アグネスタキオン、ダイワスカーレットのトレーナーになる   作:コロリエル

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どうも、ファインモーションが未だに実装されないんですけど、これってどんなバグですか?


Report5:初トレーニングは程々にしておく予定

 

「……ふむ、やはり課題は最後のスパートだな。先行気味のウマ娘の宿命だ」

「……ぜぇ……ぜぇ……も、もう一本……」

「何を言っているんだ。一回休みたまえ……発育がいいとはいえ、まだ骨格は出来上がっていないんだ、下手な強度の高いトレーニングは後の成長に悪影響だ」

「は、はいぃ……」

 

 

 

 私が手渡したボトルを受け取り、中身をゆっくり飲んでいくスカーレット君。私がいつも一気に沢山飲まないように、という言いつけをきっちり守っていることを確認しつつ、手元のタブレットに記録している彼女のラップタイムを確認する。

 今回彼女には、『二千メートルを可能な限り同じラップタイムで走る』という練習を科していた。逃げ気味の作戦を取る彼女にとって、体内時計の正確さはレース展開の維持に直結する。スタミナの強化も考えつつ、少し早めのペースに設定。

 

 案の定、三本目を走ったあたりでスカーレット君はすっかりスタミナを使い果たしたようで、芝の上に大の字になっていた。寧ろ予想以上にタイムを落とさず走りきっており、正直驚いていた。

 

 

 

「ふむ、スタミナ強化は必須として、やはり瞬発力の強化も必須だろうな。となると坂路トレーニングか……あ、この塩分タブレットを食べたまえ。少し汗を掻きすぎている。あと、汗を拭くといい。風邪をひいてしまうよ」

「ありがとう、ございます……こんなに、疲れたの……久しぶり……」

「まぁ、最近は転入準備やら入学式やらでドタバタしていただろうからね。今日は早めに上がってもらうからね。慣れてきたらトレーニングの負荷を上げつつ、時間も長くしていこう」

「……分かり、ましたぁ……ふぅ」

 

 

 

 ぽたぽたと、春先にしては多いのではと思うほど汗を流すスカーレット君。気合いが入りすぎているな、恐らく初練習で良いところを見せようと張り切っていたのだろう。

 しかし、あまり張り切りすぎてケガをされたら目も当てられない。練習とはあくまで練習でしかない。

 

 まぁ、彼女が張り切っていた理由は分からないでもない。

 

 私は何とか身体を起こし、タオルで汗を拭いている彼女に目線を合わせるようしゃがみ込む。

 

 

 

「しかし、中々良い走りをしているじゃないか。普通ならもうとっくに動けなくなっててもおかしくない」

「あ……ありがとうございます! えへへ……」

「さて、だいぶ呼吸も落ち着いてきたね。じゃあ仕上げにダート坂路十本! それが終わったらクールダウンだ!」

「……はいっ!」

 

 

 

 スカーレット君は元気よく立ち上がると、芝コースの内側に作られているダートコースへとダッシュし始める。あれは、ダート坂路のしんどさを知らないな?

 これはプロテインドリンクを持ってきた方が良いだろうな……どのみち一緒にトレーナー室に戻るし、その時に作ってあげよう。最悪おぶって帰ることになるかもな。

 

 ダートコースの脚の取られ方に絶望しているスカーレット君を遠目に見つつ、周りでトレーニングしているウマ娘たちに眼を向ける。

 

 春のG1シーズンど真ん中。そんな中今週末に行われるG2レース、フローラステークスに向けて最後の調整を行っているウマ娘たちが沢山いた。

 

 

 

「……しかし、テイエムプリキュア君は少し不安だな。前走の桜花賞から二週間しか経っていないし……調子も少し悪そうだな。お、アクロスザヘイブン君は良さげだな」

 

 

 

 一部を除いて、現時点で人気の高いウマ娘たちは、中々よさげな仕上がりを見せていた。しかし、レースに絶対など──一部の歴史的名ウマ娘を覗いて──存在しない。

 直前の評価なんて関係ない。その日一番速いウマ娘を決めるのが、レースなのだ。

 

 さてさて、トリプルティアラの二冠目、オークスの優先出走権が掛かった大事な重賞。夢舞台への切符を握るウマ娘は誰になるのか。

 

 しかし……というかやはり、今年度のクラシック戦線は、これまでとは違う異様な雰囲気が流れている。全体がとんでもない重圧に包まれているような感覚。

 

 無理もない。なんせ、去年はあのウマ娘が居たのだから。

 

 

 

「……ま、今後の世代は皆、彼女と比べられるのだろうな……当然、スカーレット君も」

 

 

 

 日本近代競バの結晶。

 

 奇跡に最も近いウマ娘。

 

 英雄。

 

 絶対に唯一肩を並べうる存在。

 

 今更並べてみてもとんでもない異名である。しかも、それが誇張表現などではなく、全て紛うことなき事実なのだから恐ろしい。

 今まで様々なウマ娘を見てきた。様々な研究をしてきた。だからこそ言い切るが、あれは正しく日本の至宝だ。今後は、彼女を超えることが全トレーナーの目標になるのだろう。

 

 

 ……しかし、彼女なら。

 

 

 期待のまなざしで、ダート坂路三本目に挑み始めたスカーレット君を見る。もう既に限界が近いようにも見えたが、持ち前の根性で雄たけびを上げながら駆け上がっていく。

 彼女なら、それに並ぶことができる。間違いなく、絶対に。

 

 そう確信している。

 

 

 

「……あ、ウオッカ君だ」

 

 

 

 やがて、スカーレット君が走っているダード坂路に件のウオッカ君がやって来る。彼女もここまでのトレーニングでかなり疲れているようにも見えたが、スカーレットくんの姿を見るなり急に背筋を伸ばし、これ見よがしに屈伸してみせる。これが最近の若い子たちが言っている『屈伸煽り』というやつなのだろうか。多分違うな。

 

 三本目を走り終わったスカーレット君が、彼女の存在に気付く。へろっへろで緩み切っていた表情は、きりっと凛々しい表情のウオッカ君の存在によって負けじと引き締まる。

 示し合わせたわけでも無いだろうに、彼女たちは横一列に並んだかと思うと……全く同じタイミングで地面を蹴った。

 

 

 

「「負けるかあああああああああああああああああああああああっ!」」

 

 

 

 練習場に響き渡る二人の咆哮。鬼の形相で歯を食いしばる二人は、どこからどう見ても、『ライバル』ってやつである。

 ……あれ、確実に限界を超えてる速度だな。今日のクールダウンの時間は少し伸ばして入念にやろう。

 

 

 

「よぉタキオン。どうした? 担当ウマ娘がトレーニング初日から無茶し始めて心配って顔だな」

「きっちり分かってるじゃないか……あぁそうさ心配さ」

 

 

 

 いつの間にやら隣にやってきていたトレーナー君。どうやら彼も今日最後の練習としてダート坂路を選択したらしい。

 どうせ彼のことだ、スカーレット君がダートに向かうのを見て練習内容を変更したのだろう。スカーレット君とウオッカ君の関係性を今一度確かめるために。

 

 競いながら物凄い速度で坂路を駆け上がっていく二人を眺めながら、満足そうに微笑みながら愛用の手帳にメモをしていく。これは、事あるごとに絡まれるな、きっと。

 

 

 

「全く……こっちだって彼女の能力を探り探り試しながらトレーニングを課しているのだよ?」

「まぁまぁ。今後はこのことも念頭においてメニュー組めるだろ?」

「はぁ……まぁ、いい併走相手が居ると思うことにしよう」

 

 

 

 しかし、同室同士だというのにあんなに仲が悪くて大丈夫なのだろうか、と思わなくもない。気の休まる暇がないのではないだろうか。

 私が赴任した初年度の話なのだが、あまりにも同室との仲が悪いウマ娘たちがおり、深夜に大喧嘩を始めて大変なことになった事件があった。

 

 彼女たちがそうならなければいいのだが……とは、少し気になる。

 

 ……そして、どうやらその心配をしていたのは、私だけではないらしい。

 

 

「……本格的に喧嘩し始めたらタキオンが止めてくれよな? ウマ娘同士の喧嘩の仲裁とかやりたくない」

「君には男のプライドというものがないのかい?」

「変なプライドのせいで死にたくないもん」

「はぁ……散布型の睡眠薬でも作ろうかねぇ……いや、それを使ったとして、スカーレット君に嫌われたりしないだろうか……?」

 

 

 

 これがトレーナー君や全く見たこともないウマ娘相手だったら容赦なく使えるし、その後も特段何も感じないだろう。

 しかし、彼女に嫌われるのは本当に嫌だ。なんなら泣いてしまうかも知れない。というか泣く。泣く権利はないかもしれないが泣く。

 

 となると、喧嘩の仲裁ってどうすればいいのだろうか? これはカフェ……はできなそうだな、デジタル君……も無理そうだし……シャカール君にでも教えてもらおうか。

 

 どたどたどたっ!

 

 私が思考を巡らせていたその時、私の隣から何かが崩れ落ちる音が響いた。トレーナー君が、綺麗にその場に尻もちを付き、恐ろしいものを見る目で私を見ていた。

 

 

 

「……た、タキオン……ついにお前にも人の心が……!」

「……トレーナー君。君は私のことをどんなウマ娘だと思っているんだい?」

「え? 自分の夢以外に興味のない、いい大人の癖に生活能力皆無な残念なグランプリウマ娘?」

「とぉれぇなぁくぅん?」

 

 

 

 座っているトレーナー君のほっぺを両脇から挟み、むにむにむにむに揉みくちゃにする。正直かたくて、全然つまんなかった。

 

 ──余談だが、私達のこの光景を見た新入生ウマ娘達の間で、『あの二人は恋人同士なのではないか』という噂が流れたらしい。いつものことだが、何を見てそんな勘違いが出るのか、不思議なものである。

 

 




ご連絡ありがとうございます。アグネスタキオンとトレーナーの間に恋愛感情は欠片もないです。これ、めっちゃ大事ですからね。

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それでは、また次回。
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