アグネスタキオン、ダイワスカーレットのトレーナーになる   作:コロリエル

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どうも、普段はバンドリの美竹蘭をひたすらに甘やかす作品を書いてます。

書きたくなったので書きました。ではどうぞ。


プロローグ─神話の始まり─

「簡単な話さ。私の脚は、ウマ娘の可能性の果てに至ることは二度とない」

 

 

 

 左脚屈腱炎。

 

 その言葉が持つ意味は少しウマ娘について知っている人間なら誰もが理解できる。ウマ娘にとっては不治の病とすら言われる大病。

 

 私のレース人生の終わりを告げる存在。

 

 

 

「……うそ、だろ……?」

「今まで君に隠し事こそしてきたが、嘘を言ったことはないと思うが?」

「いや……山ほどあるぞ?」

「おや、そうだったかな。いやはや、最近は実に密度の濃い生活を送っていたからねぇ……すっかり、失念していたよ」

 

 

 

 今にも泣きだしそうな……いや、既に大粒の涙を流しながら、私の手を握っているトレーナー君は、何でもないさ、と強がる私の様子を見て、更にその顔を歪ませる。

 

 

 

「……ごめん……っ! 君の脚が、そんなに……そんなに……っ!」

「おいおい、そんなに泣くなよトレーナー君。分かりきってたのさ、私の脚は他のウマ娘たちの何倍も脆いって。普通のウマ娘のローテーションで走れるわけがないってことは」

「じゃあなんで……!」

「私も、結局はウマ娘だったのさ……あの栄光が、欲しくて仕方なかった」

 

 

 

 この半年間は、柄にもなく夢を見ていた気がする。呪われたガラスの靴を履いていた私が、自ら可能性の一端に触れることが出来た、夢のような時間。

 そうなると、目の前のこの冴えない男は、さしずめ魔法使いだろうか? 十二時まで、私に夢のような時間を与えてくれた魔法使い。私の言動に一喜一憂し、今こうしてぼろぼろになるほど涙を流してくれる、優しい魔法使い。

 

 最も、その魔法は時間が来る前に、ガラスの靴が粉々になったことによって解けてしまった。

 

 残されたのは、何にもない私。

 

 こんなにも私のために涙を流してくれるトレーナー君のことをみて、自分の選択が如何に愚かだったのか、漸く理解するような、バカな私。

 

 

 

「……私の方さ、謝るのは。もっと早く君にこのことを伝えていたら……君をこんなにも悲しませることは無かった。結局……最後の最後になるまで、君のことを信用しきれなかった、私のせいだ」

 

 

 

 担当トレーナーとウマ娘は二人三脚。二人が寄り添い、お互いを支え合い信用し合う事で、無限の可能性を生み出す。

 それを拒否し、一人二脚で歩いていた私に相応しい最後だろう。彼はこんなにも、私を支えようとしてくれたのに。

 

 もう、彼と脚を結び合うことは、物理的にも精神的にも出来ないだろう。

 

 

 

「……駄目だ」

 

 

 

 しかし、それでも彼は手を離さない。

 

 手を離されてもおかしくないのに。見捨てられてもおかしくないだけの事をしてきたのに。

 彼は、この手を一切離そうとしない。私の手をその大きな手で痛いほど握り締める。

 

 

 

「絶対駄目だ! お前のその才能を! 知識を! 情熱を! このまま終わらせるなんてできるもんか!」

「……何を、言っているんだ……?」

「……走ろう。何年掛かったっていい。もう一度あのターフの上で走ろう!」

「……っ、そんなこと……できる訳ないだろう!?」

 

 

 

 彼が言っていることは、言ってしまえばこの世の理への挑戦。今まで何人ものウマ娘が復帰を目指し、そして夢破れてきた。

 それほどの病なのだ。たかが一ウマ娘が跳ね除けられるようなものなどではない。

 

 それを目の前のトレーナー君が知らない訳が無い。彼だって決してバカなどではない。

 

 しかし……目の前の彼の瞳。

 

 この世の全てなど知ったことかと、今にも言い出してしまいそうな程の狂気。

 この私が怯んで何も言えなくなってしまうような……狂気の色。

 

 初めてであった時よりも、何倍も濃く、何倍も深い……そんな瞳。

 

 

 

「……できる。君なら……いや、俺と君なら絶対にできる! なにが不治の病だ、何がウマ娘の癌だ! そんなもの、絶対に跳ね返して見せようじゃないか!」

「……トレーナー君?」

「今からでも遅くなんかない……っ! 今からちゃんとやり直せばいいんだ! まだ手遅れなんかじゃない!」

 

 

 

 それは、駄々をこねる子供のようにも見えた。大人になり切れていない子供の痛々しい戯言のようにも。

 

 だけど、その叫びは、確実に私の心を揺さぶった。

 

 ──人生が変わる瞬間というのは、恐らくきっと、この瞬間なのだろう。

 

 後の私は、この時のことをそう形容していた。

 

 

 

「……できない可能性のほうが、高いぞ」

「できる可能性だってある!」

「無駄に終わるかもしれない。つらく長い、ゴールの見えない努力を続けることになる。その間、私も君も、肩身が狭いだろうな」

「知ったことか!」

「……私と君の人生が、無茶苦茶になるかもしれない」

「そんなこと……やるだけやってから、考えればいい! 君は天才なんだ、その辺の大学に入るなりなんなり、道はいくらでもあるさ!」

 

 

 

 何を言っても、彼は全く引かない。普段は私が彼を実験と称して振り回しているのに、これでは普段と立場が逆だ。

 なのに、何故だろう。何故こんなにも頬が緩む? 何故こんなにも高揚する? 何故こんなにも心配ないと思える?

 

 答えは、何となくわかる。しかし、それを認めるのは、なんだかちょっと、気恥ずかしい。

 

 

 

「……仕方ないね。これまでで一番大きな実験だ。心してかかるよ、トレーナー君」

 

 

 

 私のその一言に、目の前の魔法使いは再び目を見開いた。

 

 涙がいっぱい溜まったその眼は、この世界のどんなものよりも、ずっとずっと綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そのウマ娘は、僅か六度の戦いで神話になった。

 

 

 異次元から現れ、瞬く間に駆け抜けていき……最後にひときわ大きな輝きを見せた。

 

 

 ライバル達を絶望させ、見る者の目を眩ませる、『超光速のプリンセス』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、そんな私の、後日談。

 

 ひとまずの結末を迎えた物語の、その先にある物語。

 

 緋色の女王が、神様へ挑戦する物語。

 

 

 

 




ご閲覧ありがとうございます。今回はジャブ、次回から本番です。

感想、評価、お気に入り登録等して下さると、幸いです。

それでは、また次回。
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