リリアーナ「あの、カオリって名前で呼んでもいいですか?」
香織「は? あなたが? 冗談よしてよ、王女様。私、この世界の人間と友だちになるつもりも、長く付き合うつもりもありませんので」
リリアーナ「orz」
ウサギ・エンカウンター
ハジメとユエがオルクス大迷宮最深部にあった裏口から脱出した先は、ライセン大峡谷と呼ばれる深い谷底だった。
ただの谷ではなく、魔力を分解する何らかの力場が発生しているらしく、この土地では魔法を使う事が出来ない。そのうえ凶悪な魔物が多数生息している為、近隣の国では流刑地――事実上の処刑場として扱われていた。
ハジメは王宮の図書館でこの場所については事前に知っていたものの、まさかロクな装備も無く放り出されるとは考えていなかった。
ジョナサンに対して微妙に恨みを抱きつつも、ユエという超強力なボディガードの庇護の元、安全に歩を進めていた。
なにしろスタンドは魔力で出してる訳ではないので、峡谷の特性に全く影響されないのだ。
「ウィー・アー・ザ・ワールドッ!!」
屋外で視野が広く取れる事もあって、ユエのスタンドは奈落の底とは比べ物にならない展開力を見せつけ、峡谷に生息する数多の恐竜チックな魔物を蹂躙していった。
ハジメの視界いっぱいを、一瞬にして埋め尽くす意外とセクシーで艶めかしいスタンドの背中。繰り出す攻撃の一発一発が、拳圧だけで岩を砕き、魔物を肉塊にして余りある。
たまに調子に乗って背後から不意打ちされたり、ハジメが襲撃を受けたりもしたが、ハジメだって奈落の底で随分と鍛えられていた。
「レディステディゴー!」
簡易銃の弾幕でヴェラキラプトルに似た魔物を蹴散らし、銃が効かない大型の相手にはその辺の石を使って対抗した。
「ドンナー・シュラークッ!!」
拳一つ大の石でも、丸ごとエネルギー体へと分解すれば莫大な破壊力を生み出せる。檜山との戦闘で偶発的に身に付いたこの能力に、ハジメは「
透子から「何で独語?」と散々にイジられたが、ドイツ語が好きなのだから仕方がない。だって恰好いいから。
「ふう。この技にも大分慣れてきた」
「調子に乗って自爆しないようにね。強い力があるからって油断すると、酷い目に遭う」
「……うん。すごくよく分かるよ、ユエさん見てると……」
頭部にぶっ刺さった魔物の爪が抜けなくて四苦八苦しているユエから「油断すると痛い目見るよ」と言われるのは、とても説得力があった。
「それにしても……いつまで歩けばいい?」
明らかに脳を貫通していた傷を瞬時に再生させつつ、ユエがやれやれだわ、と肩を竦めた。口許に触れられた繊細な指先が、存在しないタバコを虚しく挟む。
景色の変わらない谷底を、多分こっちに行けばいいんじゃね? という極めてアバウトな勘頼りに進むのは、体力以前にストレスが溜まる。
「ハジメ、乗り物とか造れないの?」
「難しいかな。部品から自作して組み立てれば何とか……って思ったんだけど、考えた通りの物がなかなか出来ないんだ」
「だったら修行次第ってことね。よし、頑張れ」
「ここでぇ!? イヤだよ!!」
ユエは一度、素手で岸壁をよじ登って峡谷の脱出を考えたが、見通しが良いだけで目印も何もない荒野を前にして踏破を諦めた。ユエは不死身だし、飲まず食わずでも平気だが、ハジメはそうもいかない。少なくとも峡谷内でなら魔物から食料を生み出せるし、直射日光が当たる時間も短くて済む。
なので仕方なく、無数の屍の山を築きながら、二人はえっちらおっちら谷の底を歩き続けていた。
「――――――――い!!」
「ん?」
魔物の襲撃も少なくなってしばらく経った頃、ユエが不意に足を止めてハジメへ振り返った。
「聞こえた?」
「え?」
「今の悲鳴。人間のだった」
「――――――ださーい!!」
「あ」
今度はハジメにも聞こえた。進行方向からこちらへ接近してくるようだ。
ユエがスタンドで確認するまでもなく、どう見てもティラノサウルスにしか見えない魔物に追われる、長い水色の髪で頭からウサ耳の生えた、どこぞのコンパニオン並みに露出の高い衣装の少女を発見する。
「助けてくださーーーーーーーーーーいッ!! だーれーかーたーすーけーてーっ!!」
走りながら大声で叫ぶ必死な姿が涙を誘う。
「あれは……なんだっけ? ウサギ人間?」
「兎人族でしょ!?」
「そうそう、
「それ違う作品でしょ!? ユエさん、まさか日本人じゃあないよね!?」
そうこうする間に、ウサギ少女の方もハジメ達に気づいたようだ。死にもの狂いだった表情に笑みが差し、二人に向かって一直線に突っ込んでくる。
当然、少女を追っていたティラノサウルスもハジメ達の存在を察知した。
本能によるものか、ユエに気付くやティラノサウルスが標的を彼女へ変更し、咆哮とともに全身から魔力を放出した。
どうやら固有スキルを発動したらしく、頭上の空に孔が穿たれた。その向こうは満天の星々……というより宇宙空間と通じているようだ。
「え、なにあれ……?」
思わず空を見て、ポカーンとしてしまったハジメ。その胴体に、低空タックル気味にウサギ少女が飛び掛かって来た。
「ほぐぁッ!?」
「だ、
「だす、助け……がふっ」
常軌を逸した怪力で組み伏せられたハジメは、万力のような力が胴体を締め付けられる。窒息どころか上半身と下半身が切断されそうなパワーだった。
手足をバタつかせて少女を振り払おうとするも、力の差は歴然だ。涙と鼻水で汚れた顔をグリグリ押し付けてくるのを、押しのけることすら出来ないでいた。
「れ……レディステディゴーッ!!」
スタンドを出したものの、密着状態からの反撃手段などあるだろうか。
「せいっ」
「ぎゃああああああああっ!?」
あった。ウサ耳の中で空気を塊を破裂させ、爆音で怯ませてやった。
鼓膜を破るどころか脳震盪を起こすつもりで放ったが、ウサギ少女は地面を転げ回ってこそあれ、元気でピンピンしていた。恐ろしく丈夫な娘だ。
「耳がぁぁぁぁぁぁぁっ!! 耳があぁぁぁぁぁぁーッ!!」
頭を押さえたウサ耳少女がのたうち回る。そんな彼女を蹴り飛ばし、一心地着いたハジメは息を吐くが……ふと見上げた空模様にあらゆる思考が瞬時に停止してしまった。
先程発生した空間の孔、その向こうから無数の大岩――いや、隕石が雨あられと降り注ぐ最悪の天候であった。
「メーテーオーッ!?」
「芸達者な恐竜。……下手に動かないで、守りきれない」
ユエからハジメに忠告が入るが、言われなくても腰が抜けて動けそうもない。
「GyaOoooooooooooo!!」
「うるさいトカゲだわ。ウィー・アー・ザ・ワールドッ!!」
隕石と恐竜、双方を視界に収めたユエは、秒速千体を超える勢いで分身を召喚、同時にラッシュを叩き込んだ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!」
「GYABOOOOOOOOOoooooooooo!?」
無数の隕石をさらに細かい粉末状態にまで打ち砕き、恐竜本体をもメタメタにぶっ飛ばした。特筆するべきシーンも無い、例によっての蹂躙だ。
恐竜が岸壁に叩きつけられ、見るも無残な姿で絶命したところで上空の孔も消滅した。
ユエとハジメ達の周囲には焼け爛れた隕石の欠片が散乱し、熱気を孕む水蒸気が立ち込める。熱苦しいが、それ以上の被害も出ていない。
「やれやれだわ。今どきの恐竜は隕石まで降らせるのね。私の敵じゃあないけど」
「す、すっご〜………………い……っ!」
耳を押さえたまま、ウサ耳少女もヨロヨロと立ち上がった。
「すごいです、すっっっっっっっっっっっごいですーっ!! なんですか、
激しく興奮したウサ耳少女は、
「まさか、まさか
「え……っ!?」
思わず顔を見合わせたハジメとユエ。
「君、スタンドが視えてるの!?」
「スタ……ンド? スタンドって、
そう言ったウサ耳少女は、ウィー・アー・ザ・ワールドと、レディステディゴーの複数浮かんでいる腕をしっかりと見据えていた。
ハジメが試しに目の前でスタンドの手を叩いてみれば、しっかりと反応を示す。
間違いなく、このウサ耳少女はスタンドが視えている。つまり……!
「君もスタンド使いってこと!?」
「……あ! ひょっとして、同じ能力を持っている同士だから視えるんですか? 今まで私の周りで、私の……スタンド? 視える人っていなかったんです。
ウサ耳少女は、全くの無警戒に自分のスタンドに呼び掛けた。
「おいで、『ティンダーリア』」
そうして姿を現したのは……悍まし名前に相応しい、異形の怪物型であった。
得意技がメテオなティラノサウルス、ありふれのメイン読者に知ってる人って少なそうですけど、ファイナルファンタジー6の激強ザコモンスターが元ネタです。
※シアのスタンドについては次回。