アグネスタキオン、ダイワスカーレットのトレーナーになる   作:コロリエル

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どうも、眼精疲労にやられております。目薬気持ちいい。

あ、そういえばタイトル変えました。


Report3:大人になった私達

 

「いやー、あんなに必死に走ってるタキオン見たのはいつ以来かなぁ! ビビっと来てウマ娘をスカウトして、そのまま脚が痛くて先輩トレーナーに介抱されてるアグネスタキオンさん?」

「すまなかったって……湿布を張ってくれ……久しぶりに全力で走ったからか痛むんだよ……」

 

 

 

 選抜レースの一日目が終了し、ウマ娘たちが帰宅した後の私のトレーナー室。仮眠用のベッドに寝転んだ私の脚をウリウリと弄るトレーナー君。やはりもう全力疾走に耐えることはもうできないらしく、ちょっと走っただけでもこのざまだ。

 

 ピタリ、私特製湿布を患部にペトリと貼り付けたトレーナー君は、やはりというべきか、かなり嬉しそうだった。

 

 じんわり、患部が清涼感に包まれるのを確認し、私はベッドに仰向けになり、用意してもらった台に脚を乗せる。これで多少はマシである。

 

 

 

「しっかし、タキオンがあんなに食い付くとは思わなかったなぁ……そんなにダイワスカーレットのことが気に入ったのか?」

「あぁ。もし私に運命の出会いというものが存在するのであれば、彼女との出会いは君に出会った時に匹敵しうる程の運命の出会いだよ」

 

 

 

 才覚という意味では、彼女の先に走ったドリームジャーニー君も決して負けてはいないだろう。その他にも、あの後走ったローレルゲレイロ君や、二着だったがヴィクトリー君も素晴らしい逸材だ。

 

 しかし、今なら断言できる。この世代、間違いなくスカーレット君は頂点に最も近いウマ娘だ。あのまま順調に成長していけば、トゥインクル・シリーズの歴史に残るようなウマ娘になるのだって、夢ではない。

 

 君に出会った時に匹敵しうる程の、というワードに分かりやすく反応したトレーナー君は、全く彼のことを知らない人間であったとしても「あ、落ち込んでるんだろうな」と分かるほどしょんぼりと肩を落としていた。それでも笑顔を浮かべているあたり、喜んでくれているのだろう。

 

 

 

「そっか……いや、良かったよ。最近のタキオン、ずっと悩んでるみたいだったからさ」

「なんだ、やっぱり気づいていたのかい」

「お前のトレーナーやって何年になったと思ってるんだよ」

「大体七、八年程かねぇ。いやはや、君も昔は活力あふれる若者だったというのに、今ではすっかり落ち着いてしまって!」

「それ言うならタキオンもだろ……ああいや、違うな。いい大人はあんな風にはしゃぎまわらないか」

「ふぅン……今回の薬に下剤を混ぜておくとしようか。以前君が丸二日休むことになったあの下剤を」

 

 

 

 お互い、今更隠し事も遠慮も無い。言いたい放題言うし、そのあと図星を突かれて、何も言い返せなくなった私が薬を使って脅す。

 いつもの流れ。今後数十年にわたって続けられるであろう、お約束。それがくすぐったくも、心地いい。

 

 勘弁してくれ、あれは本当につらかったんだと笑う彼。辛いのはよぉく知っているさ。何せ、私も飲んでしまったのだからな。

 

 

 

「それはさておき……メイクデビュー前のウマ娘へのトレーニングについて、改めて注意点などがあれば聞いておきたいんだが」

「タキオンが知ってることで大体問題は無いと思うが……改めて言うのであれば、ウマ娘本人の意思を可能な限り尊重してあげること、トレーニング後のケアも含めて最後まできっちりと付き合うこと、自主トレするときは必ずやった内容をメモして提出してもらうこと、ケガをしそうなときは絶対に止めること……こんなとこかな」

 

 

 

 トレーナー君がすらすらと口に出した内容と、頭の中にインプットしていたウマ娘育成論と照らし合わせる。ふぅむ、特に変わりは無いようだ。

 

 育成、管理、調整というのが主なトレーナーの仕事である。言葉にするとたったの三単語。しかしそれが満足にできることはほぼ無いといってもいい。

 どれほどの伸びしろがあるか分からない、抜く大敵にも精神的にも未成熟なことが多いウマ娘達。彼女らの尊厳を守りつつ、『レースで勝たせる』という単純にして究極の目標のために練習を施す。

 

 一歩私たちが判断を誤れば、彼女のレース結果は勿論、その後の人生すら無茶苦茶にしてしまいかねない、あまりにも難しすぎる仕事。

 

 

 

「ま、結局はいつも言ってることを突き詰めていくしかないのだな……」

「研究と同じさ。ある日突然『果て』に行き着くことなんてありえない。俺たちは彼女たちにその地道な努力をさせつつ、目の前に転がってる小石やバナナの皮や落とし穴やゴルシを確実に除去していくのが仕事なのさ」

「ゴールドシップ君は最早障害の一つなのか……まぁ、実際色々とその通りなのだがね」

 

 

 

 ちゃっかり障害扱いされているゴールドシップ君に笑いを浮かべつつ、トレーナー君の示した私たちの役割に同意する。

 どこぞの国民的RPGのように、ある日突然進化して強くなるなんてことは存在しない。私自身もそうだったし、全てのウマ娘がこれに該当する。日々の努力を怠らず、怪我をすることなく健康を維持し続け、それに応えてくれる才能を持っている。そうした条件を満たしたウマ娘のみが、栄光に辿り着ける。

 

 大変だ、あぁ大変だ、大変だ。だが、彼女なら間違いなくできる。

 

 

 

「やって見せようではないか。数年後の年度代表ウマ娘発表が楽しみだよ」

「大きく出たねぇ……ま、実際できると思うよ。この時点であれだけ完成度の高いレースをすることができるのはそうとうレースについて勉強している証拠だ。おまけに中等部だ。まだ肉体的な成長の余地はいくらでもある……恐ろしいさ」

 

 

 

 あれほどの才能を持ったほかのウマ娘が居なければ、来年のクラシック級は彼女のものだ。

 

 それなりに長いことウマ娘のことを見てきた彼のセリフには、一定の信頼感がある。しかし、そう言い切る彼には、先程とは違う寂しさが見え隠れした。

 ……まぁ、これについてはある程度想像がつくが。

 

 

 

「……で? 君はやっぱりお眼鏡にかなうウマ娘が居なかったのか」

「まぁねぇ……お前以上のウマ娘なんて見たことない……匹敵しうるのなら、一人いたけど」

「おや、あの『英雄』殿と同格と思われているのは光栄だねぇ」

「俺は本気だ……お前は、間違いなくあれ以上の存在だったんだ」

 

 

 

 私が彼に出会って狂わされたのと同じように、彼も私に出会って狂ってしまった。

 

 あれ以降、どんなウマ娘を見ても、「タキオンの方が良い」と思い込んでしまっている。それは行き着くところまで行き着いており、皆が史上最強候補と言って居る『英雄』すらも私と良くて同格と言ってしまうほど。

 

 嬉しくはある。しかし、同時に若干めんどくさい。

 

 

 

「全く……ほら、そんな顔するな。いつも言っているじゃないか。本来なら、私の競技者としての道は開始前に終わっていたんだ。よしんば走ったとしても、三、四戦が限界……私はそう思っていた」

「……っ」

「最後の二戦は、間違いなく君が側にいたから成し遂げることが出来たんだ。後悔なんてしていないさ」

 

 

 

 この言葉も何度目だろうか。事あるごとに彼にこの事実を告げている気がする。まぁ、この数年はこんな感じの慰め合いを繰り返していた。

 人生の絶頂を過ぎてしまった者同士、といったところだ。最も、彼は全然そんなことないはずなのに。

 

 ベッドに寝転んだ状態から身体を起こし、トレーナー君の手を撫でてみる。何度も私のために差し出された手は、あの時に比べてすっかり皺が増えていた。

 

 

 

「タキオン……」

「そうだな。後悔があるとすれば……今日はドタバタしていたから、いつもより君のデータが取れていないことかな。というわけで、この薬を飲んでみてくれないか?」

 

 

 

 叩かれた。グーで。結構痛かった。

 

 目の前でお星さまがチカチカしている。こんな感じに誰かに叩かれるなんて、大人になってから殆どなかった。

 痛みでベッドの上で悶えていると、大きくため息を吐いたトレーナー君が私の頭に手を置いた。

 

 

 

「ったく、元気づけるにしてももうちょっと良い方法でやれよな……相変わらず不器用だな、タキオンは」

「いたいよぉ……折角君の愛バが励ましてやろうって頑張ったのに……」

「まぁ、それに関してはありがとな。それじゃ、俺はもうちょっと仕事してくるから。晩飯ちゃんと食えよ?」

 

 

 

 トレーナー君は最後に私の頭をわしゃわしゃと撫でると、先程よりも背筋を幾分か伸ばして私のトレーナー室を去っていく。

 

 全く持って、お互いに面倒くさいものだな。そんなことを考えながら、痛みが引くまで寝ておこうと再びベッドに寝転ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、「スカーレット並みの逸材を見つけた!」ととあるウマ娘の選抜レース終了後嬉々として話しかけてきたトレーナー君を七色に発光させたのは、その二日後の話だった。

 

 そのウマ娘の名は、ウオッカ、というらしい。

 

 

 

 

 

 




ご閲覧ありがとうございます。大人になったタキオンってどんな感じなんでしょうね。それを考えながら書き続ける日々です。

感想、評価、お気に入り登録等していただけると、明日の朝日杯フューチュリティステークスはドーブネが来ます。

それでは、また次回。
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