ハジメにとって檜山大介というクラスメイトは、取るに足らない、道端に落ちた犬のクソ以下の存在だ。
少なくとも学校にいた頃はそう考えていたし、トータスに来てすぐの頃まではそうだった。
明確に『敵』と判断するようになったのは、王宮で決闘することになった直前だ。上手く立ち回って周囲を味方に付け、ハジメを悪役に仕立てた場面でのことだ。
もしもハジメが、ほんのちょっぴりでも他人からの評価を気にしたり、自分が我慢する事で丸く収めようと考える受け身な性格であれば、クラス中から批難の眼差しなど受けては何も言い返せなくなっていただろう。
しかし、
檜山の見せた咄嗟の機転での立ち回りに感服し、ちゃんと頭が回るんだなと評価を改めたのだった。
もっとも決闘の勝敗は知っての通り。歯牙にも掛けない一方的な蹂躙の挙げ句、屈辱と敗北感から発狂した檜山が再起不能となり、ハジメはクラスメイトや王宮勤めの面々から「怒らせたらやべー奴」という仗助辺りと同等の評判を得るに至った。
とはいえ、これはハジメにとって不本意な結果であった。ハジメはもっと檜山で遊びたかった……もとい、ライバルとして張り合いたかったのに。
幼児退行した檜山はハジメを見ても怯えるばかり。気の毒すぎて見ていられなくなり、必ず天乃河が君をお家に連れ帰ってくれるよ、と声を掛けるのが精一杯だった。
だが檜山は今や、人間すら辞めて再びハジメの前に立ちはだかっている。
人間の限界を超えた速度で襲ってくる動きで、簡易銃による一斉射すら正面から受け止める檜山を、ハジメは油断も隙もなく、それでいて心の底から
(檜山……僕、お前のこと嫌いじゃないかも。だから
荒っぽいのが嫌いなはずのハジメだが、今は奈落の底で味わったもろもろのストレスを一気にぶつけるかのように、後先考えず渾身の力をスタンドに込めるのだった。
「じゃあハジメ、あの吸血鬼にわざとトドメ刺さなかったの?」
「多〜分な。死んでたら死〜んでたで構わんが、生きてたんなら自力で勝ちたくなったんじゃあ〜ないかと。あいつ〜は意外とこう、熱いところ〜あるって香織も惚気けてた」
檜山の復活に釈然としない面持ちだったユエは、透子からそう教えられてようやく腑に落ちた顔になる。炭化状態からの完全復活など、彼女にだって容易ではない。それこそ百年単位が必要だろう。
しかし、例えば脳や心臓、または
そしてハジメはユエによって破壊し尽くされた檜山怪獣の核を発見して、敢えてそれを見逃した……と、透子は分析していた。
ドッピオがやれやれと肩を竦める。
「それはプライドの問題か? 誇りを持って生きるのは結構だが、時にそういった者ほど早死にする。止めなくていいのか?」
「意地があるんだろ〜、男の子には。助けに入るの〜はハジメが負けてからでも〜遅くない。そ〜れ〜に――」
透子が顔を戦場へ移すと、ドッピオとユエも同じようにハジメの戦いっぷりに注目した。
人間の運動神経で迫る檜山に、ハジメはスタンド使いが持つ『感覚の眼』で対応している。動体視力に頼らずに、より直感的な、スタンドを通して観る景色とでも言うべきだろうか。
相手の動きを先読みし、最小限の動作で攻撃を躱しつつ、空間に尖った岩やら爆弾を設置して確実に相手の肉を削ぎ落としていく。
一撃でも喰らえばハジメの敗北は必至。運が悪ければ即死もあり得る。ハジメもそれを理解しているだろうが、表情には恐怖が無く闘志のみが漲っていた。
「あの顔は……確かな勝算のある顔だな。暗殺者がターゲットの前に姿を見せる時のものに近い」
「命は賭けてるけど、勝算もあるってこと? ……ならいいか」
ハジメが死ぬ前には即座にスタンドを叩き込めるよう最低限の注意だけはして、ユエは戦いの成り行きを見守った。
『ヒャは……ヒャハハはははハハッ!!』
腕が切り落とされようと、腹が抉れようと、檜山は攻め続けることを止めなかった。
むしろ欠損部位が増えるごとに身軽になって、動きがより素早く、読み難くなっていく。
頸動脈スレスレに鋭く尖った尻尾が掠めた時には、本気で死を覚悟した。
(こ、これが吸血鬼の戦闘力か! 檜山が馬鹿だから動きが読めてるけど、戦闘訓練を受けたヤツがいたら対処出来ない……かも!?)
『逃げる……ダケかァ!? 南、グモぉ……っ、ガハッ!?』
お返しに、地面から直接尖った岩を作って串刺しにしてやった。
だが檜山は下顎部分を肉ごと引きちぎってハジメへ追いすがっていく。
そこを簡易銃で銃撃しつつ、地面から壁を生やして敵の死角を増やしていった。
『レディステディゴー』の発動条件は「スタンド体か本体の手で触れている無生物」だ。その条件さえ満たせば、時に本体でさえ驚くような応用力が発揮される。
スタンドが物体を透過出来るのを利用し、地面の下に潜り込ませた状態からの錬成による奇襲戦法は、今後も活かせそうだと確信するハジメ。
しかし一方で、決定的な火力不足も事実である。強力かつ素早い攻撃で一撃必殺……というのが理想なのだが、目下のところ簡易銃以上の破壊力は生み出せていない。迷宮攻略をもう少し腰を据えて行っていたら、発見した鉱物から銃器のパーツを作成したりしたかったのだが……ドッピオにユエという化け物二人が破竹の勢いで進撃してしまった弊害だ。
(そして、吸血鬼を倒すにはその
ハジメとて、伊達と酔狂だけで檜山とやり合ってる訳ではない。今後戦っていく敵への対策の試金石……という考えも
元の世界へ帰る為に『神』と事を構えるならば、少なからず人外の存在――魔物でも魔人でもない、それこそユエのような不死身の存在と戦う可能性も否めない。
であるならば、今の檜山は最適な相手だ。
ただ、戦い始めてから檜山の再生能力が目に見えて落ちているのが気掛かりだ。生物である以上、その細胞に再生限界があってもおかしくない。現にユエも「飲まず食わずで一年も過ごせば力が落ちる」と言っていた。
ダメージを蓄積させればゴリ押しだけでも倒せるのか。もしくは……。
(こいつの少なめの脳みそで考えた策略かな。さあ、どっちだ? でもどっちだろうと!)
『HYAHHAaaaaaaaaa!!』
檜山のワンパターンな突撃を地面に穴を掘った塹壕で回避しつつ、仕掛けておいた地雷原へ放り込んだ。
崩落が心配になるレベルで爆音と振動が迷宮を揺らす。
高めの天井まで達する火柱が収まるや、体に火の着いたままの檜山が体を引き摺ってハジメへ向かって来る。
「しつこいな、もう!」
塹壕の中に横穴を掘って移動し、敵の足元を目指す。指向性の地雷で今度こそ吹き飛ばしてやろうと試みた。
『ヒャハ……どこ、行ったァ……南雲ォォ……』
室内に一体だけ残したスタンドで様子を探りつつ、ハジメは地底で檜山を待ち構える。
(後2歩! 純度は低いけどC4爆薬だ、今の僕で可能な最大火力ッ! 喰らってくたばれッ!!)
『……2歩先、下に5メートル……に、隠れてるな』
「ッ!? マズッ――」
だがそちらへ気を取られた隙を突かれ、檜山本体への対処が致命的に遅れた。
『ヒャおオオォォォぉーッ!!』
乱暴に叩きつけられた檜山のパンチが、床の石版ごと土砂を巻き上げ、その下に隠れていたハジメの身体を木っ端のように吹き飛ばした。
「がふ……っ!?」
粉砕された土と一緒に、ハジメはだだっ広い石室を転がった。細かな石片が腹に食い込み、鮮血が溢れた。
(い――っ!?)
腹に走った焼け付くような痛みに、意識が持って行かれそうになる。そこを奥歯がヒビ割れそうなぐらいに食いしばって耐えたハジメは、すぐにでも襲って来るであろう檜山に備える。
『もらった、ぜ……南雲ォォォッ!!』
即座に手元の武器を確認。吹き飛ばされた時にスタンドが塹壕内に残ってしまった。遠隔型の長所が裏目に出ている。
武器に出来そうなのは、体から流れ出た血と、無意識に握りしめた拳大の石一つ。血中の鉄分と鉱石からなら、一秒と要らず弾丸ごと簡易銃が作れる。
(檜山の速度は動物の豹より素早い! でも、一直線に向かってくるならヘッドショットだって――うそっ!?)
偶然か意図的か、反撃に出ようとしたハジメの周囲は土煙がもうもうと立ち込め、視界が全く利かなくなっていた。
ハジメから周囲が視えないということは、ハジメの姿も土煙に隠されて視えなくなっているだろう。
『もらっ――』
土煙を割って姿を表す檜山は、吸血鬼の優れた五感でハジメの位置を正確に察知したらしい。千切れかけた体を血管針で強引に繋げた姿で、湧き上がる破壊衝動に任せて脳天から突進してくる。
千載一遇のチャンスに、文字通り全てを賭けた最後の攻撃だった。
『タアァぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!』
掠めただけでも致命傷は免れないし、ヘッドショットを決めたところで檜山の勢いは止まらず轢殺される。
(マズ――ッ!?)
完全な手詰まり。それでも反撃の手段を模索したハジメだったが……咄嗟のことに動転していたのもあり、手の中にあった簡易銃を未完成のまま放り出してしまった。
『レディステディゴー』による物質の組み換えは、分子や原子どころか素粒子レベルからでも行われる。これだけ細かく砕ければ大概の物質から大体のものが作れるが……組み換え中の物質は、色々と危険な状態にある。
本来なら一緒になって物質を構成している電子やら中性子やら中間子やらを、スタンドで強引に引っ剥がしている。温度こそ変化しないが、掌サイズの核融合炉や粒子加速器みたいなものだ。
端的に表現するなら、分解した物質の再構成中に手を放すというのは、稼働中の核炉心を開いてしまったに等しい行為だった。
「あ」
他でもないハジメ本人が気を失うほどの閃光――一斉に解放された荷電粒子やらの純粋なエネルギーの塊が、開いた両手の間から檜山のいる方へぶっ放された!
音もなく軌道上の物質を消滅させる破滅の光に、檜山の脳髄に形成された目玉がギョッと黒眼を細くする。
『あ――』
直前まで勝利を確信していた檜山であったが、他でもないハジメ本人も予期していなかった大出力のレーザーキャノンの光に呑まれて溶けていくのであった。
補足説明。
物質を素粒子レベルで分解するには、何億度以上の超高温状態を維持して、電子とかの結合を緩めていかないといけないそうです。で、その状態だと分解前の物質と同質量のエネルギー体が発生してるので、下手に触ると核融合とか反物質反応とかが起きるんだとか。
筆者自身、よく分かっていませんが、某学園都市第四位さんのアレと同じようなものだと考えておいてください。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない