メラルー達に運ばれ、難を逃れたユウゼンとカジキ。メラルーの巣窟で、先に目覚めたユウゼンをオトモアイルーのハゼが傷の手当てしながら、状況を説明していた。
「なるほどな、ハオコゼってハンターと一緒に来て、んでベリオロスにやられたってか」
「えぇ、そうよ。本当、貴方たち運が良かったわね。アタシもメラルー達が助けてくれなければ、今頃どうなってたか・・・」
「みんな、本当にありがとうな」
「・・・!?あいつは!?ベリオロスはどこ行った!っ痛てぇ!」
急に目が覚め、飛び起きたカジキ。だが思ったより天井が低かったため思いっきり頭をぶつけてしまう。
「あぁ、起きたか」
「痛ぁ!何だよ、ここ天井低すぎだろ。てか、起きたか?じゃねーよ!何してんだ!」
「どうやら俺たちは気を失ってたらしい。このメラルーたちに助けられたんだ」
「・・・助かったのか?」
「あぁ」
「・・・ラッキーだったぜ、全く」
カジキは自分の体の至る所にできた凍傷を、見ながらもう一度ゆっくりと起き上がる。
「にしても、久々だぜここまで派手にやられたのはよぉ」
「カジキ、俺たちは助けて貰ったんだ。礼くらい言ったらどうだ?」
「いちいち、うるせぇぞ」
「カジキ!だいたいお前が一人勝手に洞窟へ行ったからこんな事になったんだぞ!」
「だったら着いてこなかったら、良いじゃねぇかよ!」
「何だと!」
「いつまで兄貴ヅラしやがる!そういうところが気に入らねぇんだよ!」
「ちょっと二人とも落ち着いて!」
「あんたが助けれくれたのか!ありがとうな!」
「あ、礼はちゃんと言うんだ」
喧嘩する二人を見ていたハゼが止めに入るも、カジキに予想外の礼を言われる。
「よし!落ち着いた!詳しく教えてくれ、俺が気絶してる間何があったんだ?オトモアイルーさんよぉ、あんたが村長が言ってた人だろ?こんなところで何やってんだ?」
「それはな・・・」
「おめぇに聞いてねぇよ、ユウゼン」
「分かった、順を追って話すわね。アタシはハゼ。ユクモ村のハンター、ハオコゼのオトモアイルーよ。村の依頼でここに来たけど、あのベリオロスがとっても強くてね。戦闘の途中でアタシたちはバラバラになった。ベリオロスの攻撃でハオコゼが崖の下に落ちてね、アタシはベリオロスから必死に逃げながらハオコゼを探したんだけど。見つからなかったの。途方に暮れてたアタシをメラルー達が助けてくれたのよ」
「おめぇも苦労してんだな」
「ハオコゼは、絶対生きてる。必ず見つけて帰るわ」
「あのぉ。二人とも目が覚めたのかニャ?ならそろそろ説明した方がいいのかニャ?」
「そうね、こうしてる時間も惜しいわ」
「分かったニャ。僕達はここの・・・」
「・・・いい・・・ワシが・・・話そう」
「長老様!」
「長老様?」
「この子達のリーダーって所かしら」
話にしわくちゃな声で割って入ってきたのは、自然と同化しそうなボロボロの服を着てる年老いた竜人だった。
「・・白夜刀(しろやと)は・・・怒り狂っておる・・・」
「白夜刀?」
「あなた達が戦った、あのベリオロスの事よ。凍土で一番強いモンスターらしいの。その圧倒的な強さへで、凍土の生態系のバランスを保ってるの」
「・・・らいしの・・・ではない・・・この凍土の守護者・・じゃ」
「分かってるわよ」
「確かに、白黒種より強いモンスターだった。凍土で一番強いのも納得できる。だがそれでもモンスターはモンスターだ。村人に危害を加える可能性があるなら、ほっとけないぜ」
「・・・白夜刀は・・・本来は山頂でただ静かに・・・暮らしておる・・・だがお主らが・・・白黒種と呼ぶ・・・モンスターが現れての・・・それ以来凍土を徘徊し・・・目に付いたモンスターを見境なく・・・攻撃するようになってしまったのじゃ」
「会話がスローペースだな」
「普段は大人しいのか?」
「ほとんど、山頂にいるから姿を見たことがないニャ。詳しく知ってるのは長老様だけニャ」
「恐ろしい力の持ち主ニャ!」
「凍土に住む・・・多くの命が失われたんじゃ」
「・・・俺たちも至る所で見たぜ、氷漬けのモンスターの死体。あれは目を疑う光景だった」
「・・・あれらは全て・・・白黒種が原因で死んでいったんじゃ・・・じゃが、このまま白夜刀が・・・意味無く暴れてしまっては近隣の村にまで影響が及ぶ・・・そこでワシらは白夜刀を・・・鎮めるために罠をしかけたのじゃ」
「鎮めるための罠?あの大量の小タル爆弾が?」
「そうじゃ・・・本来なら翼脚の棘を破損させ・・・動きを封じる作戦じゃったが」
「俺たちが予想外に乱入したせいで、作戦が失敗に終わったって事か?」
「・・・」
「すまねぇな」
「でも放っておく事は出来なかった!」
「ハゼ?」
「似ていたのよ、ハオコゼにね」
ハゼはカジキの方を向いて話し始める。
「俺が、ハオコゼに似ている?」
「えぇ、その武器も。あの叫び声も。あの時と同じだった。ハオコゼは多分アタシからベリオロスの注意を引くために、必死に叫んだの。こっちじゃボケが!ってね。でもアタシは、崖下に落ちていくハオコゼに対して何も出来なくて。あんな思いは二度とごめんよ」
「そうだったのか」
「まだ分からねぇだろ」
「ユウゼン?」
「ハオコゼはまだ生きてる!絶対に生きてる!」
「そうよ!だからアタシは諦めない」
「うむ・・・それに関してはワシらも全力を尽くそう・・・だが今はもう一度あの量の小タル爆弾を用意する必要がある・・・そこでお前さん方にも協力してもらいたい・・・凍土に生えている・・・火薬草をありったけ集めてもらいたい」
「お願いですニャ!」
「もちろんだぜ、長老さん!ハオコゼを探しがてら火薬草を集めればいいんだな?」
「ありがとう、ユウゼン。でもあなたまだ傷が治ってないから無理しないでね」
「俺なら大丈夫だ!行くぞカジキ!」
「・・・俺は一人で行く」
「何でだよ!」
「その方が効率いいだろ」
「ありがとう、カジキ。でも一人で行くのは危険だわ。あなたはユウゼンよりも酷い傷を負ってる。もしベリオロスと鉢合わせでもしたら・・・」
「分かってらぁ!奴と出会っても戦わねぇよ。認めたくねぇけど、今の俺じゃ勝てねーからな」
「でも!」
「ハゼ、こいつは一度言い出したら聞かねぇんだ。いいぜ、一人で行きな」
「ふん」
「分かったわ。いい?絶対戦っちゃダメよ」
カジキはメラルー達の巣窟から一人外へ出ていった。
「あいつ、火薬草が何処に生えてるかも聞かずに行きやがった」
「アタシは知ってる、前取りに行ったからね。長老、あの場所よね?」
「あぁ・・・だがそれだけでは・・・足りぬかもしれん」
「探すしかないわね」
「・・・では任せたぞ・・・ワシら罠の準備をしておる」
「お願いしますニャ!」
その話をこっそり聞いている人がいた。凍土で白黒種の実験をしていたアイゴだ。
「ふふっ、これはいい情報っすね。あの目障りなベリオロスを潰すチャンス到来っす。まぁでも、ぎぎって子が、来てないのは残念っすけどね」
ユウゼン達はメラルー達に手を振り巣窟を後にした。
火薬草の群生地を知ってるハゼについて行くユウゼン。
「どうして、洞窟に逃げ込んだの?」
「カジキの案だ。外で戦ってても不利だったからな。ほぼあいつが勝手に、行ったようなもんだけどな」
「そう。本当に運が良かったのね。ベリオロスが真の強さを発揮できるのは洞窟なのよ。壁から壁へ俊敏に動く姿を見たでしょ?」
「だよな、明らかに強くなった気がしたし」
「あの〜?」
「誰!?」
すると突然聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「あ、怪しいものじゃないっすよ〜。君〜ユウゼンっすよね?」
「ユウゼン、知り合い?」
「あぁ!アイゴさん!久しぶりだな!」
「久しぶりっすね!ユウゼン!その風貌からしても、もう一人前のハンターって感じっすね〜。今日は狩りの用事っすか〜?」
「あぁ、ベリオロスを狩に来たんだ。まぁ今は色々あって火薬草を取りに行ってんだけどな。あんたは、いつもの野外捜査ってやつかい?」
「まぁ、そんな所ってすね。火薬草ですか。多分それならさっき生えてる所を見つけたっすよ。こっちっす」
「サンキューだぜ、アイゴさん!」
さっさとアイゴは歩み始める。その後について行くユウゼンに、さっきの会話を黙って聞いていたハゼが話しかける。
「あなたの知り合いなのは、分かったけど。村じゃ見かけたことない人よ」
「だろうな、俺もかなり久々に見たぜ。あの人は考古学者のモクジさんは知ってるだろ?その人の部下って所かな」
「そうなの。にしても、モクジさんの事なんてよく知ってるわね。てっきりあの人はギルドの上層部の人としか話してないイメージがあったのに」
「まぁ、話すと長いけど色々あってな」
アイゴは凍土の洞窟の方へ向かう。だが、洞窟へ着いてもそこに入らずその細道に歩き出した。
その細道を抜けた先にある開けた土地には、大量の火薬草が生えていた。
「おぉ!すげぇ大量だ!」
「これ、あなた一人で見つけたの!?」
「たまたまっすよ、物音が聞こえたので、近くまで来てみたらあったんすよ」
「でも、これは何?」 ただ奇妙な点が一つ、その周辺ははまるで刃物で切られたような跡が、いくつもあったのだ。
「さぁ、何の痕跡か分かんないっす。この辺じゃこんな切りつけられたような後、普通見つかんないっすからね」
「アイゴさんが聞いた物音ってのは、これの事じゃねーのか?」
「自分もそう思うっすね。ハンターの仕業とは思えないっすけど、こんな鋭利な攻撃をするモンスターも、凍土にはいないっす」
「でも、これだけの火薬草があれば足りるわ。あと一つ聞いていいかしら?」
「アイルーちゃん、どうしたっすか?」
「凍土で、双剣使いのハンターを見なかった?」
「双剣使いのハンター殿?・・・うーん、見てないっすね」
「・・・そう。もし見かけたら、アタシに教えて貰える?その人パートナーなの。離れ離れになっちゃったの」
「分かったっす!見かけたらすぐ知らせに行くっす!自分はこの痕跡をもう少し調査したいので、ここまっでっす!二人とも頑張ってくださいね!」
「ありがとう!アイゴさん!」
痕跡を辿りながら洞窟へ入って行くアイゴを見送った後、ユウゼン達は火薬草の採取を始める。
「一度にこんな量を取れるなら、別れて探す必要なかったわね」
「そうだな、カジキを探す手間が増えたぜ。全く、何であいつ一人で行きやがったんだ」
「ユウゼンは、カジキとはどんな関係なの?」
「大したことねぇよ、師匠が同じだけだ」
「あら、じゃあライバルっ所かしら?」
「どうしてそう思うんだ?」
「起きてすぐ喧嘩してたし」
「前は違ったんだけどなぁ」
「同じハンターでしょ?仲良くしていきなさいよ」
「できれば、そうしたいけどなぁ。あぁなっちまったのは、俺のせいなんだよ」
「何かあったの?」
「俺があいつの心を裏切ったんだ」
「・・・」
「何かしんみりさせちまって悪ぃな。でも気にしないでくれ、もう過去の事だ。それに、仕方なかったんだ」
「分かったわ。こっちこそごめん」
「だから、気にすんなって!よし!火薬草も集まったし、カジキ探しに行こうぜ!」
「そうね!」
一方その頃カジキは、氷漬けの死体があった場所で立ち尽くしていた。
「・・・あぁ、腹が立つ!」
その言葉と共に抜いた双剣が無意味に氷を刻む。
「俺は間違ってない、間違ってるのいつもあいつだ。あいつより早く火薬草を見つけねーと!」
だが凍土の植生など知る訳もなく、苛立ちを隠せないまま、ただ辺りを闇雲に散策していた。
「何で、俺があいつと組まなきゃいけねぇんだ?あいつは俺を裏切ったんだ、絶対に許せねぇんだ!あぁ!くそっ!何処にあるんだよ火薬草!こんなのハンターの仕事じゃねぇって!やってられっか!おい、ベリオロス出てこいや!相手なってやる!暴れてぇんだろ!」
大声で叫びながら走り出すカジキ。その声はカジキを探していたユウゼン達にも聞こえた。
「何?なんか凄い叫び声が聞こえるんだけど、まさかカジキじゃないよね?」
「・・・はぁ、あのバカ。この声はカジキだ、間違いねぇ。早く見つけねーと!ベリオロスに見つかっちまう!」
「急がなきゃね!」
ユウゼン達は声のする方へ急いで走り出す。その先には氷の上で地団駄を踏み、叫び続けるカジキが見えた。
「カジキ、何考えてるんだ!黙れ、このバカが!」
「ベリオロスが来るわ!今すぐここから離れて!」
「あぁ!?おめぇらを呼んだ覚えはねぇぞ!」
警告をするユウゼン達に気付いたカジキが、怒鳴り返す。
「ベリオロスとは戦わないと約束したでしょ!?」
「そうだぞ、カジキ!」
「ふん、火薬草の場所が分かんなかったんだよ!俺はハンターだぜ。狩猟が仕事だ!草集めなんてやってられっか!」
「火薬草はもう十分手に入った、お前を探してたんだ。それと、草集めなんてやれないって言ったか?お前はハンターをまだ理解してないんじゃないのか?」
「何だと!?」
「たかが草集めと言っても、ここは凍土。普通の冒険家じゃ危険すぎる場所だ。そういう場所で活動するのもハンターの役割じゃないのか?」
「ほざいてろ。それがハンターの役割だったとしても、俺の役割じゃねーんだよ」
「カジキ!」
「一言余計なんだよ!お前はな!」
「二人とも!喧嘩は帰ってからにした方がいいわよ」
ハゼが指さす氷山に、こちらを睨むベリオロスの姿が見えた。
「やべぇ、見つかった!」
「走って!」
ベリオロスは咆哮を上げ、氷山を駆けながら降りてくる。
ユウゼン達は慌てながら、走り始める。
「おい!カジキ、逃げるぞ!」
「いや、ここで倒してやる!」
「今ここで戦っても、勝機はないわ!」
「ハゼ・・・分かった、今は協力してやる。今はな!」
カジキはハゼの説得で改心して一緒に走り出した。ユウゼン達が迫り来るベリオロスから逃げ切るのは不可能、そこである程度の時間稼ぎが必要であった。
「このままじゃ追いつかれる!」
「全員前向いてろ!閃光玉!」
ユウゼンが一瞬振り返って閃光玉を投げる。眩い光がベリオロスの目を潰し、進行を停止させる。
「よし!今のうちに!」
だが、それは一瞬の時間稼ぎにしかならなかった。すぐさま視力を取り戻し、辺りを見渡す。
すぐに見つかるっと思われたが、ベリオロスの周囲には煙が立ち込めており、ユウゼン達を見失ってしまった。
しばらく離れた所の氷柱に身を潜め、ベリオロスの様子を伺っていた。
「ハゼ、何だこの煙は?」
「けむり玉よ。閃光玉だけだったら、光った一瞬しか見失わないでしょ?でも、その時にけむり玉を使えば、アタシ達を完全に見失うってわけよ」
「なるほどな。なんとか、奴は俺たちを見失ったようだが、今は下手に動かない方がいいな」
「そうね、煙が晴れたら追いつかれちゃうわ」
ベリオロスは辺りを執拗に警戒しながら歩いて来る。そのとき、ベリオロスの目の前に何かが飛んできた。
「今のは?」
「しーっ!」
カジキが不注意に声を出したためハゼが焦って警告する。
しかし、ベリオロスはさっき目の前を通過した物体の正体が気になったのか、それが飛んできた方向を向いていた。そのままその方向へ走り去っていった。
「何だ?さっき飛んで来た何かが、気になったのか?」
「これは・・・棘?」
「そうね、でも何の?」
ユウゼンとハゼが見つめる先に白い棘が数本刺さっていた。
「まぁでも、これで安全に戻れるな」
「えぇ、でも油断しないで。ベリオロスだけじゃないわ、何かいる」
その後の帰路は何事も無く、無事にメラルーの巣窟へ辿り着いた。
「・・・うむ・・・十分じゃ・・・これだけあれば・・・足りる!」
「後は僕たちに任せるニャ!」
「腕の見せ所ニャ!」
「よっしゃー!後は任せるぜ!」
その時、巣窟に別の人物が入ってきた。
「ユウゼン!大変っす!ベリオロスがすぐそこまで来てるっす!」
「アイゴさん?どうしてここ?後、そりゃ本当か!?」
突然入ってきたアイゴに対して、長老は訝しげな表情を浮かべる。
「・・・お主は誰じゃ?・・・どうしてここが・・・分かった?」
「自分の事はユウゼンに聞けば分かるっす!今はそれ所じゃ無いっすよ!」
「分かった!今すぐ行く!長老さん、この人はギルドの人だ!問題ねぇ!」
「・・・そうか」
「ほらな!結局戦うんだ!」
「仕方ないわね。アイゴさん、警告ありがとう。危ないからここにいてくれる?」
「そうさせてもらうっす!」
「うむ・・・今迷ってる場合じゃないの・・・じゃが無理をするなよ・・・罠を準備する時間を稼ぐのじゃ」
「任せろ!」
「準備ができたら、僕たちが知らせるニャ!」
ユウゼンとハゼ、それからカジキはメラルー達が小タル爆弾の罠を準備し終わるまでベリオロスの相手をする事になった。
巣窟を出てすぐの所までベリオロスは迫っていた。
「やっと戦えるぜ。この前みたいにやられると思うなよ」
「ムキになって倒そうと思わないで、私達の役目は時間稼ぎよ」
「そうだぜ、カジキ。こいつは俺たちだけじゃねぇ、みんなの力を合わせなきゃ倒せない。ジエン・モーランの時を思い出せ。みんなで倒したろ?それと、この凍土には何か別のモンスターが潜んでる。警戒した方がいい」
「分ーかったよ。だが絶対倒すからな」
「来るぞ!」
ベリオロスは三人を見つけると、一目散に突進してきた。前と同じノーモーションの突進だったが、ユウゼン達はそれを見切っていた。
左右に別れてそれぞれが翼脚の横まで回避して避けた。
そして次のモーションも予見していた。翼脚のタックルか尻尾によるなぎ払いか。一瞬だが尻尾と翼脚に、意識を集中させる。
ユウゼンとハゼがいる方に、わずかだが尻尾の先端が曲がった。なぎ払いが来る。
「下がれハゼ!来るぞ!」
「っ!?」
ユウゼンの言った通り次の瞬間、尻尾を振るベリオロス。だがそれは逆側にいるカジキにとって、攻撃のチャンスでもあった。
そう思ったカジキは即座に双剣を抜刀、翼脚に切り込みにかかる。
しかし翼脚にある棘は想像以上に硬く、斬撃は弾かれてしまった。
「ちっ!硬ぇ!」
「それでいいわ!翼脚を狙って!」
反対側のハゼがカジキに告げる。そのまま追撃をしようとした瞬間、ベリオロスと目が合った。
鋭い視線に思わず怖気付いてしまいそうになる。こちらの存在に気づいていた。
琥珀色の牙が襲いかかってくる。それを防ぐことは出来ず、右腕を防具ごとグサリと牙が突立つ。
「うぅっ!?」
「カジキ!」
すぐに距離を取り右腕を確認すると、かなり深い切り傷ができていて出血もしていた。傷口を抑えても溢れ出る血は止まらない。
「鋭利だぜ、あの牙。あぁ・・・右腕がこれじゃ使えねぇ」
今度はユウゼンが仕掛ける。太刀を納刀した状態でギリギリまで近づき、抜刀術をくらわせるつもりらしい。
それに呼応するようにハゼは、小さなオトモ用の武器で後脚を狙う。まず先にハゼが素早い動きでベリオロスの体を潜り後脚に痛烈な一撃を与えた。
「それ!」
堪らず体制を崩したベリオロスに、ユウゼンは抜刀術の一閃を放つ。その斬撃はベリオロスの頬を裂く。
当たったのは切っ先だけではあったが、確かな手応えを感じた。
「よし!当たった!」
「・・・グォォ」
しかしベリオロスもやられてばかりでは無い。冷気の竜巻を真下に発生させて、近づいていたユウゼン達を強制的に吹き飛ばそうとした。
「気をつけろ!冷気の竜巻だ!」
発生した冷気の竜巻はベリオロスを上空へ上昇させ、近くにいたユウゼンとハゼは吹き飛ばされた。
ユウゼンは空を見上げベリオロスの位置を確認する。そしてベリオロスの目線が自身へ向いている事が分かった。
上空から急降下してくる。だがユウゼンはその場から逃げなかった。納刀した状態の構え、すなわち抜刀術で迎え撃つつもりらしい。
予想通りベリオロスは急降下してユウゼンに襲いかかってきた。
大きく前に出て放たれた一閃が急降下してくるベリオロスと交差する、翼脚の棘の一部をパキりと破損させる。
ベリオロスの硬くて頑丈な棘がユウゼンの剣術に敗北したのだ。
「いいわ!ユウゼン!」
「俺たちなら戦える!」
破損した自分の翼脚を見て苛立ったのか、冷気の竜巻を連発して撃ってくる。
「これじゃ、近づけねぇ!」
「目的を忘れないで、カジキ。アタシ達の狙いは時間稼ぎ。焦る必要ないわ」
「離れろ!」
急降下を警戒したユウゼンは全員に警告した。だがカジキは冷気の竜巻に近づけるギリギリの所ていた。
「カジキ!危ねぇ!」
案の定近くにいたカジキが、いいターゲットとなった。
左手しかまともに動かせないカジキにとっては最大のピンチ。
急降下してきたベリオロスが翼脚を軸に体をスピンさせ、カジキをぶっ飛ばした、はずだった。
だがカジキがいたのはベリオロスの真上だった。空中からの斬り下しで片翼脚の棘を破損させた。
「冷てぇぇぇぇ!」
「何が起こったの!?」
「やってやったぜ。冷たすぎて、何かすげージャンプできたわ!」
何とカジキは、冷気の竜巻で自分の手を極限まで冷やし、傷を塞ごうとした。だがあまりの冷たさに耐えきれず、何故か三メートルくらい飛び跳ねたのだった。
「ジエン・モーランの時といい、お前の身体は一体どうなってるんだ?・・・」
その反応に驚いていたベリオロスがあっけにとられてる間、一体のメラルーがこちらに向かって走って来た。
「準備完了したニャ!あの崖の所まで誘き寄せて欲しいニャ!仲間が待機してますニャ!」
「分かった!全員走れ!」
ユウゼンの掛け声と共に全員が崖の所へ走り出す。
その時ハゼは以前の出来事を思い出していた、あの崖はハオコゼが落ちた所だ。今度はあいつを落としてやる!
ユウゼン達を追いかけるベリオロス。
崖の所へ着くと雪で隠れていたメラルー達が、一斉に飛び出し大量の小タル爆弾を発射。翼脚の棘の完全破壊を目指す。
しかしこの時、予想外のことが起きた。翼脚を狙っていたはずではあったが、ベリオロスの足元へ爆弾が当たっていたのであった。
崖付近の地盤は脆く、大量の小タル爆弾の衝撃に耐えられず崩壊した。そのまま崖下へ落ちるベリオロス。
翼膜には穴があいていたため、すぐに飛ぶことは出来なかった。
その様子を怪しく伺っていたのは長老だった。
「・・・おかしい・・・こんな手筈では無い・・・」
すると長老の後ろからパチパチと拍手を鳴らしながらアイゴが近寄って来た。
「いや〜大成功っすね〜」
「アイゴさん!?ここは危険だ!離れた方がいい!」
「相変わらず心配性っすね、ユウゼン。大丈夫っすよ全て上手くいったから」
「アイゴ・・・さん?」
「誰だアンタ?」
「鬱陶しかったんだよ、あのベリオがね。無駄に強いくせに白黒種にならないから」
「白黒種!?」
「お主か!・・・小タル爆弾の・・・照準を狂わせ・・・白夜刀を崖下に落としたのは!?」
「そうっすよ〜。ちょっと装置を細工させてもらったっす〜。どっかの誰かさんと同じように落ちてったっすね〜。これで恨みも晴れたんじゃないっすか?アイルーちゃん?」
「あなた!どうしてそれを知ってるの!?」
「嘘ついてたっすね〜、それに関しては悪かったっす。でもあの後助けるのは苦労したっすよ〜」
「教えて!その人は、ハオコゼは今何処にいるの!?」
「ハゼ!コイツは!」
「死んじゃいました」
「・・・嘘」
「アイゴさん・・・自分が何言ってんのか分かってんのか!」
「嘘よ嘘!そんな訳ない!ちゃんと教えて、何処にいるのよ!」
「双剣のハンター殿は人類の白黒種化実験の結果、失敗に終わり、尊い犠牲となったっす」
「嘘だぁぁぁぁぁ!」
「人類の白黒種化実験だと!何考えてんだ、てめぇ!」
「アイゴさん・・・いやアイゴ。お前らが白黒種に協力する人間だったのか!」
「・・・許さない」
「何か言ったっすか?アイルーちゃん」
「・・・返せよ。ハオコゼを、返せぇぇぇぇ!」
「ダメだ!ハゼ!」
怒るハゼはアイゴに向かって、がむしゃらに猛突進していく。だがアイゴの直前で何かに振り払われた。
「ハゼ!」
その正体は尻尾をシュルシュルと音を鳴らしながらアイゴの前に現れた。コウモリのような翼、全身に生えた白い体毛(本来は黒)、そして瞳の赤い残光。
「コイツは!?」
「ナルガクルガ、白黒種か!」
『アイゴちゃん、こいつらは好きにしていいだよね?』
「勿論っすよ。ナルガ先輩」
「ナルガ先輩?」
次回、ベリオロス編クライマックスです!