ありふれたスタンド使い達   作:サイデリア

31 / 31
 なるべく原作から離れないようにしたいシアです。


峡谷に棲まう者達

 シアのスタンドは一言で表すならば、機械の怪物だった。

 胴体が大きな懐中時計になっていて、手足が複雑に絡み合ったパイプやコード、歯車などの機械部品で構成されている。

 頭部に至っては完全にテレビカメラ型の機械で、ウサ耳の着いたシルクハットを被っていた。

 ウサ耳まで含めても全長は60センチ程度しかなく、肉弾戦には絶対に向いていないであろうスタンドだ。

 

「これがグ……ティンダーリア。私の……スタンド? です。スタンドって呼ぶんですよね、この子みたいなのを」

「何だか時計ウサギか三月ウサギか分からないビジュアルだね」

「時計ウサギ? えーっと、すみません。それも何かの能力名なのでしょうか?」

 

 ハジメの言葉に首を傾げるウサ耳少女。その仕草に、ハジメは心中で「結構可愛い子じゃあないか」と思ってしまう。

 ただ美人というだけでなく、薄い青色の髪は綺麗だし、何より香織を上回るグラマラスな体型を、水着のような布地の少ない衣装のみで包んでいる。ついつい目が行ってしまうのも仕方がないことだ。

 

「やれやれだわ」

 

 だらしない表情のハジメに、ユエも呆れて小さく首を振った。

 

 仮にこの場に香織がいたならば、彼女は他の女に目移りしてしまった恋人に対して、黙ったまま「仕方のない人ね」と微笑んだだろう。その日の夜に普段より甘え方が過激になった香織と過ごして、ハジメが翌朝まで無事かどうかはさて置くが。

 ラブコメのヒロインのように、香織が嫉妬からハジメを害する事はない。何故なら彼女は、ハジメにとって自分がナンバーワンであることを理解しているからだ。

 よってハジメも、今は無防備に揺れたり弾んだりしているシアの巨乳に鼻の下を延ばしているが、もうちょっとすれば「香織、バニーガール着てくれないかな」という考えに落ち着くだろう。

 噂のバカップルは伊達ではない。

 

「ところで、そろそろ自己紹介ぐらいしておきたいのだけど。私はユエ、そっちのムッツリスケベはハジメ」

 

 ユエが強引に話を進めると、ウサ耳少女はハッとなって顔を上げた。

 

「すみません、助けていただいたのに。シア・ハウリアです!」

「シア、ね。それで、こんな物騒な場所で何をしていたの? 明らかに一般人が立ち入れる場所じゃあないでしょう」

「いえ、普通に狩りですけど。普段はティラノサウルスなんて出てきませんし。それに私、この峡谷に住んでますから」

「住んでる? こんなところに?」

「はい。もう少し向こうに進むと、街があるんですよ。すっごくガラの悪い街ですけどね。オウガーストリートって呼ばれています」

 

 シアが峡谷の先を指差して、もう五〜六時間も歩けば到着するという。

 何でも、元は流刑にされた者同士が生き残る為に作ったコミュニティだったのが、いつしか社会に居場所の無い無法者達が集まって巨大化していったとか。

 今では人間も亜人も魔人も問わず、誰でも受け入れる地獄のようなパラダイスなんだそうだ。

 

「危険も多いですけど、懐の深い良い街ですよ。お陰で私も路頭に迷わずに済みましたし」

「ガラの悪い街、若くてスタイルの良い美少女、水着みたいな服装……あ」

「ちょっと、何を察しましたかハジメさん!? 言っておきますけど、私は別に春を売るような仕事はしていませんからね! してたら恐竜狩りなんてしてません!」

「あぅ……すみません……っ」

 

 ハジメの想像が相当に遺憾だったようで、シアは結構な剣幕でずずいっとハジメに詰め寄った。

 ハジメも気圧されてつい謝ってしまうが……その視線は、間近に迫ってたゆんと揺れる、シアのそれはそれは豊かで立派な二つのお山に吸い付いていた。

 

「お前、故郷に婚約者がいるって言ってなかった?」

 

 ユエの視線がますます冷え込んでいくのを肌で感じて、ハジメは慌ててシアから距離を取った。

 

「ししし、仕方ないじゃないか! 生じっか女の子のこと知ってるから、どうしても意識しちゃうんだよ!」

「まさか私や透子でもイヤらしい事を?」

「ないない。だって二人とも胸が全然無いじゃあないか――あだだだだだすんませんしたーッ!!」

 

 超手加減したウィー・アー・ザ・ワールドのアイアンクローで宙を舞うハジメに、シアもやれやれと同情的な溜め息を吐いた。

 

「もう。だったら助けてくれたお礼も兼ねて、良いお店紹介しますよ。自分で言うのもアレですけど、兎人族の女の子は他種族から見て美人揃いですからね。期待してもらって構いません」

「えっ!! ま、マジで!?」

 

 シアの発案に、ハジメの目の色が変わった。だがすぐに、勢いよく首を振って煩悩を払う。

 

「だ、駄目だよ! 僕には香織という、心に決めた相手が――」

「けど、その様子じゃあ長いこと会っていないのではないですか? アッチの方もご無沙汰でしょう?」

「いや、その……うん」

「でしたら尚更ですよ! 人間、人恋しさが募ると普段は考えもしない誤ちを犯してしまうもの! ですけど、お店の女の子達はお金を貰って働くプロです! 私情は挟みません、一回こっきりで後腐れなく終わります! 謂わばアトラクションであり、アミューズメント! ちょっと危ない火遊びですけど、決して不倫にはなりません。だってお互いに情愛なんて欠片も無いのですから!」

「え……っと、そうなの、かな?」

「はい!」

 

 シアの営業トークにすっかり乗せられてしまったハジメは、ユエのスタンドで宙吊りにされたまま、バックパック(アーティファクトでも何でもない、普通のリュックサック)の中身を確認しだした。

 

「あ〜っと、持ち合わせってあったかな。迷宮で拾った魔石なら結構溜まってるけど」

「ちょっと待ちなさい、ウサギ」

 

 何故かユエまで、ハジメを手放して自分の所持金を確かめだした。

 

「……その店、女性客の入店もアリかしら」

「大丈夫だったハズですよ。確かソッチ系に特化した女の子もいますから」

「よっしゃ」

 

 さらに嬉しい事に、ハジメもユエも現金こそ持っていなかったが、むしろ金貨より魔石での物々交換の方が信用度が高いらしい。大迷宮で乱獲した大量かつ高純度の魔石の使い所が早くも決まった。

 二人はやたら高いテンションでもってピシガシグッグッと手を合わせる。

 

「では! いざ、オウガーストリートへ!!」

「でも僕、女の子と遊ぶお店って初めてなんだけど。ユエさんは?」

「これでもかつては王朝の女王。美少女集めたハーレムだって持っていた」

「ユエさん、すげーっ!!」

 

 やったら高いテンションで盛り上がるハジメとユエに背を向けて、シアはクスリとほくそ笑んだ。

 

(ラッキー! 強い上にお金持ちとか最高じゃあないですか! この人達を上手く乗せれば、プロシュート兄貴達だって私が旅に出るのを認めてくれるハズ!!)

 

 二人に視えない角度でウサウサ笑い、腹に一物抱えたシア・ハウリアは自身の棲む街へ向かって歩き出したのだった。

 

 

 

 ――同時刻。

 

「……………………、フフッ」

「!? か、香織が明後日の方向を向いて笑ってるぞ!? どういう事だァ、康一!?」

「お、落ち着いて億泰くん!! ああいう時の香織さんを刺激しちゃあ駄目だって由花子さんが言っていた!! あれはこう、余人が関わったりしちゃあいけない状態だッ!! ――はっ!!」

「マズイぞ!! 天之河が空気も読まずに香織に近付いてる……ザ・ハンドッ!! 空間を削り取れぇーッ!!」

「かお――じゃなくて、白崎さん、ちょっとうおおおおおおっ!? 虹村に引き寄せられるぅぅぅ!?」

 

 

 

「ぶえーっくしょいッ!!」

「はわっ!? ご、豪快なクシャミですね。噂でもされてるんじゃあないです、ハジメさん?」

「その迷信、トータスにもあるんだね。……いや、ちょっと悪寒がして」

 

 寒いわけでもないのに、突如としてケツの穴に氷柱をぶっ刺されたような怖気に襲われて周囲を警戒するハジメだったが、殺気の出処は分からなかった。

 

「……ウサギ、街ってあれ?」

「いい加減に名前で呼んでくださいよ、ユエさん! ……ええ、あれこそが私の棲家であり、クソッタレ達の最後の楽園! 誰が呼んだか『オウガーストリート』です!」

 

 漢字で書いたら食屍鬼街だろうか。だが意外にも、ゴミゴミしてこそいるものの、そこは普通に人々が暮らす『街』であった。

 岸壁には岩肌を直接くり抜いた高層建築が並び、その下には木造のバラックがズラリと並ぶ。そこを行き交う人種も様々で、とにかく活気に満ち満ちている。

 ハジメはその街並みに、時代劇に出てくる江戸の情景を思い出していた。

 

「す、すごい! もっとこう、壁のシミが怪物に視えるスラム街を想像していたけど、こんなに活気のある街だったなんて!」

「そりゃあそうですよ! どんな後ろ暗い過去がある人間でも、大手を振って楽しく暮らせるのがオウガーストリートですから。なにしろ好き好んでライセン大峡谷へ立ち入る人間なんていませんからね!」

「あなたもそのクチなわけ、ウサギ?」

 

 そうユエが尋ねると、直前まで意気揚々と歩いていたシアの足が止まった。

 そしてゆっくりと振り返った彼女の表情は……ユエでさえゾッと背筋が震えるぐらい感情が失せていた。

 

「ユエさん、ハジメさん。この街にだって無法なりにルールが存在します。最低限、それぐらい守らないとってものが。()()()()()()()()()()()()。これ、基本中の基本ですから」

 

 あの奈落の底を吹き抜けた、暗く湿った風のようなシアの声色に、ユエも軽率だったと顔をしかめた。

 

「ごめんなさい」

「あ! い、いえ、別に……その、こちらこそ……あうっ」

 

 素直に謝罪を口にしたユエに、シアも恐縮してしまったようだ。すぐにまた、コロコロと変わる明るいウサギが戻って来た。

 

「け、けど本当に気をつけてくださいね!! 触れられたくない過去の千や二千、お二人にもあるでしょう?」

「そこまで黒歴史無いよ……あれ? 前にもこんな会話したような……」

「デジャブですか、ハジメさん?」

 

 気を取り直して、ハジメとユエはいくつかの注意事項を確認しつつ、オウガーストリートへ足を踏み入れたのだった。




 ロンドンじゃあないけどオウガーストリート。
――――――――――――
スタンド名:ティンダーリア(?)
本体名:シア・ハウリア
分類:遠距離型(?)
破壊力:E
スピード:E
射程距離:C
持続力:C
精密動作性:E
成長性:B
 時計ウサギと三月兎を合体させてロボ化させたような外見のスタンド。
 能力を意図的に封じているので、今は本体が戦った方が強いぐらい。しかしコレのせいでシアは「化け物」と呼ばれ、フェアベルゲンを追放される事になった。
 今のところ、シア本人に能力を使うつもりも無ければ、使うぐらいなら死のうとすら考えている。ただし発動した場合の危険度はグリーン・デイやヘビー・ウェザー級になる。
 なお『ティンダーリア』という名前は、能力を意図的に封じる為に与えた偽名である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。