味方をどんなに強くしても物足りないぐらいチート何だもん。
パチパチと、牧歌的な焚き火の音だけが聞こえている。
ユエが脳と心臓を徹底的に破壊した挙げ句、ハジメによって荼毘に伏せられた檜山怪獣が燃える音だ。
こんな状態でも吸血鬼の細胞は生きているので、放置して迷宮の魔物に捕食されるとあのサンタナのような怪物が生まれる危険性があるのだとか。
ユエ教授曰く――、
「魔物の肉を食べると、その魔物が持つ固有魔法をラーニングすることが出来る。だけど同時に、含まれている魔力が凄まじい勢いで肉体を変異させる。通常の生物ならこの変異に耐えられず死ぬ。吸血鬼なら再生能力で耐えられるけど、細胞変異によって人型を保ち続けるのだって難しい」
例外があるとするなら、土中の魔力が長い年月を掛けて結晶化した『神結晶』と、そこから流れ出る万能回復の『神水』を併用するぐらいだが、そんなもんまず見つかりっこないので説明を省くユエだった。
「私の配下だった吸血鬼達も、そうしてパワーアップしていった」
「ユ〜エ陛下はしなかったんすか〜パワーあっぽぅ?」
「自分より格上の魔物でないとパワーアップ現象は起きない。赤石の石仮面で変質した私以上の生命体は地上に存在しない。例外は――」
「究極生命体カ〜ズ……『神』か」
透子にとって、トータスの『神』は倒すべき敵だ。地上に帰る為……だけではなく、そもそも彼女はそのために、この世界へ転生させられたのだ。
読者諸氏も忘れているだろうが、泉谷透子は派遣タイプの転生者。閻魔大王と異世界神の指令を受けている身である。
地球で17年。トータスに来て1ヶ月。とうとう透子は、敵の尻尾を掴んだのだ。
ただ……ユエの話が事実であれば、どうやってそんなもんを倒せばよいのか検討がつかないわけだが……。
「先生、質問いいですか?」
「はい、ハジメくん」
ハジメがノリで学校っぽく言ったら、ユエも教師っぽく発現を許した。やっぱりノリいいなこの人、と透子も内心で共感を覚える。
「そもそも究極生命体って何なんです? 名前からしてヤバいのは伝わってきたけど」
「一つ。無敵なり。
二つ。決して老いたりせず。
三つ。決して死ぬことはない。
四つ。あらゆる生物の能力を兼ね備え、しかもその能力を上回る。
以上」
「……なに、そのチート……」
「チートというより、もはやバグだな……」
ドッピオも戦慄を禁じえない様子だ。彼だってかつては未来予知して都合の悪い未来をすっ飛ばすという、大概デタラメな能力持ちだったのだが。
「カ〜ズの話は一旦置いてお〜いて。ユエはエヒトについてはほんと〜に何も知らない?」
「知らない。けど、カーズの手下かペンネームだと思う。トータスで『神』といえばあいつだから」
「な〜らわたしらをこっちの世界に召喚したのもカ〜ズ?」
「分からないけど、あいつならそれぐらい出来ると思う。もし説得して送還させようって考えなら、早々に諦めるべき。奴にとってありとあらゆる存在が目的の為の駒」
「目的?」
「300年前、封印される直前にヤツは言ってた。自分はまだ完全じゃあない、まだ進化する方法がある……あいつはトータスで何百年とか千年単位で実験を繰り返してる」
気の長い話である。不死身で不老不死、おまけに神の座にまで居着いておいても、なお向上心を失わないとは。感服するべきか恐れ慄くべきか迷いどころだ。
重苦しい沈黙が下りる。ユエもどことなく苦々しい表情でエアタバコをふかしていた。
「……ま〜い〜や。地の底で〜塞ぎ込んでてもど〜にもならん」
透子はわざとか天然か、いつも通りの緩い雰囲気で立ち上がって、ユエの封印解除と同時にぽっかりと口を開けた深層への階段へ顔を向けた。
「聞いてばっかで悪いけど〜ユエ。わたしらは最下層に脱出ポイントがある〜って考えで行動してる。間違ってない?」
「その考えで正しいはず。地下101階から先は完全制覇しないと外に出られないって300年前の書物でだけど読んだ。逆に言えば、最下層からなら脱出可能ってこと」
「それが〜聞ければ充〜分。希ぼ〜的観測がさらに現実味を帯びてきた〜」
立ち上がった透子は、手足を軽く動かして頭を振る。痛みも引いたし、スタンドも問題なく出せた。これでいつでも出発できる。
「よし。ハジメ、そっちの元クラスメイトの焼き加減は?」
「お料理してるんじゃないんだけど……大丈夫、中までこんがりじゃないかな。多分」
檜山が炭化していることを確認したハジメと、そもそもこれといったダメージも無いドッピオも準備万端だ。
そして肩を鳴らしたユエが、率先して三人の前を歩き出した。
「外までは私が先導する。助けてもらった、せめてものお礼」
とのことであった。
こうして4人パーティになった一行は、出口を目指して迷宮攻略を再開するのだった。
「ところでここは正確には何階で、残り何フロア降りれば良いのだ?」
「知らない」
同じ頃、地上――ホルアドの国営宿。
シュトロハイムが直々に選抜したクラスメイトが迷宮攻略へ向かう中、そうでない一般生徒には街での自由行動が許されていた。
選抜組の具体的なメンバーは仗助、億泰、康一、由花子、香織、雫、龍太郎、谷口鈴、園部優花、遠藤浩介の10人だ。引率役として迷宮制覇経験のあるシュトロハイムが指揮を取り、65階からの退却を上回る強行軍で地下へと突き進んでいる。予定では一週間から10日で帰還予定らしい。
その中で、光輝は勇者専用の個室に一人で閉じ籠もっていた。
檜山に切断され、喰らい尽くされた右腕は、仗助の能力と治癒師のクラスメイトのお陰で完治した。医者の見立てでは、リハビリは必要だがそのうち元のように剣が振れるだろう、とのことだ。
だが、心の方はそうもいかない。
勇者なのに戦力外――。
口だけ立派なお荷物――。
所詮は一般人だの、ああいうのに限って一流大学に入学しておきながら就職失敗するのよねだの、もはや光輝の評判は地球にいた頃とは逆転していた。
掌を返したようにクラスメイトから向けられる、何の期待も籠もっていない冷めた視線が、頭にこびり付いて離れない。
「……帰りたい」
ベッドの上で膝を抱えて、光輝は泣きそうな声で呟いた。というより、さっきまで一人で泣いていた。檜山に腕を落とされてから、人前で態度を取り繕うことすら出来なくなっていた。
これまでの人生で、天乃河光輝は小学・中学と成績は一番で卒業した。高校では剣道部のエースを努め、社会に出てからもみんなから慕われ、尊敬され人間になると信じて疑わなかった。
どんな敵だろうとぶちのめし、輝かしい未来が約束されている……だが現実は違う。異世界転移などという訳の分からない事件に巻き込まれ、何一つ上手く行かない状況へ追い込まれた。
理想や正義を何の疑いもなく信じていた世間知らずの少年は、自分の考えがいかに甘かったかを痛感する。
今になってようやく、訓練の初っ端から罪人の処刑を命じられた理由が理解できた。戦争は……戦いとは命を賭けて当たり前なのだ、と。
檜山に腕を落とされ、剥き出しの悪意と殺意にさらされた光輝は、その刹那に初めて『死』という物を実感し、完全に心がへし折れてしまった。魔人との戦争どころか、二度と剣を握ることすら不可能なほどに。
(もういい……東方達に全部任せよう……俺なんかがいたって足手まといだ。泉谷と南雲だってそのうち戻って来るんだろう……聖剣も国に返す……僕はもう戦わない……)
シーツを頭から被って蹲った光輝は、木の
だが……いかに隠れ潜もうと、暴風は時に大木すら吹き飛ばしてしまう。
「光輝くん」
控えめなノックの音と一緒に飛び込んできた呼び掛けに、光輝の肩がビクンと跳ねた。
「そ、その声は……恵理か?」
中村恵理は光輝のパーティメンバーだったが、龍太郎や雫と違って選抜メンバーに入っていない。実力というより、能力が強行軍に向いていないのが理由らしい。
「うん。えっとね、少し話せないかな……って思って」
「だ、誰とも会いたくないって言ったろ!? 帰ってくれ!」
慌ててドアへ駆け寄った光輝は、ドアに鍵が掛かっているのを確認して安堵の息を吐いた。
「顔、見せてくれないの?」
「嫌だって言ってるのが分からないのか!? お願いだから一人にしてくれ……っ!」
「……光輝くん、私にいつだったか言ってくれたよね。辛かったら力になるって。あれ、嘘だったの?」
「……ッ!? 俺にどんな力があるって言うんだ!!」
普段ならまず出さないだろう、暴力的な怒声に、窓ガラスまでビリビリと振動する。
光輝はしまった、と思ったものの、堰を切ったような感情は止められない。
「俺には何の力もない! ただのガキだ!! 自分のことすらままならない!! 他人のことなんて背負えるわけがないだろう!!」
「でも光輝くんは勇者――」
「馬ッ鹿じゃねえの!? 頭お花畑かよ!? 勇者ごっこなんて誰がするかよ!! 怖い思いして、痛い思いして、どうして俺が縁もゆかりも無い世界を救わなくっちゃなんねーんだよぉ!? 俺がやんなきゃ世界が滅ぶ!? 滅んじまえよ、知るかぁ!!」
途中から涙声になり、実際に泣いていた光輝は、強化されたとはとても思えない弱々しさで扉を叩き返す。
「俺は……天乃河光輝だぞぉ……なのに、どうしてこんな惨めな思いしないといけないんだよぉぉ……ぉぉ……」
床にひれ伏した光輝はもう、言葉にならない嗚咽を零すだけだった。
恵理はしばらく、扉の向こうで沈黙を保っていたが、やがて――、
「――ぷっ」
堪えきれない、という風に、腹を抱えて笑いだした。
「あっはははははははっ!! こ、これがあの天乃河光輝ぃ!? ダサっ! ダッッッッッサ!! 一瞬でもこんなんに救いを見出した、過去のボクってなんなのぉ!? アハハハハハハッ!!」
「え、恵理……?」
光輝が驚いたのは、恵理の豹変っぷりではなかった。彼女の笑い声が廊下ではなく、
恐る恐る振り返った光輝だが、声はすれども姿は視えない……と思ったその時だ。
部屋のカーペットが突如として盛り上がり、天井近くまで勢いよく捲れ上がったのだ!
「どジャアァぁぁぁぁぁぁ〜ん」
現れたのは恵理ともう一人、ファニー・ヴァレンタイン宰相である!
カーペットの下には穴が空いているわけではない。何らかの手段でワープしてきた……というのは呆けた今の光輝にも理解出来たが、それだけだ。
恵理は呆然と自分達を見上げるだけな光輝へと歩み寄ると、涙と鼻水で汚れた顔を冷酷な微笑で見下した。
「あれあれぇ? ぐしゃぐしゃじゃん、光輝ってば。お鼻チーン、する?」
「……え、恵理? どうして……それに、誰?」
「アハハッ! あんたってさぁ、そんなに頭回らないヤツだったっけ? ……ヤツだったわねぇ。善意と正義感の塊……鬱陶しい正義マン。でも知ってる? 人間ってのは『自分が正しい』と信じてる時ほど残酷になるんだよ。ボクみたいにさァ! アッハハハハハッ!!」
おかしい。何かがおかしい。目に前に入るのは中村恵理なのに、光輝には
それに……彼女はこんな
これではまるで、あの――。
「檜山みたい、って思ってる?」
「う、ぐ……っ!?」
考えを見透かされた光輝が青ざめた顔で押し黙ると、恵理の笑顔がますます醜悪に深まった。
「アハハッ! 分かりやすいねぇ、光輝! でも一緒にしないで。
「スタ、ンド……? 南雲達と同じ……?」
「恵理。そろそろ私も彼と話がしたいのだが」
それまで黙って二人のやり取りを見届けていたヴァレンタインが口を開いた、その瞬間だった。
恵理は光輝に対する下卑た笑いが引っ込み、蕩けるような少女然とした満面の笑みへと表情が切り替わったのだった。それこそ学校で見かけた――いや、学校にいた頃よりもずっと明るくて自然体だ。
「申し訳ありません、閣下ぁ♡ この男、あまりにも予想通りのリアクションをしますので、つい……邪魔な女は引っ込みまする〜、うふふ♡」
踊るような足取りの恵理が自分の背後に控えると、ヴァレンタインはその場で跪き、光輝と視線を近付けて、穏やかに語り出した。
「君とは初対面だったな。私はハイリヒ王国の宰相、ファニー・ヴァレンタインだ。単刀直入に言おう、天乃河光輝。君を私の同志として迎え入れたい」
「……同、志?」
そして……ヴァレンタインと言葉を交わすうち、弱りきっていた光輝はみるみる生気を取り戻していくことになる。
恵理はそんな光輝を心の底から楽しそうに、それこそ正月にコタツで茶番劇を眺めるように黙って見つめていたのだった。
恵理は大統――宰相のカリスマに心酔しました。ただし、こうなったらもう原作以上に救われません。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない