モンスターハンター 3rd 白黒の渇望   作:カワード

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 ねぇ お母さん お父さん
どうして 今日の空は暗いの?
僕らは何から 逃げてるの?
恐ろしい災が 来るからさ
炎と氷 雷に龍も
そんなの嫌だよ 怖いよ 辛いよ
どうすれば 逃げれるの?
僅かな光を追って ひたすら追って
生き延びて 今はどんなに辛くても
いつかは 希望にたどり着く
生命を紡いで 愛しい我が子よ

 この歌は終焉から逃げる親子の、その心中を綴ったものである。


26話「終焉の黒龍」

 暗雲が立ち込める中、その災いの中心地である霊峰にて、各地から古龍達が集った。

 あの場所に終焉をもたらす黒龍アルバトリオンがいる。それを倒すため、そして己の命を守るために、対立していた勢力同士が手を組んだ。

 こうする事によって、初めて終焉に立ち向かう勢力となる。

 揃った勢力は三体。

 

原初の飛竜種、覇竜アカムトルム

原初の飛竜種、崩竜ウカムルバス

古龍種、嵐龍アマツマガツチ

 

 同じ場所に揃った彼らは、張り詰めた空気の中、一点を見つめていた。するとそこに変化が生じる。暗雲の奥から天馬のような姿をした、邪悪な影が近づいてくる。

 そして炎、氷、雷、龍、数多の属性を操るアルバトリオンは、今ここに見参した。

 三対一で睨み合、否、そんな間は無い。姿が見えた瞬間、アマツマガツチは高圧水ブレスを繰り出した。

 それに続くようにアカムトルムは、ソニックブラスト(ティガレックスの咆哮の何倍もの威力のある音波ブレス)を繰り出す。

 ウカムルバスも同様に、冷却ブレス(周囲が凍てつく程の氷属性の高密度なブレス)を放つ。

 三体のブレスが一箇所に集中して放たれ、一気に衝突した。

 爆発の後、黒煙が登る中、さらなる猛攻が続く。

 アマツマガツチはもう一度高圧水ブレスを放ちながら突進していく、両サイドからアカムトルムとウカムルバスが、地面を潜行しながら突っ込んでいく。

 アルバトリオンは、それに対し、上空に氷塊を生成して発出させ、アマツマガツチを撃ち落とした。

 右に雷を何発も降らせ、左に炎竜巻をブレスで放つ。

 アルバトリオンの身体は龍属性を纏っているため、他属性の影響を受けづらく、防御力も高い。

 三体の同時攻撃でもダメージは皆無だった。

 アルバトリオンは歩き続ける。

 その移動が世界中の環境をめちゃくちゃにし、多くの生物の命を奪い去っていく。

 アルバトリオンの攻撃をくらっても、なお立ち向かっていく古龍達。

 今度は直接的な攻撃を仕掛ける。

 尾の叩きつけ、両前脚で抑え込む、牙を突き刺す。

 それぞれの攻撃が順番に当たっていく。その周囲の地面に亀裂や、大きな窪みができるほどの地形変動を起こす、強い威力の攻撃だった。

 それらを避けられず、全ての攻撃が当たったが、怯まない。

 だが逆に、アルバトリオンが尻尾を振ると、二体同時にぶっ飛ばされ、奥にあった山に当たった。

 その山はバラバラに崩れ始める。

 残ったウカムルバスが至近距離で冷却ブレスを放つが、炎の竜巻に冷気をかき消された。そして、龍属性を帯びた前脚で殴られる。

 その一撃で山のような巨体が、地面にめりんこんだ。大地が震える。

 この時、アカムトルムは既に次の攻撃を仕掛けていた。

 アルバトリオンの真下の地面が、急激に熱くなる。そして本来ならばありえない現象が起こった。

 火山噴火のように、マグマが吹き出したのだ。アカムトルムは地中に潜って掘り進み、別の火山のマグマを持ってきたのだった。吹き上がったマグマがアルバトリオンを飲み込んだ。

 そしてその上空ではアマツマガツチが、円を描くように空中を旋回していた。周囲の風向きがアマツマガツチに集まっていき、やがてそれは荒れ狂う大竜巻を生み出し、吹き上がったマグマと交わることで、灼熱の溶岩竜巻に変化した。

 アルバトリオンに凄まじい勢いでマグマが当たっていく。

 だがひとたび、翼で叩けば何事も無かったかのように、それは掻き消えた。

 するとアルバトリオンは急に首や尾、翼を丸めてうずくまった。

 そして小刻み震え始める。

 それを見た古龍達は、焦ったように猛攻を開始する。

 噛み付いたり、至近距離でブレスを放ったり、何度も前脚で殴りつけたりした。三体がアルバトリオンにがっちりと取っ組みあった時、その周囲は焦点がズレた双眼鏡のように、目に映るもの全てががぼやけたような光景になった。

 そして、震えとその光景が一瞬だけ元に戻った。

 その刹那、アルバトリオンから龍脈エネルギーが大放出した。風や炎が放出されている訳では無いが、何かしらの物質が勢いよく外側へ動いているのが分かった。何故か古龍達はそこに、立っているだけで精一杯だった。

 数刻で、事態は収まったが古龍達は残らずバタバタと倒れている。その瞳は生気を失っていた。

 これこそアルバトリオンの、絶対にして最強の技、愚かにも抗ってきた、哀れな生命に対する、最後の審判(エスカトンジャッチメント)である。

 倒れた古龍達の身体を踏み歩き、前へ進む。

 さっきまでの壮絶な戦いはまるでなかったかのように、毅然としたまま歩いていた。

「今だ!」

 声を張り上げたのは、ユウゼンだった。その後ろに続くのは、ぎぎとカジキ。

 アルバトリオンが出現した際、一目散に向かっていったが、ぎぎがさっきの最後の審判が発動する前に、膨大なエネルギーの収束を感知しため、警戒して近づかなかった。

 その結果、最後の審判の効果範囲の外にいたため、避けれたのであった。

「あの技をされたら命は無い!」

「あぁ!その前に倒すぞ!」

 最後の審判は、しばらくは発動できない。大きなエネルギーを消費する技だと憶測を立てたのだ。

 だが相手は終焉をもたらす黒龍。

 人智を超えた存在である、三人とはいえ太刀打ちするのは困難である。

「滅龍ブレス!」

 ぎぎは、開幕から滅龍ブレスで弱体化を狙った。それは命中したが、効果があるのかは不明である。

 ユウゼンとカジキが前に出て、同時に斬撃を繰り出す。

「おらっ!何だこれ!?斬れねぇ!」

「それでも斬れ!絶対に倒れるはずだ!」

 古龍達の攻撃にもビクともしなかった甲殻は、当然ユウゼンの斬撃も通さない。即座に反撃が来る。アルバトリオンの周りに氷塊が生成され、射出される。

「避けて!」

「いや!こんな攻撃を避けてたんじゃあ、勝てない!」

「下がってろ!ぎぎ!」

 ユウゼンは自分の方に、四方八方から飛んでくる氷塊を、斬りまくった。

 全てを目視しなくても、どこに来るのか感覚で分かった。

 カジキも同様に斬りまくったが、ある程度のダメージを負ってしまった。

 だがそれが、カジキの力となる。

 二人の剣戟が加速する。飛び交ってくる氷塊の中、着実にアルバトリオンに近づいていった。

「はぁあ!」

「せい!」

 気刃斬りと乱舞で攻める。

 二人の全力の必殺技だ。

 それに対し、アルバトリオンは大技で応戦しようとした。口を開けると、炎がチラつく。それと同時に雷も降り始めた。

「雷とデカい炎が来るぞ!」

「多すぎだろ!」

 ぎぎが二人の後ろから走ってきて、前線に出る。

「させない!」

 顔を殴り、怯ませて炎の竜巻を阻止した。古龍達の猛攻にも怯まなかったアルバトリオンが、この攻撃で初めてたじろぐ。

 降り注ぐ雷が、またしてもカジキに力を与える。

「乱舞!氷雷」

 受けた属性を倍にして返す。カジキの双剣が、氷と雷の双龍が如き剣閃で攻める。その横でユウゼンも、雷を斬りながら気刃斬りで攻めていた。

 三人の攻撃がまたしても、アルバトリオンを怯ませた。

「よし!このままごり押せ!」

「いくら最強の黒龍と言われようとも、奴の正体は生物だ!いつか倒れる!」

 とにかくお互いを奮い立たせた。

 村を守るため、それにアカグツやリオレイアから託された思いも、無駄にはできない。

 この戦いに敗北は許されなかった。だが現状、アルバトリオンは三人の攻撃に怯みつつある。

「気刃斬り!」

「双龍乱舞!」

 攻撃を与えながら、必死に弱点を探していた。そうしていると、アルバトリオンの身体に纏っている龍属性エネルギーの面積が増加した。

「これは!?」

 そのまま翼を広げて、大地を駆ける。三人を薙ぎ倒すように突進してきた。

 ぎぎの一声で気づいたユウゼンとカジキは、とっさに回避する事ができたが、突進が過ぎた直後、後ろ向きのまま尻尾で薙ぎ払ってきた。

「ぐっ!」

「ふんっ!」

「くっ!」

 カジキとユウゼンは、受け流しの構えをとった。攻撃が当たる直前に、ぎぎが二人を支える。

「はぁあああっ!」

 ガチン!と轟音が上がる。

 そして数秒間、拮抗した後、受け流しは成功した。

 攻撃を直接喰らうことは無かったが、そのあまりの衝撃に、三人は別々に吹っ飛ばされしまった。

「なんて力だ!」

「また来ます!」

 氷塊、雷、炎の竜巻。

 離れればこれらの攻撃が一気に襲ってくる。

 だが、ユウゼン達はアルバトリオン相手に決して劣ってはいなかった。攻撃を受け流し、避け、相手の属性攻撃を斬り、吸収し、反撃に出る。

 はたからみれば、古龍達よりも善戦していた。

 それでも決定的な弱点を見つけれずにいたため、戦いの勝敗はつかないままでいた。

「龍脈の穴を見つけるしか、倒す方法は無いのか!」

「いや!必ず倒せる!今は攻撃を続けろ!」

 押されているかもしれないが、戦闘状態は保てている。

 必ずどこかで倒れるだろう。そう思っていた時、アルバトリオンは頭や翼、尾をたたみ始める。

 それを見たぎぎは、最後の審判の構えだと理解した。

「まずい!これはさっき、古龍達を一斉に倒した技です!」

「何!?」

「固まってる!今が攻撃のチャンスだ!」

「ダメです!二人はここから離れて!」

「何言ってんだ!?ぎぎ!」

「今ここで三人とも倒れたら、本当に勝ち目はありません!僕が少しでも長く時間を稼ぎます!」

「お前一人でどうするつもりだ!?」

「僕の心の中にある、凶暴な本能を解放させます。あの時のように、誰彼構わず攻撃して、暴れ回るかもしれませんが。今はこれにかけてみます!」

「止めろ!そんな事したら、お前の心は、もう戻ってこないかもしれないんだぞ!」

「ぎぎ、それだったら俺が時間を稼ぐ!あれが属性攻撃なら、俺は耐えられる!」

 耐えられると言った、カジキだったが、それだけでは意味が無い。

 状況は最悪だった。

 今から三人が一斉に走って逃げたとしても、最後の審判の効果範囲外には逃れられない。

 誰かが残り、最後の審判が発動するまでの時間稼ぎをしなければ、生き残れない。

「もう時間が無い・・・行ってください・・・行け」

「いや、そんなことできるか!」

「行けえ!」

「うわっ!」

「おいっ!何を!?」

 すると、ぎぎは二人を蹴り飛ばし、アルバトリオンの方へ全力疾走した。

「ははは!人生最後の大暴れってか!」

 最後の審判の予備動作をしているアルバトリオンに、デタラメな物理攻撃をやりまくった。

 今のぎぎは、イビルジョーを食った時と同じで、暴走状態(暴食の我)にある。

 満たされぬ食欲の本能のままに生きる。生きるためにアルバトリオンを倒す。その事に全力を注いだ。

「動きがめちゃくちゃだ!あいつ、抑えていた本能を解放しやがった!」

「おい!迷ってる場合か!」

「・・・いや、ダメだ」

「何だと?」

「全く・・・全く怯んでない!」

「クソっ!だったら!」

「ここで仕留めるしかない!」

 そう悟った二人は、攻めるのは今しかないと覚悟した。

「倒れろぉぉおおおおお!」

「はぁあああ!」

 気刃斬り、乱舞、滅龍ブレス、龍属性纏い乱打、抜刀術どの攻撃も、何をしても、最後の審判は止まらない。

 そして周囲はぼやけた景色に変わっていく。

 ダメだ、阻止できなかった。

 

 ユクモ村では、ユウゼン達がどうなったのか、村人達が心配に思っていた。

「もう全てが、手遅れじゃ」

「そんな!まだユウゼンさん達が、戦っています!我々が信じなくてどうするんですか!?」

「ここに残っている人で、アルバトリオンに立ち向かえる奴はおらん」

「ガザミもミギマギ、シロギスも負傷しておる。白夜刀と赤紅は大技の反動で戦えぬ。ワシらにできることはもはや無い」

 精神的に疲弊していたのか、竜人族達が弱音を吐いた。

「でも最後まで戦わないと!どうなるか分からないでしょ!私が龍脈の穴を探してくる!今からそこにみんなで逃げれば、何とかなるんじゃないの!?」

 ハゼは、ユウゼン達に同行しようとしたが、他の人に止められているため、この状況を焦れったく感じていた。

「今更何を頼りに、龍脈の穴を探すつもりじゃ?龍脈の穴が何なのかまだ分かってはおらん。この広い世界で特定するのは不可能じゃろう」

「だからって何よ!弱音ばっか言ってても何も変わらないでしょ!ユウゼン達にばっかり任せてちゃられない!」

「ハゼちゃん。気持ちは分かるわ。でも今はこんな状況なのよ。みんな辛くて当然なの。だけど一人で無茶した所で、状況は変わらないわ」

 シロギスはハゼに諭した。

「今は彼らを信じましょう」

 またしても祈ることしか出来なかった。自分たちは肝心な時に、誰かに託してばかりだ。村長は自身の無力さを恨んだ。

 すると霊峰から何かが歩いてくる。

「ユウゼン・・・?」

「いや・・・奴だ」

 歩いてきたのは絶望だった。

 アルバトリオンは村へゆっくり一歩ずつ、近づいてくる。

「ダメだったのね・・・」

 その時、ザ・モンスターに乗っていたシイラが前に出る。

「こいつの攻撃をありったけ浴びせてみる!みんな離れてろ!・・・あれっ!?おいっ!動けっ!動けって!」

 ザ・モンスターはエネルギーを使い果たしのか、起動しなかった。

「何でこんな時に!」

 そこへ、アルバトリオンが来た方の反対側から、ある人物が歩いてきた。

「それ、予備電源があるんすよ」

「お前は!アイゴ!?」

 それは砂原で気を失っていたはずのアイゴだった。

 自力で目覚め、歩いてここまで戻ってきたのだった。

「選手交代っすよ。あっしならまだそれを動かせるっす」

「動かせるったって、お前今更何をする気だ!」

「何って、終焉を止めるっす。このままじゃ、生命滅んじゃうっすよ?」

 足を引きずりながも、図々しくザ・モンスターのもとへ行き、搭乗席に手をかける。

「本当に、何をするつもりだ?」

「さぁどいた、どいた。まぁ見ててくださいっす。この村には色々と迷惑をかけましたからね〜。せめてもの償いには・・・ならないっすけども。あっしは最初っから、これが目的だったっすからね」

「目的?」

 アイゴが何をするつもりか、分からないが、シイラはしぶしぶ搭乗席から降りた。

「緊急予備電源、作動」

 アイゴがザ・モンスターの、足元にあるスイッチを押すと、バチバチと音を立てながら、背電殻が再起動した。

「ボスもアマエビも、アカグツさんも、皆してあっしを置いていくなんて。全く。あっしにも少しは出番くださいよ。ありったけの攻撃をぶつけてやるっすよ。あぁ今のうちに逃げた方がいいっすよ。広範囲の技になるんでね」

「広範囲の技?」

「えっ!急いで離れないと!」

「そう言って、逃げる訳じゃないよな!」

「逃げる?逃げ場なんてどこにも無いっすよ。終焉は始まった。あっしは無駄だとしても最後まで足掻くっす」

「おい!」

「それじゃ皆さん!来世で会いましょ」

「待て!」

 走り出したザ・モンスターは、全身から属性エネルギーを、溢れさせる。高熱に滾った身体が、赤白く輝いた。

 その光景が彷彿とさせたのは、死を覚悟の自爆特攻であった。

「あいつ、自爆する気だ!」

「どうしてそこまで!?」

「ボス・・・死ぬのは、やっぱり怖いっす。だから、本当は生きてて、そばで見守って欲しかったなぁ・・・うおぁぁぁぁぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」

 アイゴは叫んだ。

 叫びながらザ・モンスターともに、アルバトリオンに突っ込んでいく。

 そして、衝突の瞬間、爆音とともに凄まじい衝撃波が発生した。

「隠れろ!衝撃が・・っうわぁぁぁぁぁ!」

 それを見ていた全員が吹っ飛ばされた。しばらくは誰も起き上がれなかったが、一番最初にシロギスが目を覚ました。

「・・・痛い・・・どう・・・なったの?」

 暗雲と黒煙のせいで見えづらいが、迫り来る絶望の足音は聞こえてこなかった。

「っ!アルバトリオンは!?」

 歩けないため、這いずりながら少し近づいた。場所は遠かったが、アルバトリオンの影が見える。

「・・・やった」

 そこには、爆発に巻き込まれ、口を開けたまま倒れていたアルバトリオンがいた。

 全身から煙が立ち上り、竜骨が見えるほどの痛々しい傷が見えていた。

「古龍達が、ユウゼン達が、あの自爆が、全ての攻撃が効いていたのね。じゃなきゃコイツは倒せなかった。でも、これでようやく・・・何!?」

 アルバトリオンの体の周りが震えだす。

 それに共鳴するように、大地から龍脈エネルギーが、倒れているアルバトリオンに収集してくる。

 龍脈エネルギーの流れは次第に増えていった。

「これは・・・!?」

 アルバトリオンは目を覚ました。

 身体の傷が癒え、ゆっくり立ち上がった。

 そして絶望は歩み始める。終焉は止まらない。

「・・・嫌だ」

「シロギス!離れるんじゃ!」

「こんなのって!」

「逃げろ!」

 嘆き、俯くシロギスに、遠くから語りかける。

 ハゼを諭し、誰よりも状況を理解しているように見えた彼女だったが、その精神は他の誰よりも深刻だった。

 白黒種の脅威は去った。だが終焉の運命は変えられず、逃れる事はできない。どうして私たちが?どうして滅びるの?

「どう・・・して・・」

 この終焉に、いつの時代の誰が直面しても、シロギスのように悲しみにくれ、声枯れるまで嘆くだろう。

 だけど、どうして私達なのだろうか?私達が何を犯したのか?立てず座った状態のシロギスに対して、目の前のアルバトリオンは沈黙していた。

 だが確実に一歩ずつ近づいてくる。

 落雷が真横に発生したが、今更どうでもよかった。

 白夜刀と赤紅、クルペッコが最後の力を振り絞って、勇猛果敢に攻撃を仕掛けるも、意味は無い。

 そして呆気なく返り討ちにあって、動かなくなった。

 絶望は止まらない。

吹雪が頬を切り裂いた。

 絶望は止まらない。

炎が村を焼き尽くす。

 絶望は止まらない。

落雷に村人達が撃たれる。

 絶望は止まらない。

 止まらない。

 止まらない。

 止まらな・・・。

 気が付くとアルバトリオンは、目の前まで迫っていた。

 近くまで来ると、想像よりずっと大きい。誰も乗り越えることが不可能な絶壁にも見える。

 前脚の禍々しい逆鱗が奇妙に脈打つ。

 歩いてくるまでに様々な災害が起こったが、運悪くどれも的外れだった。けど、私は今ここで死ぬ。

「あぁ・・・どうせ死ぬら、最後くらい、せめてこの世に産まれてきたことに、感謝しながら死にたいな」

アルバトリオンは脚を上げる。踏み潰されるんだ、きっと。

 恐怖で目を瞑った。

 私は、後悔してない。たとえ今日絶望的な死を迎えたとしても。生きた意味はきっとあった。

 真実を知れたから。

 それだけで十分だった。

 今日までありがとう。皆。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 目を閉じてからどれくらいたったのだろうか?そこからは何も変わらない。

 もはや痛みも何も感じなくなっていた?

 いや、落雷も暴風も吹き上がる炎の音も、まだ聞こえてくる。

 身体は・・・まだ動く。ゆっくりと目を開くと、振り上げた脚は、自分の上で止まっていた。

「・・・止まっ・・・た?」

 アルバトリオンが進行し始めてから、今初めて止まったのである。

 

絶望が止まったのである。




絶望は止まらない?
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