そして翌日。
今日もシュトロハイムが訓練場で何やら準備して待ち構えているらしい。
着替えを終えた女子チームは、一足先に食堂へ向かった男子チームを追った。朝食の時間は決まっていて、遅れると食事抜きで訓練させられる。
「ふわぁ〜」
「ちょっと透子。人前ではしたないわよ?」
廊下で人目も憚らず大あくびをかます透子に、香織からツッコミが入った。
「昨日の
アレ、というのは死刑囚の頭を吹っ飛ばした一件だ。
透子自身、生物相手に全力でスタンドを使うのは初めてだった。
「まさかあんな、北斗神拳みたいなことになるとは。この泉谷透子の目を持ってしても見抜けなかった。グロ苦手」
「その割には昨夜、普通にミートソース食べてたわよね」
「失礼。少々よろしいでしょうか」
そこに、さらに別の人物が会話に加わってきた。見ればシュトロハイムの副官の一人だ。透子達の記憶では、以前に「私の視力は1・5です!」と自慢していた男だった。
「畑中愛子様。実は、あなたの能力を見込んで依頼があるのです。ご同行願えますか」
「……いいでしょう。ちょっと行ってきます」
愛子先生は三人に、自分の不在を連絡するようにお願いし、騎士と一緒に別行動となった。
「天之河。今日こそは覚悟を決めてもらうぞ」
そういうシュトロハイムが用意したのは、頭部はネズミのようだが首から下の筋肉がムッキムキに肥大した、グロテスクな怪物だった。
檻の中のラットマンは、金属製の檻をカリカリかじっで抜け出そうと無駄な行為を繰り返している。
醜悪さと不気味さに、生徒の一部から悲鳴が上がった。
「こいつはラットマンという魔物だ。洞窟などに生息し、数を頼りに獲物を仕止める。だが単体であれば、今の君達で充分に対処可能だ」
「……この怪物を倒せばいいんですね?」
光輝の伺うような視線に、シュトロハイムがニヤリと笑う。
「構えろ、天之河! 檻を開け!」
慌てて聖剣を抜いた光輝に、檻が開くと同時にラットマンが飛び掛かった。
シュトロハイムが言うように、ラットマンの動きは光輝は元よりクラスメイト一同にも充分に見切ることが出来た。
「てやっ!」
光輝は乱暴に聖剣を打ち下ろし、ラットマンの胴体を真っ二つにしてみせた。
彼に心酔気味のクラスメイトが歓声を上げる。
しかしシュトロハイムが腰に下げた短剣を光輝の足元へ投げつけ、地面に突き刺さると、訓練場の空気が凍りつく。
「次だ。死体を解体して魔石を摘出しろ」
「……え?」
「聞こえなかったか? 説明は受けただろう、何の為に魔物を倒す? 魔物は魔力を取り込んだ動物が突然変異したものだ。その体内には、魔力が結晶化した魔石が宿っている。魔石は軍事にも医療にも日常生活にも有効活用される。だから魔物は倒すだけでは片手落ち、魔石を回収して完了だ」
説明は終わり、とばかりに、シュトロハイムはラットマンの死体を顎で指した。
光輝は手を震わせながら、短剣を手に取った。
十数分後――。
「で、できました……」
「随分と時間が掛かったじゃあないか。まあいいだろう」
シュトロハイムからギリギリの及第点を下された光輝が、唇を噛みしめる。
光輝は初めての魔石回収に四苦八苦し、ラットマンをミンチ状態にしてようやく回収を終えた。その顔は憔悴しきって土気色で、途中で一回戻してもいる。
さらにスプラッタな絵面に血と脂の臭いも組み合わさって、嘔吐者多数の地獄絵図となった。
期待外れ、とでも言いたげなシュトロハイムの視線に、光輝は生まれてこの方味わったことのない、ドス黒くて陰鬱な気分に胸中を支配された。それは天賦の才に恵まれ、常に勝利だけを積み重ねてきた光輝が知る、初めての敗北感だった。
しかし、それこそがシュトロハイムの狙いである。
(このシュトロハイムが観たところ、この少年勇者は自分の才能に溺れている。眠れる素質を完全に引き出すには、一度徹底的に心を折らねばなるまい! そうでなくば、この少年は
万が一追い込んだ結果、折れたまま光輝が立ち上がれなくとも次善の策がある。むしろ国王や教会の指図さえなければ、その次善策こそがシュトロハイムの本命だ。
(勘違いしている輩が多いが、このシュトロハイムの忠誠心は教会の傀儡でしかない国王陛下には無い。私が守るべきはハイリヒという国家だッ!! そこに住む者こそが我が忠義と
シュトロハイムの見つめる先には、料理上手な香織と由花子から、身振り手振りでラットマンの捌き方を聞いているらしいハジメ達の姿があった。
(利用させてもらうぞ、スタンド使いッ! このシュトロハイムの希望の星々よッ!!)
その後、シュトロハイムがさらに9匹のラットマンを用意していたが、解体まで完了できたのはスタンド使いと、檜山大介だけだった。
余談だが。大方の予想通り億泰は魔石ごとガォンしてしまい、シュトロハイムに叱られたのだった。
ざまぁみろ やってやったぜ ちくしょうめ
檜山大介、心の川柳(字余り)。
(あ、あの天之河よりも素早く魔石を引き抜いてやった! 仗助には負けたが……南雲よりは素早くやってやったぜッ!!)
シュトロハイムからも「雑だが仕事の速さは認めよう」と褒められた(気がする)。今、この瞬間の檜山は、自分があの天之河光輝よりも優れた存在だという自己陶酔感に浸り、幸せの絶頂だった。
しかしである。
「ハジメ、切っ先の使い方がなってないわ。お肉は筋繊維に沿って捌くのよ?」
「いや、お刺身造ってんじゃないんだけど……」
あろうことか、南雲ハジメはこんな時まで白崎香織とイチャイチャイチャイチャ、背後から短剣を持つ手を握られて、一緒にラットマンを解体しているではないか。
ハジメの背中には、香織のボインがこれでもかと押し当てられているというのに、ハジメに慌てる様子がない。慣れているのだ、ああいうことに。
「出来た。ラットマンの焼肉セット」
「美味そうに並べたところ申し訳ないが、魔物の肉は人体には即死レベルの猛毒だ。食べられんぞ」
「!?!?!?!?」
「うおっ!? 貴様ッ、表情筋が動かせたのか!?」
透子とシュトロハイムの愉快なやり取りも目に入らず、檜山は手が白くなるほど短剣を握りしめていた。
(す、ステータスもレベルも初期から上がっていない……く、クソオタの分際で……ッ!!
現世から腹の底で渦巻いていた嫉妬と怒りは、トータスにおいての戦闘レベル上昇にともなって、もはや檜山本人にさえ抑えきれなくなっていた。
(もう殺スッ!! あいつを殺して、独りきりになった香織を好き放題にしてやる……ッ!!)
理性を決壊させるほどの殺意に溢れた檜山は、その日の内に行動を開始するのだった。
一方――。
ハイリヒ王国宰相の執務室にて、愛子先生には執務机を挟んで王国宰相と対峙していた。
彼女の持つスタンド能力が植物の成長を促進させ、作物の収穫量を大幅に増やせることに目を付けた宰相が、直々に農地開拓への参加を依頼したのである。
愛子先生のスタンドは生命力を移すものだ。自分の生命力をこの国の食糧事情改善の為に使ってやるつもりは毛頭なかったが、続けて提示された条件に愛子先生は言葉を失う。
「そ、それは国家への裏切りなんじゃないのですか……!?」
「裏切り? この国において裏切り者がいるとしたら、それは聖教会に迎合する王家であり、貴族達だ。異世界から来た君達ならば、この国の歪みを強く感じているはずだ」
宰相は言葉の端々に、明確な嫌悪感と怒りを露わにして仕えるべき国家……そのトップを侮辱した。
「ヤツらはこの国に、もはや不要な存在だ。ハタヤマアイコ殿、私やシュトロハイムは、王室を排除してハイリヒ王国をただの『ハイリヒ国』に生まれ変わらせる。その為に神が邪魔なのだ」
「神って……」
「聖教教会、そして奴らの崇めるエヒト。それこそこの世界を腐らせている害悪だ」
宰相はスタンド使いでもない、ただの政治家だ。
だが瞳の奥に灯った暗い情熱の炎は、やると言ったら何が何でも理想を実現する『凄味』に満ち満ちていた。
「我々は同志になれる。神を排除し、君達は元の世界へ。我々は真なる自由をこの世界に取り戻す! 力を貸して欲しい……このファニー・ヴァレンタインに!!」
真っ直ぐに愛子先生を観る宰相――ヴァレンタインの鋭い眼力に、思わず頷きかけた愛子先生は、危ういところで「一晩仲間と相談させてください」と返すのが精一杯だった。
愛子先生が農地開拓へ派遣されるまでタイムラグがあったのは、スタンドを把握していなかったからだけです。
それと完全に後付けですが、愛ちゃん先生が序盤でハジメのクラスのホームルームを受け持ったのは一時的な代理か、スタンド使い同士で引き合ったことにしてください。
またヴァレンタインも転生者や転移者ではなく、D4Cで連れてこられることのなかったトータスのヴァレンタインです。
オリ主である透子の活躍頻度はこのままで良いでしょうか。
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多すぎるからもっと控え目
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ちょうどいい
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少ない