「ぎぎ、お前の元に向かう途中で俺は大きな音が聞こえたんだ」
「大きな音ですか?」
「その音の方へ行ってみたら、そこにはバラバラに砕けてた氷結晶があったんだ。それで運良く俺が探していた氷結晶の欠片が転がってたんだが、今考えると、あの黒い翼のモンスターの仕業なのかもしれねぇ」
「何故、氷結晶を砕いたのでしょうか?」
「さぁな、検討もつかねぇ」
「それにしても、はぁ〜やっと食べれる!」
「食べれる?」
「ギギネブラの肉はずっと食べてみたかったんですよ!」
「マジで!?こいつを食おうってのか!?」
「ユウゼンさんも、そう思いません?」
「まさか、ギギネブラを狩猟したい理由って」
「もちろん、食べたいからですよ。食用は店では買えませんからね」
「お、おう」
その後ぎぎが、その辺に転がっているギギネブラの肉片を直に食べようとしたが、ユウゼンが阻止した。そしてその肉片は二人で回収して村に持ち帰る事にした。
クエストから帰還した二人は、道中で遭遇した謎のモンスターについて語り合っていた。
「あの黒い翼のモンスターは何だったんでしょうか?」
「さぁな、見たことも聞いたこともないぜ。例の声は聞こえたのか?」
「いえ・・・全く聞こえませんでした。ただ、私たちの目に映ったのはほんの一瞬でしたよね?」
「あぁ、幻みたいだった。だが確かに見えたんだよな」
「ギルドの方達も半信半疑で聞いてましたからね。やはりそんな素早いモンスターは、存在しないのでしょうか?」
「いや、存在はしておるぞ」
会話に割って入ってきたのは竜人族(人間と竜のハーフみたいな人)の考古学者モクジ。
年老いて曲がった腰と、一メートル程の低身長が特徴で、モンスターについては博識である。指は四本で尖った耳を持っており、それが竜人族と人間の差を明確に表していた。
二人の背後にから語り出したモクジはさらに続ける。
「久しぶりじゃのう、ユウゼン」
「博士!久しぶりだな!」
「ユウゼンさん、モクジ博士とお知り合いですか?」
「訓練所の師匠と仲が良くてな。俺も色んなこと教えて貰ったさ」
「災難じゃったな。まさか例のモンスターの報告がお主らからとはな。ぎぎよ、ユウゼンが世話になったな」
「いえ、助けられたのはこちらですよ博士。所で僕たちが目撃した黒い翼のモンスターについてご存知なのですか?」
「黒い翼・・・人智では計り知れぬ脅威のスピード・・・そしてこの残虐性。これらの状況から見ても間違いない、ここ最近数件の目撃例があった、感染したモンスターじゃ」
「感染したモンスター?」
「お主らが見たのは、あるウイルスに感染し、強化されたモンスター、白黒種じゃろう。このウイルスは人間に害はないが、モンスターを凶暴化させ、能力を強化し体の色が白か黒に変化するんじゃ」
「じゃあ、俺たちが出会ったのは・・・」
「黒い翼・・・黒色に変化したモンスターということになるな。黒色の場合、スピードと攻撃が通常のモンスターより強化される。ちなみに白色の場合スピード強化と皮膚硬化が起こったと報告を受けておる。直にギルドによる調査がはじまる。よいか、お主らはまだ下位のハンター、万が一白黒種と遭遇したとしても戦いを挑んではならんぞ。直ちに帰還しギルドへ報告するんじゃ」
「分かりました。色々とありがとうございます」
「あ、そうそう。肝心なことを言い忘れとったわ。もし仮に白黒種のモンスターの攻撃が通常のモンスターに当たると・・・」
「当たると?」
「白黒種に攻撃を受けたモンスターは感染する」
「マジでか!?」
「目撃例もある。まぁ、こんなこと言ってもお主らにできることはないがな」
「とんでもねぇ奴が出てきやがったぜ」
「ではなユウゼン、達者でな」
「博士もお元気で!」
モクジは、手を振りその場を去っていった。
「ユウゼンさんの師匠は、何方なのですか?」
「俺の師匠?」
「あのモクジ博士と親しい人なんて、ここいらのハンターじゃ、僕くらいなもんですよ」
「まぁ、隠す必要もねぇか。俺の師匠はな・・・」
「ユウゼンよぉ!ギギネブラを倒したくらいで調子に乗ってんじゃねーよ!」
再び会話に割り込んで来たのは博士とは別の人物であった。
「えっと、貴方は?」
「こいつはカジキ・・・俺の同期だ。別に調子乗ってはねーぜ」
歳はユウゼンの一つ下であり同期にハンターとして活動を始めたカジキであったが、ユウゼンに対して嫌味を言いに来たらしい。
「ふん、調子乗ってるように見えるぜ俺にはよぉ。それに、お前は例のモンスターと遭遇したそうだな」
「あぁ、お前なんか真っ先やられそうなくらい強そうだったぜ」
「おめおめと逃げ帰ったくせに、大口を叩くじゃねぇか。俺ならもっと情報を掴めたのにな。まぁ仕方ねぇか、お前の実力じゃそこが限界だろう。だが俺は違う、いずれアマツマガツチを討伐するためには、こんな奴に手間取ってる暇ないんでなぁ」
「お前にアマツマガツチの、討伐なんて不可能だ」
「ふん!今に見てやがれ!」
カジキは走ってその場から去って行った。
「アマツマガツチ。伝説の古龍ですか・・・討伐できたハンターは上位の中でも一人しかいないのに。彼は過酷な道を選ぶのですね。・・・まさか!?ユウゼンさんの師匠って!あのギルドの最終兵器と呼ばれた・・・」
「そう、この村で唯一アマツマガツチを討伐した、今じゃ英雄のハンター『アカグツ』師匠だ」
「凄いじゃないですか!あのアカグツさんの愛弟子だったんですか!」
「まぁ、俺とカジキは師匠の元で五年間、稽古つけてもらってハンターになったんだがな。最初はやっぱり殆ど歯が立たなかった。俺もカジキもお互いモンスターにボロボロにされてたな〜」
「カジキさんと、昔は中が良かったんですか?」
「あぁ、あいつも変わっちまったなぁ」
「そうでしたか。すみません・・・余計な詮索をしてしまいましたね。今日は色々ありましたが、良かったらまた狩りに行きましょう!」
「オウ!たりめーよ!次も頼むぜ!」
そんなぎぎを見送るユウゼンは、何処か寂しそうな表情をしていた。
月日は流れ、ユウゼン達がギギネブラを狩猟してから約一ヶ月が経った。
白黒種の脅威はハンターたちの身近に迫りつつあった。
だが感染率は上位ハンターの活躍により抑制されつつもあった。
今朝方、無謀にも白黒種に挑んだ三人の下位ハンターが帰らぬ人となった。
死はハンターにとって珍しことではないのだが、同胞の亡骸を前に多くのハンターが悲しんでいた。
ユウゼンとぎぎも白黒種の脅威と残酷さを目の当たりにしたため、遺体を見つめて言葉を失っていた。
「あれほど行くなと言ったのに。どうして行ってしまったんだ・・・バカ野郎が!」
レウス装備で大剣を背負ったハンターが遺体に語りかけていた。
「同じパーティーの方ですか?」
ぎぎが話しかける。
「あぁ、俺たちは同じパーティーでいつも狩りをしていた」
「・・・辛いですよね」
「俺があの時、無理にでも止めておけば・・・」
「後悔しても仕方ないですよ。今は彼らを弔ってあげましょう」
「気を使わせちまったな、ありがとう。機会が合えばお前と一緒に狩りに行くのもいいかもな」
「仲間を失って、辛いと思うがハンターは持ちず持たれず。俺たちはいつだって大歓迎だぜ。遠慮なしに言ってくれ!」
その後、ユウゼン達はレウス装備のハンター、『シイラ』と共に亡くなったハンターの弔いの儀式に参加するため集会所へ向かった。
集会所の中央テーブルに大きな祭壇が置かれていた。
その中央に故人の生前使用していた武器の形をした小さな木彫りと遺体の一部を飾り、火竜の炎袋で着火し、灰になるまで燃やす。
すでに集会所の係りの者が準備に取り掛かかっていた
「あれ?おかしいぞ?おい、前ここに置いてあった火竜の炎袋は?」
「あれ?そこにありませんか?」
「無いよ。どーするんだよ!できないじゃん!弔いの儀式には、火竜の炎袋が必須だから、ちゃんと確認しとけって言っただろ!」
「・・・すいません」
「参ったな。火竜の炎袋なんて今から準備しようにも時間が・・・」
「準備が遅れているのか?」
そこに入って来たのはシイラであった。
「シイラさん。すみません、弔いの儀式に必要な火竜の炎袋が見当たらなくて」
「おいおい、それじゃ儀式ができねぇじゃねーか。儀式できないと彼奴らは浮かばれないだろ。よし分かった、今から俺が火竜を狩猟しに行く、儀式は延期にしてくれないか?」
「そんな!我々の失態ですので、責任は我々が取ります。ハンターであるシイラさんに迷惑をかけることはあってはいけません!」
「俺は問題ないぜ、それに責任は俺にもある。俺はあいつらを止めれなかった。迷惑だってんなら、報酬割増でクエスト出してくれよな」
「やはり、火竜リオレウスか。いつ出発する?俺達も同行しよう」
「ユウゼン!とぎぎ!」
「全員で行けば火竜にも勝てます!シイラさん一緒に取りに行きましょう!」
「感謝する!・・・という訳だ手配を頼む」
「皆さん・・・お気遣いありがとうございます。おーい、アマエビ手配してくれ」
「事の発端は私の管理不足です。このアマエビ、責任を持って手配致します」
ギルドの役員であるアマエビは先輩の命令でクエストを手配した。
火竜リオレウス、空の王者と呼ばれており、空中から炎のブレスで攻撃を仕掛けてくる。またその両足は猛毒を持っており、空中から勢いよく急降下しくる。空中戦において右に出る者はいないとも言われている。
三人がクエストに出発して間もなく、アマエビに元に他のギルド役員が焦りながら駆け込んできた。
「ハァ・・・ハァ・・・さっきのリオレウスのクエスト、お前どこで手配した?」
「はい?孤島ですけど、それがどうかしましましたか?」
「何!?バカ野郎!孤島には今、下位ハンターを行かせたらまずいだろ!孤島には今、ギルド小隊が白黒種の討伐に向かってるんだぞ!今すぐ帰還命令を出せ!早くしないと取り返しのつかないことになるぞ!」
「しかし、もう出発して流石に今から追いつくのは無理かと思います。・・・申し訳ございません」
「何だと!」
「どうした?騒がしいが何があった?」
「あっ貴方は!!」
一方、ユウゼン達は呑気に船に揺られながら孤島へ向かっていた。
「しっかし、リオレウスか。不死身の竜が相手となると下準備はしっかりしないとな」
「不死身では無いですよ」
「奴が炎のブレスを吐くその一瞬隙ができるらしいぜ」
「誰情報なんですか?正面に立たなければ、隙は多いですし。結構多くのハンターが狩猟してますから勝てない相手では無いですよ」
「よく知ってるじゃねぇか」
「シイラさん、レウス装備一式どうやって揃えたんですか?」
「そりゃ、頑張って揃えたんだぜ」
無駄話している間に三人は孤島に着いた。孤島は独自の生態系を持つ島で、大型モンスターも数多く生息している。
リオレウスの巣も高台にあるらしい。
そこへ向かって歩き出す三人。
周囲には白黒種の小型モンスターが至る所にいた。行く手に現れる小型モンスター達を、倒しながら進んでいた。
「ここまで感染が広がっていたとは・・」
「上位ハンターの方々も大型モンスターの相手で手一杯ですからね。我々ができることは、少しでも多くの小型モンスターの討伐くらいなもんですかね。それに彼らはとても苦しんでいる気がします」
「そうだな!一刻も早くこの状況を何とかしないとな」
小型モンスターを倒していると巣に着く前に上空からリオレウスが現れる。
「来やがったか!」
地上へ降り立つとギギネブラより大きな咆哮を上げた。
「グワォォォォォォ!!」
三人は思わず耳を塞いだ。
咆哮が終わると真っ先に飛び出して行ったのはシイラだった。
その大剣を構え攻撃を仕掛ける。
リオレウスは負けじとシイラに噛みついてきた。振り下ろした大剣にリオレウスは齧り付いた。
「シイラ!!」
「うぉぉぉ〜!ふん!」
シイラは両手に力を込めて大剣を引き抜く。キンという音を立てて、引き抜いた大剣と共にリオレウスの歯が何本か砕け散った。
「グォォ!」
「馬鹿力強!」
「まだまだ!」
怯むリオレウスに追撃するために構えた時、リオレウスは再び咆哮を上げた。怒ったのだ。
咆哮の直後、滑空すると同時に炎のブレスが正面にいたシイラ目掛けて飛んでくる。
「避けろ!シイラ!」
「クソ!」
しかし、シイラは避けきれずにブレスを受けてしまった、と二人が思ったが、ブレスを大剣の刃で受け止めていた。
ブレスの正体は放射線状ではなく、一つの球体だった。
ジャイロ回転する強力な威力を持つ炎の球体、それを武器一つで食い止めるシイラは強靭な肉体の持ち主だった。
「うぉぉぉぉぉおおおおおお!」
火球は空中で真っ二つに割れた。
シイラを筆頭に三人は怒涛の攻撃を仕掛ける。
流れるような太刀の剣撃、乱れ打つ銃撃、渾身の力を込めた大剣の強撃。三人の攻撃により滞空力を失ったリオレウスは堪らず地面にダウン。
その場でもがき苦しんでいた。
「たたみかけろ!」
「おう!」
二人より一テンポ早く前に出たユウゼンが大技を繰り出す。
「喰らえ!必殺!気刃斬りぃ!!」
通常よりも強烈な斬撃を連続で放つ。その威力はリオレウスの甲殻を穿ち、翼爪の一部を破損させ、大きなダメージを与えた。
「やるじゃねぇか!ユウゼン!」
「このまま押し切りましょう!」
三人の攻撃は止まない。
『俺は・・・死ぬのか・・・こんな所で・・・・・・こんな奴らに・・・・・・嫌・・・だ』
『汝二問ウ』
『誰だ!?』
ぎぎが正体不明の声を聞いた。それとほぼ同時に上空よりリオレウスに良く似た姿をした翼竜が舞い降りる。
『何ヲ欲スル?万能ナ知恵カ?全テヲ、凌駕スル力カ?』
『力だ!力が欲しい!こいつらを圧倒的に上回る力が欲しい!!』
『良イダロウ!コノ痛ミヲ受ケキレタラナ!』
「あれは・・・」
「白黒種!!」
やっと、話が進んだよ。