だが今、絶望が
止まった。
「止まっ・・・た」
何をしても、どんな攻撃を受けても、決して止まることのなかったアルバトリオンの歩は、シロギスの前で、停止した。
振り降ろした脚は、頭上で止まっている。
「どうして・・・熱っ!?」
すると急に後ろから熱波を感じた。
アルバトリオンが出現してから気温は安定してなかったが、シロギスが感じたのは、まるで今にも噴火しそうな火山の火口に、いるような状態だった。
「シロギス!手を掴むんじゃ!」
「どうなってるの!?」
咄嗟に差し伸べられたモクジの手を掴んだ。足を動かせないシロギスは抱えられたまま、その場から離れる。
「これは!?」
「どうして突然、溶岩溜りが湧きおった?アカムトルムが生きておったか!?」
「いや、モクジ。これはただの溶岩溜りでは無い!」
シロギスがいた場所の周りを、穴が侵食するように広がっていく。
「では、何じゃ!?」
「ワシは知っておる!これは、龍脈の穴じゃ!間違い無い!」
「どうして!?龍脈の穴は塞がったんじゃなかったの!?マスターが調査して、そう言ったじゃない!」
「確かに、塞がっていくのをこの目で見た。じゃが、今目の前に顕在しているのは、ワシが砂原で見たものと全く同じじゃ!」
「何故そう言える!?」
「奴が、アルバトリオンが歩みを止めた!これ以上の理由が必要か!?」
マスターの言った通り、アルバトリオンは停止したまま動かない。
そしてすぐに踵を返して、その穴に背を向けた。
「本当じゃ・・・信じられん」
「どんな攻撃を受けても、決して止まることがなかったアルバトリオンが、止まった?」
進行方向を反転させ、来た道を帰ろうとしたその時、アルバトリオンに、刃を突き立てる。
「やっと理解できたぜ」
「ユウゼン!?」
「生きておったか!?」
「龍脈の穴は出現場所が不明。その理由は古龍の死に関係ありました。龍脈の穴の発生条件は、古龍の死です」
「ぎぎ!」
「アルバトリオンは、最後、龍脈の穴に落ちて消息不明になったんだよな」
「カジキ!」
「龍脈エネルギーの恩恵を受けた師匠が、この場所で死を迎えた。その死はただの死じゃねぇ。古龍の死と同等だったんだ。だから龍脈の穴の発生条件を満たしたんだ!」
古龍と同等の力を有していたアカグツは、その壮大な死を迎えることにより、龍脈の穴を出現させていた。
龍脈の穴は、アルバトリオンが消息をたった場所。過去の出来事を思い出したのか、その場から離れようとしていた。
「龍脈の穴に落とすぞ!」
「あぁ!」
「はい!」
三人がアルバトリオンに武器を押し付ける。そこから龍脈の穴に落とそうと、物理的に押し始める。
「押せぇ!」
技を繰り出すこともせず、三人は押し続けた。
それは本来なら、アルバトリオンにとって、簡単に振りほどける攻撃のはずだが、現状つんのめりながら、押し込まれている。
「押されてる!」
「このまま押し込めそうじゃ!」
だが三人は徐々に押し返され始める。
「やっぱ強ぇ!」
「諦めんな!」
「はい!」
アルバトリオンもユウゼン達も苦悶の表情を浮かべながら、押しあっている。ここまで来て絶対負けてたまるか。
「はぁあああ!」
「ええぇぇい!」
「見てらんないわねっ!全く!」
「シロギスさん!ハゼ!」
「絶対に落とすわよ!」
「俺も忘れんなよっ!」
「よし!力を合わせるぞ!」
シロギスとハゼ、それにシイラが、ユウゼン達の方へ回りこみ、加勢した。
それはハンター三人の微力な力かもしれない、それでも今日まで一緒に戦いってきた仲間だ。そばに居るだけでも力がみなぎってくる。
「押せぇぇぇぇぇ!」
「うおおぉぉぉぉぉ!」
「ワシらも見てるだけじゃ、いかんぞ!」
「そうだべな!」
五人の竜人族が加勢に入る。
力など微々たるものかもしれない、それでも十分だった。
加勢はどんどん増えていく。
村人、ギルドナイト、アイルー、白夜刀、赤紅。収まならない厄災の最中、終焉を阻止するため、数多くの生命が集まった。
種族も形も様々な生命たちが一丸となって、アルバトリオンを龍脈の穴に押し込もうとしている。
ユウゼン達の背を押す者は、その後ろで別の誰かに、別の命に支えられていた。その後ろにも、そのまた後ろにも、命が重なり合っていた。
これは、足掻きだ。
全ての生命が生き残るための、本能的な行動なのだ。
どれだけ足掻いた所で、運命は決まっている。
そうかもしれない。
だからといって、足掻く事を止めてしまえば、絶望に飲まれてしまう。どんなに絶望的な状況でも、足掻き続けることで希望は生まれるのだ。
幾つのも生命が一同に足掻くことで、織り成す一本の刃が、今、終焉を止めようとしていた。
「これが俺達の、生命の足掻きだぁぁぁぁぁぁ!」
ジリジリと、地面を抉りながら少しづに龍脈の穴に近づいていった。
そして、後脚が穴に落ち、抵抗力が一気に弱まった。
「もう一押し!」
押せ
押せ
押し込め
希望を掴め
この忌々しい運命を変えろ。
終焉の阻止は目の前だった。だがその時、押していた全員の体勢が崩れる。
「うわっ!」
アルバトリオンは落ちる直前で空へ飛んで、回避した。そこから滅龍ブレスで反撃しようとしていた。
「上だ!」
「させるかぁ!」
「ユウゼン!?」
白夜刀の背に乗り、空中のアルバトリオンを追う。
そして、アルバトリオンより高く昇り、抜刀術で叩き落とそうとした。
「終わりだ!」
神速の剣閃が、空を斬るとバチバチと雷のような破裂音が鳴る。そして衝突、その天をつらぬく角に見事叩き込んだ。
角が折れ、怯むと同時に、羽ばたきが硬直した。
そのまま龍脈の穴へ落下する、ユウゼンとアルバトリオン。
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「ユウゼンさぁぁぁぁん!」
ぎぎが手を伸ばしても、落ちゆくユウゼンの手を掴む事は出来なかった。
暗雲は晴れ、しばらくの間、その場を静寂が支配した。
ぎぎが龍脈の穴を覗き込んでも、そこにユウゼンの姿は無い。
「・・・ユウゼンさん・・・」
「ぎぎ、あいつも覚悟の上だ・・・バカ野郎が!」
「カジキ・・・ユウゼンだけじゃねぇ、アルバトリオンを倒すために、犠牲になったやつは沢山いる。敵だったりもしたが、奴らもいたから終焉を食い止めることできたんだ」
この勝利は多くの生命の犠牲の上に成り立っている。
だけど、その英雄であるユウゼンが、こんな形で終わってしまっていいのだろうか?そう思う者が多くいた。
生きていれば多くの者に讃えられただろう。
そして何よりそれを認めれない者がいた。
定められた運命に抗い、自らの意思で現代を生き抜く男、ユウゼンだ。
龍脈の穴に落ちても、その意思は揺るがなかった。
龍脈の穴からパシャっと手を着く音が聞こえる。
「今のは!?」
「・・・あぁ」
なんと、龍脈の穴からユウゼンが這い出てきたのだ。
「なんと!あの龍脈の穴から出てきたじゃと!?」
「ユウゼンさん!熱っ!無事だったんですね!」
「へっ、タフな野郎だぜ」
「ぎぎ・・・奴は・・・アルバトリオンは・・・」
ユウゼンは身体から蒸気を発しており、しんどそうに俯きながらも、生きていた。
「龍脈の穴に落ちていきました!僕たちの勝利です!」
「・・・あぁ、奴は消えた」
「消えた?」
「龍脈の中で溶け込むように、消えていったんだ」
「え!?それじゃあ、アルバトリオンは、まだ生きてる!?」
「分からない。だけど、当分は出てこないだろう。相当なダメージを負ったからな。ぎぎ、俺たちの勝利だ!それに変わりはないぜ!」
「ユウゼンさん!」
「さて、生き残った者は、この戦いの犠牲者を弔おうぞ。そしてこの戦いの勝利に祝い、杯を酌み交わすぞ!」
「そうね!」
「そうじゃのぉ!」
「待て!破壊された村の復旧を急がねば!今日の寝床も無いんじゃぞ!」
「そんな細かいこと気にすんじゃねぇぜ!モクジィ!」
多くの犠牲が勝利をもたらした。村に喜びと悲しみが、沸き起こった。
犠牲になった村人達と、敵ながらも生命を守ろうとした白黒種。
その弔いの儀式が行われる。
亡くなったハンターや、白黒種モンスターの遺体を集めて、火葬を始める。
炎を見つめながらそれぞれの思いを語り合う。
「師匠。勝ったぜ、俺達」
「えぇ、もうダメかと思いました」
「一つ、聞いてもいい?あの時、アルバトリオンはこっちに向かっていた。私はユウゼン達が、てっきり負けたものだと思ったんだけど、後から助けに来てくれた。一体何があったの?」
「奴の放った大技で、僕たちは戦闘不能になりました。ですが気が付くと立ち上がっていたんです。急いで後を追いかけましたよ」
「俺はあの感覚に覚えがあるぜ」
「カジキ?」
「秘泉水の極みだ。水没林で健磐竜(ドボルベルク)が、その命と引き換えに俺たちの傷を完全回復させた技。それに似た感覚だった」
「アルバトリオンは、アイゴのあの変な乗り物の自爆に巻き込まれて、一度倒れたの。でも、何事も無かったかのように、立ち上がったわ」
「恐らく、古龍や俺たちとの戦いによるダメージが原因で倒れたんだ。そのダメージを癒すために、龍脈エネルギーを収集させたのかもしれない」
「その龍脈エネルギーの収集が、何故か僕らに作用したってことですか?」
「推測だがな」
「不思議ですね」
「どっちでもいいぜ。奇跡だったって事だろ」
「そうね。あなた達が無事で良かったわ」
「この戦いの記憶は、人々にとって恐怖でしかない。だから、時間が経てばいずれ忘れ去られるだろうな」
「そうですね」
「だが、アルバトリオンは、終焉はまたやって来る。それがいつなのか分からないが、俺はこの戦いの記憶が絶対必要になってくると思う。そのためにも、この戦いを語り継がなければならい。どんなに怖くても、知らなければならない」
「ユウゼンさん・・・語り継ぐ、それも僕らの役目ですね」
「あぁ」
「そう言えば、これが役に立ちそうですね」
ぎぎが懐から取りだしたのは、禍々しい七色の逆鱗だった。
「奴の逆鱗か!?」
「えぇ、僕の口に入ってました」
「口に!?」
「暴走して、噛み付いてたらしくて・・・多分その時に」
「なるほどな。そいつが、変化した時・・・奴が復活する」
「これは、僕が肌身離さず持ってます。この戦いの結果を各地に伝えに行きます」
「分かった。頼んだ」
「村の復旧も、忘れないでね」
揺らめく炎が、戦いを終えたハンター達の心を温める。
終焉を阻止するために、全生命が一丸となって足掻いた。それが奇跡を起こしたのだ。
アルバトリオンの最後の審判、この技は古龍やユウゼン達を一瞬で戦闘不能にしたが、命までは落とさなかった。
それは、アルバトリオンが古龍の死を恐れていたからだ。
古龍の死は龍脈の穴の出現に繋がる。自らを消滅させたことがある龍脈の穴の出現を、防ぐための技でもあった。
だが、脅威が完全に消え去った訳では無い。アカグツが倒した時と同じように、時間が経てばまた復活するだろう。
そう、歴史は繰り返す。いつかまた、終焉は再び訪れるだろう。
ユウゼン達とアルバトリオンとの戦いから二百年後、ユクモ村はかつての惨劇など、何事も無かったかのように復旧していた。
龍脈の穴に落ちたユウゼンは、アカグツと同じように長寿になっており、正体を隠しながらひっそりと生きていた。
「だから、お前たちはただ闇雲にモンスターを狩っていけばいいって訳じゃないんだ。重要なのは・・・」
「はいはい、分かりましたって」
「おい、お前ら!話を最後まで聞けって!」
「大丈夫っすよ。金さえ貰えればね。考え方が古いんすよ」
ユウゼンはハンター教官として、教えを説いていた。だが若き教え子らは話をまともに聞かず、適当に受け流して去っていく。
「やっぱり、ダメか・・・」
「おじさん!また話し聞かせて!」
駆け寄ってきたのは、年端もいかない幼き少年だった。
「おいおい、また聞きたいのか?物好きだな!全部聞いたのに?」
「長すぎて最初の方、忘れちゃった!もう一回聞かせて!」
「はははっ!そうだよな!長かったよな!よしいいぜ!」
「わーい!」
「だからもう一度、言っておくが大切なのは、真実かどうかより・・・騒がしいな」
騒ぎは村の入口から聞こえてきた。
「どうしたの?」
「何か来たみたいだ。ちょっと行ってくるよ。今日はもう家に帰ってな」
「・・・はぁい」
少年は話を聞けず、しぶしぶ帰っていった。
ユウゼンが騒ぎの方へ近づいて行くと、村人がどんどん逃げてくるため、急いだ。
「村に大量のモンスターが!?」
「一体どこから現れたんだ!?」
「こんな数、村のハンターだけじゃ対処出来ないわ!」
「・・・白黒種。まさかな」
昔の記憶が甦ったが、とっくの前に白黒種は滅びている。
奴らでは無い。そう思って辿り着いてみると、思わず声を出してしまった。
「いや、白黒種じゃねぇか!?」
「おい!ジジィ教官!なぜここに来た!?早く逃げろ!」
その事態に対処していたのは、ユウゼンの話を愚弄した、若き教え子ハンターであった。
「なんだコイツら!?リオレウスやクルペッコにウラガンキン。見た事あるモンスターばっかりだが、身体の色が全員白黒だ!気味が悪ぃ!」
「あぁ!それにこいつら、さっきから村の入口で鎮座して全然動かねぇ!一体何がしてぇんだ!?」
「お前たち、手出するな!」
「出すわけねぇだろ!この数だ!」
「こいつらは滅んだはず・・・」
「おい!待てって!」
ユウゼンは静止を無視して前に出る。すると、白黒種モンスターの群れの中から人影が覗いてきた。
「まだこの村に居たんですね」
「その声は・・・」
聞き覚えのある声だった。
やがて、全身が見えると、それは確信に変わる。
濃い緑の体色、顎に幾つもの生え揃った黄色い突起物。
二百年ぶりに会った。
「ぎぎ・・・生きていたのか」
「ユウゼンさん。話があります」
ぎぎは、七色の逆鱗を差し出す。その紋様は禍々しく、脈々と変動していた。
終わり。
終わりでぇぇぇぇぇす!
完結したァぁぁぁぁあ
ありがとうございましたぁ!