白崎香織は友達を作らない。
幼馴染のあいつもこいつも、彼女の隣に立つ存在を認識できないからだ。
『香織さんは一向に友達を作ろうとしません。作れないのではない、作らないのです』
『恥ずかしながら、親である我々にも香織の心が分からないのです……』
分かり合えないのは当然だと、香織は思った。
隠し事をしている相手と、誰が仲良くできると言うのだろう。
きっと自分は、一生真に理解し合える友になど出会えないと考えていた。
だが中学二年生のある日。彼女は奇妙な光景に遭遇した。
奇妙というのは、おばあさんと小学校低学年ぐらいの男の子を背中に庇った少年の前で、男子高校生三人が顔面を掻きむしりながらのたうち回っているのだ。
高校生達は自分の顔を自分の爪で傷だらけにしながら、地面を転げ回って行為を止めようとしない。呼吸が出来ないのか真っ赤に染まった苦悶の表情からも、尋常ならざる事態が起きているのは明白だった。
(……あ、あれはッ!?)
ふと、肉眼ではなく香織が生まれ持った感覚の眼が、高校生たちの顔に張り付いた青白い腕を幻視する。
船幽霊は海面から腕だけを伸ばし、生者を海の底へ引きずり込むという。高校生達を襲っているのはまさに、幽霊の腕と呼べるものだ。
前腕の半分から先だけ。青白く生気のない肌色。それぞれ異なる指に指輪を嵌めている以外は、全く同じに視える左腕が三本。高校生達の鼻と口を押さえて呼吸を妨げていた。
高校生達からすれば、視えも触れもしない何かに呼吸を塞がれている状況。刻一刻と迫る死の恐怖と絶望に、失禁する者すらあった。
「うわあ……」
高校生達の醜態に少年が顔をしかめると、幽霊の腕は一斉に高校生から離れて少年の元へ。そして彼の左腕に重なるように消えていった。
生きながらえた高校生達は、逃げる体力も尽きていたのかその場で気を失ってしまった。
「喧嘩を売る相手ぐらい選べよな」
溜め息を吐いた少年は、怯えるおばあさんと男の子にも一瞥をくれることもなく歩き去っていく。
香織は無意識に、少年の背中を追い駆けた。
「ま、待って!!」
香織の呼び掛けに振り返った少年は、目を見開いて硬直する。
中学生離れした香織の美貌に中てられた……のではない。
「あなたにも
香織の言葉は少年には届いていない。
彼の心にあったのは、先程の高校生達と同じ死の恐怖だ!
逃げなければ死ぬッ!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」
少年は180度ターンして走った! 死に物狂いで走った!!
「待ってぇーっ!!」
香織も追った。初めて出会った自分と同じ
「来るなァァァァァァァァーーーーーーッ!!」
二人のチェイスは日付が変わる頃まで続いた。
運命とは無情である。街を一周し、まだ高校生達が気絶していた公園に舞い戻ったところで、少年は香織に捕まってしまう。
これが白崎香織と、南雲ハジメとのファーストコンタクトであった。
数年後――。
県立ぶどう丘高校に進学した香織とハジメは、学校でも有名なカップルだった。
とある物理の教師曰く、
「今の子達は知らないだろうけど、あれって完全に『うる星やつら』だよな」
らしい。
ジョジョとのクロスというより、ジョジョで汚染したありふれになっている。