【完結】無個性ヒーロー   作:南畑うり

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人によってはアンチ・ヘイトに感じる方もいると思います。お気をつけください。



幕間 体育祭・反省会

 

その日は参加者の大まかな住所を聞いて、街で六ケ所くらいに集まってもらってから送迎バスで迎えに行くことになった。

平日なので父は出勤だが、母は小旅行に行ってもらっている。夜は父と食事でも楽しんできてほしい。弟は学校だが、夕方には戻ってきてしまうのでどうしたものか。鉢合わせるだろうなぁ、八百万と。

 

「すっげー!! オレ友だちん家行くのにバスで迎えに来てもらったの初めてだぜ!」

 

安心しろ切島、オレも友だちをバスで迎え行った事なんてねぇよ。

 

六ヶ所すべて回ったときはマイクロバスの座席が半分以上埋まっている状態になった。さすがに全員参加とは言わず、参加予定だった麗日が休み。なんでも遠方から両親が泊まりに来ているらしい。「挨拶しなくていいのかなぁ、緑谷ー」などとからかわれ、真っ赤に顔を染めている緑谷だったが、ふと触れてほしくない話題を口にする。

 

「あれ、八百万さんは?」

「彼女とはそこそこ近所だからな。別の送迎で来るはずだ」

 

ニヤニヤと女性陣の顔が歪む。わかった、家についたら説明するから……。

 

各自私服だが、手にはビニール袋。中にはお菓子が大量に入っている。一応今日は反省会だからな。

 

「わりぃな、俺まで」

 

そういう心操の手にもビニール袋に入ったお菓子とジュース。オレん家をコンビニにする気かよ。

 

「別にいいって。どうせ話題には上がるだろうし、A組かB組か、どっちかわかんないけど、来るんだろ、ヒーロー科」

「まだ全然わかんねぇよ。でも……ああ、普通科の奴らには恨まれそうだけどな」

 

案外背中叩いて応援してくれるかもよ。

 

家に着くが、見た目はそこまで奇怪じゃない。むしろ普通の一軒家だ。ただ高級住宅地で、周囲の家の三倍くらい敷地が広いと言えば、どれほどの裕福さかは伝わるだろうか。

田舎に家を持つ身としては、辺りの家の坪が少なすぎるんだよ。そこまでして住みたいか、高級住宅地とやらに。

ちなみに家は古い。木造などではないが、曽祖父の頃から2度の立て直しを挟んで住んでいるらしいからな。その頃は高級住宅地なんかじゃなかったし、この辺りにも田んぼしかなかったと聞かされたことがある。

まあ地主ってやつだな。

 

「や、やべぇ、セレブだ、セレブ」

「上鳴……お前それ八百万の家見てから言えよな……」

「八百万? いつも百お嬢さんなのに」

 

しまった、さすが耳郎は耳聡い。でもオレが言ったのは彼女の家じゃなくて八百万家のことだからセーフのはずだ。あそこはガチでやばい。三桁億とかかけているイメージで、趣味の悪いシャンデリアとかが普通にある。内装だけ見れば城と言われても納得するだろう。

 

バスは駐車場へ。さすがにガレージの中には入らないので、駐車場を使ってもらっている。運転手はいつもオレの送迎をしてくれている方だ。本来ならオレが休みだからこの人も休みになるのに、申し訳ない。

おまけに帰りはいつもより遅いのだから頭が上がらない。もちろん給金は発生しているが、払うのは父親だ。

 

「どうする? まずは鑑賞会?」

 

雄英体育祭の二年生の部、三年生の部はどちらも録画してあるし、なんだったら、一年、二年、三年の部をまとめてデータを保存してある。みんな欲しがるだろうと思って用意している。

 

「いやいや気が早いでしょー!」

「飯田君じゃないのに、真面目だねー!」

 

芦戸と葉隠が茶々を入れる。というか居間のテーブルの上にお菓子を並べ始めた。プラスチックのコップにお茶やジュースを入れて、全員へ配る。

受け取った切島は二人がなにをやりたいのかわかったのか、ツッコミを入れる。

 

「ヤオモモまだ来てねーじゃん」

「さっき少し遅れるって連絡入ってたー! ので! まずは一回目! えー! みなさん! 体育祭! お疲れ様でしたー!」

 

「「「お疲れ様でしたー!!」」」

 

芦戸の掛け声に合わせて、コップを軽く触れさせる。とはいっても、テレビを中心に居間をクラスメイトが占領しているので、左右の心操と耳郎くらいしかコップを直接合わせることはなかった。

 

「緑谷ー。大丈夫かー?」

 

緑谷は昨日の轟戦で痛めた右手を吊ったままの参加である。乾杯も左手でプルプルさせながら行っていた。

クラスメイトの飲み物やデザートを冷蔵庫に仕舞っていると、八百万が到着。二度目の乾杯になった。

八百万のスカート姿に興奮する峰田を押さえつけ、まずは二年生の競技から鑑賞会をスタートさせる。

とはいえ、すでに気の抜けた休日だ。喋りながら、食べながら、一観客として楽しんでいる。全員にコピーデータを渡すことは言ってあるので、早送りはしても一時停止や早戻しはなし。みんなもどうせ話し合うのなら一年生の競技が良いだろうし。

 

「すっげぇ! トイレ三つあるぞこの家!!」

「賞状いっぱい!! あと和室の写真すごくない!?」

「あはは! この男の子って策束ー!? かわいいー!」

「地下の階段発見!! やべぇ! 金持ちやべぇ!」

 

自由に家を探索する組と、テレビを見ながらワイワイする組と、心操から話を聞く組に分かれているクラスメイトを眺める。

あとなぜか八百万もオレん家のアルバムを眺めている。似たようなものお前ん家にもあるだろ。

 

「え、これヤオモモ? ヤオモモだよね!」

「ええ。そうですわ。これはピアノの発表会ですわね。初めてなのですごい緊張してましたの」

「手繋いでるー! 可愛いなぁ!」

 

恥ずかしい写真じゃなくて良かった。いや、まあ十分に恥ずかしいけど。自室に上げたら卒アルとか引っ張り出してきそうだな、やめておこう。

 

「写真の中までセレブかよ……。憎いわ」

「峰田……頼むから弟が帰ってきたら大人しくしてくれよな?」

 

とくに八百万関連はどこに地雷があるかわからないお年頃なんだよ、弟は。

女性陣に自室を案内するように言われるが、丁重にお断りをする。そんな中、八百万がふらりと出て行ったと思ったら卒業アルバムを探し出してきた。おい、おい、お嬢さま。

 

「今日は無礼講と聞き及んでおりますの」

 

どや顔を披露する八百万だが、寄せ書きを見る前に回収させていただく。無個性の金持ちが雄英のヒーロー科に行くのだ。かなりキツイやっかみはあった。寄せ書きにもいくつか書かれている。

オレは慣れているしなにも感じないが、八百万は絶対気にするし、ふざけて見てしまっては、見た側が気まずい思いをするだろ。

 

しかし、今年の二年生はパッとしないな。B組はまだしも、A組はほとんどがオレたちレベルだ。連携は出来ているが、まるで初めて合わせたかのようなぎこちない動き。個性の使い方もなっちゃいない。でも、必死さがある。

結果は不思議とA組が上位四人を占める形になった。奇しくも一年と同じだな。共通点はなさそうだが……。

 

三年の部が流れると、遊んでいた連中もテレビの前に集まってくる。さすがに雄英生としての目標は見ておきたいらしい。とはいえテレビの前で騒がしいのは変わらないがな。

 

「そういえば、今年の雄英ビッグスリーってまだ決まってないんでしょ?」

「ビッグスリーって言ったって、毎年そうなるわけじゃないとか? 別に雄英が名乗らせているわけでもないし」

「憧れるよなー、ビッグスリー」

 

三年になると、普通科の連中も個性を有効に使いこなせているメンバーも多く、一年、二年のように、第一競技はヒーロー科が独占というわけでもなかった。

面白い結果だ。普通科三年間と、ヒーロー科三年間だぞ? 差は広がる一方だと思っていたけれど、必死さもあるし、なにより、オレたちは子どもなのだと痛感する。

それでも、第二試合、第三試合となると、ヒーロー科は一味も二味も違う。

 

「すげぇ……」

 

いつの間にか、オレも、心操も、誰もが、その試合に魅了されていた。

最終種目は基本的に一対一の戦闘である。それは学年問わず共通だった。

しかし、それでも。

レベルが違う。

もしここに轟や爆豪を加えたとして、何回戦まで残れるのだろうか。

決勝で戦っている二人は、個性の相性はどちらにも天秤が左右していない。お互いに個性の汎用性が高く、攻撃を防御に、防御が攻撃につながる技術力。だが決め手に欠けたイメージがあり、どちらが勝利してもおかしくはなかった。最後はスタミナの差か、個性の制御の難しさか、そこを押し切った鼻の差の勝利だった。

 

「この先輩めちゃくちゃおっぱいでかい……」

「峰田、歩いて帰るか?」

「泊っていくわ」

「帰れ!」

 

表彰台は見る必要もないので、一度映像を止める。お菓子でお腹いっぱいだというやつもいるだろうが、昨日この日のために作ったシチューが人数分あるので、食いたいやつぶんだけ温めるというと、全員が挙手した。カレーだったらご飯が足りなくなってたな。

 

「お、おいしい!! なにこれ! お店開けるよカルマ!」

「とても美味しいですわ、業さん」

 

耳郎と八百万に真っ先に言われたが、他の面々にも好感触だった。カレーとシチューは得意なんだよ。

オレも最後に自分の分をよそって、そこにシナモンを振りかけながら席に着く。なぜかオレのシチューだけ引かれた。気になると言う上鳴に一口あげると、「子どもの頃に行った病院の匂い。あと甘いし苦いしまずい。たぶん土」と言われた。いや同じものだよ。

 

「お前って舌が馬鹿なんだな」

 

心操が初めて笑顔を見せた。殴ってやろうか。

 

さて、じゃあ今日の本題と行こうか。

 

「目が怖いわよカルマちゃん」

 

一年の部を流しながら、オレはテレビの前に鎮座する。

 

「まずは第一競技の障害物競走、全員合格おめでとうございます。

「まあ知っての通りオレはすこしだけズルをしたけど、あとは轟の背中にくっついて行っただけなので悪しからず。それよりも青山。四十二位ってギリギリじゃねーか! 個性使い過ぎでダウンってそんなの緑谷一人で十分だ!

「緑谷もなんだあの試合は! 個性把握テストで言われたことまったく理解してねーじゃねーか! お前があそこで轟を倒せていない以上ヒーロー科として考えれば要救助者を一人増やしただけなんだよ。母親に心配かけるんじゃねぇ。

「え、ああ、記憶ね、一昨日戻ってきた。そ、オレ記憶喪失だったんだよね。三カ月分くらい。泣くな耳郎! 

「えー、脱線した。まずは騎馬戦からな。まずは蛙吹、障子、峰田の三人だけど、三人で組むメリットがないってのは自覚していたか? ハチマキの総合点数が下がるだけだからな。まあオレたちが尾白をもらっていったから申し訳ない気持ちはあるが。それとは別になんだあのハチマキの取られ方は! 峰田の個性があれば後方からの防衛は強かっただろ。蛙吹を前、峰田が防御、機動力の障子。いいチームだと思ってたんだが、こんな負け方してるとは思わなかったよ。

「耳郎、口田、葉隠、青山の四人は愚直に緑谷のハチマキを狙いすぎだ。とくに葉隠なんて単独行動でハチマキとりに行っちゃえば良かったのに。そうだな、確かに騎馬を崩すのはルール違反だ。だけど主審のミッドナイト先生は見える個性か? そう、葉隠の個性を十全に活かせる試合だったんだよ。耳郎は軽さで騎手。青山を前。後ろを口田で騎馬を作る。そして葉隠を単独行動させておけばいい。葉隠の個性はその隠密性の高さ。それを活かさずに試合に挑んだ時点で、何人いようが他のチームより出遅れている。惜しかったな心操、葉隠に声かけていれば全員のハチマキ奪えたかもよ。

「緑谷チームにかける言葉はない。ごめんな、雄英のいたずら心をよく耐え忍んだ。オレは全部のハチマキ取られて凍らされて爆破されるイメージまで出来ていたからさ……。

「爆豪のチーム? チームじゃねぇだろあんなの。機動力の高さ活かすなら瀬呂の個性を騎手の起点にしてハチマキを奪う。できる? できるんならなおさらだったな。爆豪の機動力ってのは反発力と慣性の動きだ。素早い空中機動? 目の錯覚なんだよあんなのは。予想できないから対応できないだけ。どうせ攻撃時には手が前にでることわかっているんだから、目で追う必要がそもそもない。左手に芦戸の酸を盾に、右手に爆豪の爆破を剣に、正面に切島ってランスをもって突っ込んでいくだけで強すぎるだろ。ハチマキは瀬呂が取れるんだからさ。爆豪はさすがに頭悪すぎるね。

「最後は轟のところだけど、いまは百お嬢さんと上鳴だけだからな。言う? そっか、じゃあ簡単に言うけど、轟が騎手である必要ゼロだよね? さすがに見たときはあったまわっるいなーと思ったよ。あのチームに飯田を呼んだのならなおさら。あと最後、上鳴うぇい化してなかった? 映像じゃ分かりづらいけど。そろそろ緑谷と青山と上鳴の三点セットにして個性封印してたら?」

 

肩を落とすクラスメイトを見ながら、チャイを一口飲む。

 

「最終競技はもっともっとひどい。緑谷は、さっきも言ったけど、反省してくれよ。あんなんで後ろにいる市民の誰が「やった彼が来てくれたから助かるわ!」なんて思うんだ? 第一両手骨折したやつ来たら困るだろ。他の奴呼べよってなるだろう? 試合ってのは勝つことが目的じゃない。プルスウルトラ。昨日の自分より成長するための儀式だって、緑谷だけは思った方がいい。自分の一部を使い捨てるみたいに骨折させる? そんなんじゃダメだよ。そのパワー、使いこなせよ。その個性は恵まれている。

「第三試合の瀬呂と上鳴。セロハンで捕まれ投げられ、一瞬って。そんな勢いで前のヒーロー消えたら市民号泣だよ。瀬呂は良かったな、上鳴に接近戦挑むのは愚行。電撃も発動されたら光の速さだろうし、セロハン通じて身体にも伝わる可能性はあるが、その前に切り離せている。いいタイミングだと思うね。上鳴はモーションが長いしわかりやすい。放電するにしても捕まってから発動させても遅いだろ。個性考えれば思考回路を一瞬でフル回転させることだってできるかもしれないんだぞ。脳の回路焼き切れるかもしれないけど。

「芦戸は庄田に良く勝てたなと思ったよ。打撃が二連発になるってどんな個性かとは思ったが、初手でダメージを受けながらも相手の拳を酸で焼いたことで攻撃が緩くなった。体術中心に身体を作っていけば、芦戸は将来接近戦無敵になるな。

「で、えーっと、百お嬢さんと常闇の試合は、ええ、お互いに死力をつくした素晴らしい試合だったと、はい、ウソです。物を投げるのはやめてください。

「いやでも百お嬢さんもわかっているのでは? 二回戦の芦戸戦でも言えることだけど、本体はどうあがいても常闇です。その常闇が遠距離戦を選択したのに、なんでわざわざ自分から剣と盾で近づくんですか。中世の決闘でも始めるおつもりですか。一撃受ければ盾が役に立たなかったことは理解できたはず。百お嬢さんのヒーロースーツは非常に露出が多く動きやすいつくりになっています。それなのに考え方が保守的すぎる。攻撃を受け切った先になにがあります? ダークシャドウの遥か後ろにいる常闇に近づくことができますか? あなたの犯した失敗はダークシャドウを脅威だと判断したことで、本来の相手である常闇を視界から外したこと。これは芦戸も同じだ。ダークシャドウに酸浴びせかけてどうするんだよ。痛がるならまだしも、当たって意味なかったら? じゃあどうすればいいかと、そう、常闇を徹底的に狙うしかない。そうなって初めて勝負が成立する。それにダークシャドウの弱点が光であることは騎馬戦のときに理解していたのでは? フラッシュバンを作って浴びせることで一時的にでも常闇に近づいて、そこで初めて剣やこん棒を作るべきですね。もし完封したければ、巨大なライトを二個三個作ってしまえば良かったんですよ。相手は影なんだから。

「切島と尾白は、圧倒的な個性差があるのに、なんで尾白は掴んで場外に押し出そうとしない? それはルールの範囲内なのに、自分ルールを決めてそれに縛られるのは頭が悪い。切島の個性を得意の打撃で倒し切れないと思ったのなら絡め手を使え。なんでも使え。いっそ爆豪を見習え、アイツは前しか見てないよ。

「切島にも言いたいことはあるけど、実戦じゃないからな。別にわざわざ気を削ぐこともない。尾白の攻撃を耐えきった個性とタフネスには素直に興奮したし、格好良かった。

「麗日と爆豪も講評する? そうだな、緑谷の言う通り、作戦は悪くない。けど結局作戦負けした。特攻覚悟は悪くないが時間かけすぎだったな。爆豪相手に麗日の個性で持久戦を持ち掛けてどうするんだよ。被ダメージと、爆豪のスロースターターを考慮に入れるべきだった。あれだけ爆破受けて立っていられるのなら、わざわざ引かなくても良かったんだ。被弾覚悟で初撃に賭けろ。どうせ爆破の瞬間には手のひらが向く。それを掴んじまえ。とくにあの馬鹿は自分の攻撃の煙幕で敵を見失うことが多い。そこを狙え。」

 

ふぅ、と飲み物で喉を潤す。すでにオレが先生であるかのような態度で語っているが、俺は一回戦でなにもせず負けた側だぞ。

何人かは真剣に、何人かはメモを取りながら、何人かはドン引きしながらオレを見ている。

 

「一回戦はこんなものだけど、この時点で質問はあるか?」

 

発目と飯田に関しては触れていないが、問題はないだろう。

何人かの質問に応えて、第二試合の指摘に移る。

 

「二回戦第一試合。えぇっと、まあドンマイ。心操も試合が始まる前に洗脳できなかったのが痛かったな。轟はもはや目まで瞑って完全に警戒態勢だった。あれで洗脳かけられたらおめでとうの言葉しか出てこない。

「飯田と瀬呂の戦闘は悪くなかったけど、普通に接近戦に持ち込まれて負けてちゃいかんだろ。いつぞやの核を守る戦闘訓練でも思ったけど、床にそのテープ撒けよ! ってずっと思っているからな。だけど先読みする戦闘って意味ではトーナメント参加者でも一番か二番に良かったな。飯田のほうも悪くない。ルールと相手の個性・戦法をきっちり理解して挑んでいた。あれに勝つのは骨だな、今のままじゃもう一度同じ条件で始めてもまた負けるよ。

「芦戸と常闇。さっきも言ったけどダークシャドウに気を取られすぎ。常闇が本体だからな。あと自分が出せる酸の種類って全部把握できてるの? 今のままだとガスマスクしないと芦戸との訓練怖いんだよね。元素記号や分子系列知りたいときは協力するからな。百お嬢さんが。

「切島、爆豪戦は、本来切島に分があった。それを無くしたのはお前の焦りから。もっとどっしり構えておけよ。何度も言うけど、アイツは爆破の瞬間手のひらをこちらに見せている状態にならなきゃいけない。強力な個性だけど、隙が多いんだ。それを格闘センスだけで補っている。勝つなら一年、二年のときに集中しておけよ。三年になった爆豪は個性よりも中身のほうがずっと伸びてるぞ」

 

準決勝になると、とくに言う必要はないな。そもそも常闇しかいない。話しっぱなしで喉も乾いた。オレは少し休憩にしよう。

 

「策束くん、すこし、いいかな?」

「……自室でいいか?」

 

みんなには少しだけ席を外す、と告げ、緑谷を自室へ案内した。オレはベッドに腰掛け、緑谷にはテレビの前に座ってもらう。

 

「個性の話?」

 

言い当てたのか、緑谷は目に見えてあたふたし始める。面白いからしばらく放置していると、自分でちゃんと落ち着きを取り戻せたようだ。

 

「策束くんはすごい。とっても、すごい。僕は、個性が発現しさえすれば、なんでもできるスーパーヒーローになれると思っていた。でも、そんなことはなかった……」

 

あ、そういう方向? なんか個性発現のヒントとかくれるもんだと思ってた。個性発現は基本的に三、四歳が目安だ。もちろん生まれた瞬間からってのもよく聞くはなしではある。その点、緑谷の個性の発現は中学三年生だと自称している。その証拠に、彼は自分の個性をまるで使いこなせていないし、【使いこなそうともしていない】。骨折を前提としたフルパワーが良い例だろう。

 

「USJのときも、体育祭のときも、キミは僕みたいに考え無しで動いているわけじゃない。轟くんのように、冷静な判断力で動いている。僕は、キミを尊敬している。きっと、クラスで一番。僕が、一番」

 

……はて、これをみんなの前でしない理由は?

恥ずかしかった? まあ気恥ずかしい内容だったと思うけど。

個性が発現した気後れか? いや、わざわざ話す必要もないな。緑谷がよっぽど性格悪くて、ただオレを精神攻撃したかったのなら話は別だが。

もっと単純に、話せない内容をオレだけに打ち明けた可能性もある。だけどそんな内容じゃないよな? 考え無しと評価しているが、オレはそこまで彼を低評価にしているわけじゃない。むしろ思考しながら動くってことに関しては、オレより浅いものの、オレより早いと評価している。ちなみに八百万はオレより深いがオレより遅い。将棋の強さ順みたいだな。

 

「オレも、緑谷のことは尊敬しているよ」

「え、え!? 僕なんか、べつに」

「障害物んとき、個性使わずに一位になっただろ。すげぇって思ったよ。オレは一位なんて諦めていたし、もしトーナメントで轟とあたったらすぐに降参するつもりだった。骨を折ってでも友だち殴れるってのは、すごいことだと思うけどね」

 

オレは殴らないでください死んでしまいます。

さて、緑谷の言いたいことは終わったようで(本当になんで呼ばれたのか意味がわからなかったけど)居間へ戻ると、神妙な空気になっているのが伝わってきた。弟が帰ってくる時間はまだ先だし、証拠に八百万が残っている。

彼女はオレと目が合うと、バッと視線を逸らした。気まずい? ってことは可能性は少ないな。クラスメイトも少し微妙な雰囲気になっているので、全員で見てしまったんだろうな。

 

オレがさっき置いた場所から、少し移動している卒業アルバムを手にもって、寄せ書きに書かれたコメントを読み上げる。

 

「無個性のくせに調子乗ってんじゃねーよ。無個性がヒーローになれるわけねーんだよ。学校辞めろ。パパはいくら雄英に寄付したんだよ。寄生で合格おめでとう」

 

そこで読み上げちゃうんだーという切島や上鳴の顔が目に入るので、音を立ててアルバムを閉じ、笑ってやろう。

 

「お前たちも近い将来こうなるな。とくに心操、お前はすごいぞ」

「カルマ!?」

「捕まえたヴィランにもっと悪辣なことを言われるだろうし、家族を殺すと脅されるかもな。だけど、ヒーロー目指すからには絶対に踏ん張れよ。心操はきっとこの世代のうちではもっともヴィランと接する機会が多くなるはずだ。その分恨みを買うぞ」

 

心操はオレの言葉を鼻で笑う。

 

「普通科のオレがヒーローに?」

「お前が一番信じてるだろ」

 

お互いの言葉に笑ってしまう。

 

「第一、半分くらいは普通のこと書いてくれてるだろ。変なこと書くヤツをいちいち相手にするな。無視だ、無視。向こうも他人事だから適当に書けるんだよ」

 

これでオレは気にしていないと伝わるといいんだけど。それに心操も、自分の立場に気づいているだろう。普通科の面々からすれば、彼の行動は裏切りそのものだ。それこそ普通科全員から後ろ指を指されることもあるだろう。

その時彼に味方してくれるのは、A組とB組しかない。ヒーローを目指す者が仲間だって意味、なんとなくでも察しているのなら嬉しいのだけれど。

 

殺伐とした空気が入れ替わったので、反省会は終わらせてみんなでカラオケにでも──と思ったとき、聞きなれた足音が耳に入った。

 

「ただいま、久しぶり、百お姉さん」

「まあ! お早いお帰りですわね!」

 

八百万が時計を確認するが、まだ下校前だ。早退してきやがったな。

 

「纏。先にオレのクラスメイトに挨拶だ」

 

クラスメイトを踏まないよう八百万へ近づいていた纏は足を止めて、みんなに笑顔を振りまく。

 

「策束纏です。雄英高校ヒーロー科のみなさんですね。昨日はお疲れ様でした。立派で、素晴らしい戦いでしたね。日頃から無個性の兄が大変なご迷惑をおかけしているとは思いますが、これからもどうかよろしくお願いいたします」

 

「うわー、策束家ってこんなに裏表激しいのかー」

「ってか百お姉さんとか、なんかいいな」

「纏君、いま何歳ー?」

 

いま十三歳の中学一年生で、再来年は雄英高校を受験したいと纏が説明すると、クラスメイトが盛り上がる。彼はそんなオーディエンスを無視するように、八百万の隣に立って、その手を優しく握りしめた。

 

「早退してきちゃった」

「もう、良くありませんよ」

「だって、百お姉さんに会いたくって」

 

ミッドナイトくらい甘い香りをまき散らす二人に、芦戸がオレを見る。そうだ、コイツの誤解残したままだ。

 

「説明すると、纏は百お嬢さんの許嫁でもある」

「ち、ちょっと兄さん、こんな大勢の前で」

 

周囲の絶叫が耳に入らないのか、恥ずかしそうに、ってかめちゃくちゃ嬉しそうにする弟。本当裏表激しいよねキミ。

否定する八百万を見て恥ずかしがっていると判断したのか、可愛いお姉さんも好きだよ、と言って積極的にアピールする弟。頑張れー、八百万ー。外堀埋められていくぞー。

八百万の不幸を笑っていると、クイクイと袖を引っ張られる。

 

「どうした、耳郎」

「ヤオモモの許嫁って、弟さんだったんだ」

「そ。立派な個性持ちの弟だよ」

 

決して【個性持ちの立派な弟】ではないけれど。

皮肉を考えていると、耳郎はイヤホンジャックを指先で遊びながら、笑った

 

「良かった」

 

……はちゃめちゃに可愛く笑った。

 

「良かったって……なんで?」

「え」

「え」

 

え?

 

「あ、いや、その、だって、クラスメイトが許嫁同士って、なんか、ほら気を遣っちゃうじゃん!?」

「あ、ああー。ああー! そうだよね! それに彼氏彼女飛び越えての許嫁だもんね。いままさにオレが気を遣ってるわー!」

 

びっくりしたー!! 耳郎がオレのこと好きなのかと思った。はっ! これが俗にいう童貞の勘違いか!! だって、なんか二人が付き合ってなくて【良かった】って意味で捉えると、他に選択肢ないよなーって……耳郎と八百万……百合……いやいや、そんな……そんな……。

無しじゃない! と脳内で結論付けていると、器用に弟から離れた八百万が、オレと耳郎の間に入るように割り込んでくる。

 

「困りますわ業さん! 本決まりでもなんでもないことを、こんな、クラスメイトの前で……!」

 

完全に怒っていらっしゃる。うけけ、ざまーみてほしい。

 

「まあいいじゃないですか。子ども同士の許嫁なんて、家と家を繋ぐビジネスの一環。お互いの両親だって、本気で二人が結婚するとは思ってないですよ」

 

オレたちの両親は本気で結婚してほしい、とは思っているだろうけど。それに常識的な話として、一度出た結婚話を「絶対に付き合わないから二度とそんな話しないで」などとは言い合えまい。

そう冗談めかして言ったものの、八百万の怒りは収まらない。

オレの耳を引っ張りながら、弟のところにまで戻ってくる。

 

「すみません纏さん、これからみんなヒーロー科のみなさんでお食事に行きますの。ね、業さん」

 

カラオケでもいいですか?

渋る弟を八百万が慰めつつ、バスで移動を開始する。大量に余った飲み物も持って、持ち込みオーケーなカラオケを探す。なんと八百万めはカラオケに行った事がないらしく、甲斐甲斐しく説明するが、芦戸あたりにぶん投げてしまいたい。

夕方近くなって麗日が合流。

ちなみに耳郎の歌唱力の高さと、芦戸のキレッキレダンス、そして八百万やオレの中学校の校歌がカラオケに入っていることでみんなのテンションはぶち上がっていた。

 

 

ヒーローインゲニウムが緊急入院したことが速報で流れたのは、その日の夜だった。

 

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