しばらくして目が覚めたユウゼンだったが、目の前にいたのは右手を負傷したハンター、シイラだった。シイラはユクモ村が白黒種に襲われた事をユウゼンに伝えに来たのだった。
シイラが告げたのは、白黒種モンスターにユクモ村が襲われたことについてだった。
「ユクモ村が襲われたって!?どういう事だ!?」
「あぁ。突然、ユクモ村に二十体近くの白黒種モンスターが現れてな。村を破壊し始めたんだ」
「何っ!?じゃあ、その時にお前は右手をやられたのか?」
「そうだ。村長の命令で、村にいたハンターは全員バラバラに撤退した。手に負えなかったんだ」
「そんな!師匠やガザミさんでも適わなかったのか!?」
「今二人は、別のクエストを受けているから村にはいない。それどころか、古龍の探索でユクモ村のハンターは大半が、村にはいないからな」
「そんな・・・」
「人手が薄くなったタイミングで来やがったんだ。為す術もなかったよ」
「行かねーと」
「何!?」
「俺、村に行ってくる!」
「だから、その傷じゃ動けないって!」
「動ける!」
ユウゼンは力を振り絞り、無理をしてでも立った。
「ほら・・・な!」
「ダメだ!そんな状態で行かせれるわけないだろ!」
「本当は、ぎぎを助けてぇんだけどよ。あいつが元に戻ったところで、帰る場所が無ぇのは、きっと辛いはずだ」
「だとしても、今のお前に何が出来る?」
「分からねぇ!けど、ここでじっとしてられるか!」
ユウゼンは子供の頃、古龍によって住んでいた村を滅ぼされてから、もう二度と同じことを繰り返したくないため、例えどんな状況だろうと自分にできることを精一杯やりたかった。
対してシイラは白黒種が出始めた頃、自分の忠告を無視して白黒種に挑み、殺された仲間の事を思い出して、ユウゼンに無駄死にして欲しくない、という気持ちがあった。
互いの事を思う、相反する気持ちはぶつかり合っていた。
「俺だって何かしたいよ!でもこんな手じゃ武器も持てない!いいか?今行ったところで、返り討ちに会うだけだ。助けを呼ぶんだ、アカグツさんやガザミさんを探してな」
「いや、それでも俺は行く!」
「だから!」
シイラの説得も虚しく、ユウゼンは村の方に走り去った。
立つのもやっとなはずなのに、何故か走ることができた。もっと必死に止めるべきだった、いや、必死に止めていたがダメだった。
「嘘だろ。あの傷でなんで走れるんだよ。はぁ〜、これからどうすっかな。後、マジで何これ?」
シイラが見つめていたのは、ボロボロに横たわるザ・モンスターであった。
時間を少しさかのぼる。
その頃ユクモ村の門前で、見張りのアイルーは新しく見張りとなった新人と話しいていた。
「にしても、どうしてこの仕事を選んだんだニャ?元ギルドの傭兵部隊隊員で、その隊長さんが」
その門番アイルーが話しかけるのは、かつてユウゼンらと共に白黒種リオレウスと戦ったギルドの傭兵部隊、その元隊長である。
白黒種対策として組んだガンナー部隊が、そのリオレウスに全く歯が立たなかった事が、引退のきっかけである。
「いいんだ。私には隊長を担う器も、隊員を率いる統率力も無い。ここで門番やってるのがお似合いさ」
「ただ見張っとばいいってもんじゃないにゃ。でもギルドの傭兵部隊の仕事に比べたら、楽な方かもしれんニャ」
「ただの見張りだろ?他になにかするのか?」
「クエストに行ったハンターの確認ニャ。どのハンターが行って、どのハンターが帰ってきたのかチェックするのニャ」
「なるほど。それで朝から調査に赴くハンターを見ながら、確認してたのか」
「いかにもニャ。でも今日は、ほとんどのハンターが古龍の探索で出てったニャ。毎日毎日、大変そうニャ」
「早く見つかるといいんだがな。それで、この場所にモンスターが現れたらこの警鐘を鳴らせばいいんだな?」
「そうニャ。でも、滅多に鳴らすことは無いニャ。この辺りには、大型モンスターが嫌う匂いを漂わせてるからニャ。確か前回鳴らした時は、ユウゼンが死んだアオアシラを、担いできた時だったニャ」
「死んだアオアシラを担いできた!?それを生きたモンスターと見間違えたのか?」
「懐かしいニャ。ユウゼンはあれから出世して、今や上位ハンター。時の流れは早いニャ〜」
「ユウゼン。彼の勇敢さには私も助けられた。白黒種相手にあたふたしている我々を尻目に、前線に立って奮闘する姿は、まさに強者の証だ」
「そうだったのかニャ。狩猟においても成長しているんだニャ」
話題はユウゼンの事で持ちきりだった。退屈なので、こんな感じで話してないと、この仕事は続かない。
それに終わりを告げるように、一体のモンスターが、門前に現れる。
「ん?こいつは、アオアシラの子供ではないか?」
「ニャ?確かにそうニャ。迷ったのかニャ?」
それはユウゼンが運んできたアオアシラの、足元にも及ばないサイズの可愛らしい小熊であった。
「どっちにしろ、追っ払ったら方がいいニャ・・・?色が・・・」
「色?色がどうかしたのか?」
「アオアシラって、こんなに黒かっ・・・!?」
両手を広げ、めいっぱい咆哮する。だが所詮は小熊、だったら想像できるのは、甲高い小熊の鳴き声のはずだ。
しかし現実は違った。目の前の小さなアオアシラは、大人のアオアシラ以上の声量と迫力を持っていた。ただの子熊ではない。その咆哮に二人は尻もちを着いた。
「は、白黒種だ!」
「急いで警鐘を鳴らすニャ!」
その指示をするのは当然であったが、既に遅かった。
アオアシラの後ろから火球が飛んでくる。
それは警鐘用の大銅鑼を破壊し、村に危機を知らせる手段を奪った。
「炎!?」
「隠れるニャ!」
次の瞬間、五、六体程の白黒種が一斉に姿を現し、突進やブレスで門に攻撃をしてきた。
「一体何が!?」
「分からないニャ!でも早く村のみんなに伝えないとニャ!っ!?」
門の裏手に隠れたが、爆発音と共に門は簡単に破壊されてしまった。
二人は、崩れゆく門の残骸に巻き込まれてしまう。
門番アイルーはそこからなんとか這い出れたが、白黒種達は我が物顔で、村に入って来た。やられたニャ。村長さん、みんな、早く気づいてくれニャ。
警鐘を表す、大銅鑼は確かに鳴らなかった。
だが門の破壊音が大銅鑼の音より危険な意味を表す警鐘として、村人にいつも以上の恐怖を与えた。
今の音はなんだ?一体何事だ?集会所で、事務作業をしていたユクモ村の村長は、その音を聞いて急いで外に飛び出した。
「今のは!?」
辺りを見回すと、門の方角から煙が昇っていたのが見えた。
「事故かしら?」
村長は自らの足でその場所へ向かおうとしたが、騒ぎを聞き付けたハンターがそれを制止する。
「俺が見に行きます」
村長を何が起きてるか分からない場所へ、向かわせる訳にはいかない。
そう思って行動したのは、村に唯一残っていた上位ハンターのシイラだった。単なる事故であってくれ。そう願いながら、足早に現場に向かった。
「おかしい、あれだけの爆発音がして警鐘が鳴らなかった。何か嫌な予感がする」
それでも心配した村長は後を追おうとしたが、村に残っていた他のハンター達も村長の元へ駆け寄ってきて、それを制止させる。
「ここはシイラさんに任せましょう。我々は住民の安全を確保しましょう」
「シイラなら、大丈夫!」
「はい・・・分かっております」
口ではそう言いながらも、シイラの行った方角から目を離せなかった。
ハンター達が村人に声をかけ落ち着かせていると、間もなく周囲の家屋が破壊される音が聞こえ始めた。
それを見て聞いていた村人はパニック状態になる。
「シイラさん!助けを!向こうで、何かあったんだわ!」
「あぁ!」
村長の感嘆の叫びで、ハンターを向かわせようとするが、シイラはすぐに帰ってきた。
破壊される建物から吹き飛ばされるように村長の前に転がってきたのだ。負傷したのかうずくまり右手を押えている。まるで何者かに殴り飛ばされたように。
破壊された建物の奥から、砂煙で隠れた巨体の、シルエットが見えた。
「村長・・・逃げてください」
「どうして・・・モンスターがここに!?」
分かりきっていた答えだった。シイラをぶっ飛ばしたのは、白黒種モンスターだったのだ。
村長の前に現れたのは、リオレイア、ナルガクルガ、ディアブロス、ウラガンキン、ボルボロスの五体。そして人間である、アマエビ。
「久しいな、ユクモ村。なぁ、村長。大人しく言うこと聞いてくれるか?」
「アマエビ!」
『同胞達ヨ!村人ヲ全員中央ニ集メロ!住処ヲ破壊シ、家畜ノ様ニ追イ立テロ!タダシ殺スナ!生カシタ状態デ集メロ!貴重ナ戦力ダカラナ』
「村人を全員集めろ。そうしないと、こいつらは村中を破壊し尽くすぞ」
村中からモンスターの咆哮が響く。
ここだけでは無い、既に多く白黒種が侵入していた。そしてリオレイアの命令通り、住処を破壊しながら村人を追いやっていた。
「村長!早く逃げてください!我々が少しでも時間を稼ぎます」
「ダメだ!お前らじゃ、歯が立たない!それに数が多すぎる!村長を護衛しながら撤退するしか無い!」
「いえ・・・私はここから動きません」
「何ですと!?」
すると村長はシイラの耳元で囁く。
「私が交渉で時間を稼ぎます。その間にあなた達は、助けを呼びに抜け道から村を脱出してください。今ある戦力では太刀打ちできません。アカグツさんやガザミさん、いえそれだけではなく他の地域の方々にも助けを求めてください。一人でも多くの戦力を集めるのです。それしか助かる方法はありません」
「しかし!」
「ユクモ村の人たちの命運がかかっています。迷っている場合ではありません!」
「・・・分かりました。でもどの道時間稼ぎは必要だ。俺がやる」
「いえ、シイラさん。その手じゃ、もう戦えないでしょ?我々がやります」
「だが!」
「時間がありません!早く!」
村長の喝でハンター達は一斉に攻撃を仕掛ける。
「ちっ!無駄な事を」
「どうして!?誰かが時間を稼ぐのでは無かったのですか!?」
案の定、全員にぶっ飛ばされて返り討ちにあう。
「痛たた。上手くいったか!?」
「あぁ。後はシイラさんを信じよう」
倒れた二人のハンターはいたが、そこにシイラの姿は無かった。
今の混戦に乗じてユクモ村から脱出したようだ。村人が全員中央に集まるまで、白黒種の破壊活動は止まらない。
「一人逃げたか。まぁいい。まだユウゼンが来てないからな」
「ユウゼン?何故、ユウゼンさんが来なければならないのですか?」
「来たら話してやるよ。今はとにかく無駄な抵抗をやめて、村人を一人でも多く集めたらどうだ?」
「私が先導します!だからこれ以上、村を破壊しないで!」
何を狙っているのか、リオレイア達は動かない。
こうしている間にも村人の悲鳴は絶えず聞こえてくる。被害状況は把握できない。それに、逆らえばどうなるか分からない。自分が村人を先導する、と言っても聞いては貰えない。
村長はただ何もせず、耐えるしか無かった。
いつ来るか分からない助けを、待ちながら。
『にしても、えげつない能力だぜ』
『そうだね。黒いやつらを全員、意のままに操れるなんてさ』
『古龍ノヨウナ存在ト戦ウ為ニ、コノ力ガ必要ダッタ』
ナルガクルガの言う黒いやつらとは、今村中で暴れている、白黒種の中で体色が黒いやつらの事である。
白黒種の総統たるリオレイアの能力は、その白黒種を自分の思うままに操る。
ただし、体色が白色の個体は操れない。
だがナルガクルガやディアブロスは、その強力な能力と自身が白黒種になれた恩恵として、リオレイアに従っている。
そう、ユクモ村を襲ったのは、単なる白黒種の集団では無く、洗練されたモンスターで構成された軍隊である。一体でも強力な白黒種が統率の取れた軍隊になれば、ギルドにとって、いや、世界にとっても驚異的な存在である。
ではそんな驚異的な存在の白黒種軍隊が、何故このユクモ村を襲ったのか?
ユウゼンが何故必要なのか?謎は多い。
村長は中央に集められた、村人達を見た。そこには既に大半の村人達が集められていた。
「もう、こんなに多く・・・」
別に殺されたわけじゃない、それでも住処を壊され、ここに追い立てられたのだ。
全員集めらたら何が始まるんだろう?不安は募るばかりであった。
これがユクモ村で起きた、白黒種襲来の全貌である。
村から脱出したシイラはこの後、逃げた先の砂原で倒れたユウゼンを見つけ、処置をしたのであった。
ユウゼンは走っていた。
ユクモ村が白黒種に襲われたのだ。
その事実は、ユウゼンを、焦らせ、怒らせ、悔しがらせた。
足を踏み出す事に胸の傷が痛むが、それでも進まなければならない。
まもなく砂原地帯を抜け、ユクモ村にたどり着きそうだ。
ユウゼンは様子見する気など無い。どんな状況であろうと村に突っ込む気だ。
「頼むから、みんな無事でいてくれ!」
その願いを、ぶち壊すように見えてきたのは、破壊されたユクモ村の門であった。
「くそ!」
中に入る。だがそれは間違いだった。その瞬間、何頭もの白黒種が同時に襲いかかってきた。
「くっ!」
武器を構えるが、その攻撃はある人物の一言で全て止まった。
「待て。こいつは驚いた。まさか、たった一人でここに帰ってくるとはな」
「アマエビ!?」
奥から出てきたのはアマエビだった。そしてゆっくりとこちらに近づいてくる。
「ボスがお前に会いたがっている。お前が来れば、村人に説明を開始できるからな」
「お前らか・・・」
「はぁ?」
「村を、こんなめちゃくちゃにしやがったのは!」
ユウゼンは我慢の限界だった。あいつらは村をめちゃくちゃにしたんだ。絶対に許さない。
「気刃斬り!」
周囲にいた数体の白黒種達に斬りかかっていく。イビルジョー、ザ・モンスター、に続く連戦なのに、剣の精度は落ちてはいない。
斬撃は白黒種達を怯ませる。
「おいおい、活きがよすぎるぜ」
夢中で剣を振っていたユウゼンは、距離を詰めてくるアマエビに気づかなかった。
その不意をついたアマエビは、ハンマーの持ち手の部分をユウゼンの首にかけ、地面に抑え込む。
過呼吸になり苦しそうなユウゼンに顔を近づけ、語りかける。
「ぐふっ!」
「まぁ落ち着けって。何も俺達は村を滅ぼそうってわけじゃねぇんだ。全人類、いや生きとしいける全ての生命にとって重要な計画がある。お前はその計画の要だ。だから話を聞けって」
「だ、誰が!お前の話なんか!」
「向こうまで運ぶのは面倒だが、仕方ない。とりあえず、縛って。おい、連れてけ」
白黒種に命令したのだろうか。麻縄で縛られたユウゼンは、小さなアオアシラに担がれ、村の中央に連れてかれた。
シイラの言った通りだ、俺は何もできなかった。縛られた状態で必死に暴れたが、小さなアオアシラは全く動じない。
そして村人が集められている中央に着き、無造作に投げられた。
「痛ぁ!」
「ユウゼンさん!どうしてここに!?」
もしシイラに会っていたなら、忠告を受けたはず。
ならどうして逃げなかったのか?だが村の事を思い、救いたいと願った結果、帰ってきたのなら、ユウゼンを責めることはできない。
そして、白黒種の目的にユウゼンが必要なら、これからその目的を話すのだろうか。
「お前がボスか!リオレイア!」
『ユウゼン。時ハ満チタ、ソロソロ話ストスルカ。ダガソノ前ニ』
リオレイアは、下を向き、んんっ!と唸り始める。そしてグォォと言った声を発生していくと、その発音がだんだん人の話す言葉に似てきた。
「グォォ・・・ぐぉォ・・・アォォ・・・あー・・・アー・・・ンンッ!・・・コンナ所カ。名乗ロウ。我ハ、リオレイア。呪花ノ女王デアリ、白黒種ノ祖デアル!」
「何!白黒種の祖だと!?」
「モンスターが喋った!?」
「人ノ言葉ナド、簡単ナ創リダ、話ス事ナド容易イ。ダガ、言葉ガ無ケレバ意思ノ疎通ハデキナイ。意志ノ疎通ハ無駄ナ争イヲ無クス。故ニ言葉ハ、我々ヲ繋グ架ケ橋ナノダヨ」
「しかも、めっちゃ饒舌かよボス。俺の役目、必要あったか?」
「アマエビ、オ前ハ必要ダッタサ。サテ、一ツ昔話ヲシヨウカ。コレカラ来タル、最悪ノ終焉ヲ止メルタメニナ」
「最悪の終焉!?」
呪花の女王と名乗るリオレイアは、通常種でも白黒種でも無く、それらを超越した存在である、超特殊個体だ。
最悪の終焉、これが何を表すのか、自分が何者なのかを話し始めた。
今から八百年以上前。まだ人類は文明が未発達だった時代である。
その頃、大地を支配していたのは、
古龍、アマツマガツチ
古龍、ジエン・モーラン
原初の飛竜、アカムトルム
原初の飛竜、ウカムルバス
そして花粉によりモンスターを操る能力を持った、呪花の女王(リオレイア)である。
過去の支配者達である。人間も通常モンスターも、これらの驚異的な存在から抗う術は無く、ただの傍観者に過ぎなかった。
それぞれの勢力は均衡し、度々衝突していた。
そんな中、全ての支配者にとっての天敵が現れた。黒龍アルバトリオンである。
天馬の様な容姿とは裏腹に、翼も、尾も、反り立つ角も全てが禍々しい形を生しており。その力は全ての属性を司り、その目的は全生命を根絶やしにすること。その目的に特に意味は無い。ただ無造作に破滅をもたらす存在でもある。
あまりの強さ故に、流石の支配者とはいえ、一勢力では太刀打ちできない。
そんな最凶のアルバトリオンは、全ての支配者達の標的になった。
これまで衝突を繰り返していた支配者達が結託し、アルバトリオンとの壮絶な戦いが始まった。
どちらも織り成す攻撃は、災害を起こす。その戦いに人もモンスターもその多くが巻き込まれ、死んでいった。
地形も環境も大きく変えるその争いは、アルバトリオンが優勢であった。だが支配者達に転機が訪れる。
龍脈に落ちた人間、赤衣の男の参戦である。人間でありながら、古龍以上の戦力を持つ。
それはまさに生命の救世主だった。
突如として参戦した赤衣の男は、支配者達と共にアルバトリオンを追い詰める。
だが、どれだけ攻撃を繰り返しても、どれだけ傷を負っても、アルバトリオンは倒れなかった。
しだいに支配者達の数は減っていき、最終的に残ったのがアマツマガツチ、リオレイア、赤衣の男である。
立場は逆転、アルバトリオンは支配者達の殲滅にかかる。
その時、アルバトリオンは急遽、攻撃を止め、後退し始めた。
あれだけ強かったアルバトリオンは何に恐れたのか。分からなかったが、勝機と見た支配者達は、猛攻撃を仕掛る。
それを受けたアルバトリオンは、近くにあった龍脈の穴に落ち、消息を絶ったのだ。
戦いに勝利したのは支配者達である。
だがこの戦いでほとんどの生命が犠牲となった。
生き残った支配者達と赤衣の男は、失った生命が蘇るまで戦わないことを誓った。それぞれが独自の領域を持ち、お互いが踏み入らない事でそれは成り立ったのだ。
アルバトリオンの脅威は去った。
だがその死体はどこにも無い。 龍脈の穴で消えたのだ。
さらにアルバトリオンの逆鱗は、まるで生きているような、うねる輝きを放ち、鮮度を保っていた。
赤衣の男とリオレイアは、アルバトリオンが復活の可能性があると考え、次に復活の兆しがあれば新たな対策を打ち立てることを約束した。
そして月日は流れ今に至る。
喋るリオレイアから話される、黒龍アルバトリオンの真実、その話の規模は大きすぎて、村長を含めたほとんどの村人が呆気にとられていた。かつての支配者の一体が、今目の前にいるリオレイアであるとは、信じられない。
何故ならこの話は八百年以上前の話だからだ。
「では、その黒龍が今、復活しようとしているんですか?」
「ソノ通リダ」
「では、私達を拘束したのは何故ですか?」
「アルバトリオン、ニ対シテノ新タナ戦力ニナッテモラウ。ソノタメニ白黒種ヲ人類ニ効クヨウニ改良シタノダ」
「何ですって!?」
「オ前達ニハ、コレカラ白黒種ニナッテモラウ。ソレガ八百年前ニ、赤衣ノ男ト立テタ我々ノ計画ダ」
「ふざけんじゃねぇ!」
もがきながらユウゼンが吠える。
「白黒種になんか、なってたまるか!俺たちは人間だ!化け物なんかじゃない!」
「イイ提案ダト思ウノダガネ。ドノ道、今ノ人間デハ、アルバトリオントノ戦闘ノ余波ニモ耐エラレズ、死ヌダロウ。白黒種ニナッタ方ガ生存率ハ大キク上昇スルノダゾ」
「・・・俺は人間を捨ててまで生きようとは思わない!お前らを倒して、それでアルバトリオンも倒す!白黒種にならなくても成し遂げてみせる!」
「マルデ夢物語ダナ。ソノウチ分カルサ。今サラ選択肢ナド無イトイウコトガ」
強がっていてもユウゼンは拘束されている。抵抗はできないだろう。
だがユウゼンは、村人達は希望を捨ててはいなかった。
レジェンドハンターの帰還、アカグツやガザミが帰ってくることを祈っていた。
その祈りが通じたのか、リオレイアの前に大柄の男が姿を現した。
「ホォ。待チ望ンデイタ英雄ノ帰還カ」
「ガザミさん!」
「村長!ユウゼン!くそっ、はめられたっ!遅かたったか!」
ガザミは狩りの時、持ってる鋼鉄の箱を持っておらず。
傷だらけで大剣を二本装備していた。息は荒く、非常に焦っていた。
「今助け・・・ぐっ!・・・」
突然、ガザミはその場に倒れた。
「ガザミさん!何が起こった!?」
「・・・まだ・・・生きてたか・・・ア・・・か」
倒れるガザミの後ろにたっていたのは、赤衣の男であった。
後ろからの不意打ちだったが、丈夫な体を持つガザミを一撃で倒したのであった。
「あれが、赤衣の男・・・」
「ガザミさんが一撃でやられた・・・そんな馬鹿な!」
その時ユウゼンはガザミが師匠であるアカグツと一緒に村から出ているのを思い出した。
そういえば師匠は?師匠が来てくれれば、この窮地を脱出できる!
だが目の前にいるのはかつての支配者達、その二体であった。ユウゼンの心は追い詰められていた。助けて。
「し、師匠・・・助け」
「俺を呼んだか」
「え?」
答えたのは、なんと赤衣の男だった。
今フードに手をかけ、ゆっくりと脱ぐ。
赤衣の男の顔が見えた。
それは見覚えのある顔であった。
「どうして・・・嘘だ・・・」
悪夢を見ている気分だった。
龍脈の恩寵を受けた赤衣の男、その衝撃的な正体は村のレジェンドハンター、アカグツである。
ユクモ村にはもはや未来は無い。
新章開幕、期待大!
いよいよストーリーも大詰めです