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石橋の崩落が刻一刻と迫る中、香織はスタンドの拳を握った。
本心ではすぐにでも奈落に飛び込んでハジメ(とついでに透子)を追いたいところだが、そんなことしても二重遭難にしかならない。
普通に考えれば助かる見込みなどゼロだ。だが、飛び降りる寸前で一瞬だけ振り返った透子には何か勝算があるように感じられた。理屈ではなく、魂に感じたのだ。
「トーコ、ハジメは任せるわ! 私は!」
後方ではサンタナをシュトロハイム達騎士団の結界魔法で抑え込んでいる。
その間に石橋の袂まで一目散に向かうには、正面に現れた新たな『敵』は香織が倒すしかない。
敵と言っても見る限り、クラスメイトの檜山だが。
幼児退行して再起不能だったのが地下迷宮の奥深くにいるのも変だし、何よりこの威圧感は何だというのか。
香織の知る檜山は、身の程知らずにもハジメに喧嘩を売っては返り討ちにされているのに、自分の負けに気が付かない底抜けの馬鹿だ。そこにクズとウスノロを足してもいいし、褒めるべき美点も存在しない。
だが……今の檜山とは対峙するだけで寒気を覚える。
「オイオイオイオイオイィィィィッ!! カオリちゃんよォォォ? 大事なカレシがくたばっちまって、オレの胸に飛び込んでくっか〜? デヒャヒャヒャヒャッ!!」
「モンフル・パシュートッ!!」
元から乏しかった品性が完全に欠落した笑い声に苛立ちつつも、香織は『敵』の顔面にスタンドの拳を突き立てた。
が! あろうことか『敵』はスタンドの拳を
「な……ッ!?」
スタンドではない、生身の素手で確かに香織のスタンドは防御された。
魔法であればスタンドもダメージを受けるのは、ハジメが実証済みだった。理論上、生身に魔力をまとえば受け止めることも可能だろう。
だがこの『敵』は、香織の攻撃タイミングを完全に見切っていた。
(こいつ……スタンドが視えてる!?)
「ゲヒャヒャヒャヒャ! 何考えてるか当ててやろうかァ?
先端が二股に裂けた舌で口許をなぶりながら、檜山は口角を三日月型に吊り上げる。
その瞳に妙な凄味……ではなく、魔力が集中していることに気付き、香織は悟った。
(そうか! 魔力も精神に寄るエネルギーだから、スタンドが視えるようになる魔法だってあるってことね!)
「スタンドが視えるようになる魔法があるんだよォォォ〜ッ!! だが、それだけじゃァねえぜぇぇぇ〜!!」
驚くべきことに、檜山は近距離パワー型であるモンフル・パシュートを、ただの腕力で押し返してのけた。
たたらを踏んだ香織は、傾きを増す足場に気を取られて隙をさらしてしまう。
間髪入れずに檜山が飛び掛かった。スタンドの腕で防御するも、その威力はやはり近距離パワー型に匹敵する。具体的には素のザ・ハンドと同等以上だ。
実は素体の破壊力がC(人間並み)なモンフル・パシュート……眼球の扱い方次第ではクレイジー・ダイヤモンド以上のパワーを出せるが、殴り合いは不得手なのだった。
「くぅぅっ! 腕が痺れた――けども!!」
残る眼球は五個。内一つを高速で顔面に射出してやった。
「ふげッ!?」
頭蓋骨を粉砕する勢いでブチ当てて牽制、香織は後退りしそうな足を根性で支えて強引に相手の懐へと踏み込んだ。
いつ崩れるかも分からぬ橋の上で、こんなの相手にいちいち退いてなどいられない。
「ワンモアセッ!!」
香織はもう一つ眼球を拳にくっ付け、渾身の力でボディブローを放つ。
腹に風穴を空けた檜山が、紙切れのようにすっ飛んだ。
「……これで、残り四つ!」
すっかりスカスカになってしまったモンフル・パシュート。眼球の補充は可能だが、戦闘中に生産できるほどの再生速度はなく、仗助の能力や治癒魔法でも効果がない。
対する檜山は顔面が潰れ、土手っ腹に風穴が空いていた。確認するまでもなく死に体だ。そのまま倒れるなり落下するなりしてくれたら、放置して橋を渡りきってしまいたい。
ところが檜山は倒れるどころか、欠損した部分をビデオを逆再生させるような自己修復をして、数秒も経たず元通りになってしまった。
「あの再生能力……ッ!! 間違いない!」
シュトロハイムはサンタナを結界で奈落へ押し出そうとしつつも、香織の戦いもしっかり観察していた。そして檜山の異常な能力にも感づく。
「白崎、そいつは石仮面を被った吸血鬼だッ!! もはや人間ではない、脳を完全に破壊しない限りは死なんぞーッ!!」
「吸血鬼ですって!?」
「そうだッ!! 禁断のアーティファクト『石仮面』によって肉体に眠る邪悪な力と本性を解放された化け物だッ!! もはやヤツに知性も理性も無い、南雲を撃ったのがその証拠だッ!!」
シュトロハイムに言われるまでもなく、香織はとっくに檜山を殺す覚悟を決めていた。
人間を怪物化させるアーティファクトについても、どこでそんなものを手に入れたのかも、今はどうでもいい。もう大橋の崩落まで数分と猶予が無いのだから。
……だと言うのに、空気の読めない馬鹿がもう一人いた。
「檜山! もう悪ふざけは止めるんだ!! 充分だろう!?」
そう、天之河光輝である。香織を押し退けて、檜山の前に無防備に躍り出たのだった。
「香織も拳を下ろせ! 南雲のことがショックだったのは分かるけど、これ以上仲間割れをしてどうする!!」
こいつはある意味では本当に大物かもしれない。香織は呆れるのを通り越し、うっかり感心してしまった。
「天之河ァ……」
これには他でもない檜山まで首を傾げ、雫と龍太郎、シュトロハイムは言うに及ばず、サンタナすらポカーンと口を開けてこっちを見ている気がする。
「さあ! 一緒に行こう、檜山! 今は力を合わせて脱出するんだ!」
「天之河、お前……」
檜山に右手を差し出す光輝を見て、香織は心の底から思った。こいつ、一回死んだほうがいいかもしれない、と。
「底抜けの馬鹿だったのかァ、おい」
案の定、差し出した右腕は、肩の付け根から檜山の手刀で切断されてしまった。
「――えっ?」
尻餅をついた光輝は、何が起きたか分からない様子だ。
だが、切断された腕が檜山にバリバリと貪り食われるのを目の当たりにして、ようやく痛みとともに
「意外とぉぉぉ〜、ウメェじゃねえか、天之河ァ! お前の腕はよォォォ〜!」
「――――うわああああああああああああっ!!」
「チッ!!」
さすがに見殺しにするわけにもいかずに、香織は戦闘を再開した。
「あああああああぁぁんまァァァァりだぁああああああ〜っ!? おおお
(うざっ)
龍太郎に引きずられながら泣きじゃくる光輝を跨いで、モンフル・パシュートによるラッシュをお見舞いした。
「お前の血はもっと美味そうだな、カオリィィィ! SHOAaaaaaaaa!!」
檜山も光輝への興味を失せ、拳に邪悪な魔力を込めて同じくラッシュで応えた。
結果は……スピードで僅かに香織が上回るが、パワーにかなりの差があって金属フレームの拳がひしゃげてしまった。本体である香織の指も三本へし折れた。
血に濡れた香織の手に気付いたのか、檜山が下衆い笑顔で舌なめずりをする。
「チィィィッ!!」
やはり眼球をぶち当てないと有効打にはならない。だが以前より知恵が回るのか、檜山も眼球には最大限に注意を払っており、迂闊に使えないのだった。
モンフル・パシュートの眼球に課せる命令は、単純であればあるほど破壊力にもエネルギーを回せるが、その分単調な行動しかさせられないのである。
(さっき、胴体じゃなくて頭に当てておけば……!)
「顔色悪いぜぇ、カオリィィィ!!」
「さっきから……馴れ馴れしく呼ぶんじゃあないわよッ!! 薄汚い人間崩れがッ!!」
もはや足元の傾きは踏ん張らないと姿勢を維持できないほどとなっていた。一刻の猶予もない。
(もうなったら、至近距離に詰めて動きを止める!! その隙きに、みんなに走り抜けさせるッ!!)
眼球の内、二つを拳に、一つを額にセットする。打撃と同時に最大パワーで爆撃するのだ。
「へっ! 身を犠牲にして仲間を助けるぅぅぅ〜? お前のがよほど勇者してるぜ!」
香織の行動を察した檜山は、真正面から受けて立つべく拳を構える――ような真似をするハズなく、握り込んだ拳を力まかせですか床に叩きつけた!
「なあっ!?」
限界近かった石橋に、致命的な崩壊が始まった。亀裂が端から端まで一瞬にして到達し、中央部分から一気に破断する。
「うおおおおおッ!!」
「グォォォォォッ!?」
真っ先に被害を受けたのが、中央付近で戦っていたシュトロハイム達とサンタナだ。
特にサンタナは、その重量が災いして足元がきれいにストンと抜け落ちてしまった。瞬く間に奈落の底へと真っ逆さまに消えてしまう。
「うわあああっ、団長ぉーっ!!」
「狼狽えるんじゃあない! "天翔"ォ!!」
サンタナを押さえつけていた結界が、丸ごと空中浮遊する光の箱へと変貌して、騎士達は空中に何とか踏み留まった。
「ひ、檜山ァァァァッ!!」
「ゲヒャヒャヒャヒャッ!! ……やっとオレの名前を呼んだなァ」
檜山は香織が放つ怒声に、満面の邪悪な笑みを返しながら、崩れていく瓦礫を足場にして橋の袂へ飛び移って行く。
遠ざかる檜山の背中へ、残していた眼球の一発を射出するも……予測されていたのか背中を向けたままあっさりと回避されてしまった。
「うわあぁぁぁぁぁ〜っ!!」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁーっ!!」
一拍遅れてクラスメイトの悲鳴が迷宮に反響し、そして最後に――、
「クレイジー・ダイヤモンドッ!! ドラァッ!!」
東方仗助の力強い雄たけびが木霊したのだった。
「なにィィィィィィッ!!」
驚愕する檜山の眼前で、クレイジー・ダイヤモンドの「直す」能力によって石橋が数秒と掛けずに元通りとなってしまった。危うく転落しかけたクラスメイト達も、瓦礫の破片と一緒に引っ張り上げられた。
結果として……落下したのはサンタナだけであった。
「遅くなって悪かったな、香織」
仗助は香織を助け起こすと、その怪我を治しながら静かに、それでいて肝の小さい奴ならブルってゲロぶち撒けるほどの殺気で檜山を睨んだ。
さらに、階段の方には億泰と康一、由花子が、油断も隙きもなく構えていた。クラスメイト達も怯えながらだが、すでに魔法詠唱を終えていつでも檜山を撃つ準備が出来ていた(撃てるかどうかはともかく)。
「
「う、くっ……!」
億泰の恫喝に思わず足を退いた檜山だが、その後ろには何もない。奈落の底へ続く橋の縁である。
仗助は檜山をスタンドの射程外に捉えるべく踏み込もうとするが、それを香織が制した。
「仗助くん、ごめん。
彼女の表情は凪いだ水面のように凛々しいが、その下に激しい感情が渦巻いているのは、誰の目にも明らかだろう。
仗助は、何も聞かずに先を譲った。
「……分かった」
「ありがと。それと終わった後もお願い」
「えッ!?」
使い損ねた残り三個の眼球を全て、右拳に集中した香織は、必殺の気迫で檜山に望む。
「……ヒッ」
檜山は客観的にも主観的にも手詰まりだ。万が一にも香織を退けたところで、次の瞬間には仗助達に袋叩きに遭うし、シュトロハイム達騎士団まで控えている。
となると、彼に可能な現実的な反撃手段は、言葉による精神攻撃だ。
「お、オレを殺すつもりかよ、カオリィ!? 南雲のカタキ討ちのつもりかァ〜ん?」
香織の足が止まる。効果アリ! と内心でほくそ笑む檜山だが、それは火に油どころかロケット燃料を注ぐ行為である。光輝以外の全員が、脊髄に氷柱をブチ込まれたような香織の殺意を感じ取った。
だが檜山はなおも香織を煽った。
「オレは確かに南雲を
「だから?」
「え? いや、だからって――」
檜山が、彼にとっては予想外過ぎる香織の冷めた返しに、素の反応を示した……その瞬間。モンフル・パシュートは、攻撃の射程内に檜山を捉えていた。
「ゲッ――」
「おりゃあァァァッ!!」
ボケーっとしていた檜山の脳天に、スタンドから放たれた眼球三つがロケットパンチの如く炸裂した。
先程のように顔面を潰すなどという半端ではない。頭蓋骨を粉砕して
気合を込めすぎて眼球が破裂し、フィードバックしたダメージで両足の骨が折れたものの、仗助がいるなら微々たる問題だ。
「ぐえりゃァァァァァぁぁ〜ッ!?」
小悪党に相応しい断末魔の叫びを上げて、檜山も奈落の底へと落ちていく。それを冷めきった視線で見送り、香織は忌々しげに呟くのだった。
「ハジメはお前如きが殺せるほど、安い男じゃあない。残念だったわね」
もしかして一番キャラ崩壊してるのって香織かもしれません……。
治癒師ですよね、原作だと。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない