「金が足りない」
我が夫アーサーがいきなりそんなことを言い出した。アフタヌーンティーを楽しんでいた時にちょっとどうかと思うが、その表情から真剣なのはわかります。少し話を聞いてみますか。
「どうしたのですか、いきなり」
私はティーカップをテーブルに置くと問いかける。
「労働者に払う為の給料が足りないんだ」
「ガイアポイントでは駄目なのですか?」
今の世だとガイアポイントでDDS経由での買い物した方が良いと思うのですが、マッカで給料を支払おうとしているのでしょうか?
「確かにあれはマッカに続いて信用のある通貨だ。だが、無視できない欠点がある」
「欠点?在野のデジタルサマナーにもかなり活用されていると思いますが」
「問題はそこさ。今日本以外でガイアポイントを手にする事が出来るのはサマナーしか居ない」
「ん?・・・あっ!そういうことですか。スマホですね」
そう言えば、ガイアポイントは海外だとスマホだけが決済できますね。今の半終末状態でもまともに動く電子機器が少ないですからね。
「ガイアポイントは実質電子通貨みたいなものだから、インフラが無いと活用できないからね」
労働者がスマホを持てないならガイアポイントでの給料の支払いが出来ない。だからと言って配布にも問題がありますしね。
「スマホがあるなら労働者にではなく霊的才能のある人物に渡してサマナーにした方が良いですよね」
使えるスマホがあるなら悪魔召喚プログラムをインストールして才能があるものに持たせてデビルハンターにした方が効率良いですからね。あと、ついでに覚醒者じゃない労働者が作業している最中に悪魔召喚プログラムが誤作動して大惨事になる可能性も無きにしも非ずですね。
「そういうこと。なら、マッカはどうかと言うと、供給が悪魔便りだから必要量を集めるのが難しいし、何なら色々な事に使ったりするから、全然足りないのさ」
「確かに日本にいた時もマッカが不足して大変でしたからね。」
あの時はシキガミやアイテムの素材にマッカ必要なのに、ガイア連合の皆が支払いを現金で済ませるおかげでマッカの在庫量がいつも逼迫していましたからね。
「ああ、あのときは大変だった。マッカを素材にアイテムを作るのに皆が日本円での決済ばっかりしていたからなあ。おかげでマッカの供給量を少しでも増やすために後方勤務だった僕が異界に潜るようになったからなあ。本当に修羅場だった」
本当にあの時は大変でした。私自身もこの人には無理をさせちゃいましたね。まあ、それはさておき教えておくといたしますか。
「ちなみにそのマッカですが、作れますよ」
「・・・I beg your Pardon?」
アーサーがポカンとした顔をしていますね。いつもの凛々しい表情もよいですがこれはこれで・・・。おっと、説明してあげないといけませんね。
「まずマッカとはなんだと思いますか」
「ええと、地獄の宰相ルキフグスによって作られた魔界の金貨だろ?悪魔にとって人間のお金は信用が置けないから金貨が重宝されていたはずだね。更にいうと銀貨は銀自体が魔除けの意味合いを持つから敬遠されていたはず」
なるほど、技術者の私とは視点が違いますね。アーサーにとってあくまでメガテンに出てくる貨幣と言う認識が強いですか。
「マッカはある種のエネルギー通貨のようなものでもありますよ」
「エネルギー通貨、SFゲームとかで出てくる言葉だね?そう言われると確かにそういう性質もあるね」
「マッカを霊的リソースとしても使用が出来ます。つまり、逆に考えますとマグネタイトとある種のフォルマがあればマッカは作り出すことが可能です」
金を核としてマグネタイトをフォルマや権能を使用して加工すればマッカに近いものが作れました。その結果が・・・
「そうして出来たのがこれです」
たまたまポケットに入っていた人工マッカを取り出して見せる。まさか、遊び半分で作ったこれが役に立つ日が来るとは・・・。
「っ!?マジで作ったの!?」
椅子がガタッとなるほど勢いよく立ち上がり私の手の中のマッカを見つめてくる。
「まあ、マッカは散々素材にしましたからね」
(実はQPを作ってみようとしたら偶然出来ただけなんですけどね)
小さい声でボソッと呟く。仲間内での型月再現プロジェクトの一環で作っただけなんですが、まさか利用価値が出てくるとは・・・。
「最高だ!」
「キャッ!?」
あわわわ・・・!?アーサーが我が夫が私に抱き着いてきた。い、いきなりは心の準備が!
「これで色々と出来なかった事が出来る!本当に君は天才だ!」
嬉しそうな夫の顔を見ていると少し落ち着きました。悩みが解消できたようで良かったです。あと、少しはこの体勢のままで堪能しましょう・・・。
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僕はモルガンが作ってくれたマッカを手始めにダナン神族とメシア教に配ることとした、そして、今日は執務室にて財務担当員から人工マッカの評判の報告を受けることになっていた。
「それでモルガンが作ったマッカの評判は、どうだい?」
僕は目の前の元イギリス官僚のケリーに問いかける。本当にこういう組織を運営する人間が生き残っていて助かったよ。
「おおむね好意的には受け要られています」
「ふむふむ」
なるほど、おおきな反発は無いみたいだね。せっかくモルガンが発明してくれたんだケチを付けられたくは無かったからね。
「メシア教は悪魔の手が加わっていなくて素晴らしいと言っていましたし」
「まあ、うんメシアンなら言いそうだね。国教会に取り込まれればよいのに」
まさにメシアンらしい言い草だ。まあ、十戒プログラムを使えば他の悪魔を聖霊として認めたりしている派閥も居たりするから一概に全てが悪と言える訳ではないが・・・。
やはり少しずつ切り崩していかなくては。
「ダナン神族の方もガイアポイントと交換できるので不満は無いそうです」
「そこらへんは僕らイギリス支部の働き掛けで許可を得たからね」
本国の経営陣にその辺の根回しはした。なんせ通貨発行権を握れる絶好の機会だ。商売人も乗るしかない。マッカと品質の変わらない人工マッカが他の悪魔にも流通すれば、更に完璧だ。
「これでようやく経済を再び動かすことが出来そうだね」
「ええ。終末の到来によって止まった金の流れが再び動き出す。しかも、この世情に適応した流れが」
世界中の国々が崩壊した今、世界は金本位制ならぬマッカ本位制になった。ガイアポイントが基軸通貨に一時的になるかもしれないが、アルトリア以降の時代だとガイア連合がどうなるかわからないからね。マッカによる経済の流れを作っておかねばいけない。
実際、今の日本には不安が残る。終末で借金をチャラにしたいと言っているが、メシアンの終末に備えた準備にかなり不備が出ているのを知っているとガイア連合の方にも影響が出てきそうだからなあ。僕たちの備えはメシアンより充実しているがそれでも不安は残る。
「それじゃあ、さっそく動いてもらえるかな?」
「わかりました、大総統閣下」
ケリーが僕の執務室から退室する。さて、それでは僕の方も動くとするか。備え付けの電話を特別用意した回線に接続して日本につなげる。
「もしもし、アーサーです。いつもお世話になっております。どうです、人造マッカの件は?はい、はい・・・なるほど問題なさそうですね」
どうやら本国の方も例の件に賛同してくれたようだ。なら、進めるとしよう。
「では、早速生体エナジー協会の設立を始めましょうか。これで悪魔が信仰と言う名のMAGを手に入れているように僕たちもマッカと言う形で手に入れましょう」
生体エナジー協会を作ることでハンター以外からもマグネタイトを回収する。そして、集めたマグネタイトはハンターに売る。そして、余ったマグネタイトからマッカを作り出す。他にも活用方法は色々あるが基本はこんなところだ。将来的にデビルハンターと言う職業が一般的になるならMAGを取り扱う企業も必要だ。組織を作っておけば、本丸であるガイア連合にもしもの事があっても分離する事で難を逃れることが出来るかもしれない。
「ふふ、それ通貨発行権が悪魔に握られているなんて、それこそ悪夢ですからね。信頼も、量も。終末の世が完全に到来し、新時代を迎えた時の経済規模を考えると、もっと金は必要だからね」
メシア穏健派のシェルターのおかげで人口は維持できているが、設備の不調などで避難民の大半が働くことが出来ないでいる。彼らに仕事を出来るようにして給料を得て、それで買い物してもらわないと経済は動かない。マッカを渡して、シェルター同士で交易する。これが新時代の経済の一つだろう。
「それじゃあ、そちらの方もよろしくお願いします。こちらでも準備は進めるので、では失礼します」
僕は受話器を戻して、電話を切る。さて、あとは実際にこの制度を動かしてみて不具合が出たら修正しないとな。
「何としてでもアルトリアが大きくなる前に体制と資産を作らないと・・・。そのためにはいくらでも紳士的に行動してやる」
ガイア連合にとってアルトリアは僕の娘と言うだけだ。アーサー王の転生者と言うのは戦力評価にプラスになるかもしれないが、あの子は同胞では無い。もしもの為の備えはあくまで僕やモルガンで用意しなければならない。自分の助けたい者は自分で助ける、それがガイア連合のスタンスなのだから。
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私は自身の研究室で夫から頼まれたマッカ製造の依頼書を持ちながら机に乗っている書類の山を見つめていた。
「・・・マッカ製造用アガシオンを作りますか」
少し仕事を持ち過ぎましたね。
よもやま話
マッカの製造の話を書いててふと思ったんだが、電脳異界で御霊を養殖している訳だが、換金アイテムからマッカって作り出される可能性があること。
もし出来るならアーサー大慌てやろうなあ。それでも生体エナジー協会が出来ればある程度の利権は確保できるだろうけど。