モンスターハンター 3rd 白黒の渇望   作:カワード

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大量の白黒種の目撃情報を受け、火山へ調査へ向かったシロギスとユウゼン。シロギスの昔話を聴きながら進んでいくと、そこには白黒種の協力者アマエビがいた。元ギルドナイトの実力を活かしユウゼン達と互角に渡り合うアマエビ。更にそこに打地殻雄(ティガレックス)を倒したドス軍団が現れ、全員を包囲。何故かその中にいるアイゴを通じてドス軍団は自分たちに敵意がない事を示し、停戦を要求した。そんな中、溶岩に落ちて死んだはずの打地殻雄が這い出てきて、火山を登り始める。それに危機を感じた、火山の管理者、古代竜人は赤紅(アグナコトル)を呼び出し、打地殻雄を討伐しようとする。火山一の強さを誇る赤紅だったが、古龍の血によって強化された白黒種の打地殻雄に苦戦していた。それを見ていたドス軍団のボス、ドスジャギィは一度は見損なっていた古龍の血を、今一度欲したのであった。


16話「貪欲な長」

 打地殻雄と赤紅の戦いに乱入者が現れる。

 それは古龍の血を我がものにせんと企むドスジャギィであった。

 遠吠えと共に群れ全体で二体に襲いかかっていく。

 だがユウゼン達はそれを放っておく訳にはいかない。

 自分たちの横を通り過ぎるジャギィ達を何体も攻撃する。

「こいつら!どんだけいるんだ!」

「これじゃ、キリがない!」

 戦闘に参加してなかったのはアマエビだけだった。

「ここらが潮時だな」

「潮時?」

 すると突然隣にいたアイゴを手刀で気絶させ担ぎ上げる。

「ウッ!」

「俺の任務はお前の回収だ。これ以上、面倒事に巻き込まれたかねーよ」

「待て!逃がすか!」

「じゃあな、シロギス、ユウゼン。後は楽しんでくれ」

 そう言うとハンマーを地面に叩きつけ、少し屈んだ。

 その瞬間地面が揺れだし、何かのモンスターがアマエビの下から飛び出してきた。

 爆鎚竜ウラガンキンである。獣竜種で鉱物が主食なため、火山地帯での生息しやすいモンスターでもあった。肥大化した顎が特徴的で、ハンマーのように地面に叩きつけ攻撃する。

 ゴツゴツとした威厳ある顔と、ハンマー使いである点はある意味アマエビと類似している。

 また背中にはゴツゴツとした突起が規則的に生え揃っており、それはモンスターの中でもトップクラスの硬度を誇っている。

「ウラガンキン!地面にずっと潜んでいたの!?」

「もれなく白黒種かよ!」

ウラガンキンはアマエビを乗せたまま、その巨大な顎を振り上げる。

「来るわよ!」

 叩きつけたその勢いで前転、そのまま体を丸め、器用に転がってくる。

 だがウラガンキンより器用だったのはアマエビである。

 アイゴを右手に、ハンマーを左手に持った状態にも関わらず、転がるウラガンキンの上を、転がしニャン次郎のように乗りこなしていたのだ。

「おっとっと」

「なんじゃそりゃ!?」

「また会おうぜ〜!」

「待てぇ!」

 そしてウラガンキンは一度も止まることなく、火山を転がりながら去っていった。

「また逃げられた・・・」

「逃亡手段を残していたなんて、アイツらしくないわね。でも今はこの状況を何とかしないと!」

「くっ!」

 逃げたアマエビを追いかけるのを断念し、今は打地殻雄とドス軍団の対処に専念する事にした。

 

 その頃、ドスジャギィは打地殻雄の元へ着いていた。

『かかれ!』

『待て!ドスジャギィ、このままじゃ、奴の熱線に巻き込まれるぞ!』

『構うものか!』

 ドスフロギィの警告など関係なく、ジャギィ達は一斉に飛び掛っていく。

 打地殻雄に近づけば、当然赤紅にも近づくことになる。多くのドス軍団が無造作に飛び掛っていった所で、全て熱線にやられるため、それは無意味に思えた。

「奴らが何体も突っ込んでいるべ。一体何が狙いなんだべ?」

 未だ組み合って戦っている二体は、ジャギィ達の介入など関係ないと言わんばかりに、戦いを続けた。

 それに巻き込まれ、案の定次々と倒されていく。

 それだけではなくユウゼン達にもその数を減らされていた。

『おい!これ以上仲間を減らせるか!』

『黙ってろ』

 その時、一体のジャギィが運良く打地殻雄の胸部辺りに入り込み、そこを強く引っ掻いた。それに違和感を感じたのか、赤紅から離れる打地殻雄。

 その一瞬の隙を継いで一斉に群がるジャギィ達。

 何体もなぎ倒されていても、その動きに一切の惑いは無く、あっという間に打地殻雄の身体を覆い尽くした。

 大暴れする打地殻雄にしがみつきながら、喰らい、引っ掻き、抑え込む。

『よし』

 まだまだジャギィ達の攻撃は続く。

 倒しても倒しても敵は無限に湧いてくる。

 だがその光景を赤紅が黙って見てるわけは無かった。

 群がったジャギィ達ごと熱線を浴びせる。

「グギャァァァァァアアアア!」

 打地殻雄は熱線の痛みで感嘆した。

 ジャギィ達が群がった時点でかなり苦しんでいたがその限界を超えたのだ。打地殻雄の動きがピタッと止まる。

『ドスフロギィ!ドスバギィ!今だ!喰え!』

『まさか、この時を待っていたのか!?』

 一目散に打地殻雄に飛びかかっていったのは、ドスジャギィであった。熱線の当たってない部位にいたフロギィを無理やりどかし、自らが打地殻雄を喰らう。

 夢中で食べていると赤紅の熱線がドスジャギィの方に飛んで来た。

 それを見切っていたドスジャギィはひらりと躱して、食事を続ける。

 そして打地殻雄はその身体のほとんどをジャギィ達に捕食され、骨身になっていた。その光景は、同じ鳥竜種のドスフロギィとドスバギィにとってもあまりにも異様で、凄惨な光景だった。

 白黒種となり、共に協力して生きていこうと誓ったが、ドスジャギィは独断で力を手に入れ、自分の欲望のためにそれを行使しようとしている。

『おい、止めなくていいのか?アレ完全に暴走してんぞ』

『止めれますか?あれを?』

 打地殻雄を捕食し終えたジャギィ達はその強大な力の副反応に身体が耐えられず、吐血しながら次々と倒れていく。

 唯一倒れなかったのはドスジャギィだけだった。

 古龍の血を取り込んだドスジャギィの身体は以前より明らかに筋骨隆々となり、爪も牙も三倍以上伸びていた。

「何・・・アレ?」

「ドスジャギィなのか?」

 後から来たユウゼン達は変わり果てたドスジャギィを見て驚愕した。

『お前ら、なぜ喰わない?』

『落ち着けよ、ドスジャギィ。そんな無理矢理、古龍の血を取り込んだら何が起こるか分からないぞ!』

『我々の目的を忘れたのですか!?力だけでは、生きていけないと言ったのは貴方ですよ!』

 ドスフロギィとドスバギィは、まるで敵対するように吠えていた。

「どうなってる?まるで仲間割れしてるみたいだ」

「それに、ジャギィ達は全員倒れてるわ」

『あぁ・・・だからダメなんだ、お前達は。仲間なんかいくらでも増やせる。必要なのはそれを守る力だ』

『お前が手にしたのは、本当に守る力なのか!』

『口答えするんじゃねぇ!この無能共が!だったらこの辺に転がってるゴミでも食ってな』

 ドスジャギィは死んでいった仲間の死体を見ていた。

『ゴミだと・・・』

『仲間をなんだと思ってるんですか!』

 リーダー達がそんな無駄話をしてると、後ろから容赦なく熱線が飛んできた。

 ドスジャギィはそれを宙返り躱すが、その先にいたドスバギィに直撃した。

「グオァァァァァ!」

 熱さで悶えるドスバギィ、即死に至らなかったのが苦しさを増していた。

『・・・』

『生きたければ、喰え!喰え!喰え!強くなれ!進化しろ!』

 ドスフロギィはなりふり構わず、仲間の死体を喰らい始めた。

「こいつら、さっきと雰囲気が違う!」

 ドスフロギィは同じように苦しみだした。筋肉が発達し、爪と牙が伸びていく。

 中でも一番変化があったのは喉に付いている毒袋が肥大化したのであった。

『はぁ・・・はぁ・・・これが古龍の血か』

『それでいい』

 ドスフロギィはユウゼン達の方を向き、ドスジャギィは赤紅の方を向いた。

 それぞれが一体づつで十分な戦力と判断したらしい。

 周囲に転がる大量の死体を情景に、新たな戦いが幕を開ける。

「ユウゼン、このモンスターはさっきよりずっと強力なってるわ。気を抜かないで」

「分か・・・っ!」

 ユウゼンはドスフロギィの初撃に全く反応できなかった。飛びついてきた毒牙が、その右肩を貫く。

「痛っ!」

 そのまま力でユウゼンを捩じ伏せ、抑え込む。

 人間とは言えユウゼンはアオアシラを担いで運ぶ程、力はある方だったが、それでもドスフロギィに押されていた。

「なんて力だ!」

「ユウゼン!」

 シロギスが咄嗟に矢を素手で投げつけるも、簡単に躱してしまった。

「毒か!最悪だ」

 隙を見つけない限り、解毒薬を飲むのは困難だ。

 そしてドスフロギィは次の攻撃の構えをとった。毒袋が更に大きく膨れ上がる。

 牙が伸びたせいで噛み合わせが悪く、口元から少量の毒が漏れている。

「この感じ・・・離れて!」

「マジかよ!」

 溜め込んでいた毒を一気に放出し、辺りに毒ブレスが漂い始める。

 近くで戦っているドスジャギィの事など関係無いらしい。

 

 そんな戦いの一方で、ドスジャギィは赤紅の攻撃を避けてばかりだ。

 熱線、タックル、飛びつき、確かにドスジャギィにとっては全てが脅威だ。だが身軽で素早いため、避けるのは簡単でもあった。

 隙はある、でも反撃はしない。

 赤紅はそんなドスジャギィの手をうちを探るように様々な攻撃を仕掛ける。

『遅い遅い!』

 だが熱線を外してばかりではなかった。熱線を放つスピードは早い。

 なら何が問題なのか、発射先を読まれ、発射するタイミングを見抜かれているからである。

 それに気づいた赤紅は地中に首を突っ込み、発射口であるくちばしを隠した。

 その状態で標準を合わせ、地中から放つ熱線は見事命中した。

『あちぃ!』

 痛がっているものの、致命傷には程遠いようだ。

 そこへ、先程ドスフロギィが吐いた毒ブレスが漂ってきた。紫の毒霧が動きを鈍らせ、視界をさえぎる。

 赤紅は毒ブレスに一瞬気を取られたせいでドスジャギィを見失った。

 そしてグチャりと鈍い音が響いた瞬間、赤紅の目の前に突如、ドスジャギィが現れたのだ。

 しかもその手には、かつて仲間だった、ドスバギィの首を掴んでいた。

 その首を強く握り締め、睡眠作用のブレスを放ち、直に顔に浴びせる。

 毒と睡眠による弱体化が狙いだった。

 その勢いのまま攻撃に移る、掴んでいた首を投げ捨て、咆哮を上げる。

 その咆哮はまるでティガレックスのような衝撃波を持っていたため、赤紅は思わず怯んでしまった。

 その隙に開いた口のまま、赤紅の顔に噛み付いた。

 赤紅にとってこの状態は危険であった。何故なら、この位置に熱線は浴びせれず、ドスジャギィを振りほどくためには体をよじって、短い手足使うしか無かったのだ。

 だか当然そんな隙は無かった。

 ドスジャギィは馬鹿力で赤紅を地面にねじ伏せる。

 体格差なんてまるで関係ないかのように。

 そしてその叩きつけた衝撃により周囲では地震が起きた、あの打地殻雄がやっていたように。

「赤紅!」

 古代竜人が叫びながら駆けつける。その時、赤紅はくちばしを地面に突き刺し、身体を回転させ、ドスジャギィに噛み付かれたまま潜ろうとしていた。

「そうだべ!一旦地中に逃げるべ!」

 ドスジャギィは喰らいついたまま離そうとしなかったが、赤紅の地面に潜る力には、至らなかった。

『ちっ』

 地面を見つめてもすぐに反撃は来なかった。

 ドスジャギィは必然的に狙いをユウゼン達に変更した。

 その頃、毒のブレスと毒の牙でユウゼンは、毒の回りが早くなっていた。苦しみは自身を動けなくさせていた。

「い・・・息が・・・できねぇ」

 シロギスが狩猟笛でドスフロギィの相手をするも、ユウゼンを庇いながらの戦いは困難だった。

 シロギスにもじわじわとだが、毒が回り始めてもいた。

「はぁ・・・はぁ・・・しつこいわね」

 ドスフロギィを早く何とかしてユウゼンに解毒薬を飲ませたいが、その隙がなかった。

 それに気を取られていると、背中に激痛が走る。

「うっ!」

 それはドスジャギィが不意に背後から現れ、ドスバギィの首を掴んでシロギスの背中にその牙を立てたのだった。

 シロギスは望んでもない、眠気に襲われる。

「い、いつの間に・・・」

 片膝をつき、体勢が崩れる。そこにドスフロギィが容赦なく、尾で薙ぎ払ってきた。

「きゃあぁ!」

 痛々しい叫び声がこだまする。

『生きる、我々は強い!だから生き残れる!』

『あぁ、やっと分かったぜ。俺たちは、ずっとこれを求めてたんだな!』

「この・・・ままじゃ・・・」

 その時、古代竜人が閃光玉を投げた。

「シロギス!今だべ!仲間を連れてここから離れるべ」

「助かったわ!」

 しかし閃光玉の効力は一瞬だった。

 倒れているユウゼンの元には既に二体が立ちはだかっていた。

「閃光玉が効かないようね・・・」

 シロギスが二頭を同時に相手するのは無理があった。

 だがあの場からユウゼンだけでも救出しなければならないと自分を奮い立たせ、狩猟笛を構える。

 その時、ゴゴゴゴゴと地響きが起こった。

 火山の噴火かと思い見てみるも、それは違った。

 シロギスの前に地中から出てきたのは赤紅だった。

『何!?』

「今ね!」

 赤紅に気を取られている隙に、シロギスは素早くユウゼンを救出した。

「よし。シロギス、急いでここから離れるべ!」

「分かってる!」

 シロギスは古代竜人に言われた通り、ある程度離れた。

「そこじゃダメだべ!もっと遠くへ離れるべ!」

「え!?どうして!?」

 言われるがまま、引っ張られるように距離をとったシロギス。その理由は理解できなかった。

「どうしてこんなに離れなきゃならいのよ!ここからじゃ、弓を使っても当てづらいんだからね!」

「まぁ見てるべ。溶岩よりも高熱を持つ、赤紅の万溶流(まんとる)の威力を!」

「万溶流!?」

 それは赤紅の禁断の技のひとつ。地中の溶岩帯よりも深くに潜り、より高熱を持つマントルの一部を体内に宿し、地上に放つ技だ。

 赤紅の中心に熱波が発生し、火山全土にそれは広がる。気温が急上昇し、それは生態系にとって悪影響であり、赤紅自身にもタダでは済まない。

「あのティガレックスはどれだけ攻撃を受けても死ななかったべ。その能力を引き継いだドスジャギィも、熱線をくらっても効果が薄い。万溶流はリスクは大きい分、強力な技だべ。これで確実に倒すんだべ!」

「よく分からないけど。とりあえず離れたらいいのね?」

 赤紅はジリジリと二体に近づいた。

 攻撃とも思えない行動に、二体は警戒しつつも様子を見ていた。

 すると赤紅のくちばしから溶岩がボトボトと溢れ出た。

『何だ?これは?』

『・・・おかしいぜ、急に暑くなりやがった』

『まさか・・・』

 何かを察したドスジャギィはその場を急いで離れる。

『おい!何だよ!』

 ドスフロギィもその後を追うが、二体はもう既に遅かった。

 万溶流の範囲内からは逃れられない。赤紅のくちばしが眩い光を放つ。それと同時に発光する液体がくちばしから垂れてきた。

 それは光が強すぎて太陽のように直視できない。

 遠くにいるシロギス達にも強力な熱波を感じた。岩陰で無ければ火傷を負いそうなくらいである。

『くそ!』

『ちょっ!?おま・・・』

 シロギスから見て二体はその光に飲み込まれたように見えた。

 光が収まるのは以外にも早かった。

 だが周囲の温度は以上に上昇し、地面の至る所が融解している。二体の様子を恐る恐る確認すると。

 口を全開し、煙が上がりながら、不自然な形で立っているドスフロギィが見えた。

 だがそれはすぐに倒れた。

 その後ろに立っていたのはドスジャギィだった。

「た、耐えたの!?あの攻撃を!?」

 ドスジャギィが万溶流を何故耐えれたのか分からない。

 しかし近くにいるドスフロギィはその事を理解していた。ほとんど動かない体だったがその首を何とか動かし、ドスジャギィの方を向く。

『おま・・・どう・・・・して』

『近くにいた、お前が悪い』

 そう、ドスジャギィはドスフロギィを盾にしたのだった。

 ドスジャギィにとって耐熱力が上がった仲間の体が、今近くにある最も優秀な盾でもあったのだ。

 瞳の色が褪せ、ドスフロギィは絶命した。

 盾で凌いだとはいえ、ドスジャギィにダメージが無かった訳では無い。表皮が焼かれ、体から蒸気が立ち上っていた。

 それでもまだ戦う余力は残っていた。

『油断大敵・・・』

 赤紅は攻撃の反動で甲殻が剥がれ、所々で出血が見られる。

 呼吸も荒く、苦しそうであった。

 今度のドスジャギィは本気で赤紅を狩りにきた。

 鉤爪による凶悪な斬撃が赤紅を切り刻む。赤紅も反撃を試みるが、相手のスピードが違いすぎて追いつけない。

 万溶流が予想以上に効かなかった。

 その事実は赤紅を追い詰めていく。

 見かねたシロギスが矢を放ち参戦する。

「後、あいつ一体だけ!」

 ドスジャギィはシロギスに振り向く。その隙を赤紅は逃さない。

 長い身体を活かし、ドスジャギィを巻き込んで押さえ込む。

 そして動けなくなったドスジャギィにシロギスが矢を撃ち込んだ。

 だが矢を撃ち込まれてもなお、赤紅を振りほどき、シロギスを地震で伏せさした。

 シロギスは毒で矢の威力が落ち、赤紅は万溶流の反動で身体がボロボロだったのだ。すっかりドスジャギィの独壇場になる。

『弱いね』

 もはや立ち向かえる者はいない。だがそうでは無かった。

「シロギスさん、ここは俺に任せてください」

『何?』

 ドスジャギィの前に出たのは、毒が回り、立ち上がる事すらできなかったユウゼンである。

 どのように解毒したのか分からないが、今両足で地面にしっかりと立っていた。

「こいつも生き物だ。恐怖って感情が無いわけねぇ!」

 太刀を握りしめ、ゆっくりと近づく。たとえこの命に変えても、この一太刀を喰らわせてやる。

 その意思で抜刀術の構えをとった。

『お前の攻撃など、遅すぎる』

 苛立ちも見えたドスジャギィは、攻撃の軌道を読まれないように、わざとグチャグチャな走り方でユウゼンに襲いかかった。

 それでもユウゼンは微動だにしない。

 そして白黒種ナルガの時同様、ユウゼンの太刀の間合いに入る前に急停止した。

『何!?』

 ドスジャギィは自分の行動に驚いていた。

 恐怖など感じたこともなかった。

 どの戦いにも焦ること無く冷静に分析し、知略的に勝利してきた。

 だがユウゼンの、その太刀筋は全く理解できなかった。

 斬られると言うより、既に斬られたと感じた方が近い。

『ありえない!』

 だが脳で否定しても、身体はその恐怖を覚えていた。

 確実に当たる攻撃に怯えていたのだった。それゆえに何度も攻撃を仕掛けるが、直前で止めてしまう。

『ええい!じれったい!』

 この恐怖を克服するためにドスジャギィは、なんと目を瞑った。

 視覚から得た情報で恐怖を感じるならば、遮断すればいい。嗅覚も優れているドスジャギィだからこそとれる行動でもあった。

『見なければ恐怖など感じない!』

 そしてドスジャギィは思い切って攻撃を仕掛けた。

 太刀の間合いになんの躊躇いもなく入っていく。

 作戦通り恐怖は克服できた、だがそれはこの戦いにおいて一番の間違いだった。

 ユウゼンが放つ一閃は獲物を痛烈に斬り裂いた。

 その威力でドスジャギィの身体は宙を舞う。

『ぐぎゃぁぁ!』

「よし!斬った!」

 周囲に鮮血が飛散して、傷口を抱えながら地面でのたうち回る。

『この・・・ダメージは!』

 見開いた目は動揺のあまり、視点が定まっていない。傷口を見たり、ユウゼンを見たりしているが、冷静さを取り戻せない。

 矢のダメージも熱線も致命傷には至らなかった。

 だがこの一太刀はドスジャギィにとって強烈な一撃であった。

 だがいつまでも動揺して考えても勝機は見えてこない。そこですぐさまドスフロギィの首を持ち、毒のブレスを散布しようした。

 だがシロギスの矢がそうはさせない、ドスフロギィの首を狙い撃ち、ドスジャギィの手から引き剥がした。

『何!?』

 シロギスは毒を克服して矢の威力が戻っていたため、強力な一矢を放てたのだ。

「漢方薬が役に立ったべ!」

 古代竜人は漢方薬(毒によく効く薬)をユウゼンとシロギスに飲ませていた。そのおかげで復活できたのだ。

「ありがとう、古代竜人!よくもこんな珍妙な戦法で、手こずらせてくれたわね!」

「反撃開始だ!」

 ユウゼンとシロギスの猛攻が始まる、それはアマエビと戦った時のように、前衛がユウゼンで後衛がシロギスの隙のないコンビネーションでドスジャギィを攻める。

『おのれ!人間!』

 斬傷のせいでドスジャギィは上手く立ち回れない。

 そしてユウゼン達だけに集中していると、後ろから赤紅の熱線が飛んできた。

 今度は反応出来ずに背中に命中した。傷を負っているドスジャギィにとってこの熱線はかなり効いていた。

『アギッ!?』

「今よ!」

「おう!」

 そして、シロギスの放つ剛射が穿ち、ユウゼンの気刃斬りがさらに追い討ちをかける。

 またしても宙を舞うを舞うドスジャギィは、その刹那に自身の行動を後悔していた。

 今更何を思おうが全て遅い。

 自分が率いてきた群れを、自分の手で壊してしまった。

 あの時の仲間の声に耳を傾けていれば。

 古龍の血の能力を欲しがらなければ。

 自分から仲間を裏切っておいておかなしな話だが、奴らに報復の一つもできないまま死んでいくのは、それこそが本当の裏切りだ。この戦いを、仲間の死を、無駄にはしたくない。

『まだ・・・動ける!』

 地面に着いたドスジャギィは持てる力を全てを使い果たす気でその場から敗走した。

「逃がすなぁ!」

『あの場所へ!』

 ドスジャギィはひたすらに逃げた、火山を全速力で駆け抜ける。

「まだそんなに動けるのか!?」

「あの方角・・・まずいべ!赤紅、今すぐドスジャギィを止めるべ!」

 ドスジャギィが目指していたのは火山の頂上だった。

「上に逃げてる!?どうして!?」

『知ってんだよ!この火山にとんでもねぇバケモノが潜んでる事はよぉ!目覚めさせてやるよ!全員に地獄に落ちろぉぉぉ!』

「止まれぇ!」

 瀕死とはいえ、攻撃を避けることに徹底したドスジャギィは俊敏だった。

 その足取りであっという間に頂上に着いた。

『はは・・・ははは!もう遅い!』

 そして、その命を惜しむことなく火口に身を投げた。その瞬間、火山全土に及ぶ大地震が起きた。

 それは今度こそ間違いなく火山の噴火であった。まだ見ぬ覇竜復活の兆しでもある。




火山編終了です。ハイテンポで物語を進めてきたと思ったけど、字に起こすととても長く感じる。次回から最終章に入ります(めっちゃ長い話)
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