アンケートご協力、ありがとうございます。透子の活躍は今ぐらいでちょうどよいみたいですね。よかった!
「う……あ、うぅ……」
清潔な匂いに包まれて目を覚ましたハジメは、即座に腹の傷を確認した。
「塞がってる……?」
身をよじっても痛みがない。それどころか、全身にあった疲労感まで消え去っている。ふかふかのベッドで眠ったからだろうか。
「って、ベッド!?」
そこでハジメはようやく、自分が高級そうなクイーンサイズベッドに寝かされている事に気がついた。
周囲を見回せば、ハジメの自宅のリビングよりも広いぐらいの洋風寝室だ。家具の類も派手さは無いけど一目で分かる高級品質である。
「王宮の客室みたいだ……」
パンツ一丁に包帯だけという酷い恰好だが、歩くのには不自由ない。部屋の中を見て回ろうとベッドを抜け出すと、部屋の扉が向こう側から開けられた。
入って来たのは、2メートル近い長身に筋肉ムキムキな紳士だった。
敵意や悪意は無い……というか穏やかな父性の塊のような青年で、物静かながら内に秘めた力強さが覗える。無性に頼りたくなるような、そんな男だ。
なのでハジメも、見知らぬ相手に身構える事をうっかり忘れてしまった。
「目が覚めたみたいだね。気分はどうだい、南雲ハジメ君」
青年は立ち上がりかけたハジメを見て、朗らかな笑顔を見せた。
「は、はい」
「そうか。他人の波紋治療なんて久し振りでね。上手くいくか不安だったんだ」
さらりと恐ろしいことを言われた気がした。だがツッコむと話が逸れていきそうなので、ハジメは気にするのを止めた
「えっと、あなたは? それに僕の名前も知っているようですし」
「名前は君の仲間から聞いたよ。僕はジョナサン・ジョースター、この『オルクス大迷宮』を含めた7つの迷宮を創った、最後の波紋戦士さ」
ハジメはジョナサンに連れられて、屋敷の食堂へとやって来た。着ていた学生服はボロボロなので、素肌にジョナサンのガウンを借りて羽織っているが、ブカブカどころの騒ぎではなかった。
食堂もトータスに来て最初に見た大聖堂ほどではないが広く、十数人が腰掛けられそうなテーブルが設置されていた。
一方で装飾に関しては質素で、長く使われた形跡のない暖炉の上に不気味な石製の仮面以外には、観葉植物すら置かれていなかった。
「適当に待っていてくれ。君の仲間を呼んでくる」
「は、はい……」
ジョナサンが部屋を出て数分もしないうちにユエと透子、少し遅れてドッピオがやって来る。
3人ともハジメを見ると、
「起きたか〜」
「おはよう」
「元気そうでなによりだ」
と、極めて薄いリアクションの挨拶を交わし、ハジメは何とも言えない、微妙な気分を味わった。重傷だったとはいえ、そもそも自業自得の要因が大きいのでこんなものだと納得する。
ジョナサンは自ら淹れた紅茶を全員の席に配ると、自分も椅子に腰を下ろした。ただ座っているだけで、随分と画になる男だ。
「ハジメ君が眠っている間に、君達の事情はだいたい聞いたよ。このオルクス大迷宮は本来、他の7大迷宮を攻略した人用の迷宮だったのだけど、そんな裏口みたいな所から侵入してくるなんてね」
「ほとんど事故ですけど」
「だとしても、君達は力を合わせてここまで来た。素晴らしいチームだ」
手放しに称賛するジョナサンだが……4人はそう言われてもいまいちピンと来ず、互いに顔を見合わせた。
檜山の不意打ちで奈落の底へ落下して、二週間から20日程度は経過している。……
仮にハジメ一人、または透子と二人であったなら、未だに地下110階辺りをうろついていたか、すでに死んでいたかもしれない。それを救ったのは紛れもなくドッピオやユエとの出会いだった。
しかし逆にドッピオ一人だった場合でも食料が手に入らず、進んだとしてもユエの封印を破れず連動していた下層への扉を開けられなかった。
そしてユエは、パワーは言わずもがなだが守備力と性格に隙が大きいし、そもそも透子がいなければ未だにモノリスに埋め込まれて暇を持て余していただろう。
それを考えれば、ジョナサンが言うように良いチーム……なのかもしれない。
ジョナサンは一同の顔を改めて見回し、語り始めた。
「そして、ここまで辿り着いた君達にこそ聞いてもらいたい。僕がこの迷宮を創った理由を」
今から気が遠くなるほどの昔。国も民族も現代より細分化されていた時代のことだ。
神々は自分を祀る信徒同士に戦争をさせ、その勝敗を持ってトータスの支配権を奪い合っていた。世界は神のゲーム盤だった。
そして人間を駒としか見ない神々に怒り、人間の自由と平和を勝ち取るべく戦った者達がいた。それがジョナサン達"解放者"であり、後の世に伝わる"反逆者"達だった。
ジョナサン達は様々な対策を講じ、時に神々に煽動された人間達とも戦いながら、少しずつ神を駆逐していった。しかし同じ頃、神の中でも最も強い力を持っていたエヒト神も恐ろしい計画を企てていたのだ。
ジョナサンと仲間達はエヒトの企みを阻止するべく、神域へと乗り込んだ。そして後一歩のところまで追い詰めたが……ギリギリのタイミングでエヒトの儀式は完成してしまう。
それは異世界から強力な戦士を喚び出し、使役するという召喚術の一種だった。
結論から言えば、儀式は大失敗に終わった。
より正確に言うならば、召喚そのものは上手くいったのだが、現れたそいつはエヒト程度の神格など容易く呑み込む、より邪悪で恐ろしい怪物だったのだ。
「そのエヒトが呼び込んだ邪悪こそがカーズッ!! かつて地球という世界に誕生した究極生命体だ」
「はっ!? えっ、地球!?」
黙って聞いているつもりだったハジメが、うっかり声を上げてしまった。しかし、驚いたのはユエを除く二人も同様だ。
カーズが地球出身? ということは、カーズは元地球人ということなのか。その疑問を口にするより先に、ジョナサンが続きを語った。
「カーズについて分かっていることは少ない。奴は地球人とは別種の進化を遂げた知的生命体が、完全なる"石仮面"によって進化した存在らしい」
「話の腰を折ってすまないが、
「『ツェペリの書』よね」
ドッピオの質問には、意外なことにユエが答えた。
「古の賢者ツェペリ。私も彼が残した文献からカーズの存在と企みを知った。そしてツェペリは"反逆者"の最後の生き残りだったと考えられている。その人、あなたの仲間よね、ジョナサン・ジョースター」
「その通りだよ、聡明な吸血鬼さん。彼は……シーザー・ツェペリは地球でカーズの一味と戦っていた『波紋戦士』の末裔だ。シーザーはカーズが出現したのと前後してトータスに現れた」
カーズの圧倒的な力の前にエヒトと使徒達は瞬く間に喰い殺された。ジョナサン達"解放者"達も、リーダーであるジョナサン一人を残して全滅してしまう。
命からがら逃げおおせたジョナサンだったが、カーズがエヒトに成り代わった事で世界はより一層混沌へと突き進んでいった。
解放者たちも"反逆者"に仕立て上げられ、地上にはもうジョナサンの仲間は誰も残ってはいなかったのである。
無力感と絶望に打ちのめされかけたジョナサンだったが、シーザーとの出会いに希望を見出すことになる。
シーザーは波紋戦士としてカーズ達『柱の男』と戦ったが、力及ばずに戦死したという。だが魂だけとなった後も親友にして戦友である男を見守り続けた。そしてついに、カーズはその親友の手によって地球から追放されたのだ。
それを見届けたシーザーは、そのまま成仏するものだと思ったのだが……気がつけば再び生身の体を取り戻して、トータスの地で立ち尽くしていたのだった。
ジョナサンと出会い、この地でカーズが復活した事を知ったシーザーは、自分が持つ全ての知識と技術を彼に教えた。しかしシーザーは同時に、カーズが人間の手では決して倒せない存在だとも理解していた。
カーズの脅威からトータスを救うには、奴を再び暗黒の宇宙へ追放するしかない。なので二人は魔法を初めとしたあらゆる知識と技術を集め、方法を模索した。そしてそれを後世に伝える為に、さらにカーズの目から隠す為に7大迷宮を建設したのだった。
一息に語り終えたジョナサンは、質問はあるかという風で顔を上げた。
最初に口を開いたのはユエだ。
「あなたは吸血鬼なの? ジョナサン・ジョースター」
「いいや。僕は迷宮最深部から出られない代わりに、限定的な不死を得ているだけだ。いつか君達のような存在が、ここへ辿り着いてくれると信じてね」
「気の長い話。こんな娯楽も無さそうな場所で」
「ダニーがいたからね」
「あの犬? ……そうね、犬でもいたら違っていたかも」
ユエとジョナサンは、いわば同じマンションの住人同士だが、封印されていた事情は全く異なるようであった。
「僕からも質問いいでしょうか」
「なんだい、ハジメ君」
「シーザーさんはどうなったんですか?」
ジョナサンは小さく首を振った。
「最後の迷宮であるこのオルクスが完成した日に別れたきりだ。以来、僕は外に出ていないし、彼が訪ねてくる事もなかった。でも、ユエさんが彼の記した著を持っているのなら、彼も彼で戦っていたのだと思う」
「オレからも質問したい。カーズについてだ」
今度はドッピオだ。基本的にいつもシリアスな彼だが、今は一層表情が固い。
「仲間が全滅した中、君はどうやって逃げ延びた? カーズへの対抗手段を何か持っていたのか? それとも純粋に逃げ足か?」
「ドッピオさん、そんな言い方は……」
「いや、重要なことだ。ユエの能力を見ただろう。あれと正面から一人で戦っては、逃げることすらままならない。しかしジョースター殿はカーズと戦って生還している。それはつまり、カーズもまた万能ではないということだ」
なお、ユエもカーズと戦って生還してはいるが、封印という形で故意に見逃されただけなので当てにはならない……とのことだ。
「僕が生き残ったのは運と、仲間のお陰だけど……カーズが神域を出られないというのが最大の要因だった」
「神域というのは?」
「本来ならエヒト達神々が巣食っていた、この世界とは異なる次元に存在する空間だ。エヒトは今際の際にはっきりと、カーズに言った。『お前は決してこの神域からは出られないッ!!』と」
真偽はともかく、事実としてカーズは神域を脱出したジョナサンをそれ以上追うことは出来なかった。
「そう言えば、私が神域に乗り込んだ時も言ってた気がする。『このカーズ、未だ神域を出られぬ身だが……貴様らの企てなど全てお見通しだッ!!』って」
「モノマネ上手だね、ユエさん」
「い〜まのがカ〜ズのキャラか〜。ジョナサンさん、わ〜たしからもいい?」
何故かジョナサンだけ敬称付きなことに、呼び捨てにされてるドッピオとユエが微妙な表情をするが、特に構わず透子は続けた。
「波紋って何?」
「波紋は人体が作り出す、生命エネルギーを増幅させたものだ。特殊な呼吸法で細胞に波紋を起こすことから、こう名付けられたとシーザーから聞いている」
「それ、対カーズの切り札に?」
「ならないだろうね。『柱の男』の時ならともかく、究極生命体に弱点はないし、奴は人間よりもずっと強力な波紋が使える。ちなみに、こういうものだ」
ジョナサンは席に着いたまま、コォォォォォォッ!! という特徴的な呼吸を初めた。その瞬間、彼の体から山吹色の生命エネルギーが光となって溢れ出す。
スタンドとも異なるその現象に、一行は一様に眼を見開いた。
ジョナサンはさらに、口を付けていなかった紅茶に人差し指を浸す。何をするかと思いきや、ジョナサンが指を持ち上げると紅茶も一緒になってティーカップを離れたのだった。
紅茶はまるでゼラチンで固められたかのように、カップの中の形状を維持し続けていた。
「これは飽くまで副次的なものだけどね。本質は生命エネルギーの増幅にある。ハジメ君の傷を癒やしたようにね」
「……それ、わたしにも教えてもらえます?」
「構わないけど、難しいよ。それに厳しい言い方だけど、素質や才能が無いと短期間の修行で修得するのは不可能だ」
「素質なら〜あると思う。
いつになく饒舌な透子に、この中で一番付き合いの長いハジメも密かに驚愕していた。だが透子の話はまだ続く。
「それに〜だ、今の話でわたしにはカ〜ズを倒さにゃならん因縁があることが〜分かった。
そうはっきりと断言した透子に、ジョナサンはどこか懐かしいものを見たように微笑んだ。
「乗り越えるべき『運命』か。分かった、ただし修行は厳しいものになるよ」
「がってんだ」
「あの〜」
盛り上がる透子とジョナサンに申し訳なさを覚えつつも、ハジメが再び発言した。
「僕としては元の世界に帰る方法があるなら、さっさと帰りたいんですけど」
「お〜う、忘れてた〜」
そもそも帰還する方法を探す為の『神』探しであり、透子以外のクラスメイトにはわざわざ危険を冒してカーズと戦う必要性など無いのだった。
「なんだ、ハジメは帰るのか。短い間だったが世話になった」
「地球に帰っても達者で」
「ドライだね、あんたら!?」
素晴らしいパーティは、離脱したいというメンバーを暖かく見送るのだった。もうちょっと惜しんでくれても……と思わずにはいられないハジメだったが……。
「異世界へ渡る方法かい? ごめん、聞いたこともないや」
という無情な現実をジョナサンから告げられた事により、パーティ残留を余儀なくされたのであった。
シンダイマホウ? そんなもの、うちにはないよ。
次回、奈落の底編の最終話……の予定です。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない