決闘は、受けた側であるハジメに条件を決める権利がある、とシュトロハイムは主張する。
なのでハジメも即答した。
「じゃあ今から、この場で、すぐに始めましょう!」
「認める! 檜山、前に出ろッ!!」
「ま、待ってください!!」
やる気満々なハジメとシュトロハイムに、割って入ったのは光輝だ。
「南雲、いい加減にしろ! これ以上、仲間同士で争うな! 団長も団長です、馬鹿な真似は止めさせて、話し合いを――」
「天之河、君にこの件への発言権は無い。檜山、前に出ろ」
「団長! 俺はこのクラスのリーダーです! 仲間の問題は、俺が責任持って――」
「お前にそんな権限はない」
何を訴えかけても、それがシュトロハイムを動かすことはないと悟った光輝は、唇を噛み締めてとうとう引き下がった。
(……俺は……間違っていないのに……っ!)
悔しさに肩を震わせる光輝だが、その背中を一瞥したシュトロハイムには、その心情を見透かされていた。
(俺は間違ってない……とでも言いたそうな顔だな、天之河。その頑固さには感服するが……これは相当な荒療治が必要か。手間を掛けさせてくれる"勇者様"だ)
やれやれと肩を竦めて、シュトロハイムは未だに腹の決まらない檜山を高圧的に睨みつけた。
「何をしている檜山ッ!! 貴様が始めたことだろうが!」
とうとう檜山は、騎士に両脇を抱えられてハジメの前へと引きずり出される。
檜山は抵抗しているのか、それとも抵抗はしてるのに通用していないのか。頼りにしていた光輝もいなくなってしまい、項垂れたままハジメを見ようともしない。
シュトロハイムの眉間のシワが、みるみる深く険しくなっていく。
「私は勇敢なものならば、例え人種が違おうと……いや、亜人や魔人だろうと尊敬するが……貴様のような臆病者は心底軽蔑するッ!! ヒヤマ! この決闘を逃げるなら貴様は終戦まで永久に営倉行きだーッ!!」
「え、営倉って……懲罰房じゃねーかよ!」
「独房でないだけありがたいと思え。当然、逃げ出したら死刑だ」
「し、死刑ぇーッ!?」
「おいおィ……」
どんどん追い詰められていく檜山の醜態に、さすがに仗助も同情する。
「さっさと謝っちまえばいいのによォ」
億泰も同様だ。なお、康一は由花子に引っ張られて先に食堂でランチタイムだった。
「檜山って意外と根性あるタイプだったのかな?」
「そいつは違うぜ、億泰。檜山はハジメを自分より強いって認めたら、生きていけねーって本気で考えてんだ。性根の腐り具合じゃ、ある意味で前までの音石やアンジェロとどっこいどっこいだぜ」
「東方! 虹村!!」
そこへ走り寄って来たのは光輝だった。仗助達は「うっわ、メンドくせぇ」という表情を隠しもしないが、それに気付く光輝ではない。
「頼む! 二人からも南雲を説得してくれ! 仲間同士で決闘なんて、絶対に間違ってる!!」
「仲間ァ? 檜山はハジメを仲間とは思ってねーぜ。もちろん、ハジメも同じだ。第一、檜山は日本にいた頃からハジメを目の敵にしていやがった。ここいらで完全決着させちまった方が、後腐れなくっていいさ」
仗助の言葉に心当たりがあった光輝は一旦は押し黙る。しかし退くわけにはいかない。光輝の頭の中ではもう、檜山は理不尽な暴力にさらされた哀れな弱者なのだから。
「お、同じクラスメイトだろう!? 話し合えば必ず――」
「じゃあまず檜山を止めろよ。今からでも檜山がハジメに詫びを入れれば、ハジメだって荒っぽい真似はしねーさ」
「暴力で解決しようなんて!」
「戦争に協力しようっつー人間の言葉じゃあねえな」
温和な仗助も段々とイライラしてくる。口の回らない億泰は光輝の相手を苦手としていて、飛び火してこないよう大人しくしていたが、内心では「いっそ仗助の髪型を貶して怒らせちまえよ」と毒づいていた。
「ハジメーっ! いつまでも遊んでないで、さっさと戻ってきてよー。午後からは街へ出ようって約束、忘れてない?」
と、悪気は無いけど周りの全員に聞こえる声で呼びかけた香織は、心底からこの勝負の行方がどうでもいい様子。ハジメが負けるどころか、苦戦するとも思っていないらしい。
例え今の一言で檜山の「やる気スイッチ」が入ったとしても、だ。
「……うおぉぉぉぉーっ!! やってやる! やってやるってんだよッ!!」
激しい感情のうねりが奇跡でも起こしたのか、檜山はこの瞬間に軽戦士ジョブの特殊スキル「二刀流」に開眼。ショートソードを両手に、ハジメの前に躍り出た。
シュトロハイムはほんのちょっとばかり檜山の奮起を称賛しつつ、決闘開始を宣言した。
「ではこれより、南雲ハジメとヒヤマダイスケによる決闘を開始する! 勝敗はどちらかが死ぬか、降参するまで続けろッ!! 始めッ!!」
「シャァァァァァァーッ!!」
合図とともにハジメ目掛けて一直線に突撃
ハジメによって両足のブーツの紐を固結びにされていた訳だが、スタンドが視える視えない以前に注意力の足りない檜山には気付きようがなかった。
憤怒と羞恥に顔面を真っ赤にさせた檜山は、すぐにでも立ち上がって反撃に出たかったが……着ている服がカチンコチンに固まっており、まるで身動きが取れなくなっていた。
ハジメのスタンドはすでに檜山の衣服を下着も含めてダイヤモンド並に硬化させ、さらに地面と溶接していたのである。
(な、なんだ……何をされたんだ、オレ!?)
何がなんだか分からないうちに、ハジメは次に中庭の土を集めるという、謎の行動に出る。あろうことか檜山に背中を向け、無防備な隙まで晒してだ。
「ガァァァァァァッ!! テメェ! 南雲ォ!! 殺してやるッ、ぶっ殺してやるよド低俗野郎がァァァァァーッ!!」
吠えるばかりで藻掻くぐらいしか出来ない檜山に、見物人の多くから失笑や嘲笑が飛ぶ。ますますヒートアップする檜山だが、やはりどうやっても服が動かない。
やがて、ハジメが両手いっぱいの土を持って動けない檜山の元へ戻ってくる。その土をそのまま檜山に被せるかと思いきや、スタンドで液状化させてから全身に満遍なく振りかけていった。
「なっ!? テメェ、何してやがんだオラァ!! いい加減に……この、卑怯だぞテメェ!!」
「人聞きが悪いな〜、檜山。僕のどこが卑怯だって?」
「わ、訳の分からねえ技を使ってるとこだよ!! 正々堂々と勝負しやがれ!!」
「お前、ギャグのセンスもあるんだね。結構多才じゃん」
山盛りの土は丸ごとスベスベの液体に変質し、檜山の全身をギトギトに濡らす。
ここに来てようやく、檜山は液体の正体に思い至った。
「……お、おい南雲!? ま、まさかこれって……ッ!?」
ハジメは僅かに残った土と芝生、空気中の酸素を使って指先に炎を灯すと、恐怖で歯を打ち鳴らす檜山を見下ろして、無表情に告げた。
「油」
鼻くそでも飛ばすように放たれた灯火が、山なりに檜山へ着弾。土と芝生とその他から即席で作った可燃性の燃料に引火して、檜山の全身が一瞬にして業火に呑み込まれた。
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!?!?!?!?」
正午を少し過ぎたばかりの王宮に、檜山の断末魔の叫びはとてもよく響いた。
「熱っ!! 熱ぁぁぁあつい!? 南雲ぉぉぉぉっ!?」
怒りからくる精一杯の抵抗か、またはSOSか。いずれにしろ、燃え盛る檜山にはひたすら声を張り上げることしか出来ない。
「な、何やってんだよ南雲ぉぉぉっ!?」
檜山の悲痛な叫びに、光輝が堪え切れずに聖剣を抜いてハジメに斬りかかろうとした。
ハジメは即座に光輝にもスタンド向かわせようとしたが、それよりも早くシュトロハイムの裏拳が光輝の鼻柱を叩き折る。鋼鉄の肉体を持つシュトロハイムの前には、勇者といえどもまだまだ低レベルな光輝などひとたまりもない。
光輝の端正な顔が血に染まると、クラスメイトから少なくない悲鳴が上がる。
「グゴ……ッ」
「何のつもりだ、天之河。神聖な決闘の邪魔をするんじゃあない」
「あ、あれのどこが決闘だ! 南雲が卑劣な罠で、一方的に痛めつけてるだけだッ!!」
折れた鼻から血を流しながらも、光輝はシュトロハイムに毅然とした態度を崩さない。内容がトンチンカンでないならカッコいいのだが。
「あれがヒヤマと南雲の実力差だ。それも理解せずに喧嘩……決闘を仕掛けたヒヤマが間抜けだったという訳だ」
「檜山を追い詰めたのはあなたじゃないか! 檜山だって、ただ南雲に普段の態度を改めてほしいだけだったのに!」
「このシュトロハイムがみたところ、ヒヤマのはただの私怨か逆恨みだと思うよ?」
などとやっている間、ハジメは焚き火にでも当るように檜山の前にしゃがんで、苦痛に歪む檜山をじーっと眺めていた。
「なに観てんだ、南雲ォ!? は、早く火ぃ消せよオラァぁぁぁ熱ァァァァッ!!」
まだまだ叫ぶ元気があるようだ。凄むぐらいならさっさと降参すればよいのだが。
実はそんなに高温にはならない油で、かつ服も不燃性が高くなるよう変質させていたので、今の檜山は低温でじっくりローストされている状態である。仗助や治癒師の存在も加味すれば、本人が気付いていないだけで結構余裕があるのだ。
「熱い?」
「馬鹿かテメェぇぇ!! はやぐだずげろっづっでんじゃねえがぁぁぁぁぁっ!!」
「じゃあ『このゴミのような檜山大介をお助けください』って言いながら靴を舐めろ」
「……は?」
何を言ってるんだこいつは、と檜山の目が点になる。
ハジメは二度も言うのが面倒だとばかりに、檜山の目の前に自分のつま先を差し出した。言わなくても分かるだろう、ということらしい。
ほんの一秒の間にこれまでの人生でも最大級で頭を働かせ、状況の打開を試みた檜山が選んだのは――。
「…………ぁぁぁぁぁァァァァあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーッ!!」
檜山にとって圧倒的格下でなければならないハジメ。根暗なオタクで、クラスの嫌われ者。仗助と億泰の庇護がなければ何も出来ないザコ。
そうした認識を、他でもないハジメ自身に根底から破壊された。
自分が助かるには
檜山大介だった少年の精神は、どんなスタンドでも直せないほど自分から粉々になってしまったのだった。
この日、敗北感に打ちひしがれたのは檜山だけではなかった。
日が暮れた後も一人、訓練場で打ち込みを続けている天之河光輝もだ。
発狂した檜山は、透子が空気中の水分を常温相転移させた大量の水で消化されてからも叫び続け、ついには気を失ってしまった。それきりまだ、意識が戻っていない。
仗助が努めて冷静に「ありゃあ再起不能だな」と言い捨てるのを聞いた。
(ふざけるなよ!? 南雲も、東方も、団長も! どうしてあんな残虐な行為を容認出来るんだ!?)
いくら剣を振っても、腹の底に溜まったドス黒い感情が消えてくれない。
(檜山だって仲間だったハズだ! 訓練にもあまり参加しない南雲や東方達には、みんな不満を持っていた! 檜山はそれを代弁しただけじゃないか!!)
もちろん檜山にそんな殊勝な考えもなければ、ハジメへの仲間意識だって持ち合わせていなかった訳だが。気付ける光輝ではない。
(シュトロハイム団長だって……どうしてあんなのが団長なんだ!? 真っ当な人間だったら決闘なんて絶対にさせない! まず話し合うべきじゃないか!! 南雲の戦い方だって……あんな卑劣な真似を平然と許容するなんて!!)
治癒師に治してもらった鼻の傷が、ズキリと痛んだ気がした。
親にだって殴られたことがない顔と一緒に、傷つけられたプライドの痛みだった。
「随分と……熱心ですな、勇者様……」
そこへ……誰もいないと思っていた夜の訓練場に、静かながら威圧感のある男性の声が響いた。
剣を止めて声がした方向を見れば、ガッシリした体格の男性がゆっくりと歩み寄ってくるところだった。来ている服から聖教徒、それもかなり高位の人間らしい。
「あの、あなたは……」
「初めまして、勇者様。わたしはエンリコ・プッチ、聖教会にて教皇に次ぐ大司教の地位を拝命しています。観たところ悩みがある様子……わたしで良ければ、相談に乗りましょう」
「は、はあ……」
プッチ大司教は困惑する光輝を宥めるように、柔らかい微笑みを浮かべるのだった。
さらば檜山。
次々とラスボスが集結している……!
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない