地下深くで透子達がにっちもさっちも行かなくなっていたのと同じ頃。
サンタナから逃げるべく、地下65階から全力疾走していたシュトロハイム達であったが、ついに地上へとたどり着いた。
人間やれば出来るもので、クラスメイト一同に脱落者はいない。龍太郎に至っては、光輝をおぶったまま走り抜けたのである。
だが、未だに事態は収まらない。サンタナは、遺跡の外にまで追いかけてきたからだ。
「いかァァァーん!! 外はもう夜だ! サンタナの弱点の日光が出てなァァァァいッ!!」
「なにィィィィィッ!! どぉーすんだよ、それぇ!?」
シュトロハイムの狼狽に、仗助も凄まじい剣幕でツッコミを入れる。
ここまでサンタナは、ザ・ハンドで削ろうが再生し、クレイジー・ダイヤモンドで岩石に埋め込もうが、紫外線照射ビームを喰らわせようが、凄まじい生命力と馬鹿力で強引に突破して追跡を続行してきた。
何がこいつを駆り立てるのか分からぬまま、残された手段は地上に誘き出して太陽に晒すことだった……のだが、それも宵の口ではご破産だ。
「ギャアアアッ!! どうしてベヒーモスがこんなところにィィィィィッ!!」
地上に飛び出した超大型魔獣に、遺跡ゲートの警備員を始めとする常駐していた騎士や、魔石回収に赴いた冒険者達の間にパニックが拡がった。
しかし狭い迷宮から拓けた屋外に出たことで、クラスメイト達はようやく散開する事が出来るようになる。
サンタナの進行方向から外れた生徒は、ようやく足を止めて一心地ついたのだ。
仗助や億泰、屈強な騎士達にシュトロハイムも、半日足らずで迷宮を駆け上がった疲労は馬鹿にならない。
だがここに至っても全く、微塵も、ほんのちょっぴりとも立ち止まれない男がいる。
坂上龍太郎である。
「どうして俺を追ってくるんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
まだまだ叫ぶ元気がある龍太郎を遠くに望み、雫は何となくだが光輝が狙われている気がした。だが、それを教えたところで龍太郎が光輝を投げ捨てることはないだろうし、そもそも息も絶え絶えな雫には教えるために声を張り上げる余力もないのだった。
「坂上くーんッ!! そのまま朝まで走り切れれば、日光に当たったサンタナは死滅するってぇーッ!!」
代わりに康一が、何の慰めにもなっていないアドバイスを送るっていた。それを受けた龍太郎の心境は余人には測れないが、彼は全力疾走を続けるしかない。
そんな龍太郎の進行方向に人影を見つけたのは、夜目が異常に利くシュトロハイムと、スタンドの視力がずば抜けている仗助だった。
右目に眼帯をした大男で、2メートル近い骨格にはち切れんばかりの筋肉を搭載し、逃げも臆する様子もなくサンタナを睨みつけていた。
その出で立ちは袖が無く裾の短いピチピチのシャツに、下半身は褌でムキムキの四肢を惜しげもなく晒している。衣服に余計な装飾が無いものの、短く借り揃えた暗い金髪に刃のようなワイヤーが何本か垂れ下がっていた。
龍太郎とすれ違った一瞬、口角を上げて自信満々に言い放った。
「待たせたな。あとは私に任せろ」
「え……っ!?」
力強くも優しく語り掛けてきた男に、龍太郎は状況も忘れて足を止め、自分を護って立ちはだかった男の背中を見つめ返した。
「馬鹿なッ!! な、なぜあの男がここに!?」
驚愕の声はシュトロハイムのものだ。
「だ、誰なんスか、あの男はッ!! どー見てもタダモンじゃあねー雰囲気っすけど!?」
「当たり前だ! あの男は――ッ!!」
仗助の疑問にシュトロハイムが答えを返すより前に、男が何よりも雄弁に自分の存在を証明する。
腰を落として両腕を突き出した構えで、男が静かに呟いた。
「闘技・神砂嵐」
右肘を関節ごと左回転!
左肘を関節ごと右回転!
息を整えていた仗助達も、拳が一瞬巨大に見えるほどの回転圧力にはビビった!
そのふたつの拳に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は、まさに歯車的砂嵐の小宇宙ッ!
「あの技は間違いないッ!! あの男は現ヘルシャー帝国の皇帝ッ!! ワムウ陛下だーッ!!」
「ぐ、グオオオオオオオァァァァァァーッ!!」
うるさいぐらいのシュトロハイムの叫び声は、さらにうるさいサンタナの断末魔の絶叫によって掻き消された。
ワムウ……ガヘルト・ワムウは現ヘルシャーの皇帝であり、あまりの戦闘能力から『ワンマンアーミー』『ビッグボス』の異名で畏怖される超人である。
その類まれな戦闘能力は、特殊な呼吸法によって全身に太陽と同質のエネルギーを発生させたことによる身体能力の劇的な向上に支えられている。
即ち、波紋の呼吸ッ!!
「ガアアァァァァァ……ァァァ…………ァ――――」
神砂嵐の暴風に含まれた高出力の波紋エネルギーが、不死身と思われたサンタナの肉体を瞬く間に細切れにし、気化させてしまった。
地平線まで地面を抉る悍ましいまでの破壊の軌跡を残し、サンタナは地上から完全に消滅したのだった。
「す、すげえ……オレのザ・ハンドでも削り切れなかったサンタナが……」
億泰の声も震えていたが、声を出せただけ肝が据わっている。康一や香織ですら、ワムウの起こした破壊跡を前に茫然自失となっていた。
「ベヒーモスが地上まで這い出して来るとは。珍しいこともあるものだ。……大丈夫?」
龍太郎に振り返ったワムウは、ただでさえ厳つい風貌に加えて右目に眼帯というスジモン上等な容姿からは想像も付かない気さくな物腰で龍太郎を支え起こした。
「ワムウ陛下ッ!!」
そこへシュトロハイムと仗助も駆け付けた。
仗助はクレイジー・ダイヤモンドで龍太郎と、ついでにまだ気を失っている光輝に触れるが、極度に疲労しているだけで外傷は無かった。
「坂上お前、ガッツあんなァ〜」
「えっ!? あ、ありがとう……?」
あまり接点のない仗助から突然感心された龍太郎は、戸惑いながらも満更でもない様子だった。
「陛下!? なぜハイリヒ国内をウロチョロしているのでしょうか!? きちんと入国審査は済ませておりますでしょうな?」
「いきなり酷いな、シュトロハイム団長。ちゃんとほら、許可証もあるし」
「どうでしょうな。フットワークの軽さと神出鬼没っぷりが陛下の持ち味です。いくら同盟国の国家元首といえども、許可証を偽造したら……」
「昔の話を蒸し返すな。相変わらずの堅物だな、お前は」
気心の知れた様子のシュトロハイムとワムウだが、どうやらシュトロハイムがワムウの相手をし慣れている雰囲気であった。
シュトロハイムは「まあ良いでしょう」と話を仕切り直すと、改めてワムウに切り出した。
「それで、どういったご要件ですかな?」
「決まっている。イシュタルのジジイが隠していた、異世界からの勇者様とやらを見に来たのだ。神の使徒だか知らんが、魔人族との戦いで旗頭となる者、気になるのは当然だろう」
「……それで、一人でおいでになったのですか?」
「私に護衛が必要だとでも?」
自信満々に腕組して不敵に笑うワムウは、外見からして只者でないのが一目瞭然だ。先程の神砂嵐といい、この男なら魔界だろうとピクニック感覚で散歩してきそうだ。
そんなワムウの鋭い眼光が、仗助を向いた、反射的に仗助の背筋がピンと伸びる。
「見たところ、君からは歴戦の勇士の気骨を感じる。間違いない、君が勇者だな!」
「いや、えっと――あいだっ!?」
ワムウの馬鹿力で肩を叩かれ、さすがの仗助も顔を歪めた。勘違いを訂正する暇がない。
「うむ、良い体をしている。そしてその髪型……攻撃的で実に良い! なんだ、心配することなかったな〜。君なら旗頭としても充分――」
「いえ、陛下。聖教会の言う勇者は彼ではありません。そこの大柄の少年の背中で寝ているのが勇者です」
「え?」
シュトロハイムがようやく訂正を入れ、ワムウは光輝と仗助の間を二度見する。
しばらくワムウは光輝の寝顔をじーっと観察した後、真顔で口を開いた。
「悪い事は言わん。シュトロハイム団長、そっちの青びょうたんを見捨てて、この個性的な髪型の少年を勇者という事にしてしまえ。君、名前は?」
「ひ、東方仗助っす、皇帝陛下……」
「ジョースケ! 君、勇者やらないか?」
「勝手に話を進めないでいただきたい」
強引なワムウに苦笑いを返すばかりの仗助なのであった。
帝国との邂逅イベント、これにて終了。
ワムウ+ビッグボス=皇帝陛下。というかワムウのボディがビッグボス乗っ取られた状態でしょうか。闇の一族ではなく、人間です。
-----------------
ガヘルト・ワムウ 推定40代 男 レベル:ワムウッ!
天職:スーパーモンク
筋力:圧倒的破壊空間ッ!
体力:衛星からのレーザーまでならどうにか
耐性:解毒剤飲んで毒物を食べる
敏捷:ワムウは風になった
魔力:歯車的砂嵐の小宇宙ッ!
魔耐:一万数千年を彷徨った級
技能:言語理解・風の流法・波紋の呼吸[波紋疾走]・CQC・カリスマ・ビッグボス・スイッチング・戦闘の天才
-------------
ワムウ単品だといまいち皇帝っぽくなく、原作の気さくなようでシビアな性格とワムウと同じ声優さん繋がりからビッグボスと融合……と、色々あってこうなりました。
……勇者いらなくない?
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
-
多すぎるからもっと控え目
-
ちょうどいい
-
少ない