砂原のキャンプまで逃げたユウゼン達だったが、ユウゼンは完全に戦意を喪失。行くあてもなくどこかへ行ってしまった。そこで流砂に巻き込まれ、砂原の地下空洞に落ちたしまったユウゼンが出会ったのは、変わり果てた姿をした、ぎぎであった。
流砂に落ちたユウゼンが出会ったのは、変わり果てた姿をした、ぎぎであった。美青年の優しい印象だったその顔の半分に、イビルジョーの下顎に生えていた、トゲトゲが外郭にびっしりと生えており。肌は深い緑色に侵食され。目は赤く、口元から赤黒い龍属性エネルギーが漏れている。そして右足のレッグウルフは返り血で真っ赤に染っていた。理性は完全に喪失しているようだった。
「うがあぁぁぁぁぁぁぁ!」
本能のままユウゼンに飛びついてきた。押さえつけられ、身動きが取れなくなったが、抵抗はしなかった。あぁ、これが俺の最後かな。変わり果てたかつての仲間に、意味もなく殺される。
「ぎぎ、すまなかった」
レッグウルフが足を噛んできた。激痛が走る度に、それが自身の罪に対する罰のように感じた。
「うぎゃぁぁぁ!」
次は肩に噛み付かれた、痛みのあまり声を荒らげた。これが俺の運命なのか?痛みも、罰も、全ては正しいはず。なのに、なのにどうして。
「どうして・・・泣いてるんだ?」
今にも食われそうな状況で、ぎぎの顔が目に入った。見開いた目には、涙で溢れていた。それに伴わない、行動だった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」
ぎぎはユウゼンから離れた。ひたすらに叫ぶ。理性など無いはずなのに、とても苦しそうだった。彼の中に、まだ心は残っているのだろうか。そんなぎぎを見てると、どうにかしてあげたいと強く思った。痛みをこらえて立ち上がる。
「ぎぎ・・・お前も苦しいんだな」
ぎぎを助けないと、苦しいのは俺だけじゃない。何か助ける方法は無いのか?
「戻ってこい!ぎぎ!お前は怪物じゃない!」
反応は無い。またしても襲いかかってきた。肩の傷口をガッツリと掴まれたが、それでも叫んだ。
「頼む!元のお前に戻ってくれ!」
「うがぁぁぁぁぁっ!」
またしても反応は無かった。それでも諦めない、叫び続けた。
「戻れ!なぁ、ぎぎ。きっとお前は今、辛いよな?怖いよな?俺だってそうだ。お前がこんな状態になって。白黒種に村も襲われて。師匠には裏切られた。どうしたらいいか、分からない!でもなぁ、それでも俺達は生きてるんだ」
言葉など通じているのだろうか?そんな疑問は気にしなかった。自分の本音をぶつけてみる。
「お前が言ったんだぜ、ハンターは人を殺しちゃならねぇ。例えどんな奴だろうとな。ここで、俺がお前に殺されたら、お前が人殺しになっちまう。そんな事させない!お前は人間だ。そしてハンターだ!俺達の仲間なんだ!」
「・・・」
「俺は確かに師匠に裏切られた。心が折れて屈服した。でも今は違う!どんな理由があろうと、師匠は俺を育ててくれた!生命の糸を繋いでくれたんだ!弱音ばっかり吐いたけど、俺は生きて生命を紡ぐ!」
その言葉にぎぎは反応した。涙は溢れて止まらない。
「ぐおぁぁぁぁぁぁぁ!」
ついに頭を抱え苦しみ出した。ぎぎは自分の言った言葉が、何かに引っかかったのだ。大丈夫、ぎぎはまだ自我を失ってない!
「ぎぎ。お前はハンターだ!怪物じゃ無い!思い出せ!」
「うがぁぁぁぁ・・・ぁぁ声が・・・うる・・さい」
言葉を発した。自我は戻りつつあった。だけどまだ足りない、もう一押し。ぎぎの心に響くのは何だ?一つ思い浮かんだ。それはぎぎが子供の頃によく聞いていた災歌だった。
「そうか、災歌か!」
ユウゼンの話した言葉が偶然、災歌の歌詞と一致していたのだ。だが一度しか聞いたことがない歌の歌詞をすぐに思い出せるだろうか?呻きながらも、ぎぎは襲ってくる。
「ぎぎ!災歌だ!災歌を歌え!お前はこの曲に、勇気を貰ったはずだ」
これに賭けるしかない。本当の自分を取り戻せ。
「・・・どうして今日の空は暗いの?恐ろしい災が来るからさ?」
「ああああぁぁぁぁ!」
効いている。頭を抱え苦しみ出した。最初っからじゃないけど、何とか歌詞を思い出し、続け歌う。
「僅かな光を追って、ひたすら追って、生き延びて!」
音程なんて知ったことか。言葉だけでいい、伝わってくれ。距離があり、続けて歌おうとすると、ぎぎは持っていたライトボウガンを構えた。
「まずい!」
歌が途切れる。だが弾が飛んでくることは無かった。再びぎぎは頭を抱えていた。気がつくと綺麗な音色を聞こえていた。
「それ災歌?」
「シロギスさん!」
それはシロギスの狩猟笛が奏でる、災歌のメロディだった。
「シロギスさん!もっと奏でてくれ!ぎぎを元に戻したいんだ!」
「ぎぎ?あの緑色のが!?わ、分かったわ!とにかく災歌を奏でればいいのね!」
災歌のメロディが、ぎぎを少しづつ正気に戻している気がする。とにかく歌い続けた、とにかく奏で続けた。
「・・・耳障りな、その音を止めろ!ああああぁぁぁぁ!」
「言葉がハッキリしてきた。シロギスさん、もう一息だ!」
「いつかは希望にたどり着く。生命を紡いで、愛しい我が子よぉ!」
「う・・・あ・・・ぼ、僕は!?僕は!?」
「お前はぎぎだ!俺達の仲間のぎぎなんだぁ!」
「ぎぎ!」
「声が・・・止んだ?」
「戻ったか!」
「・・・ユウゼン・・・さん?」
「ぎぎ!あなた本当に、ぎぎなのね!」
「シロギスさん!これは一体?」
「ぎぎ!」
「かかったなアホが!くたばれ!」
「っ!?」
ぎぎは正気を取り戻したかのように見えたが、その逆だった。まるで別人格に乗っ取られたように、言葉が豹変する。そして不用意に近づいたユウゼンの額に銃口を突きつける。銃口は赤黒い雷のような物がバチバチと走っている。
「させるかよ!秘泉水だ!」
そこに突如カジキが現れ、背後から咄嗟に秘泉水を打ち込んだ。カジキは密かにぎぎの様子を見ていたのだ。秘泉水の回復効果に賭け、ぎぎを正気に戻そうとした。
「いい加減戻りやがれ!ぎぎ!」
ぎぎはまたしても項垂れた。
「カジキ!いつの間に!」
「ユウゼン、お前は油断しすぎだ」
「ぎぎを見て!」
ぎぎはゆっくりを目を開く。
「・・・ここは?」
「ぎぎ!大丈夫か!?」
今度こそ元に戻ったか?まだ分からない。
「ユウゼンさん・・・どうやら、僕はかなり迷惑をかけたようですね」
「やった!戻った!」
「声はまだ消えてはいませんが、とても小さく、あまりにも弱々しいです」
「ふん。次は惑わされるなよ」
「ぎぎ、本当もう大丈夫なの?」
「えぇ。僕は僕です。それで、僕がこうなってる間に何かあったんですか?」
ユウゼンはこれまでの経緯を説明した。イビルジョーとの戦闘、ユクモ村への白黒種襲来から、ユクモ村脱出まで。
「状況は分かりました。とにかくユクモ村を、奪還しに行きましょう。早くしないと、村のみんなが危険です」
「えぇ、その通りなんだけど。今はこっちの戦力が」
「見つけたっすよ、ぎぎぃ!」
大きな足音を立て、図々しく会話に割って入ってきたのは、改良したザ・モンスターに乗ったアイゴだった。
「アイゴ!お前まだ!」
「何!?何なの!?これ!?」
「別々のモンスターが、くっついてやがる!」
ザ・モンスターはぎぎとの戦闘で再起不能の状態だったが、アイゴはそれを直し、損失したギギネブラの右腕は、なんとイビルジョーの半身が付いていた。そのあまりの巨大さ故に、重心が非常に左に傾いていた。それを補うように、かつて倶利伽雷(ジンオウガ)がやっていたように雷の脚が、地面に向かって何本か伸びている。そうでもしないとバランスを保てないのである。
「ぎぎぃ!何故君がモンスターの声を聞けるのか。何故イビルジョーを倒し、その力を手に入れることが出来たのかぁ!」
「それ以上言うな!」
アイゴはイビルジョーの口に龍属性エネルギーを滾らせる。
「その答えはただ一つ!」
「やめろぉぉぉぉ!」
ユウゼンはアイゴを黙らせるため、走り出した。
「ぎぎぃ!それはお前が人類で初めて白黒種ウイルスに感染し、さらに人類で初めて適合したからだぁ!」
「何!?」
「・・・僕が白黒種に・・」
「聞くなぎぎ!全部デタラメだ!」
「いいっすね!できるだけ絶望して死んで欲しいっすね!君が食べ残したこの遺体に感謝を捧げるっす!お礼に、今から全員仲良く滅龍ブレスで葬るっす!」
「・・・だから何なんですか?」
「はぁ?」
「僕が最初の感染者だとして、それが何なんですか?と聞いたんです!」
「っ!?」
「おいぎぎ、下がれ!あのブレスの範囲は、やばいって!」
「いいえ、僕が終わらせます」
そう言ってぎぎは銃を構える。
「そんなちっぽけな武器で何が出来る!あっしは真のモンスターっすよ!」
「あなたはモンスターでも、人間も無い。ただの中途半端な存在です!」
「っ!?・・・消えろ!」
滅龍ブレスは放たれたように思えたが、ぎぎの放つ弾の方が速かった。
弾はアイゴの額に命中した。
「当たった!」
「この距離から一発で!」
「だけど、あれじゃ即死じゃ・・・」
「麻酔弾です。イビルジョーはあんな一発の麻酔弾じゃ、大人しくなりません。所詮あなたはただの人間です。そこでじっとしといてください」
「ぎぎ・・・」
「僕達はもう既に人間の領域を超えた存在。ならそれに見合う役目があるはず。行きましょう、村を救いに!」
「おう!」
シロギスは希望を抱いた。アイゴが乗っていたザ・モンスターは、戦った事は無かったが、恐らく強敵だろう。だが、ぎぎはそれを一瞬で倒した。もしかするとこのメンバーならリオレイアやアカグツにも勝機があるかもしれない。
「えぇ、行きましょう」
一行はユクモ村を目指し、進み出した。だがユウゼンの目は、未だに覚悟を決めてはいなかった。こんな状態の自分はまともに戦えるのだろうか?
そしてまたしても放置されたザ・モンスターを見つめる人物がいた。それはアイゴでは無い。
「こいつは、すげぇ。動くのか」
その頃ユクモ村では、恐れていた白黒種化は開始されず、白黒種達も目立った動きが無いままだった。
「村長さん、私達一体どうなるんでしょう?」
恐る恐る聞いてきたの受付嬢であった。長時間、白黒種に見張られたので、精神的には既に限界であった。
「私の推測なのですが。シロギスさん達が連れ去ったユウゼンさんが、白黒種にとって、何か必要な存在なのだと思います」
「では、何故追わないのでしょう?」
「必要無イカラダ」
「っ!?」
「彼ラハ、イズレココニ帰ッテ来ル。追ウ必要ナド無イノダ。ダガ、ユウゼンガ居ナイト、我々ノ計画モ始マラナイ。何故ナラ、ユウゼンガ白黒種ウイルスニ適合シタ、唯一ノ人間ダカラダ」
「いつ帰ってくるか、分からなくてもですか?」
「帰ってきたぜ」
村の外を見張ってたアマエビが知らせに来た。
「ユウゼン、カ?」
「あぁ一人でな」
「ユウゼンさんが!?たった一人で!?」
「?・・・ソウカ」
「リオレイア、これがあいつの答えだ。受け入れるしかない」
「オ前ノ弟子ダロ?コレデイイノカ?」
「構わない」
「それじゃあ通すぜ」
壊れた門の奥から俯いたユウゼンが現れた。村人達はザワついた。ついに始まってしまうのか。
「ハンターの魂である武器を、捨てたか!」
ユウゼンがいつも背負っている太刀は持っていなかった。戦う気は皆無なのだろう。とリオレイアは捉えた。
「・・・俺は村を、みんなを救うためならなんだってやります。どうぞ、好きにしてください」
ユウゼンはアカグツの前で、忠誠を誓う騎士のように跪いた。
「待ってくれ!あんたがそいつらに従ったら俺達は白黒種にされちまう!」
「ダメよ!私、白黒種になんてなりたくない!」
村人達から感嘆の声が上がる。それに対してユウゼンは優しく答えた。
「このまま人でいても、ただ死を待つだけ。すまない、みんなが生き残る道はこれしか無いんだ」
「そんな!」
「ふざけるな!」
「俺達はもうお終いだ!」
その言葉に対して、村人達の反感は高まる一方だった。だがそれを鎮めたのは村長の一言だった。
「・・・私はそれでも構いません。ユウゼンさんがそう判断したのなら、それに従います」
「村長・・・」
「ガザミさん、ミギマギさん。ギルドナイトの方々や村のハンター達が尽力で戦いましたが、敗れました。もはや私達に勝機はありません」
ガザミとミギマギは、二人とも集会所の前で倒れていて、死んでいるようにピクリとも動かない。それを見てもユウゼンの表情は変化しない。動揺もしてなかった。
「ユウゼン本当に、これでいいんだな?」
アカグツが問う。それは静かだが確かな怒りがこもっていた。
「はい」
「失望したぞ。師としてお前にはガッカリだ。逆境にも抗う精神力を鍛えたつもりだっだが、お前は全く抗わなかった。せめて死んで、その血で村人達を生かせ」
「フン。オ前ガ一番ショックヲ、受ケテルデハナイカ」
「いけません!ユウゼンさん逃げて!」
計画は変更。ユウゼンは殺される。誰もがそう思った。アカグツが太刀を抜く。切っ先を首に向け、最後の質問を問う。
「遺言は?」
「・・・すまねぇな、みんな」
アカグツが容赦なく、その首めがけて刀を振り下ろした。
「・・・危ねぇ」
刃は当たる寸前で停止した。ユウゼンが太刀で止めたのだ。その太刀はどこに隠し持っていたのか?いや、どこにも隠し持っていなどいない、太刀は天から降ってきたのだ。それは神がユウゼンを哀れに思ったため、情けをかけたのでは無い。信頼できる仲間からの受け渡しであった。
「本当に殺されるかと思ったぜ、師匠!」
「武器だと!どこから!?」
「今だ!」
ユウゼンの合図とともに急降下してきたのはクルペッコだった。その背にはカジキとシロギス、そしてぎぎが乗っている。
「速い速い速い!止めてぇ!」
「ユウゼンさん事巻き込んでいいんでしょうか?」
「構わねぇだろ、あいつが言ったんだ」
「何であなた達、平常心なのぉ!?」
『もう始まりましたよ!覚悟を決めてください!行きますよ!』
「皆さん目を瞑って!」
「とっくに瞑ってるわよ!」
ぎぎがそう言った瞬間、クルペッコは翼の先端にある火打石同士をぶつけた。それで発生するのは本来、火属性の軽い爆発だが、今回は違った。辺りは眩い光に包まれた。閃光が発生したのだ。これは白黒種としてクルペッコが進化したからできる技である。だが生じるのは一瞬の隙。それは十分すぎる一瞬だった。
「眩っ!」
「・・・」
地上にいた白黒種達とアカグツは目眩しにあった。事前にその事を知っていたユウゼンは、当然目を瞑っていた。そして次に、ぎぎがクルペッコから飛び降りると同時に大きく息を吸い込む。そして白黒種達の目前で渾身の滅龍ブレスを放つ。
「があぁぁぁぁぁぁ!」
ぎぎの口から赤い雷のような光が、黒いモヤと共に迸る。イビルジョーの滅龍ブレスをも上回る威力だった。
『なんて威力だ!』
「グガァァァァァァ!」
ナルガクルガやディアブロスを含む多くの白黒種が吹っ飛ばされたが、リオレイアとアカグツは何とか耐えていた。ユウゼンも同様に飛ばされてもおかしく無かったが、自身が振るう太刀の剣閃が滅龍ブレスを斬り裂いて、当たるのを防いでいた。
「コイツ!ブレスヲ斬ッタダト!」
「来るぞ!」
「はあぁぁぁ!」
「ヴグッ!」
リオレイアは強烈な斬撃をくらった。それはクルペッコからいつの間にか降りていたカジキの攻撃だった。滅龍ブレスを双剣の刃に受け、威力は強化されている。
「おら!」
一瞬の隙をつき、ユウゼンもアカグツに抜刀術をくらわせる。アカグツはそれを自身の太刀で防いだように見えたが、反応が遅れたのか腹部に傷ができていた。
「初めてかもな師匠に一撃入れたのは」
「ふん、戦いはこっからだろうがよ」
「見事だ」
「案外、嬉シソウダナ」
その後ろからぎぎが合流し、全員で武器を構えた。
そしてシロギスはフラフラになりながらも村人達の元へ降り立った。
「み、みんな大丈夫?」
「シロギスさん!私達は無事です。ですが、ガザミさんとミギマキさんが重傷を負ってます!早く避難させないと」
「どこへ?」
ハンマーを担いだアマエビがゆっくりと近づく。
「アマエビ!今度こそ決着を!」
「まぁ待てよ。どうせここは戦場になる。被検体である善良な村人にここで無駄死にされちゃ、俺達にとっても困る。こいつらを移動させる。場所を変えよう、お前とのケリは、そこでいいだろ?」
「誰がそんな言葉信用できるか!」
「シロギスさん!今は従いましょう!」
「村長さん、だけどこいつは!」
「理屈は通ってます。無駄な争いは極力避けるべきです」
「・・・分かりました。ただし少しでも妙な動きをした瞬間、私はこいつを殺します」
「決まりだな。これで安全は確保されたってか」
村長の先導のもと村人達は移動を開始した。ミギマキとガザミもその場から運び出された。それにアマエビを見張りながらシロギスも同行して行った。
移動を開始してまもなく、戦闘は激化していった。アカグツやリオレイアを直接叩きたかったが、立ちはだかってきたのは、ナルガクルガ、ディアブロス、ウラガンキンの三体の白黒種だった。龍属性効果により弱体化してはいるものの、強化された白黒種の相手は困難だった。
『どうした?そんなもんかハンター共!』
『前よりよっぽど弱っちぃや』
「こいつら!どんだけ体力があるんだ!斬っても斬っても怯まない!」
「属性攻撃が来ねぇから、強化できねぇ!」
ナルガクルガ、ディアブロス両者共、属性攻撃は無かった。それがユウゼンとカジキを追い詰めていた。単純な突進や翼撃で構成された技が二人の特技を潰していた。秘泉水はもう無い。アカグツと戦う前なのに回復薬は底を尽きていた。
「こいつらに手こずってる場合じゃねぇのに!」
ナルガクルガが右前脚を前に出して翼撃の構えを取る。
「来るぞ!」
『しつこいから、さっさと死んで』
離れた場所からひとっ飛びでユウゼンに迫る。
「ぐはっ!」
見切れず、受け流しもできず、まともにくらった。
「ユウゼン!」
『余所見してんじゃねーぜ!』
「あがっ!」
カジキはディアブロスの地中からの突き上げ攻撃で、吹っ飛ばされた。
「カジキさん!今助け」
ぎぎはウラガンキンの相手をしていたが、助けに向かおうとした。だがそれを阻止しに来た、小さなアオアシラの攻撃を受けてしまう。小柄だがまるで拳法家のような動きで、俊敏に攻めてくるアオアシラは、ガンナーであるぎぎにとって不利な相手だった。
「強い!」
負けじと近接格闘(レッグウルフを活かした)で応戦するも、その攻撃は避けられたり、受けられたりして通じなかった。
「このっ!」
レッグウルフの口が開く、噛み付いてアオアシラの動きを止めようとした。それを見切ったアオアシラは、わざと距離を取った。
「何!?」
体勢が崩れる。それを逃さなかったのは、一瞬で後ろに回り込んでいたウラガンキンだった。肥大化した顎による鉄槌が下される。
「ぁ・・・」
地面が陥没する程の威力だった。ぎぎが人間であったなら、即死だっただろう。だが立ち上がれぬ程の大きなダメージになった。三人は確実に追い込まれてしまった。
村人達の避難を終えたシロギスとアマエビは、速攻で戦闘を開始した。打撃武器でもあるシロギスの狩猟笛とアマエビのハンマーが、互いにぶつかり合う。上位ハンター同士で、ここまで互角の勝負を繰り広げられるのは、この二人だけだろう。
「弓使いのお前が、近接で俺に挑むなんてな!何のこだわりだ!」
「あなたを直接叩きたいからよっ!」
本来ならハンターの武器同士を、ぶつけ合う事あってはならない。だからこの勝負が長引けば長引く程、武器の損傷は激しくなる。それでもどちも譲る訳にはいかなかった。戦う理由はただ一つ、守りたいものがあるからだ。
「そろそろバテてきたか!」
「くっ!」
徐々にシロギスが押され始めていた。いくら実力は拮抗していても、攻撃のみに特化したハンマーの方が有利であるのは変わらない。だがそうなる事をシロギスは理解していた。
「オラオラァ!」
「はっ!」
だからこそ、アマエビが調子よくハンマーを振ってくるタイミングを狙っていた。攻撃すると見せ掛け、少し距離をとった。武器を狩猟笛から弓に切り替え、強襲した。近距離から三本同時に矢が放たれる。
「ぐわっ!」
アマエビの胸部に二本命中する。刺さった矢を押さえて、痛そうに後ずさりする。
「下手な芝居はやめて」
「フフフッ!そうだよな。確かに、お前は器用で頭もいい。だがな」
刺さった矢を勢い良く二本引き抜くと、目を見開いて煽るように言い放つ。
「威力不足だ!」
「・・・」
反論はできなかった。その通りである、自分に足りないのはその威力だった。
ユウゼン、カジキ、ぎぎは今、全員戦闘不能だ。傷は深く、立ち上がる事もできない。それでも殺され無かったのは、クルペッコが守っているからだ。だが、それも時間の問題だった。多数の白黒種を同時に相手するには実力不足であった。
『何故、人の味方をする!クルペッコ!』
『そうだよね、無意味なのにさ』
『・・・未来のためです!』
クルペッコの翼による電撃を帯びた電光石による挟撃が、空中から繰り出される。だが俊敏なナルガクルガには当たらない。強靭なディアブロスには通じない。そしてクルペッコは既に手負いである。そのため低空飛行を維持するのも困難になってきた。ついにディアブロスの地中から突き上げで翼に穴が空いてしまう。墜落するクルペッコにナルガクルガの翼刃が追い討ちをかける。片翼を切断された。
『哀れな片翼の天使だね』
『ここまですか・・・』
クルペッコは攻撃と移動の手段を失ってしまった。
「ち、ちぐしょう・・・」
何とか立ち上がろうとするユウゼンだったが、体に力が入らない。
「覚醒ハ起コラナカッタカ」
「・・・」
『それじゃもういいよね、その程度の実力だったんだよ!死んで後悔しな!』
三体の白黒種による同時攻撃がトドメをさすように襲い来る。俺達は負けた。完膚なきまでに叩きのめされたのだ。これが死。だが死はやって来なかった。攻撃は防がれた。
『何!?』
『氷だと!?どうして!?』
突如として現れた氷の障壁がユウゼン達を守ってくれたのだ。
『何者だ!?』
『・・・お前か』
「遅くなってごめん!ユウゼン!」
「ハゼ!?」
空にいたのは白夜刀(ベリオロス)とそれに乗ったハゼ(オトモアイルー)だった。
反撃の狼煙は何度も打ち上がる