……決して手元に資料がなかったり、漫画じゃ使わないような呪文を考えるのが面倒だったとかじゃないですよ?
檜山の予想通り、ハジメは図書館で一人だ。数冊の本を山にして、ノートに内容をまとめている様子。
(クケケケッ! 実にオタクらしくて滑稽だぜ、南雲ォ!)
しかし謎のバイアスが掛かっているらしい檜山は、普通に勉強してるだけのハジメでさえ認知を捻じ曲げて見下そうとする。
この態度には、さすがに違和感を覚えた近藤達。しかし常軌を逸してプッツンしている檜山の鬼気に気圧され、また常日頃から「リア充爆ぜて死ねッ」と殺意高めに思っていたのも合わさって従ってしまう。
やがてハジメが席を立ち、本を戻して図書館を後にした。向かう先が、昼間は人気のない宿舎方向だと気付き、檜山達は後を追う。
中庭に面した回廊には、憎きハジメの姿しか無い。まずは背中に一発蹴りでも入れてやろうと、檜山は息を殺して走り寄る。
「何か用?」
が、足を振り上げようとした絶妙なタイミングで振り返られ、驚いた檜山は尻もちを突く。
「あぐァっ!?」
「何やってんだよ、檜山。廊下を走るなっていうのはさ、学校の廊下だけの話じゃあないんだよ?」
「……グアアアッ!!」
恥辱と、見下されたという怒りから、吠えた檜山が立ち上がる。
檜山は精一杯の憎悪を込めて睨むものの、ハジメは怯むどころか、同情すら籠もった生温かい目を向けるばかりだ。
「何やってんの、お前?」
「見下してんじゃあねえぜ、南雲ォ!! 俺らが必死に訓練してっとこ、優雅に読書か、テメェーはよォ!?」
「シュトロハイム団長からの許可が下りてるの、忘れちゃった? 忘れっぽいならメモしとけよな」
別にハジメには、檜山を煽る意図はない。ただ純粋に、目の前の少年と……自分を囲むようにしたクラスメイト達に対して、宇宙の果てがどうなってるか程度の興味すら持っていないだけだ。
だが、実力に比例しないプライドを持ちながら、努力もせずただ他者を見下すしかできない哀れな檜山少年にとって、こういう態度こそが一番に許せない。特に、自分で勝手に格下と思っている相手であれば尚更だ。
「こっ、こっ、このビチグソがァァァッ!! オレを嘗めてんのかッ!? テメェがサボってる間にどれだけレベルアップしたか、思い知らせてやるッ!!」
「お前は何を言っているんだ」
ハジメからすれば、勝手にヒートアップされた挙げ句に切れ散らかされるという、極めて理不尽なシチュエーションに困惑しかない。
だが、殺気立った檜山が片手を上げた瞬間、結構のん気していたハジメの中でスイッチが切り替わる。
「い――」
おそらく呪文の詠唱をしようと試みた檜山だったが、最初の一文字を言ったと同時に顔面に右ストレートを喰らわされた。
ハジメは人と争ったり、戦ったりが嫌いだ。生来から温和な性格なので、喧嘩などしようものなら体力よりも精神が何倍も疲れてしまう。
だが、かといって黙ってやられるほどのお人好しでもなければ、無抵抗で殴られ続けることを許すほど恋人の香織も甘くない。南雲ハジメは、やる時はやる主人公なのだ。
「ゲブぁ!?」
盛大に鼻血を噴出し、再び尻もちをつく檜山。呆気にとられていた近藤達を尻目に、ハジメは檜山に馬乗りになって執拗に顔面を殴り続けた。
「あぐっ!? がひっ!! がはっ!!」
「な、南雲テメェ!! 岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち集いて赤き炎となれ!」
「吹き渡る風、留まることなき流れ怒りの刃となれ!」
「岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち集いて赤き炎となれ!」
近藤達が三方向から放ったのは、火球が二つに風圧の塊が一つ。
異世界人故に、トータスの魔術師よりも遥かに強力な攻撃魔法は、受ければ骨の一、二本は容易く砕けるだろう。
しかし、ハジメは檜山を殴り続けながらもスタンド『レディステディゴー』を準備しており、青白い掌で魔法を事もなく受け止める。
同時に能力を発動して魔力を制圧し、分解して無効化させた。近藤達の目には、不可視のバリアか何かで魔法が無力化されたようにしか認識できない。
近藤、斎藤、中野は揃って恐怖し、殴られ続ける檜山を見捨てる他なかった。
もしも彼らに、仗助達のような負けん気がほんのちょっぴりでもあれば、魔法を防いだ瞬間にハジメの左腕が傷ついたことに気付けたかもしれない。
(まずったな……)
檜山が泣くまで殴るのを止めないつもりが、すでに腕を上げるのも辛くなってきた。
(
おそらく、スタンドがトータスの法則に寄らないのと同じく、スタンドの法則もトータスでは通用しないのかもしれない。
透子の言う通り、事前の実験は大切だった。
(こいつらには感謝だな! 後で仗助達にも教えないと……あ、愛子先生にはどうしよう!? シュトロハイム団長に頼んで手紙出してもらおうか)
「タズゲ……も、もう止め……」
「うるさいな。考え事してんだから黙っててよ」
「ぐぼっ!? ごめんなさ、ごべんばさ……へぐっ」
とうとう本当に泣き出した檜山に、ようやくハジメは拳を収めた。しかし。
「何をやっているんだ!?」
中庭に響いた凛々しい声に、ハジメの表情がゲンナリと歪む。
天之河光輝……面倒なのが来た。
光輝だけでなく、龍太郎や雫といった取り巻き、香織や仗助達も続々と集結してくる。
「南雲! すぐに檜山の上から下りろ!」
光輝が高圧的に命令してくるも、素直に聞くのが癪に障ったハジメは最後にもう一発ぶん殴ってから立ち上がった。
「図々しく命令してくれるなよ、天之河」
詰め寄ってくる光輝を、ハジメはとことん冷めた目付きで睨み返す。
光輝は身長差が10センチ以上あるにも関わらず、高校生離れしたハジメの威圧感に気圧される。しかし目の前の『悪』を断罪するべく勇気を振り絞った。
「謝る檜山を一方的に殴るなんて……人を傷つけるのがそんなに楽しいか!?」
「先に手を出したのはあっち。こっちは魔法まで喰らってるんだ、穏便に済ませた方だよ」
「どうだかな! みんなが真面目に訓練してる中、お前や東方達は何をしていた? たまに出てきても少し走って引き上げてしまう。そんな態度が、檜山達には許せなかったんだろうさ」
「シュトロハイム団長の話を聞いてなかった? 僕らに訓練は不要ってなったの、もう忘れたの? どいつもこいつも、忘れっぽいならメモしとけよ」
「そういう物言いが、クラスの調和を乱してるってどうして分からない!?」
「興味ないよ」
一触即発……というには、光輝の一人相撲感が否めない。
その間に治癒師が天職のクラスメイトに回復してもらっていた檜山は、呼吸を整えながらも光輝の存在に気付くと、口許を歪に釣り上げた。
「そうだぜ、天之河! 南雲のヤツ、俺達の頑張りを『勇者ごっこ』って言いやがったんだ!」
「勇者ごっこだと!? 口が過ぎるぞ、南雲ォ!!」
「いや、あっさり騙されんなよ……」
ささっと光輝の隣に立った檜山は、邪悪な笑みを光輝には見せず、殴られた恐怖も忘れて声を荒らげた。
以前に透子が愚痴っていた内容だが、光輝は病的なまでに性善説を信じている人間らしい。悪事には必ず理由があり、話し合えば絶対に理解し合えると思い込んでる。
仗助が岸辺露伴と会わせたら面白そうだ……と冗談半分に話していたが、そんなことしても露伴がキレる未来しか視えない。
檜山のホラは続く。
「お、俺は許せねえ! 自分達に力が無いからって、俺達の努力を貶しやがって!! こいつは昔っからそうだッ!! みんなの輪に入らねえで、遠くから見下していやがった! 根暗オタクがよォ!!」
そうまくし立てた檜山に、ハジメは思わず感心してしまった。光輝の弱い部分を的確に突き、彼の義憤を呼び覚ますとは。
「見下げ果てたヤツだな、南雲!」
「檜山、お前って意外と口が上手いんだな。見直したよ」
「ッ!? 俺を無視するなッ!!」
ハジメとしては檜山に忌憚のない称賛をしただけだが、無視されるのが何よりも嫌いな光輝は激昂。悪気のなかったハジメに掴みかかった。
「痛いぞ。なんだこの手は?」
「お前はいつもいつもッ!! みんなが頑張ってるのを尻目に……香織だってお前なんかに関わらなければッ!!」
「……あ? テメェ、なに人の女ァ呼び捨てにしてんだ、おい」
さらに、光輝も光輝でハジメの逆鱗に触れてしまい、光輝に視えないだけで6本の腕スタンドが彼を八つ裂きにするべく出現する。
さすがに止めに入るべきかと仗助と億泰が動こうとした、その時だ。
「そこまでだ、お前達」
颯爽と搭乗したのはシュトロハイム団長。微妙にニヤニヤしているのは気の所為ではない。背後にはダブルピースで存在をアピールしている透子もいるが、全員の視線はシュトロハイムが独占していた。
「事情はだいたい、泉谷から聞いた。檜山、近藤、斎藤、中野が南雲を襲撃したそうだな」
「い、泉谷……!?」
「図書館に私もいたんだぞ〜っと。気付かなかったかマ〜ヌケ〜」
抑揚のない口調で檜山を煽る透子に、場の空気が微妙に緩くなったが、シュトロハイムの咳払いで一応の緊張感を取り戻す。
「うおっホン! ……お前達は異世界人といえど、ハイリヒ騎士団に所属している身だ。団員同士の私闘は厳禁! よって双方に罰を与える……というのが本来の沙汰だが」
チラリと、シュトロハイムは光輝の陰に隠れた檜山を見やる。
(あの少年は、普段から南雲に殺気を向けていた……ヒヤマか。何があったか知らないが、ここで両成敗にしても禍根は残る。ならば!)
「お互いにそれでは収まりが付かんだろう。よってこのシュトロハイムが立会人となり、南雲とヒヤマの決闘を認めようじゃあないかッ!!」
「……それって」
ハジメにとっても予想外なシュトロハイムの言葉だが……檜山を見れば、なんだかこの世の終わりに遭遇したような表情で、精一杯に身を縮こませて光輝の背中に隠れていた。
本気で怯えているのかは分からないが、光輝はすっかり「か弱い被害者」として檜山を庇うつもりのようだ。
さり気なく周囲を確認すれば、龍太郎を筆頭に地球にいた頃からハジメを僻んでいた男子と、光輝を盲信する女子、さらにどこからか沸いた城の兵士や神官までが、まるでハジメを悪役であるかのように睨んでいた。
今の今まで、檜山を道端に落ちてる犬の糞程度の存在と認識していたハジメだったが……この状況を狙っていたなら大したものだ。
「いいですね、それ。決闘しましょう!」
檜山を明確に「敵」と見定めたハジメは、極めて明るい口調で言い放った。
好戦的なハジメの発言に、光輝が露骨に嫌悪感を露わにするが……その後ろに隠れていた檜山は、
(……え、なんで?)
治療されたはずの顔面に痛みがぶり返した気がして、人知れず頭を抱えていた。
思った以上に檜山が弱い……。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない