ユエの救出から72時間後。
ハジメ達は(推定)地下180階を踏破した。
驚異的なまでの攻略速度は、ひとえにユエの無双……否、蹂躙が理由だ。
ところが、だ。階層が下るに連れて、とある問題が露呈してくる。
一瞬にして空間を埋め尽くす無数のスタンドによる、一糸乱れぬ同時攻撃。それで突破できぬ障害などそうそう無い……と思っていた時期が、透子にもあった。
ウィー・アー・ザ・ワールド。その無敵っぷりに最初こそ感服したものの、メッキが剥がれるのも早かった。
このスタンド……というかユエは、守りに関して絶望的に疎かったのだ。
このスタンドは一対一の戦闘や、広いフィールドでの大規模破壊などには非常に有用だった。だが死角が多く狭い屋内では、その力を十全に発揮しきれない。
加えて分身はユエの視界の範囲にしか出現させられない。敵がいる正面から味方のいる後方へ顔を振り返った瞬間、敵を袋叩きにしていた分身が数秒で消えてしまう。戦闘中、迂闊に向きの変更が出来ないというのは無視できないデメリットだ。
おまけに本人が不死身である為に軽視されていたが、実像の動きをトレースしている分身が攻撃を受けると、本体にダメージがフィードバックされるという、とんでもない弱点まで発覚した。簡単に言えば、分身10体が同時に破壊されると、ダメージも10倍になるということだ。
しかもフロア全体が毒に汚染されていたり、四方八方から矢が飛んでくるフロアなどでは全くの無力だった。ユエや肉体がスタンド並みに強化されたドッピオならともかく、完全に生身のハジメと透子は何度も死ぬ思いをした。
結論。ユエは攻めてる時は凄まじく強いが、自分や味方を守る事には絶望的に向いていない。
スタンドは適材適所。戦闘力が高いからと言って、真の意味での『無敵』はあり得ないのであった。
そんなこんなで、順調に踏破できたの160階層までで、そこから先はフロアを更地にする勢いでトラップや魔物ごと粉砕していく、超力押し攻略が行われていた。
なお、攻略に行き詰まったユエは真っ先に床を破壊しようとしたのだが、下階層の天井が想像より高くてハジメ達が危うく墜死仕掛けた為、その方法はギリギリまで禁止となっている。
「まさか無敵の我が『ウィー・アー・ザ・ワールド』にも弱点が……」
野営の最中、ユエはそう言って頭を抱えた。もうエアタバコを吹かす余裕も無い。
これまで彼女の配下や仲間も吸血鬼ばかりだったので、根本的に他者を守ろうという発想が育たなかったらしい。
逆に言えば、この短期間でハジメ達を仲間だと認めたからこそ、こういった考えに至ったわけでもある。
「あ。ユエ、後頭部に何か刺さってる。抜いてやろ〜」
「え」
透子は、どう見ても脳にまで達してそうな鋭い爪を引っこ抜く。このように本体もほぼ素通しで攻撃を喰らい、実像スタンドで防御する素振りすら見せないのだ。
これには、初見で戦慄していたドッピオも評価を改めた。
「ユエ。オレの経験上、スタンドの中には
「仗助から聞いたよ。去年まで杜王町に潜伏してた殺人鬼が、そういう能力者だったって」
「吉良吉影とキラ〜・クイ〜ンだな〜。話聞いただけでもゾッ〜としたゾ」
「……覚えておく」
思わぬ弱点が発覚したものの、それでもユエの戦力が強大であることには変わりない。それからもユエを中核に、足りない部分を他の三人が補う形で攻略は進んだ。
そして、さらに72時間後。
「トーコ、ここは地下何階だ?」
「推定200階〜。いい加減にしてくれ、気圧のせいでク〜ラクラだ〜」
ざっくり計算して、深さ640メートル。フロアごとに天井の高さがまちまちなので、ひょっとするともっと深いかもしれない。
ハジメの料理というべきか、煮こごり作りも随分と上達した。
「そろそろ真っ当なものが食べたい……そういえばユエさん、食事も水も全然摂ってないけど平気なの?」
「不老不死は燃費が違う。飲まず食わずでも一年は活動可能。その後も戦えなくなるだけで餓死はしない」
「そういえば300年も飲まず食わずだったんだっけ」
透子が解放しなければ千年でも一万年でも地の底に一人きりだった、ということだ。死にたいと思っても死ねない、不老不死とは凄まじくも悍ましいものだと、ハジメは薄ら寒いものを覚えるのだった。
話を迷宮に戻そう。辿り着いた(推定)地下200階は、ユエが封印されていた150と似た雰囲気のフロアだった。だだっ広くて巨大な門扉が一つだけ。ただし、今回は一つ目巨人の像も無いし、門扉に封印も施されていない。
「ボス戦前って〜カンジ?」
「ここが最下層でありますように!」
「確かに、これまでと雰囲気が違うな。トーコ、ハジメ、ユエ。準備はいいか?」
「ちょっと待って。……トーコ、背中に違和感がある。見て」
透子がユエの背中を確認すると、またしてもナイフが刺さっていた。
引っこ抜いたのはいいが、ユエの着ていた学ラン風の衣装は穴だらけの焦げ目だらけでボロボロだ。見えてはいけない部分まで、角度によっては見えてしまっている。
「それ、直そ〜か?」
「え?」
透子が指さした「それ」が分からず小首を傾げたユエは、彼女の指差す先、自分の学ランを見る。
……確かに酷い恰好だ。しかし、直すとか? ユエにはとても透子が裁縫など出来るタイプには思えなかった。
「ハ〜ジメ〜。針と糸と布出して〜」
「出してと言われて出るものじゃあないんだけど……」
だが、透子はすでに鼻息荒目でハジメに道具を要求している。本当にこの場でやる気のようだ。が、さすがにそこでドッピオが止めた。
「繕い物なら後にしろ、後に」
「……仕方ない。次のキャンプでト〜コ様の意外と高い家事スキルを〜見せてやろう」
どうしてこんなに張り切っているのか、ユエにはよく分からなかった。
「……じゃあ、扉を開ける。準備は?」
気を取り直して。
他の三人が一斉に頷くのを確認して、ユエは門扉を豪快に素手でブチ破ったのだった。
「……開〜けるんじゃあなかったのか?」
「
「ドヤ顔すんな〜」
やってやったぜ、とでも言いたそうなユエだったが、門の内側へ踏み入るとすぐ、軽薄な笑みを消して真顔になる。透子達も同様に、スタンドを出して身構えた。
そこに横たわっていたのは、巨大な生物の死骸だ。胴体は一つに首が6つ、全長目測30メートルはある怪獣だが……その首は全て無残にも引き千切られ、あるいは叩き潰されている。
そして物言わぬ胴体を玉座のように尻に敷いてふんぞり返っているのは……いい加減にしつこいと思われているであろう、この男だった。
『よう、南雲。遅かったなァ、おい』
「……また檜山じゃあね〜か」
律儀にツッコんだのは透子だけ。ハジメはこめかみが痛くなって顔をしかめ、ドッピオとユエは「誰だっけ?」と首を傾げている。
ユエのフロアで戦った時とは異なり、常人の倍近い程度の体格に縮んでいる。皮膚がなくて筋組織剥き出しなのは変わらず、頭部は脳味噌まで剥き出しというグロテスクさ。背骨が直接延長した尻尾まで生えた姿は、吸血鬼というよりリザードマンのゾンビだった。
よく見ると天井に人一人が通れるだけの穴が空いているので、上階の床を破壊して一気に先回りしたのだろう。
ハジメは溜め息まじりではあるが、簡易銃を構えて油断なく前に出る。ここは任せて、と一言告げて、檜山と向き合った。
「お前……マジでガッツあるな。学校じゃただの小悪党だったのに」
『小悪党、か。そうだな。クックックックッ』
不気味なほど静かに笑う檜山は、喋っていても口が動いていなかった。テレパシーの類ではなく、発声器官からして人間と別物に成り果てたらしい。
『天乃河、東方、そしてお前。同じクラスメイトなのに、お前らはまるでオレとは違う世界の住人だった。けどオレぁ馬鹿だし、何の才能もねえクズだからよ。頑張ったり努力したりなんてせず、僻んでばっかだった。へへっ』
ハジメがもう一歩、ユエよりも前まで踏み出した。そして彼女にスタンドを控えるように目配せする。
怪訝そうな表情をしたユエだが、ドッピオと透子もハジメの考えを察して「やれやれ」引き下がったので、自分も訳知り顔を取り繕いつつ、ここは出番を譲ってやった。
『けどなァ……この迷宮じゃあ頑張ったんだぜ。魔物の肉を喰らって、体が作り変わる激痛にも耐えて……お前に勝つ為によォ』
徐々に殺気を滾らせる檜山。
迎え撃つハジメはスタンドの6本腕をフルで展開して、簡易銃を構えさせた。
『クラスの女子の大半は、オタクってだけでお前を見下してたんだぜ。でも……オレはそんなお前が一番羨ましかった。自分の好きなものがはっきりしてて、周りから何を言われてもマイペースで! おまけにあんなイイ女ァモノにしてよォ!!』
檜山の視線はハジメを向いているようで、どこか遠くを彷徨っている。おそらく、もう戻れなくなった学校だろう。
『クソアマどもが見下すテメェ以下のオレぁ何だ!? ゴミか? クズか? それ以下のカスかよ、オイ!! 違う! オレぁクソなんかじゃあねえ!! それを……証明してやんだぁ
……お前を倒してよォォォ!!』
檜山の憎悪に満ちた瞳が、ついにハジメを射抜いた。
だが……何を言われようとも、檜山の言葉は逆恨みに過ぎない。
そして恨みというなら、こいつに奈落の底へと叩き落された恨みがハジメの方にこそあった。
『ミンナ! ミンナニ!! 見せつけてェェェェヤルぅぅぅぅぅっ!! お前ヨリもオレが!! オレの方ガ上だって、クラスのみんなに認めさせるんだ!! その為に!』
だからハジメは、敢えて……檜山の挑戦を真っ向から受けて立つ事にした。
ユエが正気を疑うような目をハジメに向けているが、彼にだって馬鹿なことをしていると自覚はあった。
自覚はあったが……同時に、だ。あの取るに足らない、たまに耳障りな声でなくネズミか何かのようにしか思っていなかったクラスメイトのことを、今は徹底的にぶちのめしてやりたくて仕方がないのだ。
自分に挑む為に人間を辞めて、変異に変異を重ねた檜山を前にして、受けて立たねば男が廃る。
他に理由を挙げるなら……大事な香織を馴れ馴れしく呼び捨てにされたのがムカついた、とかだろうか。
「来いよ、檜山!! 王宮では僕が! 橋の上ではお前の勝ち! だから、ここでケリを着けてやるッ!!」
『行くぜ、南雲ォォォ!! 正真正銘、コレがオレラの最終ラウンドだァァァァァァァァーッ!!』
大きく跳躍した檜山が、さらに何もない空間を蹴って加速を付け、ハジメを目掛けて流星の如く飛び掛かった。
檜山、最終形態。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない