朝早く目覚めた男がいた、アマエビである。
ギルドの役員の一人である彼は、年に一度行われるギルド定例会議に、初の出席予定であった。
アマエビは欠伸をしながら額に手を当てて歩き始める。
自分にとっては憂鬱な会議であったため気が乗らない。
そして前回やらかしたクエストの手配ミスの事を含めた数多くの失態について、ギルドのお偉い様方からお叱りを受けることを確信していた。
欠伸は大きな溜め息に変わり気の沈む中、寝間着を着替えていると、家の外から誰かが自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
「おーいアマエビ、置いて行くぞー」
「今行きます!」
ハンターとして過ごした時間はとても長く、十年以上あった。そのため部屋の外から自分を呼んだ奴よりも歳は上である。
上下関係が厳しいギルド内では歳より経験が優先されるため仕方なかった。それでも年下にタメ口で話されるのは些か不本意だった。
仕方ない事であったがそれでも今の自分に劣等感を感じ、その事から目を背けるように部屋の隅置いてある自分の武器「ハンマー」に目をやり、ハンターだった頃を思い出す。
あのころは楽しかったな。仲間と馬鹿騒ぎして、モンスターとの手に汗握る死闘。命懸けだったが、本当に充実した日々を過ごしていた。
なのにどうして、今自分は割に合わない仕事をしているのだろうか?
こんな仕事なら簡単に引き受けなきゃ良かったな。
だがそれも今日限りだと、アマエビは思い出した。
この定例会議に主席すること、そのために自分はこの面倒なギルトの役員になったのだ。
今日こそ頑固なギルドの上司共に直接文句を言える!やっとその機会が巡ってきたのだ!憂鬱だと思っていた。朝早くから起き、わざわざ叱られるために行くのでは無い。ハンターだった自分だからこそ、分かることがある。だから、はっきり伝えなければならない!
その目に輝きが灯ると、軽快な動きで窓をガラッと開け、手荷物を持ってそのまま飛び降りた。
土煙と爆音を上げ派手な着地をした。
そこらのハンターには引け劣らない頑丈な体であったため、無傷だった。
「さぁ!行きましょう!」
「お、おう…」
二階の窓から飛び降りても平然としているアマエビに戸惑いつつも、二人は集会所へ向かった。
集会所の大きな長方形のテーブルには六つの椅子が並べられており、ユクモ村のお偉い様方が既に何人か座っていた。
一人はユクモ村の村長、もう一人は考古学者モクジ。
そして一人、一際存在感を放つ人物がいた、ギルドのトップであるギルドマスターの称号を持つ男、ダツと言う名の竜人族だ。
同じ竜人族のモクジと同じように低身長で、顔に濃い白ひげを生やしていて、片手に瓢箪を持っている。計三人、残りの三席は空席のままだった。
「マスター、朝早すぎやしませんかのぉ」
モクジがギルドマスターに、申し訳なさそうに話しかける。
「そうは思わんぞ」
「最近の若いのはどうも朝に弱い、年寄りだけが早めに集まった所で、時間の無駄じゃろうて。のぉ、村長殿?」
「私自身これといった問題は特にはないわ。ただ何時間も待たされるのは、流石にごめんね」
「それを言うなら時間もろくに守れない、あいつらを責めるべきじゃな。全く、礼儀も何もなっとらんのぉ。白黒種に、弔いの義、問題は山積みよ。それにジエ・・・」
話の途中で、集会所の入口の扉が開く。入ってきたのは集会所の受付嬢だった。
受付嬢は村長と同様で、ハンターにクエストを依頼したりする仕事をしている。
今回の定例会議では、直近の出来事の報告をする役であった。
「アマエビさん達来ましたよ〜!」
受付嬢の後ろに続いてアマエビと同じギルド役員のブダイ(アマエビを迎えに行った人)が入ってきた。
三人がそれぞれの席に着くと、受付嬢が鞄から書類を取り出し、読み始めた。
「それでは全員揃ったので始めますね」
「待った」
「どうされました?マスター?」
「アカグツのやつは今日も不在かね?」
「まぁ、呼んでも大体居らんがな。今回は別件で出ておるからのぉ」
「ほぉ、今回は珍しくサボりでないのか」
「それについての詳細は後ほど説明致します」
一つだけ空席があった。そこには村の英雄である、アカグツが出席予定だったらしい。
「あー、ちょっとよろしいですか?受付嬢さん」
「アマエビさん、どうされました?」
「先に言いたいことがあるんすけど・・・」
「待て、アマエビよ。質疑応答は報告の後にする。ワシらに言いたいことがあるらなら、とりあえず話を最後まで聞け。それに前の失態についても先に説明してもらおうか」
「分かりました。・・・とい言うつもりでしたが、やめーた。その報告俺がやりましょう」
「何を言っておる!この報告書の内容はワシらや、受付嬢しか分からんはずじゃ!この前ギルドに入ったばっかりの新米に何がわかる!」
「ジエン・モーランだろ?」
「お主、どこでそれを聞いた!?」
「いやいや、この情報を俺がどこで聞いたかなんてどうでもいいでしょ。問題はジエン・モーランの対処じゃないですか?そうでしょ?マスター」
「アマエビ・・・」
一方ユウゼンたちは討伐したリオレウスから入手目的だった素材の火竜の火袋を入手し、アカグツやギルド小隊とともにユクモ村へ帰還する準備をしていた。
『ククク』
「どうしました?ユウゼンさん?」
「は?逆にどうしたぎぎ?俺はどうもしてないぞ?」
「・・・そうですか・・・」
ぎぎの耳には、微かだが不気味な笑い声が聞こえていた。聞こえていたはずだ、ときぎは思った。
「おーい、とっと帰って弔いの義を始めよーぜ」
「リオレウスの肉・・・ちょっとだけ味見を・・・」
「だから、なんでも食おうとするなって!」
シイラが二人を呼び寄せる。ぎぎはその肉と、その声が気になりつつもあったが、ユウゼンに急かされたので、急いで支度しその場を立ち去った。
ユウゼンたちが帰ると、リオレウスの巣の近くにある洞穴からグルルルと不気味なうめき声が響く。
『ヨク集マッテクレタ、我等ガ同胞達ヨ』
『俺だけだと思ったよ。案外多いんだな、その同胞って奴らはよ』
『種族、性別、目的、何一つ一致していないお前達など、同胞では無い』
『でも皆、真っ白だね!頭の先から尻尾の先まで!』
『・・・・・・同・・・胞?』
『あの〜すみません、これはどういった集まりですか?』
暗闇に集いし六体のモンスター。それが、ぎぎに聞こえた笑い声の正体だった。
『本来ナラバ、目ガ合ッタダケデモ殺シ合イヲ始メルヨウナ連中ガ、今コウシテ人ノヨウニ集マリ話シ合ッテイル。サナガラ我々ハ人知ヲ超越シタ生命体ダ』
『・・・・・・何・・・言いたい?』
『頭数が多いと問題も多いぜ、多分な。なぁあんた、こんだけの連中集めたんだ、何やらかそうっての?』
『古龍ヲ狩ル』
『馬鹿げてる。お前から受け継いだこの力を持ってしてもなお、古龍に勝つことはできない。それに何の得があって、自ら進んで厄災に入るような真似をせねばならんのだ』
『血ダ。大量ノ古龍ノ血ガ必要ナノダ。我々ガ、ヨリ強大ナ存在ニナルタメニハナ。オ前達ガ持ツ力ハ、マダマダ強クナクテハナラナイ』
『ところで、その古龍って?』
『名ハ、ジエン・モーラン』
『やっば!尚更不可能じゃん!あのデカブツに喧嘩売ろっての!?』
『それにただ力を求めるために、あの古龍を狩ろうなどと。我欲に溺れ無惨に死んでいったあのリオレウスと同じではないか?』
『更ナル力ハ不要ダト本当ニ思ウノカ?マァ、イイダロウ。馬鹿ゲタ話ダト言ウコトハ重々承知シテイル。ダガ我々ニハ、ジエン・モーランヲ倒ス策ガアル』
『面白い。その策が何だか知らねーけど、古龍と一戦交えるってのはワクワクする。俺は乗るぜ、あんたにな』
『ソノ言葉、偽リハ無イナ?ヨシ、後ニ策ヲ伝エル』
『わ、私も参加します!微力ですが、何かのお役に立てるなら、その・・・更なる力を手にしたいです!』
『決マリダナ』
『勝手にしてろ。お前達がどこで何をしてくたばろうと俺には関係ない。この話はこれで終いだな』
『せいぜい頑張ってね〜』
『・・・・・・帰る』
三体の影は薄暗い洞窟の中から静かに気配を消した。
『その策とやらは、俺ら三体で成立するのか?』
『問題無イ、今回ノ招集ハ情報ノ共有ガ目的ダ。ソレニ奴ノ潜ム大砂漠ノ環境ハ、オ前達ガ適合シテイル。デハ頼ムゾ、ディアブロス、クルペッコ』
『ま、仲良くしよーぜ。リオレイアさんよ』
『尽力します!・・・その傷はやっぱり痛みますか?』
彩鳥クルペッコは白リオレイアの胸に刻まれた、アカグツによるの斬撃傷を見て心配そうに問いかける。
『大シタ事無イ。殺スツモリナラ首ヲ刎ネテイタサ。ソレニ、我々ニハ強力ナ助ッ人ガイルシナ』
角竜ディアブロス、雌火竜リオレイア、彩鳥クルペッコ、三体の白黒種のモンスター達は打倒古龍ジエン・モーランを掲げ、洞窟内で密かに暗躍していた。
ユクモ村に帰ったユウゼン達は、白黒種によって帰らぬ人となった三人のハンターの弔いの義を終え、疲れを癒すため温泉に入っていた。
「いや〜弔いの義も無事終わったし、とりあえずみんなお疲れ!」
「色々と大変でしたね〜」
「あぁ、一時はどうなるかと思ったぜ」
「・・・あの時アカグツさんが駆けつけてくれなければ、もしかしたら今頃・・・」
「ぎぎ、俺達は確かに危なかった。でも、こうして温泉に浸かりながら酒を飲める今がある。まだまだこれから強くなればいいさ!なぁユウゼン!」
「おうよ!明日から猛特訓すりゃいいさ!」
「お二人共、ありがとうございます!にしても元気ですね〜激戦後なのに」
「元気だが、叫んだから腹が減った!何か食おうぜ!」
「酒じゃ腹は膨くれねーぜ!食おう食おう!」
湯けむりが漂う中、奥から番台のアイルーが出てきてユウゼン達から注文を受ける。
「旦那、ご食事は何に致しましょうかニャ?」
「牛丼!」
「うどん!」
「二人ともここが風呂場なの忘れてませんか?それに風呂に入る前にあんなに食ってたじゃないですか」
ぎぎの冷静なツッコミを聞き流したユウゼンとシイラは、互いの提案した食べ物に違和感を覚える。
「牛丼だと?」
「うどんだと?」
「ユウゼン、うどんを差し置いて牛丼とはどういう了見だ?」
「シイラ、牛丼は至高の一品だ。ましてやうどんなど牛丼の足元にも及ばんさ」
「何だと!」
「もういっぺん言ってみろ!」
「まぁまぁ、二人とも人の食い物にケチ付けなくてもいいじゃないですか」
別に美味そうなものじゃないのに、と偏食家であるぎぎは思っていた。
「そうですニャ。喧嘩は良くないですニャ。そうニャ!お二人にピッタリのメニューがありますニャ!ちょっとお待ちくださいニャ!」
しばらくして、アイルーが厨房から持ってきたのはなんとも形容しがたい物であった。
ぱっと見は牛丼に見えるが、牛肉の下にドロドロのご飯とうどんがはみ出てるのが、チラリと見えた。残飯と大して変わらない。
「お待たせしたニャ。牛うどんですニャ!」
「牛うどん?」
「肉うどんでは無いのですか?」
「よーし食ってやる!」
「なんか分からんけど物は試し、食ってみるか!」
「ほんと二人とも躊躇ないですね〜」
「ギギネブラの肉食おうとしたお前に言われたかねーよ!まぁいいぜ、いただきます・・・っ!?」
「これは!?」
「やっぱり、そうですよね」
「うまい!」
「うまい!うまいぞ!」
「嘘でしょ!?」
二人は牛うどんを勢い良く啜る(食べる?)。目を丸くして驚くぎぎを、放置してひたすらに食べ続けていた。
「ぎぎ!お前も食ってみろよ!うめぇぞ!」
「美味しいんですねそれ・・・そこまで言うなら一口だけ・・・いただきます・・・!?」
「どうよ?」
「・・・・・・ご飯の入った肉うどんですねこれ。麺を啜る度、ご飯が麺に絡みついてきて、とにかく食べ辛いです」
「あーもう!何かこう食レポぽい感想ねーのかよ!」
「え〜無茶振りしないでくださいよ。はぁ・・・分かりましたよ。肉の食感はルドロスの肉に似てますね、味はこの前食べれたギギネブラに似てるかも!それからこの麺はブナハブラのはらわたに似てますね!それに・・・」
「例えがモンスターばっかだな。てかブナハブラは虫だぞ?食ったのか?」
「あ〜食欲が失せる音が聴こえる〜」
「ユウゼンさん、ブナハブラ食べた事ないんですか!?あれは絶品ですよ、痺れるような味がしますよ!それからそれから・・・あ・・・と、父さん!?」
「うぉー!何だ、このごついオッサン!」
「あんたは!」
いきなり大男が風呂場に現れれば驚くのも当然だろう、だが驚く理由は他にもあった。
「どうしてここに?」
「まぁ知らせたいことがあってな」
突如現れたのは、アカグツと並ぶユクモ村のレジェンド上位ハンター、ガザミ。
体格はそこらのハンターの倍近くあり巨漢。その腕力はアオアシラにも匹敵すると言われている。
ぎぎの父である彼は他の上位ハンターと同様、白黒種の狩りに勤しんでいたため、ぎぎとは疎遠であった。
「・・・まだ僕はハンターとして認められませんか?」
「またその話か・・・確かに今も(そのモンスターの)声が聞こえているなら認めたくないが・・・」
「僕は答えを見つけたい!そのためにハンターをやっているんです!いくら血の繋がりがある親だからと言って、そのことは否定できないはずです!」
「・・・やっぱり、あの時と変わらないな・・・よし分かった。俺も同じことを繰り返すのはもう疲れた。それにあの日から随分と時間が経った。今のお前には頼れる仲間もできた。だから、お前のハンターとしての覚悟を今一度問いたい。先刻ギルドより古龍襲来の通達があった」
「古龍!マジでか!」
「これは俺からの試練だ。お前ら、古龍ジエン・モーランを狩猟してみせろ!」
「俺たちが!?」
「ジエン・・・・モーラン!」
こっからちょっと長いですが、ジエン・モーラン編に入ります!乞うご期待!