モンスターハンター 3rd 白黒の渇望   作:カワード

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止まらない絶望、終焉の運命。これらを、生命が変化させることはできないだろう。その事実は人々に恐怖を与え、生きる希望を奪うだろう。終焉は全てを奪うだろう。絶望の歩みは決して止まらない。止まることは無かった。
だが今、絶望が
止まった。


最終話「足掻き」

 「止まっ・・・た」

 何をしても、どんな攻撃を受けても、決して止まることのなかったアルバトリオンの歩は、シロギスの前で、停止した。

 振り降ろした脚は、頭上で止まっている。

「どうして・・・熱っ!?」

 すると急に後ろから熱波を感じた。

 アルバトリオンが出現してから気温は安定してなかったが、シロギスが感じたのは、まるで今にも噴火しそうな火山の火口に、いるような状態だった。

「シロギス!手を掴むんじゃ!」

「どうなってるの!?」

 咄嗟に差し伸べられたモクジの手を掴んだ。足を動かせないシロギスは抱えられたまま、その場から離れる。

「これは!?」

「どうして突然、溶岩溜りが湧きおった?アカムトルムが生きておったか!?」

「いや、モクジ。これはただの溶岩溜りでは無い!」

 シロギスがいた場所の周りを、穴が侵食するように広がっていく。

「では、何じゃ!?」

「ワシは知っておる!これは、龍脈の穴じゃ!間違い無い!」

「どうして!?龍脈の穴は塞がったんじゃなかったの!?マスターが調査して、そう言ったじゃない!」

「確かに、塞がっていくのをこの目で見た。じゃが、今目の前に顕在しているのは、ワシが砂原で見たものと全く同じじゃ!」

「何故そう言える!?」

「奴が、アルバトリオンが歩みを止めた!これ以上の理由が必要か!?」

 マスターの言った通り、アルバトリオンは停止したまま動かない。

 そしてすぐに踵を返して、その穴に背を向けた。

「本当じゃ・・・信じられん」

「どんな攻撃を受けても、決して止まることがなかったアルバトリオンが、止まった?」

 進行方向を反転させ、来た道を帰ろうとしたその時、アルバトリオンに、刃を突き立てる。

「やっと理解できたぜ」

「ユウゼン!?」

「生きておったか!?」

「龍脈の穴は出現場所が不明。その理由は古龍の死に関係ありました。龍脈の穴の発生条件は、古龍の死です」

「ぎぎ!」

「アルバトリオンは、最後、龍脈の穴に落ちて消息不明になったんだよな」

「カジキ!」

「龍脈エネルギーの恩恵を受けた師匠が、この場所で死を迎えた。その死はただの死じゃねぇ。古龍の死と同等だったんだ。だから龍脈の穴の発生条件を満たしたんだ!」

 古龍と同等の力を有していたアカグツは、その壮大な死を迎えることにより、龍脈の穴を出現させていた。

 龍脈の穴は、アルバトリオンが消息をたった場所。過去の出来事を思い出したのか、その場から離れようとしていた。

「龍脈の穴に落とすぞ!」

「あぁ!」

「はい!」

 三人がアルバトリオンに武器を押し付ける。そこから龍脈の穴に落とそうと、物理的に押し始める。

「押せぇ!」

 技を繰り出すこともせず、三人は押し続けた。

 それは本来なら、アルバトリオンにとって、簡単に振りほどける攻撃のはずだが、現状つんのめりながら、押し込まれている。

「押されてる!」

「このまま押し込めそうじゃ!」

 だが三人は徐々に押し返され始める。

「やっぱ強ぇ!」

「諦めんな!」

「はい!」

 アルバトリオンもユウゼン達も苦悶の表情を浮かべながら、押しあっている。ここまで来て絶対負けてたまるか。

「はぁあああ!」

「ええぇぇい!」

「見てらんないわねっ!全く!」

「シロギスさん!ハゼ!」

「絶対に落とすわよ!」

「俺も忘れんなよっ!」

「よし!力を合わせるぞ!」

 シロギスとハゼ、それにシイラが、ユウゼン達の方へ回りこみ、加勢した。

 それはハンター三人の微力な力かもしれない、それでも今日まで一緒に戦いってきた仲間だ。そばに居るだけでも力がみなぎってくる。

「押せぇぇぇぇぇ!」

「うおおぉぉぉぉぉ!」

「ワシらも見てるだけじゃ、いかんぞ!」

「そうだべな!」

 五人の竜人族が加勢に入る。

 力など微々たるものかもしれない、それでも十分だった。

 加勢はどんどん増えていく。

 村人、ギルドナイト、アイルー、白夜刀、赤紅。収まならない厄災の最中、終焉を阻止するため、数多くの生命が集まった。

 種族も形も様々な生命たちが一丸となって、アルバトリオンを龍脈の穴に押し込もうとしている。

 ユウゼン達の背を押す者は、その後ろで別の誰かに、別の命に支えられていた。その後ろにも、そのまた後ろにも、命が重なり合っていた。

 

 これは、足掻きだ。

 全ての生命が生き残るための、本能的な行動なのだ。

 どれだけ足掻いた所で、運命は決まっている。

 そうかもしれない。

 だからといって、足掻く事を止めてしまえば、絶望に飲まれてしまう。どんなに絶望的な状況でも、足掻き続けることで希望は生まれるのだ。

 

 幾つのも生命が一同に足掻くことで、織り成す一本の刃が、今、終焉を止めようとしていた。

「これが俺達の、生命の足掻きだぁぁぁぁぁぁ!」

 ジリジリと、地面を抉りながら少しづに龍脈の穴に近づいていった。

 そして、後脚が穴に落ち、抵抗力が一気に弱まった。

「もう一押し!」

 

 押せ

 

 押せ

 

 押し込め

 

 希望を掴め

 

 この忌々しい運命を変えろ。

 終焉の阻止は目の前だった。だがその時、押していた全員の体勢が崩れる。

「うわっ!」

 アルバトリオンは落ちる直前で空へ飛んで、回避した。そこから滅龍ブレスで反撃しようとしていた。

「上だ!」

「させるかぁ!」

「ユウゼン!?」

 白夜刀の背に乗り、空中のアルバトリオンを追う。

 そして、アルバトリオンより高く昇り、抜刀術で叩き落とそうとした。

「終わりだ!」

 神速の剣閃が、空を斬るとバチバチと雷のような破裂音が鳴る。そして衝突、その天をつらぬく角に見事叩き込んだ。

 角が折れ、怯むと同時に、羽ばたきが硬直した。

 そのまま龍脈の穴へ落下する、ユウゼンとアルバトリオン。

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

「ユウゼンさぁぁぁぁん!」

 ぎぎが手を伸ばしても、落ちゆくユウゼンの手を掴む事は出来なかった。

 暗雲は晴れ、しばらくの間、その場を静寂が支配した。

 ぎぎが龍脈の穴を覗き込んでも、そこにユウゼンの姿は無い。

「・・・ユウゼンさん・・・」

「ぎぎ、あいつも覚悟の上だ・・・バカ野郎が!」

「カジキ・・・ユウゼンだけじゃねぇ、アルバトリオンを倒すために、犠牲になったやつは沢山いる。敵だったりもしたが、奴らもいたから終焉を食い止めることできたんだ」

 この勝利は多くの生命の犠牲の上に成り立っている。

 だけど、その英雄であるユウゼンが、こんな形で終わってしまっていいのだろうか?そう思う者が多くいた。

 生きていれば多くの者に讃えられただろう。

 そして何よりそれを認めれない者がいた。

 定められた運命に抗い、自らの意思で現代を生き抜く男、ユウゼンだ。

 龍脈の穴に落ちても、その意思は揺るがなかった。

 龍脈の穴からパシャっと手を着く音が聞こえる。

「今のは!?」

「・・・あぁ」

 なんと、龍脈の穴からユウゼンが這い出てきたのだ。

「なんと!あの龍脈の穴から出てきたじゃと!?」

「ユウゼンさん!熱っ!無事だったんですね!」

「へっ、タフな野郎だぜ」

「ぎぎ・・・奴は・・・アルバトリオンは・・・」

 ユウゼンは身体から蒸気を発しており、しんどそうに俯きながらも、生きていた。

「龍脈の穴に落ちていきました!僕たちの勝利です!」

「・・・あぁ、奴は消えた」

「消えた?」

「龍脈の中で溶け込むように、消えていったんだ」

「え!?それじゃあ、アルバトリオンは、まだ生きてる!?」

「分からない。だけど、当分は出てこないだろう。相当なダメージを負ったからな。ぎぎ、俺たちの勝利だ!それに変わりはないぜ!」

「ユウゼンさん!」

「さて、生き残った者は、この戦いの犠牲者を弔おうぞ。そしてこの戦いの勝利に祝い、杯を酌み交わすぞ!」

「そうね!」

「そうじゃのぉ!」

「待て!破壊された村の復旧を急がねば!今日の寝床も無いんじゃぞ!」

「そんな細かいこと気にすんじゃねぇぜ!モクジィ!」

 多くの犠牲が勝利をもたらした。村に喜びと悲しみが、沸き起こった。

 犠牲になった村人達と、敵ながらも生命を守ろうとした白黒種。

 その弔いの儀式が行われる。

 亡くなったハンターや、白黒種モンスターの遺体を集めて、火葬を始める。

 炎を見つめながらそれぞれの思いを語り合う。

「師匠。勝ったぜ、俺達」

「えぇ、もうダメかと思いました」

「一つ、聞いてもいい?あの時、アルバトリオンはこっちに向かっていた。私はユウゼン達が、てっきり負けたものだと思ったんだけど、後から助けに来てくれた。一体何があったの?」

「奴の放った大技で、僕たちは戦闘不能になりました。ですが気が付くと立ち上がっていたんです。急いで後を追いかけましたよ」

「俺はあの感覚に覚えがあるぜ」

「カジキ?」

「秘泉水の極みだ。水没林で健磐竜(ドボルベルク)が、その命と引き換えに俺たちの傷を完全回復させた技。それに似た感覚だった」

「アルバトリオンは、アイゴのあの変な乗り物の自爆に巻き込まれて、一度倒れたの。でも、何事も無かったかのように、立ち上がったわ」

「恐らく、古龍や俺たちとの戦いによるダメージが原因で倒れたんだ。そのダメージを癒すために、龍脈エネルギーを収集させたのかもしれない」

「その龍脈エネルギーの収集が、何故か僕らに作用したってことですか?」

「推測だがな」

「不思議ですね」

「どっちでもいいぜ。奇跡だったって事だろ」

「そうね。あなた達が無事で良かったわ」

「この戦いの記憶は、人々にとって恐怖でしかない。だから、時間が経てばいずれ忘れ去られるだろうな」

「そうですね」

「だが、アルバトリオンは、終焉はまたやって来る。それがいつなのか分からないが、俺はこの戦いの記憶が絶対必要になってくると思う。そのためにも、この戦いを語り継がなければならい。どんなに怖くても、知らなければならない」

「ユウゼンさん・・・語り継ぐ、それも僕らの役目ですね」

「あぁ」

「そう言えば、これが役に立ちそうですね」

 ぎぎが懐から取りだしたのは、禍々しい七色の逆鱗だった。

「奴の逆鱗か!?」

「えぇ、僕の口に入ってました」

「口に!?」

「暴走して、噛み付いてたらしくて・・・多分その時に」

「なるほどな。そいつが、変化した時・・・奴が復活する」

「これは、僕が肌身離さず持ってます。この戦いの結果を各地に伝えに行きます」

「分かった。頼んだ」

「村の復旧も、忘れないでね」

 揺らめく炎が、戦いを終えたハンター達の心を温める。

 終焉を阻止するために、全生命が一丸となって足掻いた。それが奇跡を起こしたのだ。

 アルバトリオンの最後の審判、この技は古龍やユウゼン達を一瞬で戦闘不能にしたが、命までは落とさなかった。

 それは、アルバトリオンが古龍の死を恐れていたからだ。

 古龍の死は龍脈の穴の出現に繋がる。自らを消滅させたことがある龍脈の穴の出現を、防ぐための技でもあった。

 だが、脅威が完全に消え去った訳では無い。アカグツが倒した時と同じように、時間が経てばまた復活するだろう。

 そう、歴史は繰り返す。いつかまた、終焉は再び訪れるだろう。

 

 ユウゼン達とアルバトリオンとの戦いから二百年後、ユクモ村はかつての惨劇など、何事も無かったかのように復旧していた。

 龍脈の穴に落ちたユウゼンは、アカグツと同じように長寿になっており、正体を隠しながらひっそりと生きていた。

「だから、お前たちはただ闇雲にモンスターを狩っていけばいいって訳じゃないんだ。重要なのは・・・」

「はいはい、分かりましたって」

「おい、お前ら!話を最後まで聞けって!」

「大丈夫っすよ。金さえ貰えればね。考え方が古いんすよ」

 ユウゼンはハンター教官として、教えを説いていた。だが若き教え子らは話をまともに聞かず、適当に受け流して去っていく。

「やっぱり、ダメか・・・」

「おじさん!また話し聞かせて!」

 駆け寄ってきたのは、年端もいかない幼き少年だった。

「おいおい、また聞きたいのか?物好きだな!全部聞いたのに?」

「長すぎて最初の方、忘れちゃった!もう一回聞かせて!」

「はははっ!そうだよな!長かったよな!よしいいぜ!」

「わーい!」

「だからもう一度、言っておくが大切なのは、真実かどうかより・・・騒がしいな」

 騒ぎは村の入口から聞こえてきた。

「どうしたの?」

「何か来たみたいだ。ちょっと行ってくるよ。今日はもう家に帰ってな」

「・・・はぁい」

 少年は話を聞けず、しぶしぶ帰っていった。

 ユウゼンが騒ぎの方へ近づいて行くと、村人がどんどん逃げてくるため、急いだ。

「村に大量のモンスターが!?」

「一体どこから現れたんだ!?」

「こんな数、村のハンターだけじゃ対処出来ないわ!」

「・・・白黒種。まさかな」

 昔の記憶が甦ったが、とっくの前に白黒種は滅びている。

 奴らでは無い。そう思って辿り着いてみると、思わず声を出してしまった。

「いや、白黒種じゃねぇか!?」

「おい!ジジィ教官!なぜここに来た!?早く逃げろ!」

 その事態に対処していたのは、ユウゼンの話を愚弄した、若き教え子ハンターであった。

「なんだコイツら!?リオレウスやクルペッコにウラガンキン。見た事あるモンスターばっかりだが、身体の色が全員白黒だ!気味が悪ぃ!」

「あぁ!それにこいつら、さっきから村の入口で鎮座して全然動かねぇ!一体何がしてぇんだ!?」

「お前たち、手出するな!」

「出すわけねぇだろ!この数だ!」

「こいつらは滅んだはず・・・」

「おい!待てって!」

 ユウゼンは静止を無視して前に出る。すると、白黒種モンスターの群れの中から人影が覗いてきた。

「まだこの村に居たんですね」

「その声は・・・」

 聞き覚えのある声だった。

 やがて、全身が見えると、それは確信に変わる。

 濃い緑の体色、顎に幾つもの生え揃った黄色い突起物。

 二百年ぶりに会った。

「ぎぎ・・・生きていたのか」

「ユウゼンさん。話があります」

 ぎぎは、七色の逆鱗を差し出す。その紋様は禍々しく、脈々と変動していた。

 

終わり。




終わりでぇぇぇぇぇす!
完結したァぁぁぁぁあ
ありがとうございましたぁ!
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