんて男が廃るだろ」

 

 

まあそんな夢なんか見ないだろうけど。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう思ってた時が俺にもありました……」

 

 

ふと気がついてみれば、あたりは真っ白い霧で包まれている。

足元は石畳のように様々な色のブロックで埋め尽くされ、一本道のように続いていた。

最後の記憶では、確か俺は眠りについたはず。

ついでに言うと、こんな感じの場所を俺は知らない。

どう考えても夢の中です本当にありがとうございました。

 

 

「しかし、この霧のせいで何にも見えないな……」

 

 

夢の中はぼんやりしているから、どことなく霧が漂っているように見える人が多い。というのを聞いた気がする。

この霧もそうなのだろうか。

もう少し晴れれば先が見通せるのに……

 

 

『真実が知りたいって?』

 

「こ、こいつ……直接脳内に!?」

 

『それなら……捕まえてごらんよ』

 

 

いきなり頭に何かの声が響く。

が、このような異常事態、中学生の時に到達している道だ。

おかげで俺は、常人ならパニックになるであろう状況でもネタが言える程になった。

……いや、どっちかというと、慣らされたというべきか。

 

 

「……この声の言うとおりに動くのは危険な気がするけど、そうする他ないか」

 

 

さっきから自力で目を覚まそうと頑張っているが、どうにも起きない。

ええい、軟弱だな俺の精神は。

夢から覚めたら、日課に座禅でも加えてみようか。

なんだったら滝に打たれる修行をしてもいいかもしれない。

 

 

「それは置いといて、さっさと先に進もう」

 

 

新たな目標ができたところで、気を取り直して前に踏み出そう。

どうも、この声の主は俺が会いにいくまではこの空間から出すつもりはないみたいだからな。

どうして俺をこんなところに閉じ込めたんだ?

俺なんてただの一介の高校生だというのに。

 

 

「念には念を入れて……」

 

 

いつの間にか、俺の手には模造刀が握られていた。

これは、あいつらと色々やってたときから使っているもの。

今でも使う機会があるのが、どこかおかしい気がしないでもないが、この場に限っては助かった。

もしかしたら何かが襲いかかってくるかもしれない。

刀を構えながら、いつ不意打ちされてもいいように警戒しながら足を動かす。

一体この道はどこまで続いているのか……

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩く。

夢の中だというのに、疲れてきた。

精神的なものではなくて、普通に肉体的に。

これってもしかして、実際に俺が歩いているのか?

だとすると誘拐?

マリーが、自分の言葉を本物にするために、わざわざこんなドッキリをかましてくる可能性が微レ存……。

……ないわー。

 

 

「まあ冗談はこれくらいにして、どうもここみたいだな」

 

 

手で触れると、回転しながら扉が開いていく。

まるで漫画に出てくる未来のドアみたいだ。

ここまで一本道で、分岐点はなかったということは、入ってこいってことなのか。

そういうなら望むところだ、受けてたとう。

覚悟を決めて、扉の中に飛び込んだ。

 

 

『追いかけてくるのは……君か……ふふふ、やってごらんよ』

 

 

霧の中に、人がいる……その霧のせいで全く見えないけれど。

近寄っても、影が見えるだけで顔が鮮明に映らない。

もう手を伸ばせば届く距離にいるのにも関わらず、姿が見えない。

この霧、夢のせいだとしても何かがおかしい。

 

……もしかして、この霧も!?

 

 

「こういう時は、原因を叩くに限るな……」

 

 

中学時代から愛用していた模造刀を手にとって影を睨みつける。

これも夢の中だし、殴りかかっても問題ないだろう。

刀を強く握り締めると、影に向かって振り下ろした。

 

 

『へえ……この霧の中なのに、少しは見えるみたいだね。しかも躊躇することなく斬りかかってくるとは……』

 

「怪我したくなかったら、早く俺をここから出せ!」

 

『なるほど……たしかに……面白い素養だ』

 

 

会話が噛み合っていない。

宇宙人か、こいつ。

……にしても、今の攻撃確かにヒットした気がしたんだが。

当たってないのか、それともただただ打たれ強いのか。

 

何度斬りつけても、その声の調子が変わることがない。

「」にも攻撃させているのに、雷撃を打ち込んでいるのに、全く堪えていないように喋り続ける。

そうやって喋っている間にも、どんどん霧が濃くなっていく。

もう、こっちの攻撃は当たらない。

 

 

「ぐっ……クソッ!」

 

『でも……簡単には捕まえられないよ……求めているのが真実なら尚更ね……』

 

「言ってろ……!」

 

『誰だって、見たいものだけを見たいように見る……そして霧はどこまでも深くな』

 

 

途中で、声が止まった。

それと同時に鳴り響く雷音。

初めて、そいつの顔が歪んだ――気がした。

もしかして、誰かがこいつに雷撃を食らわせたのか?

 

 

「ほら言ったじゃん。夢で何かあるって」

 

「……マリー?」

 

 

影の後ろからマリーが現れた。

しかも、背後になにか巨大な人間らしいものを引き連れて。

ま、マリーのやつ、いつからスタンド使いに!?

 

 

「何驚いてるの?君だって出してるでしょ?」

 

「……えっ?あ、本当だ」

 

 

攻撃するのに夢中になってて気づかなかったが確かにいる。

何か、フルフェイスに学ランっぽい服を着てるスタンドが。

そういえば無意識のうちに攻撃させてた気が……

しかし、そうなると俺はいつスタンドの矢に貫かれたんだ?

 

 

「……あのさ。冷静に混乱するのはいいけど、早くここから出よう?そのために私来たんだし」

 

「あ、ああ……そうしよう……」

 

『貴様……よくも私の前に出てこれたな……』

 

「はぁ?意味わかんない。ユウを助けるのは当然でしょ」

 

『……ああそうか、その気持ちの方が上回ったのか……私への潜在的な恐怖よりも……」

 

「もー疲れたし、帰るよ?アルパカ風に言ったら『じゃ、起床系の仕事があるからこれで』ってやつ」

 

 

マリーが影をスルーしながら近づいてきて、手を差し伸べてくる。

この手を取れば、元の世界に戻れるんだろうか。

俺としてもこんなところに長居はしたくない。

何がなんだかわからないが、マリーの手を握ろうとした

 

 

 

 

 

 

 

その時、俺達の間に雷が落ちる。

 

 

「うおっ!?」

 

「あうっ!」

 

 

落雷の衝撃で、俺とマリーは吹っ飛ばされた。

どこから雷なんかが……

いや、それはわかる。

ただ、理由がわからない。

 

 

『逃がさないよ……お前だけは……』

 

 

今まで、俺の攻撃を受け続けてきた影が、攻撃してくる意味がわからない。

俺の攻撃した数はマリーよりもはるかに多いのに、それでも反撃しなかった奴が、たった一発の雷で怒り出すわけがない。

どういうことだ。

なぜ、こいつはマリーにだけ?

 

 

「うっ……ううぅ……あ、畜生……」

 

「あ、あぐぅ……」

 

『おやおや、今の一発だけで動けなくなったみたいだ。なあに、君は元々元の世界に戻すつもりだったんだ、君だけは帰してあげるよ』

 

「マリーを……どうするつもりだ……!」

 

『君には関係ないことさ……さあ、終わらせよう……』

 

 

何かしている。

手に何か、力を集めて、何かをしようとしている。

 

マリーを、殺すつもりだ。

あいつは、マリーを消し去るつもりだ。

俺の、大事な……!

 

 

「や、やめろ……」

 

『無駄だよ』

 

 

苦し紛れに、雷撃を放つ。

だが、霧に包まれたあいつに当たらない。

あいつの憐れむような声が、それを確信へと変えさせていく。

 

なら、なんとしてでもマリーに近づかないと。

あと少し、あと少しでマリーの手が届くんだ。

そうすればきっと、一緒に元の世界に戻れる。

ここから、あいつから、逃げ出させる。

 

でも、間に合わない。

俺の指先は、マリーには届かない。

アレを喰らうまでには時間が足りない。

 

ああ、クソッ!

マリーは、マリーだけでも……!

なんとか、せめて盾になれれば……!

 

 

『さらばだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかよ」

 

『なっ!何っ!?』

 

 

放たれるその瞬間、あいつに炎が襲いかかった。

全てを灰燼に帰すような、煉獄の炎。

辺り一面が炎に包まれる。

 

 

「えー、何ここ。顔知ってる奴がやられてたからとっさにやっちゃったんだけど大丈夫?これで正解なの?どういうのこれ?夢?」

 

 

一人の少年が入ってきた。

その少年は、自分がやってしまったことに疑問を覚えて俺に確認をとってくる。

そう、昼に出会ったばかりの少年だ。

陽介に紹介されて、友達になったばかりの。

 

 

「……比企谷?どうしてこんなところに?」

 

「そんなの俺が聞きてーんだけど。ドラマの撮影かなんか?……いやいやだったら俺の炎はなんだっつーの」

 

 

何も事情を知らない?

俺と同じように、夢の中でこいつに引き釣り込まれたのか?

 

 

『……どうやってここに入れたんだ?』

 

「あ、すみません。なんか勝手に入っちゃって」

 

 

が、そいつ自身が不思議そうなトーンで比企谷に問いかける。

比企谷をここに連れてきたのはこいつではないということか?

あと比企谷、低姿勢にならなくていい。

 

 

『……君はどうして私に攻撃できたんだ?』

 

「……なんででしょうかね。ここ歩いてるうちに摩訶不思議な力が俺に宿ったせいで炎が出せて……」

 

『そうじゃない。君は、私が見えるのかい?』

 

「……おいおい、ついに幽霊まで出てきちゃったよ。もしかしてあれか、俺死んじゃったのか」

 

『見えているんだね?……どうして霧に包まれた私を……』

 

「はい?霧なんてどこにあるんだ?」

 

 

えっ?

霧が見えていない?

こんなにも曇っているのに?

俺なんて、今にも自分の姿すら見えなくなりそうだというのに?

 

 

「えーっと鳴上だったか?逃げるなら今のうちだぞ?さすがにそうやってくたばってる人間見るのは目覚めが悪いから、逃げてくれると俺が嬉しい」

 

「す、すまん……マリー!」

 

 

必死の思いでマリーに手を伸ばす。

ようやく、届いた。

マリーもこっちを見ている。

この悪夢もこれで終わりだ。

 

 

『ああ、まさかこんな人間がいるとは……霧を見通す力がある人間がいるなんて……』

 

「中二病も大概にしろよ。あまりやりすぎると後で自殺したくなる衝動に駆られるから、ソースは俺」

 

『いつか……また、会えるかな……こことは別の場所で……フフ、楽しみにしているよ……』

 

 

比企谷の悪態も気にせず、影は楽しそうに笑いながらどんどんと見えなくなっていった。

いや、影だけではなく、周りのもの全てが真っ白に染まって……

 

ああ、これでようやく俺は起きれるのか。

最後の最後で、俺はそう理解した。

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