……なんで、こうヒッキーの言い回しが思いつかないんだろう?
それを言うなら、鳴上の方もですが。
それではどうぞ
「……なんつー夢見てんだよ俺は」
俺の中二病は完治していなかったというのか。
それなら軽く死にたくなるからやめてほしい所存だ。
なんだよ。なんで俺からスタンドが出てきて、挙句の果てに炎を出しちゃったりしてんの?
一体いつから俺は『魔術師の赤』を具現化できるようになったんだ。
ただでさえ学校に行かなくてはいけないという義務から俺の心は憂鬱だというのに、妙な夢を見たせいでテンションはダダ下がりだ。
いっそのこと体調不良とか嘘ついてでも学校休んでやろうか。
「……最後の方はただの俺の願望だな」
「何独り言を言ってるの?小町的にポイント低いよ?」
「なんで当然のように勝手に俺の部屋に入ってんだ。出て行け小町」
あまりにも精神的なダメージがでかすぎて、普段ならスルーする小町の不法侵入にもイラっときてしまった。
平常だったら、愛すべき我が妹が俺を起こしに来たのかと勘違いして喜び、小町にドン引かれるまでセットというところだったんだが。
「ところでお兄ちゃん。どんな夢見てたの?」
「勝手に俺のプライバシーに踏み込むな。黙秘権を使わせてもらう」
「残念ながらお兄ちゃんは黙秘権がありませーん」
どうやら、ついに俺は国からも人間だと認められなくなったらしい。
この国の国民には黙秘権が存在するというのに。
「……あれだ、想像を絶するくらいの悪夢を見てたんだ。猿夢と同レベルの」
「嘘だよね?もー、お兄ちゃんったら妙なところで秘密主義なんだから」
なぜバレた。
猿夢というメジャーな怪奇譚を出したというのに怖がりもしないし。
もしやこいつ、猿夢を知らなかったりするのか?
ありうる、こいつおバカだからな。
「そんな夢見てた割には、すごく楽しそうな寝顔だったけど?」
「…………はぁ?」
あんな夢でどうやったら楽しくなれるんだ。
昨日あったばかりの鳴上とかいうトップカーストぶっちぎり1位に輝いてそうなやつと、そいつのすぐそばにいた色白美少女を助けただけの夢だぞ。
やつらをフルボッコにする夢ならまだしも、真逆の行動をとって喜ぶわけがない。
……自分で言ってて思ったが、かなり自分って小さいな。
「そんなのどうでもいいだろ。ほら、着替えるからさっさと出てけ」
「はーい」
どうせ小町の勘違いだ。
気にせず棚に上げておこう。
――――――――
「貴様ら!静かにしろ!」
授業が始まるのをボッチで待機していると、俺達のクラスの担任になる教師が教室に入ってくるやいなや怒号を飛ばす。
……あー、担任、諸岡か。
「今日から貴様らの担任になる諸岡だ。いいか!新学期だからといって恋愛だの異性交遊だのと言って浮つくんじゃないぞ!ワシの目の黒いうちは、貴様らには特に清く正しい学生生活を送ってもらうからな!」
開口一番これだ。
周りのやつらは諸岡先生が担任になったことで、ため息の嵐、意気消沈である。
生徒にとって――いや、生徒でなくても――他人の行動を極端にまで制限するような発言をする人間が、自分を監視することを嫌うから、この反応も普通と言えよう。
だが、個人論で言うと、諸岡先生はある意味ですごく教師らしいと思っている。
教師なんてものは、嫌われてなんぼの職業だと考えているからだ。
そもそも教師は、宿題を出したり、したくないであろう勉強を強要してきたり、素行が悪ければ説教されたりと、生徒から好かれる要素の少ない人間だ。
それを、生徒と友好関係を結ぶだとか、いろいろ面白いことしてウケを狙いに行ったりだとか、どんな相談でものってやるだとかして生徒からのポイントを稼ぐことで嫌われないようにしている先生方の努力は、涙ぐましいものがある。
しかし、そんな人間は別に教師でなくてもいい。
俺には縁もゆかりもない話だが、それこそ『クラスメイト』にそういう人間はいるだろう。
それゆえ、友人がいる生徒からの好感度は、教師としてのマイナス評価がある時点でどう頑張っても『友達』に勝てっこないわけだ。
それならば、いっそのこと嫌われてしまったほうが生徒のためになる。
なにせ、人間は共通の敵を持っている方が団結するのだから。
クラスでの仲間意識は大いに高まることだろう。
わかりやすい『気に入らない人間』が毎日毎日教壇に立って、さらにむかつかせるセリフを吐き続けるんだし。
教師が本当にイジメだのをなくしたいなら、自分が犠牲になるのが一番早い解消法だ。
生徒間の問題を解決するのに、生徒に慕われる先生は必要ない。
その上、諸岡先生は青春するなんてくだらないと言っている。
まったくもってその通り、ここまで俺と意見の合う教師がいるとは思わなかった。
そのせいか、諸岡先生はどの生徒に対しても侮蔑の言葉を投げかけるから、奇妙な話だが俺を他の生徒と同じように扱ってくれる希少な先生でもあるわけだ。
そんな先生をどうして俺が嫌えようか。
まあ平塚先生の方が俺は好きだけど。
「それから、不本意ながら転校生を紹介する。都会からこの辺鄙な地方に飛ばされてきた哀れなやつらだ。言わば脱落者!没落貴族に過ぎんからな!貴様らは間違っても色目などを使わないように!」
なんで転校生を紹介するのにそこまで悪態をつけるのか。
そもそもそれでいいのか諸岡先生。その理論で行くと、この街自体がリタイアした奴らの集う虎の穴みたいな感じになるぞ。
あ、虎の穴って言ってもタイガーマスク的な意味だからな?同人誌的なあれを想像したやつらは廊下に立ってなさい。
「鳴上悠です。今後ともよろしく」
「マリーでーす。コンゴトモヨロシクー」
呼ばれて入ってきたのは、昨日とついでに夢の中でも再会してしまった少年と、夢でしか見たことがなかった少女だった。
……え、マジで夢じゃなかったの?
そうでもなかったら、あれって正夢かよ?
「…………」
(え、何あいつこっち見てんの?)
何あいつ怖い。
俺と目線があった瞬間になんかこっちを探ってくるような鳴上の意思がダイレクトに俺のところに来たんだが。
夢のことについて聞きたがってるのが丸分かりだ。
なんなの?あいつはエスパーなの?視線で女を殺すどころか人を射殺すレベルなの?
「……ちょっとヒッキー、鳴上君に何かしたの?すっごい睨みつけてきてるよ?」
「知らん、そんなの俺の管轄外だ。いやマジでわかんねーんだけど」
俺の隣の席に座る由比ヶ浜が鳴上の奇妙な眼差しを察知して俺にこっそり訊ねてくる。
しかし聞かれたところで俺にはなんの回答も出せない。
せいぜいが『昨日見た夢であいつらと出会いました』とか電波全開な返答しか用意できないのが現状だ。
そんなものを口走ったら、アホの子である由比ヶ浜に頭の心配をされるという、人類史上最も不名誉な称号をあえなく押し付けられてしまうので答えないが。
「昨日だって、握手したぐらいでほとんど会話もしてないし、握手自体もあいつの方からやってきたんだから気に障ることもない……よな?存外俺の手の感触が気持ち悪かったとかじゃない限りは大丈夫だ」
「それもそうだよねー。いやーそれにしてもあの二人って並ぶと絵になるよね。まさに美男美女って感じで」
「全くその通りだ、早く死なねぇかな鳴上、あと寿命どんくらいだろ」
「……ヒッキーって『死ねとか殺すとか軽々しく言うんじゃねぇよ』って言ってなかったっけ?」
む、由比ヶ浜にツッコミを入れられた。
なんという不覚、ここ最近で最大の汚点だ。
けれど俺ってば超心広いから間違ってると認めればすぐに修正するぐらいの度量はある。
世の中には言うべきではない言葉も多く存在する。特に人様の命に関わる言葉はとても強く作用する。誰かの命を背負う覚悟がないならけっして口にするべきではない。を常日頃から信条としているのだから。
「ああ、それもそうだな。訂正しよう。早く染色体の末端のテロメア配列が無くならねぇかな鳴上、あとテロメアの長さどんくらいだろ」
「……『てろめあ』って何?」
「あとで雪ノ下にでも聞いてみろ」
雪ノ下に聞くまでに『テロメア』という単語を覚えていたらの話だが。
ちなみに『テロメア』とは、細胞分裂の回数を決める重要なファクターであるとだけ言っておこう。
「センセー、転校生の席、ここと比企谷君の隣でいいですかー?」
「ああ、そうか。ほら、さっさと席に着け!」
あれ?俺が見てないうちに何か話が進んでる?
それとなんか俺にとって都合の悪い言葉が聞こえたような。
「隣同士だな。よろしく」
「お、おう……」
里中のやつ、勝手に鳴上を俺の隣に座らせやがって……
背後から目の前にある里中の後頭部あたりを睨みつけるが、本人はどこ吹く風でマリーという少女とお喋りに興じている。
くそっ、俺程度では鳴上のごとき眼力は手に入らないというのか。
「……それで、放課後にちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「悪いな、俺は今日部活があるから忙しい。また今度にしてくれ」
十中八九、昨日の夢のことだろう。
面倒なことには巻き込まれたくない、スルーするのが一番だ。
今この時に限っては、俺が部活に入っていることに感謝していいかもしれない。
それも今日までだが。
「だったら鳴上君も、部室に来る?そしたら話せるでしょ?」
「ちょっ、おまっ」
「それならお邪魔させてもらおう。どうしても聞きたいことだったからな」
こういう時に会話に入ってくんじゃねえよ由比ヶ浜。
どうしてお前は俺の会話に平然と割り込んでくることができるんだよ。
ああ、こいつの友達に俺のことを避けるよううな奴がいたらよかったのに。
そしたら周囲の空気を読んで自分を合わせようとする由比ヶ浜ならば、教室内で俺に話しかけてくることもなかっただろうに。
里中も天城も、何故か俺を嫌ってるわけではないらしいっぽい可能性が存在するレベルでは俺と会話できるし。
それにしても面倒なことになった。
こいつらの夢がどうとか、本当に興味ないってかどうでもいいのに。
どうせ、こうやって接触してきてはいるものの、いつかは俺から離れていくやつと親交を温めたところで意味ねえから無駄な労力使いたくない。
鳴上の話がとっとと終わればいいんだが。
――――――――
「……で、どうしてお前らまでついてきてんの?」
「そりゃあ悠が比企谷について行くから何事かと思ってさ」
「あたしは花村の友達っていう鳴上君がどんな人なのか知りたくて」
「私も、放課後は鳴上君を誘って皆にどこかに行こうっていうから……」
「私はユウが行くからついて行ってるだけだよ?」
「そうか、お前らの目的は鳴上だけだから会話はすぐ終わらせよう。だから教室で待ってろ」
俺、由比ヶ浜、鳴上の後ろをぞろぞろとついてくる四人の姿がそこにあった。
分かってるかもしれないが、花村、里中、天城、マリーである。
何このメンツ、これからどこかのダンジョンにでも向かうの?
囚われになってる誰かを救いに行くのに、強大な悪と対決でもすんの?
そんなRPGみたいな展開はお断りだ。早々にお帰り願います。
「あー待てって!そうやって人を遠ざけようとするのお前の悪い癖だぞ!?」
「こんだけの人数が廊下を歩いている方が悪い癖だって諸岡先生に怒られるぞ」
「そこでモロキンの名前出すのやめてよ……それだけでテンション下がっちゃうじゃん……」
「なんでそれで俺が悪い感じになってんだよ!悪いのはそっちのほうだろうが!」
「比企谷君、廊下で大きい声出したらダメだよ?」
「天城?大きな声出させてるのお前のお友達だからな?俺に怒るのはお門違いだぞ?」
「おかどちがい……?道間違えたの?別に角は曲がってないよね?」
「なんだこの由比ヶ浜並みに馬鹿な奴は」
「あたしバカじゃないし!ヒッキーマジキモイ!」
「罵倒するときのボキャブラリーはそれだけしかないのか。それだけでバカっぽいのが露呈してんじゃねぇか」
「奇遇だな、マリーも感情的になった時のセリフがいつもワンパターンなんだ。バカな子同士仲良くできるかもな」
「……鳴上、お前ってよく天然だって言われるだろ。さりげなく二人共バカにしてんぞ」
俺は引率の先生か。
いやむしろ騒がしい園児をまとめる保母さんレベルまである。
おかしいな、俺の経験則からして鳴上がリーダーにふさわしい人間だと思ってたんだが。
「……どうでもいい」
どうでもいいか、俺には関係ないし。
こういう俺のMPをガリガリ削っていく状況を破棄するためにも、さっさと部室に行って鳴上の話を聞こう。
ふと思ったが、俺って真面目すぎね?
去年、平塚先生に強制されて入れられた部活に今では毎回真面目に出てるとか、俺の忌み嫌う社畜そのものじゃねえか。
……まあ最初期は逃げ出そうとして平塚先生からファーストブリッドとか食らわされてたからやむを得ずではあったが。
「よう、いるか雪ノ下」
「あら比企谷君、ついに多くの生徒からも監視されなければならないほど危険人物であるとみなされたのかしら」
「どちらかというと、俺は他人から注目されないように学校生活を送って行きたい派なんでな。普段から誰かに迷惑だけはかけないようにと細心の注意を払っているからその心配はねえよ」
「そうね、むしろあなたは多くの人から見られていないと存在が抹消されるかもしれないくらい影が薄いものね」
「俺はシュレディンガーの猫か」
毒殺されんの?誰にも見届けられず孤独死すんの?
……あれ?それって俺にとって普通じゃね?
「そんなことは置いといて、本当にどうしたのこの人数。もしかして比企谷君はファッションボッチだったのかしら。それだとしたら私は比企谷君に長い間騙されていたことになるわね。今なら土下座で許す可能性が無きにしも非ずよ」
「それで確定じゃないんかい。ただ鳴上って奴が話があるって言うから連れてきたら、カルガモのごとくついてきただけだ。こいつらはただのおまけに過ぎん」
「……おまけの割には豪華すぎる気がするのだけれど」
それには同意する。
鳴上一人のためにこれだけついてくるとなると、ガチでカリスマみたいなものがあるかもしれん。
やはりリア充は滅びたほうがいいな。
「比企谷、ここはなんのクラブだ?見たところ文芸部っぽいけど」
「奉仕部だ」
「奉仕部?メイドや執事でも出てくるのか?」
「持つものが持たざるものに慈悲の心を持ってこれを与える。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」
「……つまりはボランティア活動するってことか?」
「まあ、そういうことだ」
鳴上の勘違いはよくわかる。
というか、『奉仕』とか言われたらそれしか出てこないのが普通だ。
誤解されたくないからだろうか、その勘違いを雪ノ下が即座に否定する。
それと、鳴上の解釈はだいたいあってる。
それゆえ俺は椅子を用意しながらも、適当に返事した。
「とりあえず座れ、なるべく手短に終わらせよう」
「……ところで、このクラブの部長は誰だ?」
「雪ノ下だ。なんだ部長と話したかったのか、だったら俺はこれで」
「雪ノ下さん。すまないが俺と比企谷以外、しばらく席を外してもらいたいんだがいいか?比企谷と一対一で話したい事なんだ」
「あら、いきなり来ておいて出て行けとは随分と偉そうな転校生ね」
「ああ、それが失礼なことに当たるのはわかってる。だけど、できれば他の人には聞かれたくない内容だし、中身も確信が持てるものじゃない。はっきりしたら皆にも話すし、どうか頼む」
「……分かったわ。よかったじゃない比企谷君、貴方みたいな人と二人だけで話したいと言ってくれる聖人はそういないわよ」
どうしてそこで折れるんですか雪ノ下さん。
ボッチの俺が、ほとんど面識のない人間と二人っきりって軽く拷問だよ?
そんな俺の恨みがましい視線を無視し、雪ノ下は俺と鳴上以外の全員を部屋の外へと誘導する。
「…………」
「…………」
うわ気まずい。
ただでさえ俺は鳴上みたいな人間は苦手だというのに、それとタイマンはるとか俺のSAN値が直葬してしまう。
例えるなら、吸血鬼に太陽光、未来から来たネコ型ロボットに鼠、宇宙最強のサイヤ人に注射針レベルの所業だ。
こっちから話さないと始まらないっぽいし、俺から切り出してやるか。
うわ俺ってばスッゲー気の利く男。
「で、鳴上、さっさと要件を話せ。どんな話でも聞き流してやろう」
「……ちゃんと聞いてくれないのか」
「そもそも転校してきたばかりのお前が俺に用なんかあるわけないだろが。何かあったとしても勘違いだ」
「なんとなく昨日俺が直感でそう思っただけだし、勘違いかもしれないが聞いてくれ」
「直感ならお前がニュータイプでもない限りあてにならねえな。早いうちに忘れて――」
「お前、昨日俺が出てくる夢を見たか?」
俺の言葉を遮って、ド直球できやがった。
こいつ駆け引きもなにもなく、ど真ん中狙ってきやがった。
野球だったらホームラン間違いなしだ。
下手したら場外まである。
「……さあな。夢の内容なんかいちいち覚えてらんねーよ。お前らが出てきたかどうか何ざどうでもいいだろ」
「夢のことに関しては、はっきりした記憶がないってことか?」
「そういうこった。下手したら猿夢でも見てたのかもしれないし、世紀末覇者になった夢でも見たかもしれん」
「比企谷は氷を出してたよな?ああいうのも覚えてないと?」
「は?氷?い――」
あ、危ねえ!
変化球入れてきやがった!
『いや俺は炎を出していたから、氷じゃない』とか口走ってたら夢見たことがバレるところだった。
さりげに嘘を混ぜてくるとは、随分強かなやつめ。
「――くらなんでも、俺が冷凍庫になる夢は見ねーぞ。それとも俺が魔術師にでもなったのか?」
なんとか軌道修正する。
こいつ、尋問するの慣れてねえか?
ついついボロが出てきそうになるんだが。
「そうか、俺の見た夢がおかしかったっていうことだな。霧があって、顔もよく見えなかったからかもしれないが」
「顔もろくに見えないで、よく俺だって思ったな。男の夢に出演だなんて俺はごめん被るわ」
「分かった。比企谷の夢に関してはこれではっきりした。これで夢に関する質問はやめよう」
はー、ようやく終わったか。
これで鳴上と関わることもないだろう。
いや、席が隣だから話しかけてくるかもしれん。
あーあー、面倒だ。
「それじゃあ、今から質問じゃなくて相談しよう。比企谷はあの夢をどう思う?」
「……………………はぁ?」
え。
俺への疑い晴れたんじゃなかったのかよ。
むしろ、俺が夢を見たことを確信してやがる。
「……いや待て、はっきりしたんだろ?俺にその相談を持ちかけるのはおかしくないか?」
「ああ、お前が昨日その夢を見たことがはっきりしたんだ」
「どうしてそうなる」
「……比企谷、少なくとも俺とお前で同じ夢を見たことは確定的に明らかなんだ」
「なんだその二重表現」
「お前、どうして途中で気にならなかったんだ?」
俺のツッコミをシカトし、鳴上が問い詰めてくる。
気になる?何を気にすることが……
「俺は途中で、意図的に『比企谷の見た夢』から『俺が見た夢』に話題をすり替えたのに、そのまま会話を続けたのはなんでだ?お前だったら『お前の夢なんて俺の夢に関係ないだろ』位は言うはずだろ?」
「え……」
あれ、そうだったっけ?
って、やべえ、早く訂正しないと。
「あー、お前は俺の夢のことで質問してただろ?だからお前の見た夢で俺が出てきたのかもしれないと思ってだな。だから気にしなかったんだ」
「最初に俺が『直感で気になった』って言ったのにか?『夢で見た』のが理由じゃないって言ってるのに?」
「……夢で見たことが直感じゃねえのかとスルーしたんだ」
「それだけじゃないぞ」
まだあんのかよ。
俺嘘つくの下手すぎんのかな。
「最初に『俺が出てくる夢を見たか?』と聞いたのに『お前らが出てきたかどうかなんざ』って返しただろ。比企谷が夢を見ていないなら、どうして夢の登場人物が複数人いたのを知ってるかのように『お前ら』なんて言葉が出てくる?」
「ただの間違いだ。その時の俺が複数人いるのと勘違いしたのか、お前が『お前ら』って聞き間違いしただけだろ」
「その可能性はある。けれど、この短い会話に二つも疑念がでてくると、もう偶然じゃなくて必然だ」
……なんだよこいつ、探偵なのか?見た目は子供、頭脳は大人なの?
だいたい、なんで会って間もない奴にここまで踏み込めるかが分からん。
同じ夢を見たなんて、どうでもいいだろ。
「……どうして、たかが夢にそこまで必死になるんだよ。たまたま悪夢を見ただけって思ったほうが楽だろ」
「夢に登場した三人が、三人とも同じ夢を見たとなったら、偶然で片付けていいことじゃないと思う」
「偶然でいいじゃねえか。たまたま三人が、たまたま出会って、たまたまお前ら二人が同じ夢を見た。確率的にはゼロじゃない」
「そうだ。もしかしたらお前が本当に夢を見ていないのが真実かもしれない。でも、どうにも俺はお前が隠しているようにしか見えないんだ。お願いだ、本当のことを話してくれ」
真実、本当……ね。
そんなものを手に入れてどうするつもりだ。
どうせ、現代の人間の脳は代替品で満足できるようにできているのだから、そういうことだと思ってしまえばいいのに。
「……もし仮にだ、本当は俺が夢を見ていたとして、それを聞いてどうする?何を相談することがある?」
「俺はあの夢がただの夢とは思えない。夢の中なのに、あの世界の感覚がリアルに伝わってきたんだ。その世界でマリーは殺されそうになったんなら、事前に対策を立てておかないと今度は俺たちがどうなるか分からないだろ?そのためにも、お前と話し合いがしたい」
「はっ、そんなのただの妄想だ。現実には起こらねぇよ。そうでなくとも、俺なんかに助けを求めたところで、俺は何にもできない人間だ。わざわざ足を引っ張るような奴を引き込もうとすんじゃねえ」
そう、俺は何にもできない。
問題を解消することはできるかもしれないが、解決することは不可能と言っても過言じゃない。
そんな俺のやり方で、リア充を絵に書いたような鳴上が納得するとは思えない。
そうやって幻滅されるくらいなら、最初から俺への評価はマイナスでいい。
巻き込まれて、嫌な思いをした挙句、無駄に期待されて、勝手に裏切られたと思われて、評価が地の底につくくらいなら、俺は鳴上と関わりたくない。
「だから、今回の話は――」
「何もできないなら、なおさら話し合うべきだ」
えー、なんでそんな澄み切った目で俺を見てくるのこいつ。
はっきり拒絶したじゃないか俺。
「比企谷が何もできないなら、またあの世界に連れてかれたらどうするんだ?」
「……俺はどうでもいいだろ」
「よくない。今回はマリーだったけど、今度は比企谷に標的が移る可能性だってあるんだ。それをみすみす見過ごすわけには行かない」
「だから、俺はお前にできることなんか何もないって言ってるだろうが。俺なんかに構わず勝手に推理でもしてろ」
「何もなくていい。それだったら俺が考えていることをお前に話す。比企谷はそのあいだ何も喋らなくて構わない」
「……これから延々と鳴上の妄想話を聴き続けるのか?無駄な時間だ」
「無駄になってくれたほうがいい。こんなこと、実際に起こって欲しくないんだから。何も起こらなかったら、その時はジュースか何か奢ってやるよ」
「…………どうしてそこまで俺に執着する?」
俺がこいつにしてやれることは何もない。
だというのに、なんで鳴上は俺に執拗に喋りかけてくる?
……どうして俺に、話しかけてくるんだ?
「心配だからに決まってるじゃないか。別に俺はお前に手助けして欲しいわけじゃない、俺がお前を勝手に手助けしたいだけだ」
「…………ははっ、なんだよそんな自分勝手な理由は」
「ああ、自分勝手だ。お節介とも言い換えられる。あいにくと中学時代に色々あったもんで困った人を見ると何かせずにはいられないんだ」
「じゃあ、これまでに何かしら頼みごとでもされてたりするのか?」
「……なんで分かった?幻の酒が欲しいとか、天使の像が欲しいとか頼まれてたんだが、それさえ見抜くとは」
……マジで頼まれてたんかい。
いや待てよ、酒を高校生に頼んでんじゃねーよ。
それに、天使の像とかどこの宗教団体からの依頼だ。
まあ、コイツは完全に純粋な善意で動いているのはわかった。
しかも、底抜けにお人よしってやつだ。
俺への言葉にも嘘はないんだろう。
…………まさか、本当に俺を心配してくれる奴がいるとはな。
なんだよこいつ、まじで聖人か。
「そういうことだから頼む。俺にお前の手助けをさせてくれ」
「変な頼み方をするよな、お前」
「奉仕部というのは『困っている人に救いの手を差し伸べる』のが目的なんだろ?ここにお前を助けたくて困ってる人間がいるんだ、どうか助けてくれ」
あー、すこぶる面倒だ。
どうして夢のことなんかで悩みまくってんだ。
それに俺がなんで付き合わされなくちゃならない?
たまたま同じような夢を見ただけだってーのに。
面倒なやつだな、鳴上は。
けれど、それ以上に面倒なのが。
「……しょうがねえな。お前の相談を聞こう。同じ夢を見た者同士、同じことで悩んでやるよ」
コイツの言葉を聞いて、少しは耳を傾けてやろうとしている俺自身なわけだが。
「ああ、一緒に悩もう。一緒に事実を探っていこう」
こいつの、本当に嬉しそうな顔を見ていたらどうでもいいことのように思えるから不思議だ。