プッチ「あ……ちょっと待って、できた。ほら……タネつけたまま食べた。やったことある?」
光輝「はあ……」
檜山大介は再起不能となった。
「ねえ、おじちゃん。ぱぱとままにはいつあえるの?」
「ごめんな、分からないんだ。でも、心配要らないよ。おじちゃん達が必ず、パパとママに会わせてあげるからね」
無邪気な笑顔の檜山を、シュトロハイムは彼にしては人の良さそうな笑顔で頭を撫でた。
目を覚ました檜山は3歳ぐらいから先の記憶を無くし、幼児同然の無害な存在となっていた。
光輝を含め、檜山の痛ましい姿に少なくないショックを受けたクラスメイト達だったが、それ以上にハジメが抱く戦いへの覚悟の違いを見せつけられ、およそ半数の生徒が戦争への意欲を失いつつあった。
「やれやれ。国王から直々に雷を落とされたよ。使徒様はもっと丁重に扱えとな」
などと言いながら全然反省していないシュトロハイムは、すでに次の訓練を用意していた。
オルクス大迷宮への遠征である。
全百層という広大な地下迷宮だが、どこからともなく魔物が無限湧きする環境故に、訓練や魔石収集で軍人から民間の冒険者までが利用する、一つの出稼ぎスポットである。
階層によって出現する魔物の強さが決まっていることからも、考古学者は古代人が造った訓練施設ではないか、と考えている。
迷宮に近いホルアドの町にて国営の宿屋に泊まった一行は、明日からの迷宮探索に向けて思い思いに過ごしていた。
「本格的にドラクエっぽくなってきたじゃあねェーか!」
「だな! お宝なんかもみつかったりして!」
などと珍しく楽しそうな仗助と億泰だ。今回の遠征には檜山を除く全クラスメイトが参加することになっている。シュトロハイムによれば大規模行軍の実戦演習だそうだ。
ハジメもRPGらしい展開に浮かれているのか、出発前に香織と図書館で迷宮の情報収集までしていた。もっとも、香織はほとんど楽しそうにしているハジメを眺めているだけだったが。
「『オルクス大迷宮』は世界七大迷宮の一つで、正確な場所が判明している数少ない迷宮なんだ。特徴として階層が深くなると現れる魔物の種類が増えたり、強力になっていく。だから階層によって挑戦者の実力を把握できるってことで、冒険者や傭兵の新兵訓練とか、魔物から採れる武器や防具の素材回収に使われてるんだ」
「本当にRPGのダンジョンみたいだね」
「ドラクエってよりウィザードリィだけどね。あと迷宮の魔物は、地上の魔物より体内の『魔石』が良質なんだって。それ目当てで迷宮に挑むものも大勢いるって話」
こうして男子チームが盛り上がる一方、女子部屋の女子チームも準備に勤しんでいた。
「ダンジョンだじょ〜」
「あなたまで変なテンションにならないで、透子?」
無表情に鼻唄まで口ずさむ透子と対象的に、不機嫌な由花子は、洞窟に潜るという行為自体が気に食わないらしい。
「仗助や億泰はともかく、康一くんやハジメは何が楽しいのかしら?」
「大判小判がザックザク〜。洞窟には太古の夢とロマンが〜眠る」
「くっだらない」
「でも金になるロマンもあ〜る。迷宮の下層じゃあ宝石の原石なんかも手に入る」
「ひょっとして……透子のテンションが妙になってるのって」
香織が問い掛けると、透子は無表情なのに物欲満載の瞳を眼鏡の奥で煌めかせ、爽やかにサムズアップしてみせた。
泉谷透子の好きなものの一つは、稼ぎ用マップでのマラソンだ。
迷宮の入り口には行楽施設のようなゲートがあり、受け付けでステータスプレートを提示させて出入りを管理しているそうだ。
洞窟内部は予想に反してある程度の明かりがあった。魔力を蓄積して発光する『緑光石』という鉱石の鉱脈沿いに迷宮は作られていているから、らしい。
シュトロハイムは光輝、龍太郎、雫を中心としたメンバーに前衛を任せ、自分は後方から有事に備えるような陣形を取った。
だが、スタンド使いチームには特に指示が無い。仗助がシュトロハイムに確認しに行く。
「団長、オレらのポジションは?」
「お前らは自由行動だ。魔物との戦闘経験を積みさえすれば好きにしろ」
「お〜っし、稼ぐぞ〜」
いつものローテンションながら、透子は全身から殺気とやる気をむんむんさせて、光輝達のグループよりもさらに先行して突撃していく。
「!? い、泉谷!? 勝手な行動をするなっ!!」
光輝の忠告など当然のようにスルーした透子は、早速遭遇したラットマンの群れを前にスタンドを出した。
「『リヴァーズデザート』」
透子のスタンド、名前の由来は『砂漠の中の川』。先日に死刑囚を爆裂死させて以来、研究を重ねた新しい戦法を早速試す。
掌に薄っすらと存在する水分と、空気中の水分を瞬間的に蒸発させる。所謂、水蒸気爆発だ。
発生した凄まじい爆発の圧力が、三匹まとめてラットマンを粉砕した。
「……ちっ」
威力は申し分ないが、勢い余って体内の魔石ごと粉微塵にしてしまった。
透子は手応えを確かめるように右手を握ったり開いたりを繰り返す。そこへ、後続のラットマンが一直線に向かってきた。
「危ない、泉谷!」
光輝は聖剣を構えて透子を守るべく走った。しかし、透子の方は向かってくるラットマンを横目で確認済みだ。水蒸気爆発を二発放ち、さらに五匹のラットマンを肉片に変える。無論、魔石ごと粉々だ。
死屍累々の中、透子は走り寄って来た光輝を完全に無視して、仗助の元へ小走りで戻った。
「仗助、ちょっと耳」
「お、おう……えぇ!? 本気かよ、透子!?」
「やってほしい。多分可能」
「分かった。クレイジー・ダイヤモンド!」
透子の提案を受けた仗助は、粉々のラットマンを能力で修復した。
死んだ生物を生き返らせる能力はクレイジー・ダイヤモンドには無いので、キレイな死体が八匹分出来上がるだけだ。
透子は短剣片手に、修復されたラットマンの死体を解体し始める。30秒と掛からず、完全な形で魔石が取り出された。
「予想通り。クレDならうっかり爆殺した魔物も魔石ごと再生できる」
「すっげー! よく思いついたな、透子!」
「言っとくが億泰。ザ・ハンドで削り取っちまったらどうしようもねえからな」
そのまま魔石回収までをあっという間に済ませたスタンド使いチームは、透子が背負った大きめのリュックに積めていく。
回収が一段落したところで、さらなる躍進を遂げようとした透子にシュトロハイムが水を差した。
「泉谷。稼ぎたいのは分かるが、次は他の連中にやらせろ。お前が張り切りすぎると訓練にならん」
「……仕方ない」
まだまだ余裕のあるリュックを背負い直した透子は、要請通りに光輝達へ先頭を譲るのだった。
そこからは、光輝達や他にもいくつか分けられたパーティが入れ替わりで前衛を勤め、討ちもらした分をスタンド使いチームが仕止めていく。
近距離パワー型の仗助、億泰、康一(ACT3)、由花子、香織の五名にとって上層部の魔物は敵ではない。自分の髪とスタンドが一体化している由花子が、気持ち悪い外見の魔物を攻撃する度にブチギレているぐらいだ。
ハジメもハジメで、スタンドで作った火薬と筒を用いた即席の銃を使い、接近を許すことなく魔物を葬り去る。
透子も水蒸気爆発を何度か試し、地下十層目にしてようやく敵の狙った箇所をピンポイントで爆撃する技術を会得するに至った。
そんなスタンド使いを除外すれば、やはり勇者とその一行は抜きん出た実力を発揮していた。
光輝は未だに力を発揮しきれていないとはいえ、切れ味鋭い聖剣で襲い来る魔物を次々と両断してみせる。
龍太郎も自動修復機能を持つ手甲と脛当てを用いて、天職・拳士の能力を遺憾なく発揮する。
曲刀を手にした雫も、華麗な剣捌きで敵を翻弄する。彼女の天職は剣士だそうだ。
そして勇者パーティの四人目――
「頑張って、天之河君! タールッカジャ! タールッカジャ!」
「ふん! ……ふう、これも日々の努力の賜物だな」
「ねえ、香織。あれって……」
「え? ごめん、ハジメに見惚れて聞いてなかった。どうしたの?」
恵理の献身的な援護に、光輝も気付いてるのか気付いていないのか。
ともかく、迷宮探索は地下十九階までは危なげなく進んだのだった。
戦意を失いつつあったクラスメイト達も、トータスにて身に付けた戦闘技能が自らの想像以上だったこともあり、薄暗い迷宮にあって彼らの士気は高く、雰囲気も明るい。
その様子を後方から眺めて、シュトロハイムはほくそ笑んだ。
「本番はここからだ。おい、例のものの準備は?」
「ハッ! 滞りなく完了しております」
「よろしい。スタンド使いチーム、一旦下がれ! 地下二十階には再び、天之河パーティを先頭に進んでもらう!」
「うーっす」
魔石の回収を終えた仗助達は、シュトロハイム達のいる後方へと撤退した。
透子は魔石でいっぱいになったリュックを騎士の一人に預けると、新しく空のリュックを背負い直した。
「全部で日本円ならいくらだろーな?」
億泰の何気ない呟きに、透子は少し考えてから首を振った。
「基準がないから比較しようがない」
「基準ってなんだ?」
「同じ物が違う地域、違う時代でいくらで取引されていたか。日本とハイリヒ王国で共通して使われてる物が無いから、比較できない。服一枚でさえ、こっちとあっちじゃ全然違う」
「ふーん。トニオさんとこで食ったのと似た料理ならあったけどなァ」
「トニオさん……生きて帰ったら帰ったらフルコ〜ス食べさせてもらうんだ……」
『トラサルディー』の大ファンである透子と億泰が、食べられないと分かっていながら無性にトニオの料理が食べたくなっているのを他所に、光輝達は新たに出現した魔物『ロックマウント』に苦戦していた。
岩に擬態するゴリラのような怪物で、外見通りのパワーファイターだ。しかも意外とすばしっこく、光輝達をすり抜けて後方のパーティにまで急接近する。
「あ」
うち一体が、岩に擬態していた仲間を全力で投擲。薄暗いのを利用して密着してイチャイチャしていたハジメと香織へ、空中で一回転を加えて飛び掛かった。
「香織ッ!!」
光輝の叫び声が迷宮に……響かなかった。
「『モンフル・パシュート』、邪魔者を――」
十七の眼球を内包した人型の金属フレームが、空中のロックマウントを強烈なアッパーカットで天井に叩きつけた轟音に、光輝の声は容易くかき消された。
「粉微塵にしろッ!! ハジメに汚い手で触ろうとするんじゃあないぞッ!! このカビ臭いゴリラもどき共がッ!!」
常人には理解できないだろうが、ハジメも含めたスタンド使い全員が、モンフル・パシュートの振るう圧倒的すぎる暴力と絵面のグロテスクさにドン引きであった。
「か、香織落ち着いて!!」
「止まれ、白崎ーッ! 崩落して生き埋めになるぞぉーッ!!」
「あ」
ハジメとシュトロハイムの言葉で我に返った香織だったが、すでに魔石も回収できないぐらいグチャグチャになったロックマウントの死骸で足元が埋め尽くされていた。騎士の中にも顔色を悪くするものが出ており、気の弱いクラスメイトは涙目で口を押さえていた。
「ごめんなさい、ハジメ。あの化け物がハジメにやらしいことしそうな雰囲気だったから」
「あ、ありがと……」
どちらかといえば狙われていたのは香織だった気がするが、ハジメは黙っていることにした。
「む……っ、なんかある」
そこで、絶妙なタイミングで透子が壁を指差した。
ロックマウントが叩きつけられた壁の一部が崩落し、キラキラと美しく輝く鉱物が顔を出している。
シュトロハイムが、口角を僅かに歪めた。
「あれはグランツ鉱石だな。魔石ではないが、装飾品として高く売れる。欲しいなら持っていくといい。早いもの勝ちだ」
「よっしゃ」
高く売れると聞いては透子だけでなく、檜山脱落後の小悪党チームも我先にと岸壁にへばり付いた。
が、彼らがグランツ鉱石を手にすることはなかった。ガォン! という特徴的な音が空間を削り取り、億泰が鉱石を手元まで引き寄せたのだった。
「へっへ〜! オレの勝ちぃ!」
「くっ! ザ・ハンド、やっぱり便利――ん?」
ガッデム! と顔をしかめる透子だったが、鉱石の外れた壁がまだチカチカ明滅していることに気付いた。
まだ鉱石が埋まってるのか……と思いきや、次の瞬間にはフロア全体を巻き込むような魔法陣が展開し、クラスメイト、騎士団の全員を光が包み込む。
それは、このトータスへ召喚された時と、非常によく似た現象だった。
「おおっと! テレポーター!」
シュトロハイムの言葉を残して、迷宮地下20階にいた全員は、刹那にして姿を消してしまったのだった。
次回、奈落の大橋戦。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない