アグネスタキオン、ダイワスカーレットのトレーナーになる 作:コロリエル
『最後に必ずデジたんが尊死する小説』
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「タキオンさーん!」
昼休みのトレーナー室。用事があるというトレーナー君から弁当だけもらい、収集していた新入生ウマ娘たちの走行動画を観察していると、控えめにノックされた扉から一人のウマ娘が入ってきた。
周りのウマ娘と比べても一際発育のいい肉体の、前髪に真っ白な流星が一本入った栗毛のウマ娘。
「おや、メジャー君ではないか! この前のマイラーズカップ、本当におめでとう!」
立ち上がり、彼女を出迎えようと立ち上がると、メジャー君は私に向かって勢いよく抱きついてきた。相変わらずのパーソナルスペースの狭い娘だ、と苦笑いしながら、私より少しだけ背の高い彼女の背中をポンポンと撫でる。
「タキオンさん! 私、一着とれたよ! 見てくれた!?」
「勿論だとも! しかし……よくここまで元気になってくれたねぇ……いやはや、君には驚かされるばかりだよ」
彼女のノド鳴りは、非常に症状の重たいものだった。五段階のうちの四から五程度、通常と比べ、六割から七割程度しか空気が吸えていないという重たいもので、担当トレーナーはもちろん、トレセン学園の上層部すら引退を勧めていた。
しかし、『もっとかっこいい姿を家族に見せたい』と手術をして現役を続けることを決めた彼女。私はそんな彼女の学校生活での世話や経過観察をしていた。
そのお陰でかなり懐かれている。まぁ、彼女に懐くかれるのはそこまで嫌ではない。
「今の君なら、きっとG1レースだっていい勝負ができるさ。ただし、無茶だけはしては駄目だからね? 君の体はまだまだ本調子ではないのだから」
「分かってるよ! でもでも……すっごく嬉しくかったの!」
「それは私もだよ……本当に、よく回復してくれたよ」
指導者としての喜びは、教え子達の成長と困難を乗り越えさせた時に感じる。
特にこの子は、私がトレーナーを始めたばかりの頃から何かと目をかけていたらか、余計に感じるものがある。なんとなく、他の娘よりほっとけないとも感じていたのも事実だ。
私はメジャー君を椅子に座らせ、買い置きのニンジングミを手渡す。他の娘には内緒だよ? という意味を込めて口に一本指を立てると、彼女は悪戯っぽく笑いながら頷いてくれた。
「さてと……今日はどんな要件だい? 経過観察は確か明後日の予定だったと思うが……」
「タキオンさん、スカーレットちゃんのトレーナーになったんだよね!? スカーレットちゃんどんな感じ!?」
目の前のパイプ椅子に座り、爛々と目を輝かせる彼女。まぁ、確かに大好きな妹のトレーナーが普段からお世話になっている人間だったら、そりゃあ気になるというものか。
さて、どこまで話そうかな……と思考を巡らせながら、普段のスカーレットの立ち振る舞いについて考える。
というか、散々運命の出会いだとかほざいているが彼女とはまだ出会って三日四日。分かることもそう多くはない。ここは素直に答えようか。
「スカーレット君は実に真面目な良い子だよ。普段は礼儀正しくて話していて気持ちいいし、トレーニングについてもその内容がもたらす効果と意味をきちんと理解しようとするから、こちらとしてもやりやすいよ」
「そりゃあそうですよ! なんて言ったってスカーレットちゃんは私の自慢の妹だからね! きっと物凄いウマ娘になってくれるよ! しかも、タキオンさんがトレーナーなら絶対大丈夫!」
「ははは……私もまだまだトレーナーとしては未熟だがね」
先日も、普段トレーナー君を走らせた時の感覚で計測装置を取り付けかけたし、まだ実験中の栄養剤を飲ませかけてしまった。彼女は不思議そうに首を傾げるだけだったが、あの純粋無垢な顔が軽蔑の眼差しにでも変わろうものなら、暫く寝込む自信がある。
今後はそんな事故がないよう注意せねばな。学生時代のように教室を吹き飛ばしたりなんかしたら、下手したら懲戒免職ものだ。学生時代でも退学してもおかしくなかったのではとも思うが。
「そんなことないよ! タキオンさん担当が居なかったときも色んなウマ娘さんやトレーナーさんにいいアドバイス一杯してたもん! 普段から一杯勉強して皆のこと見てなきゃ出来ないよ! タキオンさんは凄いトレーナーだよ!」
「……」
言えるか? こんな純粋な目をした彼女に『最初はただただ自分の実験のためのデータ収集をしていただけで、トレーナー業に生かす気は本来サラサラ無かった』なんて。
そう考えると、私もだいぶ丸くなったもんだ。今でも十分とがってる、とは同僚のセリフだが。
メジャー君は私の言葉を否定しようと、その身を乗り出して私の顔にずいっと自信の顔を近付ける。よくよく見ると、顔のパーツなんかはスカーレット君に似てるな。
「ありがとうね。そういってもらえると、こちらとしても日々頑張ってきた甲斐があるというものだよ」
今、脳内のトレーナー君が、『お前相変わらず真顔で誤魔化すの得意だよな』なんて突っ込んできたが、無視だ無視。大体、君が顔に出過ぎなんだよ。
「えへへ……それでさ、スカーレットちゃん、無茶してないかな? いっつも無茶して、すぐあちこちに擦り傷作ったり、寝不足になったりしてるんだ……そこが一番心配で……」
「無茶、ねぇ……まぁ、しそうだよな、彼女は」
「! やっぱり……」
「本当は無茶なんてしてほしくない、というのが本音なのだが……まぁ、我々が言うなって話なのかも知れないがな」
方や、屈腱炎から復活しG1を取ったウマ娘。
方や、重度のノド鳴りから復活しG2を取ったウマ娘。
そのために色々な無茶をしてきたし、無茶を押し通してきた。誰に止められようとも無視し、様々な意見を跳ね除けてきた。その結果が、あの栄光なのだ。
ただ、皆が皆、無茶をして成功するとも限らないし、下手したら挑戦の舞台に立つことが出来なくなってしまうかもしれないのだ。
だから、私は口酸っぱく言う。無茶だけはするなと。こればっかりは、例え嫌われるとしても言い続ける。
「ただ、まぁ……それを管理するのも私たちの仕事だ。なぁに、心配することないさ。誰かに言わせれば、私は『凄いトレーナー』らしいからね」
私の言葉に、メジャー君は分かりやすく目をまんまるに見開いて私をきょとんと見つめる。
普段の私なら本当にこんなこと言わない。だが、これはある意味の決意表明だ。スカーレット君の肉親である彼女へここまで行ってしまえば、色々な意味で逃げ場もなくなる。
悪い癖だ。自ら背水の陣になろうとする。だが、それで私は様々なことを乗り越えてきた。
「……! うんっ! そうだよ、タキオンさんなら大丈夫だよ!」
「ハハハッ! そうだそうだ、大船に乗ったつもりで見ていたまえ!」
大げさに立ち上がって両手を広げていると、扉が三回ノックされた。最近お客が多いな、なんて考えながら出迎えに上がる。
「はいはい……おや、スカーレット君じゃないか」
扉の先には、つい先程まで話題に上がっていた担当ウマ娘の姿。その手には赤いノート……彼女が用意したトレーニングノートか握られていた。
「こんにちは、タキオンさん。少し相談したいことが……」
「──スカーレットちゃん?」
しかし、それを確認するのは暫く後の話になりそうだ。
私の背後から聞こえてきた声に、スカーレット君は完全に虚を突かれたようだった。勢いよく私の側をすり抜けて部屋に入る。手に持っていたノートは、ばさり、と床に落ちた。
……感動の再会、でいいのだろうか。
傍から見たらどう見ても姉妹であるということが分かる二人が対面した。
「……メジャー、姉さん?」
「スカーレットちゃん!」
メジャー君は彼女の姿を見かけるや否や、勢いよく……先程私に抱き着いた時よりも勢いよく抱きつく。見れば、その眼にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「姉さん……こんなに、元気に……っ!」
スカーレット君の表情は見ることが出来ない。しかし、その声は分かりやすく震えており、その両手がメジャー君の後ろにゆっくりと回される。
……これは、私完全にお邪魔だろうな。
「……暫く外に出てくる。積もる話もあるだろう。授業にだけは遅れないようにな」
私はそう言い残し、床に落ちていたスカーレット君のノートを拾いトレーナー室を後にする。
暫くすると、扉の中から二人の泣き声が聞こえてくる。これは少し、もらい泣きしそうだ。
私は扉のプレートを『不在』にひっくり返し、その場を後にする。
「……あ、弁当広げっぱなしだ」
私が昼食を食べている途中だったことに気付いたのは、腹の虫が一際大きく鳴り響いた時だった。慣れない格好付けをするものではないな、全く。
ご閲覧ありがとうございます。ダイワメジャーの性格付けがこの作品で一番難しかった点ですね。ダントツで。
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それでは、また次回。