ありふれたスタンド使い達   作:サイデリア

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 タイトルでヤバそうな雰囲気ですが、あいつは出てきませんのでご安心を。
 それと、光輝の苗字が「天乃川」だったり「天之川」だったのを「天之河」に修正しておきました。


メキシコに吹く熱風

 強烈な光が収まると、そこは広大な地下空間に掛かった石橋の中央だった。

 橋の下は底が見えないほどの奈落であり、吹き荒ぶ風があたかも、魑魅魍魎の怨嗟のごとく反響していた。

 

「おっと〜? どうやら巧妙な罠によって妙な場所に転移してしまったようだな〜」

 

 まるで他人事のような物言いのシュトロハイムを、仗助と億泰がギロリと睨む。

 

「おい、あんた! あの鉱石が罠だって知ってて取らせやがったな!?」

「言ってる場合かね。すぐに身構えろ! 敵が来るぞ!!」

 

 仗助の疑念を一蹴してシュトロハイムが指示を飛ばす。すぐに差し渡し百メートルはある橋の両端に魔法陣が出現し、ゾロゾロと()()()()()()()()()()()が湧き出したのである。

 

「人間だァァァァ〜ッ」

「それもガキがいっぱいだぜぇぇぇぇ〜ッ!!」

「あったケェ血ぃぃぃぃ〜ッ! ベロベロしてェェェェェ〜ッ!!」

 

 人語を話す知能こそあれ、知性の欠片も見受けられない怪物に、日頃から王宮の図書館で情報収集に余念のないハジメは即座に思い至る。

 

「大変だ!! あれは屍生人(ゾンビ)ッ!! 人間の死体に闇生物のエキスが注入されて、何百年も活動している吸血アンデッドッ!! 血を吸われたら最期、僕らもヤツらの仲間入りだッ!!」

 

 ハジメの言葉に、クラスメイト達に緊張が走った。

 

「よく勉強しているな、南雲ッ!! 彼の言う通りだッ!! さあ! 諸君らはどう立ち向か――」

 

 その時だ。シュトロハイムの言葉を遮って、ズドドドド〜ッ!! と悍ましい地鳴りが響き渡ったのは!

 橋の両端のうち、階下へ続く階段への入り口の直径はどう見積もっても2メートル程度の楕円形だが、そこから軟体生物のようにズルリと這い出した巨大な影は、大型トラック一台分を優に超えていた。

 

「だ、団長ッ!! ヤツは『サンタナ』ですッ!!」

「なんだとォォォォォォ〜ッ!! ヤツは地下85階以下が根城だろうがッ!!」

 

 シュトロハイムや騎士団にとっても、サンタナの出現は完全に予定外だった。

 サンタナは巨大な二本角を持つ大型四足獣で、ベヒーモスという魔物のネームドモンスターである。

 

 シュトロハイムは本来、より実戦的な訓練を積ませるべく事前に確認していたトラップで全員をこの地下65階へ転送し、精神的にも肉体的にも追い詰める予定だったのだ。

 しかし予定外に登場したサンタナは、ただでさえ凶悪な魔物であるベヒーモスの希少上位種である。その力はレベル90の冒険者を血祭りにあげる。

 サンタナは巨大な二本角が生えた頭頂部を振り乱し、迷宮全体が振動するような雄叫びを上げた。

 

「ブオオオオォォォォォーッ!!」

 

 咆哮だけで屍生人(ゾンビ)の群れを蹴散らしながら、サンタナは逃げ場のない橋の上を一直線に突進してきた。

 シュトロハイムが全体に対して大声を張り上げた。

 

「予定変更だッ!! ヤツはネームドのベヒーモス!! お前達の戦力では太刀打ちできんッ!! 上階への階段へ向かって走れぇいッ!!」

「このオッサンは……ッ!!」

 

 毒づきたくなった仗助ではあったが、後方にある上階への階段方向からも屍生人(ゾンビ)の群れが押し寄せている。文句は生きて帰ってからでも間に合うだろう。

 

「お前らァ!! オレと億泰で道を切り拓くッ!! 遅れねえで付いて来いッ!!」

 

 怒号とともにクレイジー・ダイヤモンドを出現させ、仗助が一直線に屍生人(ゾンビ)の群れへ突撃する。

 そして敵の先頭集団に接近した、その時だ。

 

「おっ! 頭にハンバーグ乗せた変な奴がいるぜぇ〜ッ!!」

 

 屍生人(ゾンビ)の一体が、いらんことを口走った。

 

「――あぁん!?」

(あ、ヤベ……ッ!?)

 

 追従するつもりだった億泰も躊躇するほどの凄まじい殺気が、仗助から噴出する。

 

「テメェ……今オレの頭のことなんつった!」

「聞こえなかったのか〜!? ハンバーグだよ!!」

「植木鉢にも見えるぜぇぇぇ〜!」

「牛のクソだなァ!!」

 

 プッツーン――仗助くんの何かがキレた。

 

「ドラララララララララララララァァァァーーーーーーッ!!!!!!」

 

 クレイジー・ダイヤモンドの持つ、技を超えた純粋な強さ……それはパワー!

 繰り出す拳の風圧さえ、武器となる。

 津波のように押し寄せた屍生人(ゾンビ)の群れが、台風にさらされた枯れ木のようにぶっ飛ばされていく。

 

「……じ、仗助くんに続けぇぇ〜っ!!」

「お、おう! ああなった仗助は強ぇぞ!! みんな走れぇッ!!」

 

 康一と億泰のフォローもあって、クラスメイトの約半分が仗助に続いて走り出した。

 この時動いた面々は、端的に言えば光輝よりも仗助達を頼りにすると決めた者達だ。日頃の訓練、シュトロハイムの評価、凄味などのもろもろを加味した結果、光輝を頼りにならないと見限った連中とも呼べる。

 仗助を無視した屍生人(ゾンビ)共も、億泰と康一、由花子が前衛を勤め、他のクラスメイトは補助魔法や遠距離攻撃を中心に援護しながら、脇目も振らずに突き進んだ。

 

 だが「強くてかっこいい天之河くんなら何とかしてくれる」と考えている者も、未だに半分を占めていた。彼らは仗助には従わず、今まさに無謀な行動に出ようとしている光輝の援護に入ろうとしていた。

 

「うおぉぉぉぉぉーっ!! 『天翔斬』!」

 

 魔力を込めた聖剣の一撃が、サンタナの振り下ろした右前足と激突した。

 一撃を跳ね返されたサンタナがよろめくも、光輝はそれ以上の勢いで後方へとすっ飛ばされ、龍太郎に受け止められた。

 

「大丈夫か、光輝!」

「これぐらい……っ! みんな、援護を頼む!!」

 

 聖剣を構え直し、低く唸り声を上げるサンタナを光輝は正面から見据える。

 だが戦う構えを解かない光輝の肩を、雫が思い切り掴んで引っ張った。

 

「頭を冷やして、光輝! 団長の話を聞いていなかったの!?」

「俺は逃げない!! 俺は戦う!」

「馬鹿言ってるんじゃあないッ!! 龍太郎、こいつを抱えて――」

「これは試練なんだ!!」

 

 サンタナを睨みつけながら叫ぶ光輝の剣幕に、雫と龍太郎は息を呑んだ。

 

「これは……俺がこの先も越えていかねばならない『最初の試練』なんだ! 俺は勇者として、この世界の人達を救うために戦うと決めた!! だから、守るべき仲間が後ろにいる限り、退くわけには――」

「このバカチンがァァァァァァァーッ!!」

「タコスッ!?」

 

 せっかく格好良く口上を決めようとした光輝だったが、猛ダッシュしてきたシュトロハイムに後頭部をぶん殴られて顔面から床に叩きつけられた。

 その瞬間、睨み合っていたサンタナが再び突進を敢行する。

 

「ぶァかものめェェェェェ〜ッ!! 我がハイリヒ騎士団の防御魔術は、世界一ィィィィィーッ!! "聖絶"、発動ぉぉぉぉ〜ッ!!」

 

 シュトロハイムの号令により、五芒星を描くように布陣を展開していた騎士が、一斉に防御結界を作動させた。

 薄暗い洞窟を真昼のように照らし出した大出力のバリアは、衝突したサンタナを倍の勢いで真反対の方向へとぶっ飛ばした。

 その衝撃力は凄まじく、下層への入り口と一緒に、先程屍生人(ゾンビ)が大量に湧いた魔法陣まで巻き込んで崩落させた。

 

「い、いたたた……な、何するんですか、団長!?」

「貴様こそ生意気言ってるんじゃあないぞ、青二才が! 仲間を守る為に退かないだと? そういうのは一人前の男のセリフだ!! お前のような青っちょろいガキが吐いて良い言葉じゃあないッ!!」

「っ!?」

 

 それは、光輝にとって初めて受けた大人からの叱責であり、罵倒であった。

 幼少時から優等生、友達も多くて勉強も運動も誰にも負けず、剣道の試合でも常勝無敗。大人達からはいつだって褒められた記憶しかない。

 なのに……シュトロハイムは光輝を認めない。

 トータスでパワーアップする異世界人の中でも抜きん出た素質があろうと、教会や国王から過大な期待を受けていようと、所詮は実戦すら未経験の民間人でしかない。もしシュトロハイムが光輝を評価するとしたら、今日のアクシデントへの対応が最初の一歩目だ。

 

 もちろん、彼我の戦力差を把握せずに蛮勇奮った光輝の行動は、仲間を見捨てて一人で逃げるのに次いで最悪に近い。

 

「これは命令だ、天之河ッ!! 坂上、八重樫、中村を中心に一点突破し、東方達と合流しろッ!!」

「そんなっ! 団長達はどう――」

「命令と言ったァッ!! オレは誇り高きハイリヒ軍人ッ!! いざとなれば手足の四本や五本簡単にくれてやる覚悟があるッ!!」

 

 シュトロハイムはそれ以上は光輝に構わず、瓦礫の下から這い出してくるであろうサンタナに備える。

 

「光輝、逃げるよ!」

「光輝、団長の言う通りだ!! 俺たちじゃ足手まといになる!」

「くぅぅぅっ!!」

 

 聖剣の柄を血が滲むまでに握りしめながら、光輝は初めて味わう挫折感を噛み締めながら龍太郎に引きずられて行く。

 ところが、その進路を塞ぐように、香織の背中が立ちはだかった。

 

「えっ!? か、香織……!?」

「死にたくないなら止まって」

 

 冷徹に言い放った香織の傍らには、眼球を半分以下の八個まで減らしたモンフル・パシュートが控えていた。

 うち、眼球の一つがサンタナの埋まっていた瓦礫の周囲を飛び回り、地面をすり抜けて敵の姿を探していたが……!

 

「やっぱり! 奴がいない!! 橋の中を移動しているッ!!」

 

 モンフル・パシュートの本体が、金属の拳で橋の敷石を殴り割った。

 その瞬間、石の亀裂の隙間からところてんが押し出されるように全身をグネグネに柔らかくしたサンタナが出現し、正面に回り込んできた。

 

「な、何だとォォォォォォーッ!!」

 

 叫び声はリアクションに定評のあるシュトロハイムのものだった。

 サンタナは骨格すらも自由自在に折り畳み、古くなった橋の隙間をすり抜けたのである。

 上半身だけを橋の上に出したサンタナが、剛腕を振り上げた。

 人間の二、三人なら容易くミンチに出来るであろうハンドプレスだが、モンフル・パシュートは真正面からそれを受け止めた。

 衝突の衝撃波が周囲の空間に伝播し、古びた大橋がミシミシと不吉な音で軋む。

 

「『レディステディゴー』ッ!!」

 

 即座にハジメのスタンドが、腕一本に付き一丁の簡易銃を釣瓶撃ちに放つ。

 弾丸の先端は錐のように鋭く、サンタナの柔軟にも程がある表皮にも突き刺さる。正直に言って蚊が刺したようなダメージだが、出血さえ起こさせれば次の一手に繋げられる。

 

「『リヴァーズデザート』」

 

 触れた水分の強制相転移。生物なぞ大なり小なり水の塊だ。

 透子は意外とすばしっこく、天職が盗賊なクラスメイトにも負けない敏捷性を発揮しつつ、能力の有効射程内……ぶっちゃけ手を伸ばして触れる距離まで踏み込んだ。

 

「ほいっとな」

 

 触れるのは一瞬で十分。傷口から血液を凍結させれば、細胞をズタズタにして脚一本ぐらいなら容易く破壊できる。

 だが、サンタナは前足の一本がどうしたとばかりに強靭な尻尾を振り上げて透子へ打ち据えてきた。

 しかし直撃寸前で待機していたモンフル・パシュートの眼球に掴まり、安全圏までひとっ飛びで運んでもらう。

 事前に打ち合わせたわけでもないのに、見事な連携であった。

 

(よし! まずは一本!!)

 

 内心でガッツポーズを取ったハジメだったが、サンタナは怯むどころかますます凶暴性を剥き出しにして、後ろ脚だけで立ち上がった。

 それだけならまだしも、欠損した前腕の根本から肉が盛り上がり、みるみる元通りになってしまった。

 

「再生能力ぅ!?」

「それがサンタナの恐ろしさだッ!! ヤツは日光の下には出られないが、それ以外の環境においてはほぼ不死身なのだッ!!」

 

 シュトロハイムの言葉は誇張でもなく、ハジメの弾丸で付けられた傷もいつの間にか消えている。

 サンタナは獣が放つには重厚過ぎる殺気を込めて、主にハジメを目掛けてボディプレス気味に倒れ込んで来た。

 

(僕ぅ!?)

「ハジメっ!!」

 

 香織の眼球がサンタナの頭部を複数で襲うが、腕一本ならともかく全身まとめてとなるとさすがにパワー不足だ。

 

「ならば我らに任せよ!! "聖絶"発動ぉ〜っ!!」

 

 光の壁とサンタナの超重量が再びぶつかり合った。

 

「ぬおぉぉぉッ!!」

 

 焦りの声はシュトロハイムだ。顔色が明らかに真っ青に変わった。

 何しろ足元の基底部分から稲妻のような不吉な轟音が鳴り響き、大橋がグラリと傾いたのだから。

 いつ建造されたかも知れない古い石橋が、サンタナのパワーを受け止めきれなくなったのだ。

 

「い、いかんッ!! 橋が崩れるぞ、サンタナを無視して走れみんなァァァァッ!!」

 

 シュトロハイムが叫び、皆が一斉に駆け出した。

 幸いにして、サンタナが前脚一本を失ったのと自身の巨体のせいで橋の傾きに対応できず、バランスを大きく崩している。

 厄介な尻尾を強引に抑えられる香織を先頭、そしてシュトロハイム達騎士団を殿に、ハジメ達は一気に走り抜けた。

 そうこうする間にも橋はどんどん傾いていく。

 

「あわわっ!? えぇーい、根性ぉーっ!!」

 

 ハジメは日頃の走り込みの成果を見せる時……と歯を食いしばって脚を動かし――。

 

「地の砂に眠りし火の力目覚め、緑なめる赤き舌となれ!」

「え――」

 

 どこかから飛来した火球に襲われ、爆発に呑み込まれた。

 突然の出来事に、反応できた者は無く……舞い上がった火柱に吹き飛ばされたハジメは、意識も無く奈落へと落下していく。

 

「ッ!! 止まるなァァァッ!!」

 

 サンタナにも負けぬ咆哮を上げた透子は、迷いも躊躇もなくハジメを追って奈落へ身を投げ出した。

 水蒸気爆発による加速と位置の微調整でハジメに追いつき、気絶した彼を抱えたものの……。

 

「くぅ!!」

 

 下向きに放った水蒸気爆発では上層へ戻る推力を得られず、透子とハジメの姿は暗闇の底へと消えていった。

 

 そして崩壊を続ける橋の上では……。

 

「ギャハハハハハッ!! やってやったぜ! ザマーミロ&スカッと爽やかな笑みが止まらんねーッ!! ギャギャッ!! GYAHAHAHAHAHAッ!!」

 

 サンタナから逃げようとする香織達の進路を塞ぐのは、再起不能になったはずの男。

 牙のような犬歯を剥き出しに狂ったように笑う、檜山大介の姿があった。




 檜山に救いがあると言ったな。
 あれは嘘だ。

オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。

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