ユウゼン達が帰って数日後、ユクモ村では白黒種の被害は増すばかりであった。
さらに追い討ちをかけるように白黒種に強力するギルド側の人間の発覚により事態は悪化していく。
本日も集会所では、定例会議が行われる予定だが、いつもよりピリついた空気が漂っていた。既に席に座っているのはギルドマスター(ダツ)とモクジ、そして村長であった。
「問題は増えるばかり、どうしたもんかのぉ」
「マスター、そう嘆きなさんな。村のハンター達はこれでも懸命にやっておる。事態は急に良くならんわい」
「むぅ。ところで村長、ギルドナイトの連中は、もう来ておるのかの?」
ギルドナイトは普段はハンターと同様、狩猟や採取などの仕事をしているが、その本業は密猟や殺人などを起こした罪人を秘密裏に始末する、汚れ仕事などもこなす集団である。
「もうじき姿が見えると思います。他の村でも同様、白黒種の被害は増えつつあります。二人も白黒種に協力する人間が出ましたからね。流石に黙ってはいないでしょう」
「そうか。にしても今日は本当に珍しい日じゃ。お前が時間通りにここに来て座っておるとはな。こりゃ、ユクモ村に雪が降るぞ」
マスターの見つめる先に座っているのはユクモ村で随一のレジェンドハンター、アカグツであった。前で手を組み、だらんとした体勢で振舞っていた。
「勘弁してくれよ、マスター。俺だって懸命に働いてるハンターの一人だぜ?それに今日はギルドナイトの連中が来るんだ、珍しいじゃねぇか」
「全く自分勝手よのぉ。それに懸命に働くのは皆の務めよ。今はそんな余裕など、どこにもありはせん」
集会所の扉が開く、入って来たのは受付嬢であった。
後ろに連れているのは遠征から急遽帰還した、ギルドナイト長のミギマギであった。
ミギマギは熟年の女性ハンターだが、その顔はリーダーとしての威厳と気品さを備えている。
さらにその後ろには同じくギルドナイトの部下を連れていた。羽帽子をかぶり、身動きの取りやすそうな身軽な装備を着ている。
それは対モンスターよりも対人に特化したギルドナイト専用の装備だからである。
「ギルドナイトの方々が到着しまた。どうぞこちらに」
受付嬢が席に案内すると、村長が一礼して挨拶を交わす。
「遠方から遥々と、よくぞお越しいただきました」
「いえ、ユクモ村の村長さん。被害は増える一方、こちらとしても事態を重く見てます。それも、モンスターでは無く人間の方を、我々は問題視しておりますので」
「私達も、白黒種による驚異を無くしたい所存でございます」
「では全員揃いましたので、これより定例会議を始めます。まずは先月から白黒種の討伐および捕獲数は、討伐数二十三、捕獲数ゼロ、撃退数四。次に被害ですが・・・」
「死傷者無し、これだけ分かれば十分だろ?問題はそこじゃねぇ」
話を聞きたくなかったのか、アカグツが会話に割ってきた。
「アカグツ!話は最後まで聞け!」
「ふっ、相変わらずだな」
「し、失礼しました!はい、白黒種に協力する人間が現れました。今のところ確認できたのは二人で、両方とも私達ギルドの職員で、アイゴとアマエビと言います」
「・・・アマエビ、これはまた懐かしい名前が出てきたものだ。今は、これが事実だという事が残念で仕方ない」
「えぇ、お恥ずかしながら事実です」
「本当に参ったわ全く。情報漏洩に情報の改ざん、既に色々としでかしておるわ。挙げてくとキリがない」
「特に問題なのは凍土のベリオロス、白夜刀の事です」
「ほぉ、白夜刀とは?」
「白夜刀はギルドが認定した特殊モンスターで、凍土を統べるボス個体。非常に強力なモンスターですがほとんど姿を現さず、こちらから攻撃しない限り危害も加えないので。ハンターとの接触を避けてきました」
「なるほど。誤った記述のせいで、誤ってそのモンスターをクエストの対象にしてしまった、という事か?」
「その通りです。アイゴの報告で白夜刀はティガレックスと認定されてましたが、実際の白夜刀はベリオロスだったのです」
「アイゴはワシの元部下じゃった。かなり前の話じゃがな。まさか白黒種に手を貸しておったとはな」
「状況は大体理解した。詳細は後で聞こう。さてアマエビは何をしでかした?」
「はい、一週間ほど前にジエン・モーランの狩猟に同行した元ギルドのハンターだったんですが。狩猟中に現れた数体の白黒種と共謀して、ジエン・モーランを回収するのが目的でした。その時に現れた、赤衣を着た男の正体は未だ不明です」
「奴らしい、大胆な作戦を思いつくもんだな。奴を見つけ出し、真相を確かめる必要があるな。その赤衣の男も白黒種を庇護する一派と見て間違いないだろう」
「そして、数日前ユウゼンさん達が凍土から救出したハオコゼさんですが・・・」
「おぉ、それで容態はどうなった?」
「それが、カジキさんとハゼさんが水没林に連れて行ってしまいました!」
「何っ!意識も戻っとらん重症のハンターを外連れて行ったじゃと!」
「まぁ落ち着きんしゃい、マスター。ワシが許可を出したんじゃ」
「モクジ、それはどういうつもりじゃ?」
「このままユクモ村におっても容態は回復せん。カジキはもとより水没林の龍仙人の所へ訪ねると言っておった。龍仙人に治し方を訊ねるより、本人を連れて行って診てもらった方が良いじゃろ。責任はワシが取る」
「むむむ。もし何かあったらお主の責任ぞ」
「一つ気になったんだが、何故そのハンターにそこまで拘るのだ?ただの怪我人では無いのか?」
「いえ、ハオコゼさんの身体は白黒種の菌が侵食されてます」
「そんなバカな!白黒種は人体には影響は無いと聞いたぞ!」
「どうしてこうなったのか原因は不明ですが、あの回復スピードは白黒種の特徴と一致します。ただ意識が戻らなくて・・・」
「それで、秘薬の開発者である龍仙人の所へ行ったという事か?」
「はい」
「確かにギルドでの治療では限界がある、そちらの方が得策だろう。まぁこちらが言えることは無いしな」
「報告は以上です」
「まぁ、起きちまった事はしょうがねぇ。だが裏切った連中が何考えてるのか問いただす必要がある。んで白黒種も全滅させる。誰が裏切るか分からねぇからって、誰彼構わず疑ってたら状況は悪化するばかりだからな」
「我々も早速調査に取り掛かりたい。二人の詳細について説明して貰えるかな?」
「分かっておる、モクジ頼むぞ」
「ちぃとばかし長くなるぞ?ギルドナイトさんよ」
「構いませんよ」
定例会議が終わりギルドナイトはモクジ共に集会所を後にした。
マスターはその姿を見送ると、山積みの問題これからどう対応していくか、途方に暮れ窓辺に肘をつきながら何となく外を眺める。
すると不格好に走る青年が目に入った。
その青年の足は義足であった。義足にまだ慣れてないのかフラフラと揺れていてバランスが悪い、見始めてすぐに転けてしまった。
「全く、無茶をしよる」
恐らく歩くのも困難だろうと思ったが、青年はすぐさま立ち上がり再び走り出した。
マスターには分からなかった。どうして、そこまで苦労して走れるようになりたいのか。
走りながら青年は叫んでいた。
「このままじゃダメだ。一週間以内に走れるにならないと、ハンターに復帰できない!」
マスターは驚愕した。あの青年は義足でハンターになろうとしているのだと。
その姿を見て、嘆いてばかりいる自分が情けなく感じた。
「ワシもやれる事をやらねばな」
よし!と気合いを入れて、集会所を後にした。
年中雨音が絶えずこだまする、水没林。
土地の大半が常に水に浸かっているため、沼地が多い。そこから溢れた泥水が川の流れに混ざり、濁った水が循環している。
龍仙人を探すため、この場所にやって来たカジキとハゼ。
カジキは未だ意識が戻らないハオコゼを、背負って移動しているため、沼地を歩くのに一苦労していた。
「ねぇ、変わろうか?」
「お前じゃ、引きずるだろ。しっかしこうも沼地が続いてっと、ただ歩く事さえ億劫だぜ」
足が沼に取られて、一歩一歩が大股になる。それだけではなく、降りしきる雨のせいで濡れた防具が体力を奪う。
その上、人間一人を背負っているため、常人なら動く事もほとんど出来ないが、カジキは違った。歩くのも億劫だと愚痴をこぼしているが、それはしんどいからでは無く、沼地を進みづらいからである。
ハゼはそのことに気づいていた。だから不思議に思っていたのだ、その無尽蔵の体力はどこから湧き出てくるのか?
凍土で白夜刀(ベリオロス)と戦っている時もそうだった。冷気の竜巻を受けたカジキが超スピードの斬撃を繰り出したりと、異常な出来事があった。
「凍土から帰ってまだそんなに経ってないから、無理しちゃダメよ。にしても、龍仙人はどこかしら?」
「そうだよ!どこに行きゃいいんだよ!」
「え、何も考えず歩いてたの!?」
「大体すぐ見つかるんだよ、いつもならな」
「アンタねぇ・・・」
「まぁ、出る前にモクジのじいちゃんが花を辿れとか言ってた気がする」
「それよ!」
「花なんてどこにもねぇ!あるのは木と沼と、ピラニアみてぇな魚ばっかりだ!」
「確かにそうなのよね、目印なんてどこにも無いし。このまま歩いてても仕方ないわ、あの木陰で休みましょ?」
「しょうがねぇな」
二人は近くの巨木の木陰に座って休息を取り始めた。
「ひとつ聞いていい?」
「何だ?」
「どうしてユウゼンに対して、あんなに当たりが強いの?」
「ふん、全部アイツが悪いんだよ」
「はぁ。確かにユウゼンもそう言ってたけど、何があったの?」
「俺の師匠は知ってるだろ?」
「アカグツさんよね?」
「あぁ、そうだ。あの人は俺達のどっちが優秀か決めるために、決闘させたんだ。その時あいつは俺に勝てたのに、わざと負けやがったんだ。それが許せなかった。真剣勝負であいつは手を抜いた!あいつは間違ってる!それ以来俺は、あいつを否定するようになったんだ」
「そうだったの。でもどうして?ユウゼンは手を抜いたのかしら?」
「さぁな」
「やっぱり、この話はアタシにはどうにもできないわね。雨も止んだし、そろそろ行きましょ」
木陰から再び歩き出す二人。
しばらく歩いていると、沼地の近くなのにキレイで透き通った水が流れている川を見つけた。
「ここの川の水は透き通っているわね」
「それがどうかしたのか?」
「おかしいと思わない?こんな沼地の中に濁ってない川があるなんて」
「そうか?」
「あっ!あれ見て!」
ハゼが見つけたのは川に流れる一枚の花びらだった。白色の花びらを持つ植物は周囲には無く、川上から流れてきたとハゼは思った。
「この川の上流に何かあるわ、これを辿ってみましょ」
「モクジのじいちゃんはこの花のことを言ってたのか」
川の上流にきっとこの花が咲いている。曇りがかっていた空には晴れ間も見えてきた。
長い旅路の目的地がようやく見えたような気がする。そう思うと歩く速度は自然と早くなっていた。
川を上っていくと、どんどん水は透き通っていき、流れる花びらの数も増えていく。
そして木々が途絶えて開けた場所にあったのは、大きな湖だった。
恐らくここが川の上流の水源だろう。
「着いたわ!何て綺麗な場所」
「おいおい、こんな場所があったなんて聞いてねぇぞ」
湖の周りには様々な植物が生えているが、それよりも一際目立っていたのが、湖の中心の小島にポツンと生えている白木蓮の花が咲いている一本の巨木であった。
そよ風に吹かれ、花びらが舞っている。
「あの白い花だったんだな」
「そうね。でもこれ以上進めそうにないわ」
湖を渡る手段がなく、どうしようか悩んでいると。水面に泡立つ影が見える。
「ハゼ、何が来るぞ!」
二人の前に飛び出してきたのは、数匹の水生獣ルドロス(小型モンスター)であった。
海竜種であり水中移動に特化した肉食のモンスターである。鋭い牙と水ブレスで狩りをして、十匹程の群れを形成する。
唸り声を上げながらこちらを警戒している。
「こいつら、やろうってのか!」
「カジキ!ハオコゼを安全な所へ運んで、そのままじゃ戦えないでしょ!」
ハゼが水没林に来る前から心配していてた事が起きてしまった。だがカジキは武器を取る。
「ふん!問題ないぜ!」
「大ありよ!あんたが背負ってんの重症人なのよ!」
しかしルドロス達はすぐに湖に潜ってしまった。
「どうした!かかってこい!」
「馬鹿な事言ってないで早く逃げて!」
カジキの腕を引っ張り、何とか逃げようとするハゼ。
次の瞬間、一匹のルドロスが湖から飛び跳ねて身体を回転させながら華麗に着水した。
「何だ?」
それを皮切りに、次々とルドロス達は様々なジャンプを披露する。
その行動に攻撃の意図はなく、華麗な姿につい見入ってしまう。
「見事ね」
「いや、何を見せられてるんだ?」
数匹だったルドロス達はいつの間にか十匹程度に増え、息のあったジャンプはさらにヒートアップしていく。
跳ねる、回る、吠える、水ブレス、それぞれの行動は見事にマッチしていて華麗なる水獣の舞を披露していた。吹き出した風が周りの自然を揺らし、その騒めきがこの舞の音楽を奏でているようにも感じた。
それはまるで演技だった。
そして、全てのルドロスが同時に跳ねてフィニッシュした。
「凄!」
「モンスターの動きとは思えないわ・・・」
「それも当然じゃろうて」
「えっ!?誰?って木が!」
「木が動いてやがやる!?」
湖の中心にあった白木蓮の木はいつの間にか二人の目の前にあった。
「ほっほっほっ、良い反応じゃ。カジキにハゼよ」
その声は白木蓮の木から聞こえてきた。よく見ると木の窪みから小さな人影が見える。
「どーしてあたし達の名前を知ってるの!?てか、あなたがこの木を動かしてるの!?」
「違うわい。よー見てみぃ」
声の主は自身の下を指さした。木が生えてる小島には何と、モンスターの顔があった。
「これ、モンスターなの!?」
「嘘だろおい!」
小島の正体は自然と一体化したモンスターであった。
体には大量の植物が生えている超巨大なモンスターであった。
だが本来ドボルベルクは獣竜種で、確かに巨大ではある。しかしこの個体は度が過ぎていた。
全体が五十メートルを超え、全身に土壌をかぶっており、それを覆うように苔が生えている。
特徴的だった背中のコブには巨木が生え白木蓮の花が咲いている、ハンマーの様な尻尾は木の根で埋もれている。
頭に生えた山羊のような角も植物が生い茂っている。遠目で見れば辛うじて原型を保てているが、まじかで見ると全くの別物だ。
二人はこのモンスターを、話に聞いていた健磐竜(ドボルベルク)だと確信した。
「それじゃ、あんたが龍仙人でこいつが健磐竜なのか?」
「いかにも」
「それじゃ、このルドロス達は?」
「こいつらか?凄いじゃろ!ワシが教えたんじゃ。ほれ、このように」
そう言って、近くに置いてあった魚をルドロス達に投げ与えた。ルドロス達はそれを律儀に待っていて、じっとしていた。そして、待ち望んでいた餌(魚)に飛びつく。
「餌付けしてる・・・」
「時間はあったからの」
龍仙人は白木蓮の巨木の窪みに住み着いている。その場所は生活できるほどの空間があり、中に医療に関する様々な道具が置いてある。
「お主らが来ることは知っておった、話は凍土の長老から聞いておる。怪我人を背負ったハンターとアイルーが近々、そちらへ向かうとな」
「嘘!?この前の出来事よ!」
「転がしニャン二郎、やつの情報網は何よりも早いのじゃ。一日もあれば各地へと飛び回り、情報を届けることが出来る」
転がしニャン二郎は、横ダルの上に乗り、転がしながら移動する不思議なアイルーで、各地の情報の伝達を担っている。
彼しか知ら無い抜け道をすばやく行くため、誰よりも何より早く各地を移動することが可能である。
「まぁ、そんな事よりもお主が背負っておるのがハオコゼか?」
「話が早くて助かるぜ!そうだ、診てくれねぇか」
龍仙人は慣れた手つきで縄橋を下ろして、スルスルと降りてくる。
湖のほとりに降りて、ハオコゼをじっくり診察する。
「ほぉー、生きてるのが不思議なくらいじゃな。これも白黒種の能力じゃとすれば皮肉なもんじゃな」
「それで、ハオコゼは治るの?」
「安心せい。これでもいろんな命を救ってきたんじゃ」
龍仙人は懐から巾着袋を取り出し、そこから小さな緑色の苔を手に取った。
「それは何だ?」
「この苔は健磐竜で繁殖した物でな、これに含まれる秘泉水(ひせんすい)は、お主らも知っておる、いにしえの秘薬の元にもなっておる」
「これが秘薬の元だったのね」
「これを傷口に染み込ませると」
言葉通りハオコゼの出血した傷口の上で苔を絞り、秘泉水を垂らすと水が傷口にどんどん染み込んでいく。
「だ、大丈夫なの!?これ!?」
「慌てるでない。見ておれ」
傷口は恐ろしい程のスピードで塞がっていく。
生気が無かったその顔は次第に元に戻ってく。それはまるで段々と命を取り戻していくようにもみえた。
「よし、成功じゃ。すぐに意識も戻るじゃろ」
「本当!?」
「後は安静に・・・」
「ハオコゼ!ハオコゼ!」
「おいおい、そんなすぐには治らないだろ」
「うぅ・・・こ・・こは?」
傷口が塞がると同時にハオコゼは意識を取り戻し、目を覚ました。
「何と!これ程の回復スピードとは」
「ハオコゼ!」
「ハゼ!どうして、俺はあの時、訳の分からない実験に巻き込まれたはずじゃ?」
「本当に無事で良かった!もうダメかと思って・・・」
「良かったな、ハゼ」
目が覚めて困惑気味のハオコゼにハゼは抱きついた。
涙は止まらなかった。
今まで抱え込んでいた心の重荷が一気に無くなったような気がする。
それを見ていたカジキも一安心したのか笑顔になった。
「どうじゃ?何か身体に違和感などあるか?」
「いや、大丈夫だ。もう頭は痛くない。ところで、何があったんだ?あんた達は一体・・・」
「話すと長くなるわ、今はゆっくり休んでて」
「ハゼ・・・色々と面倒をかけちまったな。あんたにも礼を言わせてくれ。状況は分からないが、助けてくれたのだろう?」
「俺はカジキ。大したことはしてねぇが、まぁせいぜい感謝しろよな」
「あ、ありがとう・・・」
ハオコゼにこれまでの経緯を説明した後、逆にハオコゼは凍土で起きた白黒種の人体実験の事について話した。
「そうだったの。モンスターの血液を飲ませるだなんて、おぞましいわね」
「全くだ。考えただけでも吐き気がする。その後のナルガの棘を喰らったって訳が」
「あぁ、自分でも今生きてる事が不思議だよ。一体どんな薬を使ったんだ?」
「ワシが説明しよう!」
「ずっと言いたそうな顔してたわね。でも確かに気になるわね」
「この秘泉水は、健磐竜の苔が水をろ過した物なんじゃ」
「ろ過って何だ?」
「簡単に言うと、水をキレイにするって事よ」
「分かりにくい。変な言い方するんじゃねぇよ」
「普通じゃ!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。この水が凄いのは確かなんでしょ?」
「その通りじゃ!この土地では雨が多くてな、健磐竜の苔を使って大量の秘泉水を作り出すことが可能じゃ。この湖を中心に川の流れに秘泉水を混ぜることにより、水没林は豊かな自然を保つ事ができる。だからこの地はどこよりも、豊かな自然に恵まれておるのじゃ。これも全て健磐竜のおかげなのじゃ」
「じゃあ、この自然は健磐竜が作り出したものなの?」
「いかにも」
「でもそんな事、健磐竜にどうやってやらせたんだよ?こいつだってモンスターだぜ?」
カジキの質問は当然であった。
モンスターとの共存、それは常識的に考えて、ありえない話だった。
「時間じゃよ。時の流れがワシらの仲を取り持ってくれた。それにワシはこの場所が好きでの。やれる事をしたまでじゃ」
「ふーん、何年くらいだ?」
「そうじゃな、大体・・・」
ドゴォォオオオオン!
その時、凄まじい爆発音が鳴り響いた。
「何!?今の音!?」
「雷?にしてはやけに近かったのぉ。じゃが問題は無い、例え落雷で火災が起きてもルドロス達の水ブレスで一瞬で消火できるからのぉ。ほれ、手馴れとるじゃろ?もう行きおったわい」
「はや!本当に行ってるし」
ルドロス達は既に音のした方の川へ泳いで向かっていた。
「晴れているのに雷が落ちるなんて、おかしな事もあるもんだな」
だが異変は起きていた。ルドロス達が向かった川の方へ、急激に水の流れが早くなっていた。
ハオコゼはその異変にいち早く気付いた。
「龍仙人、川の流れがおかしくないですか?」
「どこがじゃ?」
「あの川だけ、流れが早すぎる気がするんですが」
「・・・確かにこれは異様に早いのぉ」
「何があったんだ?」
「分からん。行って確かめねば」
健磐竜はその川へゆっくりと進路を変え歩き始める。
「お主ら待っておれ、直ぐに戻る」
「分かったわ。と言いいたいと所だけど、健磐竜のその歩くスピードじゃ、めっちゃ時間かかるんじゃないの?」
「あぁ、その通りだ。俺たちが先回りで見てくるぜ」
「病み上がりだが、これでもハンターだ。動かなきゃ体が訛っちまってしょうがない」
「いやいや、大丈夫じゃよ!ワシが見てくるから・・・って!おーい!先に行くでないわ〜!ちょっと待て〜!」
龍仙人の声も届かない程さっさと走っていったカジキ達。
健磐竜の歩くスピードは確かに遅かった。
川を辿っていくにつれて、どんどん流れは早くなる。
「一体何が起きてるの?」
「さぁな」
しばらく走り続けると、先に向かったルドロス達の体の一部(食いちぎられたような)が川に沈んでいた。
「これは!ルドロスの!」
「近いぞ!何かいる!」
「こいつは・・・」
その存在は目の前にいた。カジキ達に気付いたのか振り返る。
その口で無惨に食いちぎられたルドロスを咥えていたのは、雷狼竜ジンオウガ。
牙獣種で背中に蓄電殻が備わっており雷で攻撃する巨狼のモンスターである。
その身体は返り血を大量に浴びており本来の青殻と白毛の身体は鮮血に染っている。
だがこの個体は電気を全く帯びておらず、至る所が傷だらけで、角は両方欠け、左目は完全に潰れており、更に右前脚に関しては肩口から部位そのものが損失していた。
そこから大量出血を起こしていて、まるで瀕死の状態にも思える。だがその目は死んではいなかった。
カジキ達を次なる獲物と捉え狙いを定める。
新章に入りました!話がめっちゃぶっ飛んでますが、やりたい事は詰め込みました!