かつて大英博物館と呼ばれた建物の中を歩いていく。今、この建物にはブリテン国立研究所が設営されている。ここにあった歴史的遺産の殆どは、その研究所に接収されたと聞く。
ちなみにイギリスの退魔組織は、ここには存在しなかったらしい。むしろ、ウェストミンスター宮殿の方に存在したと聞く。
要するにここを拠点にした人物は自分自身の手で時計塔を作ろうとしているとも言えるのだ。事前に聞いた話によるとヨーロッパ中から避難してきた魔術師を取り込んで急速に組織として形が作られている最中らしい。
そして、ここには今回の訪英目的がある。
その目的こそ目の前の人物が用意しているモノだ。
「お久しぶりですね、奥さん」
長い銀髪をポニーテールで結び、黒いリボンが揺れている。服装は白衣姿だが、体つきの良さは、見てわかる。ただ、一つ難点を上げるのなら、普通の服装だということだろう。
「こちらこそお久しぶりです本郷警視。いえ、出世なされたのでしたね」
かつて日本にてガイア連合の研究部門に所属していた才媛モルガン・エヴァンズだ。ちなみにFateのモルガンの衣装も持っているがあれは戦闘用の霊装だと聞いたことがある。まあ、普段着には使えないわな。
「何、所詮は窓際部署ですよ。だからこそ好き勝手出来ているのですがね」
本郷猛なんて名前と見た目を持っても所詮はただの警察官、デモニカを着る事はあってもシキガミパーツで自分を改造したりはしていないからなあ。
「窓際と言っても日本にも終末が来た場合、警察を掌握する役目も期待されているのではないですか?」
「まあ、政治家の俺たち、もとい同胞たちからそれとなく言い含められては居ますがね?」
まあ、そういう話も実際に言われたことがある。と言うか、警察上層部もさすがにヤバいと思ったのか霊能担当であるウチの部署にテコ入れしようとしている節がある。ちなみに追加人員の話も出たが、その時は同僚がキャリア組を異界に連れ込んでしまった。それ以来、追加人員の話は無くなったが、構成員を派閥への取り込み活動をしてきている。
ただ、俺たちの統一見解としては今更遅いの一言だがな。
「・・・いや、公僕が認めてよろしいので?」
「それを言うなら政府転覆を前提にしている時点でアウトだと思いますよ」
「確かに・・・」
ガイア連合も日本政府の残党を取り込むつもりはあっても、日本政府そのものを残すつもりがないからなあ。なんせそうしないと借金で死ぬ。
「それで後ろにあるのが例のモノでしょうか」
それよりもモルガン女史の後ろにある装備が気になる。おそらくデモニカなのだろうが、私の好みに合致するデザインだ。あのバケツスタイルも慣れれば悪くないのだが、やっぱり赤い複眼だよな!
「はい、これが英傑装甲服です。ちなみに見た目はあなた好みに合わせておきました」
「ふむ、なるほど・・・ペガサスフォームかな、これは」
緑色の装甲にGシリーズに近いアンテナ、装甲はデモニカより厚そうだがG3マイルドみたいな感じだな。
「いえ、強いて言うならロビンフォームです。ボウガン型霊装を主兵装にステルス迷彩、魔法もエストマやトラフーリ・小を備えております」
「うむ・・・いや、この性能って警察と言うよりは軍向けでは?」
しかも特殊部隊とかそういう風に使われる代物だと思うのだが・・・。万が一仮に流出した場合ヤバくね?
「ここはイギリスなので、ロビンフッドが量産しやすかったんですよ。現代戦にも相性が良いですし」
「警察としては市民の盾になれるような奴が良いんだが・・・」
警察としてはオカルト事件に巻き込まれた一般人の救助が第一で、悪魔を倒すのはそれこそ自衛隊にして貰いたいんだが・・・。あっ、そう意味ではエストマやトラフーリ・小は凄い助かる。あとは、マッパーとかエネミーサーチも欲しいなあ。いや、これはアプリで補えるのかな?
「量産性のある盾持ちが居なかったので。レオニダス辺りなら良さそうなんですが、実用に足る遺物が入手出来なかったんですよ」
「なるほど、それならありがたく頂戴しましょう。それとガイア連合向けの依頼ですが・・・」
とりあえず、ステルスだけはオミットしなければ。それと本命と呼べる仕事もしなければな。
「そちらのトランクにサンプルが用意してあります。」
部屋の壁側を見るとトランクケースが机の上に置いてあった。モルガン女史がカギを取り出しトランクを開ける。
「ほう、剣ですか」
装飾が付いた西洋剣が入っていた。ぱっと見だと装飾過多の儀礼剣だが覚醒者の視点で見ると、この剣がかなり強力な霊装だということがわかる。
「伝承兵装、伝説や神話に謳われる悪魔のデビルソースを元に再現された伝説の武器です。これで高レベル向けの装備が供給出来ますね」
英傑を作成するにあたって力の元になる悪魔の欠片とアインヘリアルやワイルドハントなどの悪魔から過去の英雄の魂を抽出、複写したデータを掛け合わせて作られたデビルソース、それが英傑式シキガミのコアとなっているパーツだ。
ちなみにこのデビルソースの利点は疑似的な悪魔全書機能を持たせることができると言う事だ。と言うかやっていることを考えれば疑似的な悪魔合体もしているような気がする。
英傑シキガミこそ情報密度が高くて複数顕現は難しいが、伝承兵装なら量産が可能なのだ。
実際にバルムンクの量産に成功したと言う報告があり、こうして私たちガイア連合中堅組が日本から遠いイギリスにまで渡航したのだ。
なお、例え英傑シキガミが倒されてもリソースさえあれば再生産可能というまさにサーヴァントみたいな事も可能である。
「ふむ、悪くないな」
試しに剣を振るってみたが、良いものだな。惜しむらくは私だとまだ宝の持ち腐れだと言う事だ。もっと力ステが高い幹部級の俺らに持たせた方が良いな。
「本国にも多神連合が居るからデビルソースの入手は難しくないでしょうが・・・」
「ただ、その場合だと連中に借りを作りかねませんな。ここイギリスだと英傑が多いのでガイア連合内で準備出来るのは強いですね」
確かにグングニルやケラウノスにミョルニルを使ってみたくはあるが、連中に貸しを作るのはなあ。
「ちなみにプロトタイプの方も見ますか?ワンオフですよ」
プロトタイプ?それは、英傑武装技術のプロトタイプと言う事か。しかも、ワンオフ・・・機動戦士を思い出しますな!
「それはそれは、ロマンですね」
「HERO型デモニカ、内蔵されているシキガミをスライムではなく英傑を採用し、伝承兵装を持たせることでユニークスキルすらも使用可能となります」
ほう、バケツヘルムなのは変わらないが全体的にマッシヴだな。印象的にはアイアンマンに似ている感じだ。しかも、ユニークスキルが使えるようになるのは素晴らしい。スキルカードである程度は覚えられるが、ユニークスキルは使えた事例は聞いたことはないな。
「なるほど、不採用なのはコストが原因ですか?」
ただ、やっぱりお高いんだろうなあ、こういうの。
「はい、それも理由の一つです。戦闘能力が高いけど霊的才能の無い現地人向けみたいな物の割にコストが高いですからねえ。ぶっちゃけ、普通にシキガミや英傑を使った方が私たちとっては使い勝手が良いです」
「まあ、そうだな。私たちにとっては所詮補助機みたいなものだからなあ」
デモニカで覚醒したのなら、普通にシキガミ使えば良い話だからなあ。ストレンジジャーニーのデモニカのような性能なら話は別なんだろうが。
「実はほかにもデメリットもありまして、ユニークスキルを使うにあたって中の悪魔と同調する必要性があるので最悪の場合悪魔化します。これはデータ参考元の事例から適合率などの安全基準を策定する必要があるのですが、量産する事がないのでその必要もありませんし・・・」
「参考元?人間が悪魔化した事例があったのか?」
悪魔かした人間が居るのか、やはりカオスヒーロー系の人間なのか?
「アメリカのデモニカユーザーがレベル上限を超える為に色んな悪魔のMAGや薬を使用した結果、人間のカテゴリーから外れたのが報告されています。ちなみにデモニカのハーモナイザ・システムでかろうじて人間であることを維持していたようです」
おおう、だいぶ無茶苦茶したのだな。いや、覚醒するために腕一本シキガミパーツと交換した現地人も居たけどさ。
「しかし、この改造デモニカのハーモナイザは英傑に人間側を同調させる必要があります。名もなきスライムなら悪魔側を多少なりと人間に近づける事も出来るのですが、これのコンセプトは人間に英傑の力を宿すことなんですよねえ。要するに楽して力を手に入れるのではなく地道にレベルを上げろと言う事ですね」
ううん、技術的な話はそこまでわからないがブレイドのアンデット融合係数みたいなものか。要するに本来なら疑似的に覚醒者するハーモナイザ・システムが英傑のスキルを使用するに英傑に近づきすぎてしまうという解釈で良いかな。剣崎君には、猶更渡せないなあ。
しかし話を聞くほど霊的才能がある俺たちにとってはユニークスキル以外メリットが無いな。
「つまり、英傑側にリミッターをかければイケるのでは?」
「それ、普通のデモニカで良くないですか?いや、成長後の仕様が決まっている方が自衛隊は嬉しいでしょうけど」
確かに彼らからも仕様の方向性が決まっている方が良いとは聞くし、なんなら私の部下からも同じ話を、聞かされたな。
「なら、強力なユニークスキル持ちなら試す価値はあるはずだ」
「そうなると結局はコストの問題に戻りますね」
そう言えば、高いんだった。
「・・・ううむ、ワンオフなら普通のデモニカで成長させた方が安上りか」
「しかも、強力なユニークスキル持ちほど求められるレベルが高そうですね」
ああ、安全を確保するなら、そういうデメリットも出るか。それなら普通のデモニカを複数用意して多くの人間のレベルを上げた方が、メリットがデカいなあ。
「それだと作る意味が無いな。しかも装着者は最終的に人間を止める可能性が高いと」
「そう言う事です。今は、伝承兵装とGデモニカのみが完成品ですね」
まあ、ユニークスキルが無くても最初からある程度の性能を発揮できる改良式デモニカで我慢するか。どのみち本命は高レベル向けの伝承兵装だし。
「クラスカードや疑似サーヴァントみたいな代物は、夢のまた夢と言ったところか」
「それで如何します、この鎧。正直、コンセプトが仮面ライダーもどきみたいになっちゃったので見せたんですけど」
こいつが仮面ライダー?どうみてもアイアンマンの親戚にしか見えないんだが。確かに力の代償に人間を止める可能性が高い代物だが・・・クロス・オブ・ファイアか。
「そういえば確かにライダーに近いな。・・・・・・・・・・・・・・一応貰いましょう」
「ええ、結構です。その代わり期待させて貰いますよ。ガイア連合産の輸送船の供与を」
「私が言うまでもなく増やしてくれると思いますよ。なんせ悪魔以外でマッカが入手できる重要な支部なので。今回の件で、高ティア武器の素材の供給元にもなりましたし」
少なくともガイア連合が抑えている海外資源地帯と同格以上の扱いにはなるだろうなあ。しかも、実質俺たちの国みたいな状態だし。まあ、内部に多勢力を抱えているのも日本と変わらないしな。
「ありがとうございます。これで夫にも良い報告が出来そうです」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本郷さんにGデモニカと伝承兵装を引き渡した後、地下深くの研究室に来ていた。悪魔の力と異界化を利用して既にかなりの深度まで掘り進められている。ここは、その最深部だ。その内中層ぐらいにはなるでしょうが。
「これを本郷さんに、ガイア連合の仲間に伝えるべきだったでしょうか。いえ、あくまで紙の上の計画だけの存在、話す必要はありませんね」
バツ印の書かれた書類を持ちながら、ふと呟く。霊的国防兵器を作っている内に考案されたプランの一つだが、あまりにも非人道的な為凍結されたプランだ。
「亡くなった人たちの魂を集めて、強固な認識の力を持つ神殺しの兵器など・・・」
この研究所を作ってから出来た私の弟子が持ってきたある霊装によって考案された。魂を収集する墓守の霊装により、死んでいった億の魂を集め、一つの器に製錬し、魔界に居るであろう本体ごと悪魔を殺す為の兵器。Fateの聖杯やメガテンの宇宙卵やらに匹敵するとんでもない厄物になるのは間違いないでしょうね。
「私としてはゲーティアの宝具を想起しましたが、アーサーは別のモノを思い出していましたね」
魂を燃料とするだけではありません。人間が持つ認識の力は四文字すら零落させる事が可能らしいです。もし完成すれば情報生命体である悪魔にとって致命的な兵器となるでしょう。非道すぎますし、そもそも技術力的に制御するのも作るのも無理だと思う。
しかし、そんなとんでも兵器が登場する作品が存在するのですねえ。
「確か・・・
モルガン魔導研究所
表向きは元ウェストミンスター宮殿に存在する事になっているが大英博物館の地下室を利用して作られた空間に存在している。欧州中の避難してきた魔術師や科学者を取り込み、ガイア連合の技術力で纏め上げている故、魔女術など欧州系技術力を一体系として形作られつつある。この組織により英傑シキガミや終末対応型兵装の開発の助けとなっているのだ。
現在は地下を拡張しつつ、一部を異界化し大英博物館の収蔵品を利用して英傑系の研究にとりかかっている。
なお、モルガン的にはせっかくだし時計塔作ってみようといっただけである。ちなみに組織の体系づくりは旦那の仕事である。