クラスメイト一同と騎士団、全員の点呼が終わった。
幸いと言うべきか、ハジメと透子以外全員の無事が確認された。
もっとも右腕を失った光輝は心神喪失状態で、龍太郎や雫、恵理がいくら呼び掛けても反応がない。一応、腕については治療師と仗助が協力し、時間を掛ければ治せそうだった。今は止血だけして、龍太郎が背負っている。
「それで……白崎。確認するが、南雲と泉谷の生存は確かなのだな」
シュトロハイムの問い掛けに、香織は力強く頷いた。
「途中までですが、トーコがハジメを抱えて壁に張り付くのがスタンドで視えましたから。彼女とハジメの能力なら、少なくとも無事に最下層まで降り立つことは可能かと思います」
「ふむ……」
希望的観測に過ぎない香織の意見を、指揮官であるシュトロハイムが鵜呑みにすることは出来ない。
しかし、ここは地下迷宮の65階という深層だ。既踏破領域といえども、香織の戦意を挫くのはリスクが高い。スタンド使いに次ぐ戦闘力を持つ光輝が再起不能寸前であることも加味して、シュトロハイムは最低限の言及に留めることにした。
「現状では救援は出せん。我々の脱出が最優先だ」
「構いません。彼らであれば自力でなんとかします」
「とは言うけどよォ、団長さん。あんた、あのトラップを分かってて踏ませたんすよね〜? パパっと帰る方法なりアイテムなりあるんじゃねぇーんすか?」
意外と根に持つ性格の仗助は、ハジメと透子の件もあって嫌味たっぷりシュトロハイムに詰め寄った。
シュトロハイムは当然のように即答する。
「そんなものはない」
「なにィィィ〜ッ!?」
「寄るな、暑苦しい! ここから地上までの強行軍も含めての訓練だったのだ! サンタナと檜山の乱入は想定外――」
そこで唐突に会話の時間は終わりを告げた。
「グオオオォォァァァァァァッ!!」
奈落の底から轟く、巨大な獣の咆哮。仗助とシュトロハイムは顔を見合わせ、橋の縁から底を覗き見る。
サンタナが壁に爪を突き立て、凄まじい勢いで這い上がって来るのが見えてしまった。
「ぜ、全員走れぇーっ!! 止まらずに上層階へ駆け抜けろォォォォォーッ!!」
シュトロハイムの号令を待つまでもなく、仗助を先頭に地上への
最後に一瞬だけ振り返った香織だが、すぐに未練を振り切るようクラスメイト達に続いたのだった。
時間はほんのちょっと遡った場面から――。
「『リヴァーズ・デザート』ッ!!」
空気中の水分を限界まで右手にかき集めた透子は、巨大な氷の杭を作り出して方角も定めず一直線に伸ばした。
これまで行使したことのないスタンドパワーの消耗に、透子の意識が途切れかける。しかし気絶するのはしばらく先だ。左腕には気を失ったハジメを抱えている。香織の手前、彼を死なせるわけには絶対にいかない。
「んの……っ、根性ォッ!!」
太さ3センチ程度の心許ない氷の杭は、岩壁に突き刺さると二人を支える唯一の命綱となった。
ひとまず落下は止まったが、右腕一本に二人分の体重は、小柄な透子にメチャクチャ辛くのしかかる。肘と肩の関節が悲鳴を上げた。服に血が滲んでいる気がするが、確認すると気が滅入りそうだから無視する。
常温のまま水分を強制的に相転移させる透子の能力は、言い方を変えれば決して溶けない氷を生み出す。掌全体を氷でガッチリ固めれば、少なくとも透子が能力を解除しない限りはぶら下がっていられる。
杭を右手と同化させ、ロープウェイのように伝って壁際へと滑り渡った。
そうして壁までたどり着いたが、当然ながらトカゲでもヤモリでもない透子に、へばり付いて休憩なんて芸当は不可能だ。
「氷で足場を作って……あ」
しかし、右手以外の場所で水分を凍結させようとした瞬間、自分達を支えている氷の杭に亀裂が出来てしまった。慌てて右手に精神を集中し直す。
「……立ち往生……ん!?」
万事休すかと思った矢先、攻略のヒントは思わぬ方向から現れた。
「グオオオォォァァァァァァッ!!」
悍ましい悲鳴とともに降ってきたサンタナだ。巨獣は落下中に器用にも体をくねらせ、壁に向けて剛腕を伸張させたのだ。
カギ爪を岩壁に突き刺したサンタナは、幸いにして透子達に気付かぬまま、低く唸りながら壁をよじ登っていった。
「カギ爪……よし!」
さっきのサンタナをヒントに、右手を覆う氷を変形させていく。鋭い爪を備えた巨大なガントレットをどうにか作り出して、その爪を壁に引っ掛けた。
……その瞬間!
「いっ!?」
岩肌をガッチリと掴んだはずが、自重を支えられずに岩石を削って体が滑り初めてしまった。
ゆっくりと、それこそエレベーターが下降する程度のスピードだが、確実に奈落の底へと近づいていく。止まりたくても、止め方が分からない。
「爪の切れ味が鋭すぎた……」
しかし、迂闊に作り直そうとすれば氷のガントレットがまた砕けたり、体が壁から離れてしまう危険性が非常に高い。
「……このまま降りるしかない、か」
頭上を見上げようとも、もはや石橋を視認することもできない。
帰るには骨が折れそうだ。透子は溜め息を吐きつつ、未だ視えない奈落の底を眺めるのであった。
時間にして30分か、それより短いぐらいで、透子は奈落の底へとたどり着いた。フリーフォールならもっと短期間で到着しただろうが、その場合はハジメと揃ってバラバラ死体になっていただろう。
幸いにして、この辺りの地層にも例の光る鉱石が多くあるようで、視界はある程度確保できていた。
透子はハジメを地面に寝かせて、状況の確認に務めた。
目の前には地底を流れる川があり、少し離れて滝まである。
また、ところどころ壁の横穴から水が噴出しているのも確認できた。仮に落下途中で噴出する水に押し流されていた場合、壁に叩きつけられて少なくないダメージを負っていたところだ。
次に透子自身の状態だ。ひとまず五体満足ではあるものの、酷使し続けた右腕が酷く痛む。指先の感覚こそあるし、スタンドの使用にも妨げは無さそうだが、そのスタンドを操る精神力にしても消耗しているのがよく分かった。
最後にハジメだが……彼の意識はまだ戻っていない。
呼吸はしている。心音もある。だが、檜山の火炎魔法を無防備のまま直撃させられたのだ。すぐにでも医者か治療師、むしろ仗助に治してもらいたい。
「弱った……」
無表情こそ崩さないが、傍目にも弱りきっているのが丸分かりな様子で、透子はぽりぽり頭を掻いた。
どこかその辺に、一口飲むだけで完全回復する水が湧き出す奇跡のアイテムでも都合よく落ちていないだろうか……などと考えてしまうほど、弱っている。
実は彼女達の足元には本当に幻の回復アイテムが埋まっていたのだが……残念な事に、それは天職が錬成師の人間が、逃げのびる為に必死で掘り進めないと見つからない位置にあった。透子にもハジメにも、発見する方法が無いのである。
「ハジメ。ハ〜ジ〜メ〜? 起〜きろ〜よな〜」
ペシペシと頬をはたいて覚醒を促す。するとハジメの眉がピクリと動いたので、透子はより強い刺激を与えていった。
「ほ〜れ起きろ〜。起きないと香織にはとても言えないことす〜る〜ぞ〜」
「う……ぅあ、やめて香織……それ以上はもう、出せないよぉ……」
微かに意識が戻ったハジメが、寝ぼけて愉快な事を言い出した。面白くなってきた透子は、耳元で囁くように香織のモノマネをし始める。
「だ〜め♡ 今日は後7回はするの〜♡」
「無、理ぃ〜……枯れちゃう……」
「頑張ってぇ、ハジメ〜♡ あなたの〇〇〇〇の××××××に〇〇〇〇△△△△を〇〇〇〇△△××ぇ〜♡」
「……香織はそんなこと言わない!!」
もうちょっと遊びたかったが、悪ふざけが過ぎたようだ。勢いよく上体を起こしたハジメは、しかしすぐ頭を押さえてうずくまってしまった。
「あだっ、いだだだだだッ!? あ、れ……ここ、どこ?」
半泣きの目で何度も瞬きしたハジメがゆっくりと周囲を見渡すと、すぐに透子の存在に気がついた。
「おはよ〜さんだな〜ハジメ。香織じゃあなくて悪いけど」
「トーコ? ……あれ? えっと……」
「落ち着け。ほ〜ら水だぞ〜っと」
「へっ……あわわ!?」
混乱しているハジメに、透子は空気から飲料水を作ってハジメの手の中に注ぐ。もちろん常温だ。
両手一杯分の水を飲み干したハジメは、小さく息を吐いた。
「ぬるい……」
「過ごしやすい洞窟の空気のせ〜いだ。むしろ冷たい水が出てくる方が
「それだけ気温が低いってことになるか……ねえ、トーコ。ここってやっぱり、あの橋から落ちた先なの?」
「誠に残念ながら」
落ち着きを取り戻したハジメは、頭も回るようになってきた。
透子が簡潔に状況を伝えたところ、ハジメは檜山ごときにしてやられた事には悔しみを露わにする。だが間違いなく香織にボコられて再起不能だろうザコのことより、考えるべきは次の行動だ。
「よじ登るのは現実的じゃあないか」
「途中で力尽きてドボ〜ンだと思う。食料もないのに救助を待つのも悪手。上階への階段を探すに〜一票」
「同感。……うん。僕も歩くには不自由ないよ。すぐにでも出発できる」
「そいつは重畳。立てる?」
「うん。目も視えるし、手足も動く。ちょっと痛むけどね」
ハジメはちょっぴり顔を歪めながらも、透子の手を借りて立ち上がった。肩を貸そうか訊かれたが、それには及ばないと断った。
透子が前に出て、魔物の気配を警戒しながら慎重に進む。ハジメが若干渋い顔をしたのには気付いたが、どうせ女の子に先を歩かせるのを心苦しいとかそんなところだろう。怪我人だし、透子は無視して先を行く。
「思ったより平和〜」
川沿いにしばらく進み、透子がふと口に出した。上層でさえ数分も歩けばラットマンのような魔物と遭遇していたが、このフロアではウサギ一匹見掛けない。
「迷宮の深部なんても〜っとクソエンカ・デスエンカの山かと思えば」
「魔物が出ないのはいいことだよ」
「で〜もこういうのってボスフラグ臭ぅ〜……う?」
臭いの話をしたからだろうか。突然に鼻を突いてきた濃厚な鉄錆の臭気に、二人の足が止まった。
発生源はようやく発見した魔物らしい物体で、いずれもものすごい力で叩き潰された惨殺死体ばかりだった。
狼のような魔物に、人型に近い兎のような魔物が、足の踏み場も無いほどに散乱していた。一際目立つ、身の丈3メートルはあるヒグマチックな怪物に至っては、上半身と下半身が凄まじい怪力で引き千切られていた。
そして……おそらくこの殺戮を行ったであろう、一人の男も立ち尽くしていた。
背が高くてガッシリとした体格、ショッキングピンクの長い髪をいくつもの斑点模様で染め抜いた、奇妙な容貌の男である。
「……人間、か?」
透子達の気配を察知したのか、男がゆっくりと振り返った。
顔立ちはトータスで見掛ける西洋系……というよりも、シュトロハイムやヴァレンタイン並みに濃ゆい面構えであった。
その瞬間、透子とハジメは反射的にスタンドを出して身構えていた。
男は特別、透子達へ敵意や殺気を放ったわけではない。しかしその凄味と威圧感はまるで、人智を超えた強大な怪物と錯覚してしまうほどに強烈だ。
そして、男もまた透子達へ驚きの表情を見せる。
「ま、まさか貴様らッ!! スタンド使いかッ!!」
「!? スタンドぉ〜知ってるのか、あんた」
「や、止めろ! 来るな!! 近づくんじゃあないぞッ!!」
男は透子に答えず、表情にハッキリとした恐怖を浮かべて叫ぶのだった。
「オレのそばに近寄るなああーッ!!!!!!」
ディアボロの大冒険仕様のボス登場。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない