ぶどう丘高校、ある日の2年1組。
遅刻ギリギリのタイミングで滑り込んできた南雲ハジメと白崎香織に、クラスメイト達の視線が集中する。
「はあ〜、間に合った……」
と、息も絶え絶えで汗だくなハジメと、対象的に汗一つかいていない香織の二人は、嫉妬と羨望が入り混じった視線を完璧にスルーしていた。
この二人が付き合っているのは、同じ学年だったら誰でも知っている。香織の容姿は女神とも評されるほどに優れており、それが
中にはハジメの存在を理解したうえで香織に横恋慕し、どうにかこうにか気を引こうという命知らずな猛者もいた。このクラスであれば、檜山大介がそうだ。
また、ちょっと事情は異なるが香織にちょっかいを出し続けている男はもう一人いる。
「また遅刻ギリギリか、香織。南雲も、あまり香織に世話を焼かせるな」
などと呆れながら二人に話し掛ける天之河光輝が、そのもう一人だ。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能という絵に描いたような優等生にして、香織の
なぜ自称なのかといえば……光輝は香織から存在を認識されていない疑惑があるからだ。
「香織が君に特別優しいのは知っているが、変に誤解するなよ。香織も、いつまでも南雲みたいな不真面目な相手と付き合い続けるのはどうかと思うよ」
「ハジメ、宿題ちゃんと鞄に入れてるよね? この間みたいに、ノートごと家の机の上だなんてことは止めてね?」
「大丈夫だって。それより、そろそろ先生来るよ?」
「はあ。どうして席が隣同士じゃないのかしら。じゃ、後でね」
「二人とも! 俺を無視するな!」
このように、ハジメ達の認識に光輝は入っていない。自分の席に着くまで、とうとう光輝に視線すら向けなかった。
苛立ちながら、光輝もまたハジメの存在を黙殺したかのように席へと戻っていく。教室の一部から失笑が上った。
光輝と香織が古い顔見知りなのは確かだ。だが何故か、香織がハジメと知り合った当初から二人が仲良くすることに否定的なのだ。
というのも光輝少年、幼い頃より高い能力とカリスマ性の為に大人にも子供にもチヤホヤされて育ったせいで、いつしか自分のやること為すこと全て正しいという、幼児的万能感が肥大化しているのだ。
事実、光輝は大多数の友人からは慕われているし、責任感も強いので信頼されている。
だというのに、香織は昔から光輝に対して微塵も心を開かない――むしろ興味を持つことが無かった。
それは香織がスタンド能力を持つ故なのだが、一般人である光輝には理由など分かるはずもない。いつも一人でいる香織が可哀想だと声を掛けても無視され続ける……という現実が理解できなかった。
なのに、である。突然ひょっこり現れた大人しそうな南雲ハジメ少年は、頑なだった香織の心をあっさり氷解させてしまった。
さらには、ハジメとの交流から香織の人付き合いも劇的に改善し、常人並みのコミュニケーション能力にまで回復。これには彼女の両親も一安心し、早くもハジメを娘の嫁ぎ先としてマークするほどだった。
これに心中穏やかでないのが光輝である。
友達のいない可哀想な
まるで手柄を横取りされた気分の光輝は、それからずっとハジメを目の敵にしているのであった。
「おそよーさん。今日も重役出勤だな、ハジメ?」
苛立ちながら授業の準備をしている光輝を遠目に、席に座ったハジメをクラスメイトの一人が出迎えた。
今どき珍しい、リーゼントが似合う大柄の少年。堀の深いハンサムで温和そうな彼は、東方仗助。さらにその隣、爬虫類じみた強面ながら甘党で憎めないキャラクターが虹村億泰だ。
ここに隣のクラスの、小柄で可愛いと評判な男子・広瀬康一が加わった四人が、スタンド使い仲良し男子グループである。
「酷いな、仗助。遅刻はしてないだろ?」
「そうだよな。仗助はたま〜に学校フケるけど、ハジメは真面目に登校するもんな」
「うっせーぞ、億泰。サボり魔はお前もだろうが!」
仗助達が知り合ったのは去年のことだ。杜王町にてスタンド使い同士の抗争があり、仗助と億泰は最初こそ敵同士として対立した。紆余曲折の末に和解したが、初対面のときには本気で殺し合いも演じた。
ハジメ達が知り合ったのは、潜伏していたスタンド使いの殺人鬼・吉良吉影を倒した少し後だ。香織に横恋慕しているとある少年グループが、ハジメを校舎裏に呼び出してリンチしようとしたことがあった。
そこに香織が駆けつけ、スタンド能力で相手の男子連中を皆殺しにしようとするのを寸前で止めたのが最初の切っ掛けだった。
それからも色々あったが、今は同学年のスタンド使い同士のよしみで交流を持つようになったのだった。
「なァ、仗助〜? オレって恋愛とか全然分からんのだけどよォ〜。天之河って白崎が好きなのかよォ?」
彼氏の前でご無体なことを尋ねる億泰に、ハジメは苦笑、仗助は呆れながらも応答した。
「いやァ、それはね〜ぜ、億泰。天之河は悪いやつじゃあねえが、ちょっと傲慢っつうか、自分が世界の中心みてェに考えてっとこあるからな。自分を無視するハジメと香織が許せねェーんだ、きっと」
「そォなのか。天之河、結構ォ親切だし悪いやつじゃあないんだけどな」
「ああ。でも悪人じゃなくっても厄介なヤツ、オレたちも大勢知ってるだろ。露伴とか、由花子とか」
「ば、バカ仗助! 聞こえるって!? 由花子が今のでめっちゃこっち睨んでるってば!」
三人は、殺気とまでは行かないものの強烈な視線の気配を感じて、その方向を見やった。
クラスにおいて香織と並ぶ三大美女の一人、山岸由花子が、やや離れた自分の席から冷たい視線を仗助に送っていた。厄介なやつ扱いが不満だったらしい。
由花子もスタンド使いで、広瀬康一の彼女である。付け加えるなら、香織とは価値観を共有する無二の親友同士だ。男子のベストコンビが仗助と億泰なら、女子は香織と由花子と言っても過言ではない。
が、仗助の言うように由花子は相当に厄介な性格をしていて、怒らせると非常に怖い人物だ。億泰が慌てて話題を変えた。
「そ、そういえばよォ、泉谷ってまだ戻ってこないのか? そろそろ先生来ちまうぞ?」
「だ、大丈夫だ億泰! あいつ、さっきセンセに呼ばれてたから、職員室からの荷物運びでも手伝ってんじゃあねーかと思うぜッ!」
「ああ、今日の日直は泉谷さんか……」
「はーい! みなさん、ホームルームの時間ですよー」
仗助が言うように、担任の畑山愛子の後ろからプリントの束をもった泉谷透子が、いつもの仏頂面を引っさげて姿を表すのだった。
オリ主の影が薄いのは仕様です。
結局スタンド使わなかった……。